【世界】神成 結衣との時間
家族との遊園地も終わり、たくさんの食べ物を買ってから三人は帰路へ着いた。
外はもううす暗く、星明りが照らしている。
極夜は遊び疲れたのか帰って早々部屋で寝てしまった。
残った二人はボーっと、テーブルに置かれたコーヒーを飲む。
結衣「ねぇ。」
聖夜「ん?」
結衣「今日、楽しかった?」
結衣は不安だった。
聖夜と結衣は同じ孤児院で生まれ、育ち、異世界へとやってきた。
二人とも家族というものを知らず生きてきた。
そんな二人が極夜のことを家族ときちんと接せているのか。
そんな不安などつゆ知らず、聖夜はにこやかに答えた。
聖夜「楽しかった!!」
子供のような無邪気な笑顔。
結衣はほっとしたようにソファに寝転がった。
聖夜「実を言うと俺も少し不安だったよ。俺にとっては何百年もあったことのない息子だ、どう接せばいいか悩んでた。でも、あいつは俺のことを父親だと言ってくれた。俺も極夜とこうして遊んで・・・、『あぁ、俺の息子なんだな』って思えた。大切な息子だ。」
聖夜は思い出を振り返り笑う。
バキリ
聖夜の体から異音が鳴る。
聖夜「・・・・・・時間なのか。」
聖夜の体に異変はない。
先ほどの音は魂にヒビが入った音だった。
もう、残された時間がないのだ。
恐らく今日を乗り越えることができるかどうかわからない。
聖夜はため息を吐き、テーブルから立ち上がりソファの方へ腰を下ろす。
聖夜「極夜って名前、ちゃんと覚えててくれたんだな。」
結衣「・・・・・・・・・当然よ。貴方との思い出を忘れたことなんて一度もなかったわ。」
二人はかつて自分たちに子供ができたらと、考えたことがあった。
結衣「ねぇ聖夜。もしもよ、もしも自分に子供が生まれたらなんて名前にする?」
聖夜「子供の名前?そうだな・・・・・・、『極夜』とかどうだ。」
結衣「極夜?」
聖夜「そう。特定の場所で起こる夜が明けない、ずっと真っ暗な夜が続く現象のことだ。」
結衣「その現象の名前をを子供につけるの?」
聖夜「あぁ、俺達の子供には真っ暗な中でも迷わずに進むことができる勇気を持った子になってほしいからな。だから極夜だ。」
結衣「あの子は暗闇の中でもまっすぐ歩いて行けたね。」
聖夜「あぁ。」
この話をしたのは聖夜が過去へ行く前、実際の時間で50年前。
結局二人は最後まで出会えず、アレイスターの現世に持って帰った聖夜の遺伝子を結衣の遺伝子と結合させて生まれたのが極夜だ。
結衣「私、初めて家族っていうものがどんなものか体感できた。こんなに幸せなんだね。」
聖夜「・・・あぁ。」
聖夜は窓の外の風景を眺めている。
月が雲で隠れ、闇夜が街を覆っていた。
結衣「私、貴方が好き。貴方と出会えた人生が好き。貴方との間にできた自慢の息子も好き。」
聖夜「・・・・・・あぁ。」
結衣「また会えるって信じてた。たとえ少しの時間しか会えなくてもこの時間が、聖夜を実感できるこの時間がすごく幸せ。」
聖夜「・・・・・・・・・あぁ。」
結衣は聖夜の手を握る。
結衣「聖夜、私の前ではどんな泣き言も行っていいんだよ。貴方は王様でみんなの前で無理してるのはわかってる。でも私だけには、貴方の弱いところも見せて欲しいな。・・・私達、家族でしょ?」
結衣のその言葉に聖夜は振り返る。
聖夜は静かに涙を流していた。
聖夜「・・・・・・俺も幸せだ。でも、この幸せはあと少しで消えてしまうんだ。それが・・・・・・どうしようもなく哀しいんだ。・・・・・・・・・死にたくねぇなぁ・・・・・・。」
聖夜は初めて自分の本音を吐露した。
王であっても、神であっても、死は誰だって怖いんだ。
聖夜「極夜が大人になって俺の背丈を超える瞬間が視たい、ミルドとまた戦いたい、ゼロが政治で国を支えてるのを見たい、ベルゼブブとまた一緒に美味いモノ食いに行きたい、セイギとハジメとまた馬鹿みたいに騒ぎたい、アマノガワとまだ発見していないものを捜しに行きたい、アレイスターと親子トーク死体、お前と・・・・・・結衣といつまでも一緒に居たい。でも・・・・・・それ以上に、あいつらに生きて欲しいんだ。」
聖夜の幸せはみんなの幸せだった。
それは、結衣もわかっている。
だから本当は聖夜に死んでほしくなかったとしても、止めることなんてできなかった。
結衣「思いっきり泣いていいんだよ、私は聖夜のみんな幸せにしたいって思うところも好きなんだから。」
聖夜は泣き続けた。
泣き続ける聖夜を結衣は優しく抱きしめた。
どうしようもない運命と、きっとゼルディアも同じことを考えていたのかもしれない。
失ったゼルディアと、自分が失われる聖夜。
きっとこれも、世界の運命が決めたことなんだろうか。
だとしたらなんて残酷な世界なんだ。
聖夜「でも・・・・・・、こんな残酷な世界だからこそ生まれた命もある、絆もある。」
聖夜は涙でぐしょぐしょの顔を袖で拭い、座りなおした。
聖夜「よし、メソメソするの終わり!!」
結衣「強がらなくてもいいのに。」
聖夜「みんなと会えなくなるのは寂しいし哀しい、でも俺は受け入れようと思う。弱さを受け入れてこそ俺は俺でいられると思うんだ。」
死を受け入れるなんてそう簡単にできることではない、これは聖夜の強がりだ。
そんな強がる彼に、結衣は惚れたのだ。
聖夜「ありがとな結衣、俺はお前と出会えて本当に良かったよ。」
結衣「私もよ、貴方と出会えて本当に良かった。」
聖夜「あ、そうだ!!忘れちゃダメなこと忘れてた!!」
聖夜は慌てて懐から小さな箱を取り出す。
箱を開けると中には小さな指輪が二つ入っている。
結衣「これって・・・・・・。」
聖夜「結婚指輪だ。昔俺の誕生日に約束しただろ?世界が平和になったら結婚してくれ、そのために結衣の分の指輪は空けてるって。」
結衣「本当に・・・覚えててくれたのね。」
聖夜は結衣の手を取って指輪をはめる。
指輪は魔術もなしにぴったりとハマり、聖夜も空けていた指に指輪をはめる。
指輪をはめ終えると結衣は両手を広げる。
聖夜はその行動の意図をすぐに理解し、結衣を抱きしめた。
聖夜「愛してる。いつまでも、死んでもずっと結衣だけを愛してるよ。」
結衣「私も・・・・・・、聖夜のこと。一生愛してるから。」
結衣は満足したのかしばらくしてソファから離れた。
結衣「・・・・・・・・・今日はもう寝るね。おやすみ、聖夜・・・。」
聖夜「・・・・・・・・・あぁ、おやすみ。」
結衣が去った後、扉がノックされる。
聖夜「入っていいぞ。」
扉が開くと、そこには極夜が立っていた。
結衣は足早に自室へ閉じこもる。
聖夜のもとへ歩く足音を聞き終えると結衣は泣き崩れた。
彼女もまた、聖夜の前だけは強がっていたのだ。
愛した男の覚悟に水を差すわけにはいかない。
死なないでなんて言えない。
だから、未来へつなぐために最後の時間を譲った。
結衣「さようなら・・・・・・、私の王様・・・・・・・・・・・・。」




