【神の剣】ミルドとの時間
見渡すとそこは綺麗な花が咲き乱れる花園だった。
地平線が見えるほど広いその場所を、二人は歩いていた。
何気ない散歩、神と従者の通り道。
二人はずっと無言であった。
気まずい沈黙ではなく、二人の間には言葉を交わさずとも理解できる何かがあり、二人はそれを感じ取っていた。
花々が咲き乱れる園に綺麗な蝶が飛んでいく。
あの蝶は何の目的で飛び、どこへたどり着くのだろうか。
答えは神のみぞ知る。
そして二人の終着点も、神のみぞ知る。
ミルドの歩みが止まる。
そこは花園の中でも開けた場所であり、円形に花が咲いていない広場があった。
そう、ミルドがずっと通い詰めていた場所。
神成聖夜の仮初の墓地であった。
ミルド「貴方がいなくなり、私はいつもここへ通っていました。死んだわけではない、会えないだけだと自分に言い聞かせるために。」
ミルドは墓のあったところに花を添える。
かつてあった墓地、そしてそれは少し先に聖夜が眠る予定の場所だ。
ミルド「一瞬たりとも貴方を疑ったことは無かった、絶対に帰ってくると信じていました。・・・・・・・・・しかし、今回は本当に別れなのですね。」
ミルドは立ち尽くし、聖夜に背を向ける。
ミルド「ならば・・・、私は何のために生きればいいのでしょうか。・・・・・・私は・・・、貴方がいてくれるだけで幸せでした。いなくなり待つ時間も幸せだった。貴方がいなくなったら・・・・・・私はどうすればいいのですか!!」
ミルドが聖夜を見つめる。
その暗く、眼球のない穴から水があふれている。
ミルド「私の生きる意味は主人と共に歩くことでした。それが・・・・・こんな形で・・・終わってしまうなんて。」
ミルドは泣きながら剣を構える。
こともあろうか、主人に向けてだ。
ミルド「主人よ、私と手合わせをお願いします。私が勝てば・・・・・・、貴方に我々を復活した力の逆詠唱を唱えてもらいます。」
逆詠唱。
それは、一度起こした魔術や秘術の効果を反転させて使うことである。
ミルドは、自分が勝てば生き返らせた7人を殺し聖夜の生命力を回復させろと言っているのだ。
聖夜「・・・・・・、本気で言ってんのか?」
聖夜のオーラが荒れ狂う。
それでもミルドはひるまない。
ミルド「えぇ本気です、私はどんな手を使っても貴方に生きて欲しい。」
聖夜「なら、こっちも本気で行くぞ。」
聖夜が空に手をかざすと剣が飛んでくる。
二人とも臨戦態勢に入った。
ミルド「ここからは主人と従者ではなく、神とアンデッドとして戦ってください。」
聖夜「いいぜ、ルールはどうする?」
ミルド「10カウントにしましょう。必要以上に傷つけるのは私も避けたいので。」
聖夜「へぇ、もう勝つ気でいんのか?」
ミルド「当然、私も手を抜くわけにはいきません。」
聖夜「そうか、んじゃまぁ始めるか。かかってこいミルド。」
ミルドが一歩踏み込む。
その一歩は地面を抉り、急加速する。
ミルド「二十二式・光歩!!」
加速は止まらない。
屈折する光のように直線に曲がり、聖夜に切りかかった。
聖夜「くっ・・・。」
聖夜も受け止めきれず、弾いてしまう。
聖夜は魔術で地面を沼化、さらに何重にも鏡を展開する。
ミルド「・・・・・・。」
自身を光とし、光速で移動する光歩は鏡で屈折してしまう。
しかし、鏡が展開されたと同時にすでに別の構えに入っている。
ミルド「四十二式・死噛!!」
ミルドの剣からオーラがあふれ、鎌のような形になる。
そこからグルんと体を一周させて聖夜の首を刈り取る。
聖夜「あめぇな!!≪フラッシュ≫!!」
ミルド「くっ、目が・・・。」
ミルドが一瞬後ろを向いた瞬間に光がほとばしる魔力弾をミルドの目の前で展開する。
ミルド「どこだ・・・?」
ミルドは必死に気配を辿る。
見つけた!!・・・・・・が、様子がおかしい。
二人?いや、三人いる。
聖夜の気配が増えている。
聖夜?「さぁ、どれが本物だろうな?」
三人に分身した聖夜はそれぞれ別の属性の魔力弾を放つ。
ミルド「そこだ!!」
しかし、一瞬揺らいだ魔力を頼りにミルドは一体の聖夜めがけて剣を振る。
聖夜「ちっ、正解だ。」
聖夜は腕を切られ、血を流す。
その血が変色し地面に落ちた瞬間、地が刃となりミルドを襲う。
ミルド「無駄だ!!三十六式・陽狩!!」
ミルドは血の刃ごと聖夜を切りつける。
聖夜はすでに何かの魔術を発動していた。
ミルド「・・・これは!?」
聖夜「反射魔術だ、食らいなミルド!!」
聖夜の前に魔法障壁が発動する。
相手が触れないとペナルティを受けるが相手が触れた瞬間、相手に回避不可能の攻撃を行うカウンター。
ミルド「しかし、読んでいました。」
ミルドは聖夜に切りかかる直前、剣を収めた。
その瞬間、先ほどまで突進していたミルドの勢いが急になくなる。
ミルド「一零一式・無帰源。私の勢いを殺しました。」
聖夜「・・・・・・やるな、ミルド。」
勢いを殺したミルドは魔法障壁に触れなかった。
聖夜はカウンターのペナルティを受ける。
本来返すはずの魔力が体内で暴走し、身体に激痛が走る。
聖夜「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
聖夜は膝をつき、息を切らす。
ミルド「・・・・・・申し訳ございません。貴方を傷つけたかったわけじゃなかった。」
ミルドは聖夜の肩を抱き寄せる。
ミルド「何をやっているんだ私は・・・・・・、こんな・・・・・・こんなはずではなかったのに・・・・・・。」
ミルドの腕の中で聖夜が何かをぼそぼそと言っている。
聖夜「・・・・・・まだ、終わってねぇぞ。」
突如、ミルドの足が地面に飲み込まれる。
ミルド「こ、これは!?」
聖夜が先ほど使用した地面沼化にまんまとはまってしまったのだ。
聖夜「・・・くっくっく・・・、ぶはははははははは!!まんまと騙されてやんの!!」
ミルド「バカな!!カウンターのペナルティでしばらく動けないはず!!」
聖夜「残念だったな、あれはカウンタ―じゃねぇ。ただの魔術防壁だよ!!」
聖夜に騙されたミルドは悔しさのあまり剣を落としてしまう。
剣は沼に飲み込まれて生き、手の届かないところへ落ちていった。
ミルド「もう・・・、勝負は済んだでしょう!!」
聖夜「おいおいお前が言ったんだぜ、ルールは10カウントだってな。」
ミルド「・・・まさか!!ルールを言ったときからこの作戦を!?」
聖夜「正解!!」
聖夜は魔法陣を展開し、魔力弾を展開する。
その数は両手で数えきれないほどだ。
聖夜「悪いな、ミルド。これは俺が決めたことだ、お前には阻止させれねぇ。」
魔力弾が一斉掃射される。
ミルドの半身は沼に津かっており、剣での防御もできない。
ミルド「・・・・・・私の負け、ですか。」
私が意識を取り戻したとき、もうすでに日は沈み夜になっていた。
聖夜「よぉ、目は覚めたか?」
ミルド「・・・・・・えぇ。」
私は主人に頭を下げ、謝罪をする。
ミルド「申し訳ございませんでした。何なりと処罰を。」
聖夜「はっ、俺がお前に処罰なんてしたことがあるか?」
ミルド「・・・・・・いいえ。」
あぁ、貴方はずるい人だ。
優しくて思わずついていきたくなる大きな背中、一つ一つの言葉が安らぎを与えてくれる声、そして何があってもあきらめない不屈の心。
私は、そんな貴方が好きだ。
私がいくら止めても貴方は進んでしまうでしょう。
最初からわかっていたことだ。
わかっていても、止められなかった。
聖夜「・・・・・・青春ってやつだな!!」
ミルド「・・・・・・・・・・・・はい?」
聖夜「ほら、学園モノの漫画とかでよくあるじゃん!!友達と喧嘩して、そんで二人で笑いあうってやつ!!」
ミルド「すみません・・・・・・、漫画はあまり読まないので。・・・・・・友達?」
聖夜「どうだろ?俺とお前は従者と主人、それ以前に友達だろ?」
ミルド「・・・・・・ははっ、私が主人と友達。」
笑みがこぼれた。
やはりあなたはずるい人だ。
私の沈んだ気持ちも、冗談一つで吹き飛ばしてくれる。
だから私は、貴方が好きなのだ。
ミルド「帰りましょう、友人であり主人よ。良い思い出をありがとうございます。」
聖夜「おう!!俺も久しぶりにお前と戦えて楽しかったよ。」
こうして私達は帰路についた。
私と主人の、最後の思い出。
ますます貴方がどれほど大切かを理解できた。
・・・・・・貴方が逝ってしまっても、この思い出は忘れない。
それと同時に不安だ。
主人を失って、それでも私は私でいられるのだろうか・・・。




