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世界のためなら何度でも  作者: 社長
物語の終わり
444/455

【ソラの魔術師】天之川との時間

天之川天文台。


それは地上500階のバベルの塔の最上階に設置された巨大な魔術エレベーターのことだ。


発動権限は天之川にのみ許されており、今まで稼働したことがない。


その魔術装置が今動いている。


二人を乗せて、どこまでも続く果て無き暗黒へ浮かんでいく。


天之川「上手く稼働で来てよかった、今日がこれを動かすの初めてなんだ。」


聖夜「宇宙へ渡る最初の手段か。よく完成できたな。」


天之川「僕だってそれなりに魔術を研究してたんだ、それに初めての宇宙旅行は君と一緒に行きたかった。」


エレベーターはやがて雲を超え、ついに暗黒へと手を伸ばす。


聖夜「・・・・・・宇宙へ来るのは二度目か。」


聖夜は以前宇宙へ来たことがある。


天之川との戦いで、瀕死の天之川に夢を見せてあげるために。


天之川「あの時の経験を生かしてこの装置を作ったんだ。どこまで続くのかは僕にもわからない。」


天之川は聖夜を真剣なまなざしで見つめる。


天之川「僕は今まで、数多くの人を殺した。魔術の奥底に触れるため、宇宙へたどり着くために。」


手が震え始める。


緊張か、恐怖か、そのどちらもか。


天之川「宇宙の果てに行けば、人類の到達できないところへ行けばきっとまだ見ぬ魔術に触れることができるって。そう信じてた、だから僕は手を汚してきた。僕は・・・・・・。」


言葉を詰まらせる。


そんな天之川を聖夜は見つめ返す。


聖夜「大丈夫だ、お前が何を言おうと幻滅なんてしない。話したくないなら言わなくてもいい。」


聖夜のその言葉に天之川は覚悟を決めた。


天之川「僕は昔から異常だった。僕の願いはたくさんの人に笑われ、否定されてきた。でも君は・・・、聖夜とアレイスターだけは笑わないでいてくれた。自然と受け入れてくれたのがうれしかったんだ。」


エレベーターが止まる。


宇宙の果てにたどり着いた、その結果は・・・。


天之川「何もない・・・。」


何もなかった。


永遠と続く闇と、太陽の光を反射する星だけだった。


宇宙に魔術の知識なんてなかった。


()()()()()()()()()()()()()


天之川「・・・・・・はは。」


天之川はボロボロと涙をこぼす。


天之川「宇宙に魔術の真理なんてなかったんだ・・・。僕は・・・、このためだけに人生を、他の命も投げ捨てたのに・・・何もない・・・・・・。」


涙は止まらない。


天之川「僕は・・・。ただ、女の子になりたかった。」


天之川は今まで秘めていた願いを打ち明けた。


天之川「おかしいよね・・・、男として生まれたのに。僕は・・・女の子として生きたかった。それがどれだけ馬鹿げていて、誰にも理解されないことなのはわかっていたのに。それでも・・・、僕は普通になりたかった・・・・・・。宇宙へたどり着けば、性別を変える魔術があるって信じてた。なのに・・・・・・。あんまりだよ・・・。」


天之川は泣き崩れた。


天之川という少年がずっと悩んできた苦労の分、涙を流した。


誰からも理解されないというのは辛いことだ。


それを、目の前で絶対に理解されないものだと突きつけられた。


天之川の人生の意味を、全てなかったことにされた。


聖夜「・・・・・・天之川。」


聖夜は立ち上がり、前を向く。


聖夜「お前の人生は終わらせない。」


そして、思いっきり空高く飛び上がった。


宇宙を突き抜け、そして一つの星を見つける。


聖夜はその星の表面を思いっきり削り取った。


そして再びエレベーターに落下する。


天之川「聖夜?」


聖夜「これ見て見ろ、何かわかるか?」


その星の表面はざらざらとしているが時折不気味にうねり、流体と化した。


そしてしばらくたつとまたざらざらとした個体になる。


天之川「こんな物質、見たことない・・・。」


聖夜「だろ?」


聖夜は立ち上がり、天之川の肩に手を置く。


聖夜「この世界にはまだ発見されてないものがたくさんある。宇宙だってお前がたどり着かなきゃ永遠に未発見のままだったのかもな。」


聖夜は謎の物質を瓶に入れ、天之川に渡す。


聖夜「この世界にはまだまだ無限に知られてない者がるんだよ。宇宙はその一つに過ぎない。だから、それを捜していこうぜ。何年かかっても、何百年かかっても、お前は一人じゃないんだ。みんながいる、だから後ろ向きになっちゃダメだ。」


聖夜のそのありふれた希望的観測に天之川の涙は収まった。


聖夜「それに、俺はお前のことずっと女性だと感じてたよ。無意識のうちにな。」


その言葉だけで、天之川は救われた。


過去の思い出が聖夜の言葉を肯定する。


天之川「・・・・・・ほんと、聖夜はずるいよ。」


天之川は照れているのを隠すように瓶を手に取り、エレベーターと共に下降する。


天之川と聖夜を祝福するように、星々がより一層明るく輝いた。


天之川「僕の人生を続けさせた責任、ちゃんととってよね。」


その言葉はきっと、聖夜には届かないのだろう。


天之川はエレベータが降り切る最後まで聖夜の袖を引っ張ったままだった。

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