T-103 ゼルディアの欲望
なぜ僕は今血を流している。
なぜ僕は床に倒れている。
なぜ、なぜ、なぜ。
僕はゼルディア様の部下の中でも優秀なはず。
それに今世の体は魔術のエキスパート。
時間を止めることができる。
なのに、なぜ勝てないんだ。
「さて、次の階層に向かいましょうか。」
アレイスターは血で汚れた手袋を脱ぎ、あたらしいのに替えている。
強いどころじゃない、強すぎる。
極夜たちがてこずっていた相手よりも強い相手を一ひねりで鎮圧した。
「アレイスターさんって何者なんですか?」
「ん~、ただの王の側近だよ。」
と、いつもの笑顔で極夜にそういった。
手袋を脱いだ時にちらりと指輪が二つ見える。
左手の薬指に一つ、右手の中指に一つ。
「アレイスターさんもその指輪つけてるんですね。」
「ん?あぁ、これは聖夜君の7人の部下に渡された指輪だよ。ミルドくんにもついてるでしょ。」
極夜はミルドの指を見る。
たしかに右手の中指に指輪がついている。
「この指輪、ただの装飾品じゃない気がするんだ。何とも言えないけどつけているとあったかいというか気持ちが落ち着くんだよね。」
極夜は少し妙な気分になった。
勘と言えば勘なのだがあの指輪になにか特別な意味がある。
まあ今は関係ないだろうとその違和感を胸にしまい込み、極夜たちは上の階層へと向かっていった。
7階 王の間
明らかに危険な香りが極夜たちを包み込む。
体の隅々を引きちぎられるような感覚。
「さすが、アレイスター。」
イスに座る男は何かの果実をかじりながらそういう。
奴こそ諸悪の根源、ゼルディア。
姿かたちは聖夜と瓜二つ。
だが髪の毛が白く、目が紅い。
聖夜は黒髪で目が色のない純黒だ。
一目見ただけで聖夜の前世の姿とわかる。
「な、なんであなたはこんなことをするんですか!!」
極夜が恐怖を押し殺してゼルディアに問う。
「なぜ、か。」
ゼルディアは息を大きく吸い込み、極夜に吹きかけるように一言。
「強くなりたいから。」
たったそれだけの単純な答えだった。
「俺はセカイを救えなかった、その時の記憶が数千年も消えない。強さがあれば俺は助けれた、俺は!!俺は!!おれはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ゼルディア様。」
自分への怒りで涙を流すゼルディアを横にいたゴーレムが呼び止める。
「とにかく、俺は強い奴と戦いたい。まずはそいつに勝って見せろ。」
そういってゼルディアは階段を上がっていく。
「ではここから先はゼルディア様の側近、【No.0】愚者が承ります。」
ゴーレムの少女、愚者はかつての聖夜の仲間でありミルドの妻、ゼロによく似ていた。




