T-72 混沌に咲く花
「目がマジになったね、君のことは知っているよ。それと極夜くんのことも。」
オルルは槍を構える。
「おー怖い怖い、極夜くんを攫ったのは魔力を持たないにもかかわらず平等な世界を望まないからだよ。」
「平等な……世界?」
「そう、君はこの世界を平等だと思うかい?」
「……。」
「この世界は不平等だ、人種差別、性差別、種族差別、そして魔力差別。」
魔力差別とは魔力を持たない人間を迫害する差別である。
魔術が当たり前のこの世界で魔力を持たない生物に人権はない。
人種差別や種族差別の比にならないほど迫害を受ける。
特に酷いのは人間で魔力を持たない人間は殺して構わないという法律がある国さえあるくらいだ。
「魔力を持たないだけで殺されてもいい?そんなわけあるわけが無い、命あるものは皆平等だ。それに優劣をつけるなんて間違っているじゃないか。」
男は拳を握りしめる。
まるで自分の辛い過去を思い出したかのように。
「だから誓った!!私たち『混沌に咲く花』はこの世界から差別という概念を無くす!!皆が肩を並べ笑い合えるような世界に変えてみせる!!その世界の実現のために私は、私だけが手を汚し世界を変えてみせると!!私は!!この世界から魔力という概念を無くす!!神成極夜、この子には神の血が流れている、この世界を作った神の血があればこの夢は叶うんだ!!」
オルルは生唾を飲む。
この男の言っていることに嘘は感じない。
そしてその言葉にどれだけ重みがあり、どれだけ自分を犠牲にしようとしているのかを。
この人を倒そうとしている私が悪役ではないかと。
しかし極夜のことを思い出す。
極夜が拉致されている以上、この人は私にとって悪だと。
「確かにそんな世界実現すればいいと思うわ。それでも誰かを犠牲にするなんて。」
「私だって思うさ。1人の人間の命か世界中の人の幸せか。何度も考えてきた、でもこれが最善なんだ。」
「止めてみせるわ、私にとってはあなたの理想より極夜の方が大事よ。」
「……そうか、無理にわかってくれとは言わないさ。」
男はパチンと指を鳴らす。
途端にオルルは心臓を抑え始めた。
「ゴホッ!!こ、これは?」
「私の体の特性でね、周囲の魔力を無くすんだ。子供の頃は頃力をコントロールできなくてよく困っていたよ。今君の体では魔力欠乏症が起こってるんだよ。」
男は手を後ろで組む。
「私の名は【混沌を飾る者共】ルドベキア=カオス。魔力を持たない者で構成された混沌に咲く花の創設者であり、この世に混沌をもたらす者だ。」




