T-59 ゾル=エグ=カルナ
ラスカノンは監視用モニターのある部屋で震えていた。
「使えない傭兵が.........、クソックソックソッ!!」
コーヒーの入ったカップを投げ捨てる。
カップの破片が床に散らばる。
「ゾル=エグ=カルナ様、どうか私をお救い下さい!もう少し、もう少しで貴方様を降臨させることができたのに!!」
「ふーん、お前の目的ってそんな小さなことだったんだな。」
ラスカノンが振り向くとそこには極夜がたっていた。
「神様の降臨、そのためには膨大な魔力が必要だもんね。」
「神成極夜.....、お前さえいなければ!!」
ラスカノンはナイフを転移させて極夜の体を貫こうとする。
しかし転移先に極夜はいなかった。
極夜は隣の部屋のオルクジャナスを解放する。
「注射跡多いな。」
極夜の声には怒りがこもっている。
ラスカノンはそれにビビって腰が抜ける。
「女性の体だぞ。自分勝手に女性の体に傷つけていい理由なんてないだろ!!」
極夜は抜刀体勢に入る。
「お前に5秒やるよ。5秒の間に好きなとこに逃げろ。」
「5」
極夜は少しだけ剣を抜く。
「4」
「ど、どうやって隣の部屋のお前が私に攻撃できるんだよ。」
「3」
「2」
突如としてラスカノンの背筋に冷たい汗が滴る。
生物の本能的な恐怖。
死の恐怖だ。
「1」
「きょ、強制転移!!」
ラスカノンは自分のエクストラスキルで転移できる最大距離まで離れる。
「0」
ラスカノンは諦めた。
どこに逃げたとしても確実に死ぬだろうということに気がついてしまった。
「『五式・亜空次元斬』。」
地下室から10キロ離れた場所に転移したはずなのにラスカノンは真っ二つに切られた。
5秒のカウントダウンなど相手に少しの希望を持たせるための幻惑に過ぎなかった。
もう既に切られていたのだ。
極夜はオルクジャナスを抱えて地上に出る。
最初来た時には綺麗に見えたこの国も今の極夜には汚く思えた。
「この国、邪魔だな。」
極夜は殺意を力に変えてエクストラスキル【夜明けはもう来ない】を発動する。
【夜明けはもう来ない】は感情を力に門を開け、別世界の生物を呼び寄せる。
怒りは上位悪魔を
悲しみは上位精霊を
喜びは上位天使を
幸福は最上位天使(王天使)
恐怖は最上位悪魔(七大悪魔)を
そして殺意で開けた門からは《別世界の神》を呼ぶ。
「来い、ゾル=エグ=カルナ。」
禍々しい黒色の門が現れ、そこから手が伸びてくる。
『警告、別世界の神がこちらの世界に干渉しようとしています。門を閉じることを推奨します。』
どこか機械的な声が極夜の頭に響く。
「私をこの世界に呼んだのは貴殿か?」
手のひらについた目が極夜を睨む。
「ゾル=エグ=カルナ、この国を滅ぼせ。」
「.........了解した。、我が王よ。」
一筋の光が国全体を包み込む。
「消えろ。」
その瞬間、賑やかだった音が消えた。
陸地全てがどこかへ消し飛んだ。
「我が王よ、仕事はこなしました。」
「何勘違いしてるんだ?僕は君の王様じゃないよ。」
「我々基本世界では無い世界の神、エヴィルは力持つものに付き従う存在なのです。私を召喚するレベルの力を持つ者であるあなたに従うのは当然の原理なのです。」
「エヴィル?基本世界?なんかよく分からないけど僕疲れたから帰っていいよ。」
「なっ。そ、それはあまりにも酷い仕打ちでは無いですか?」
「うるさいなぁ、さっさとどっか行ってよ。」
「.......................かしこまりました。また何かあればお呼びください。」
そう言ってゾル=エグ=カルナは門の中へ帰って行った。
「疲れたな。」
極夜はかつて国であったものを見ながらゆっくりとオルクジャナスを抱えてグラトニアスに帰ることにした。




