D-外伝 神成聖夜の誕生日
「聖夜誕生日おめでとーう!!」
パンパンとクラッカーの音が鳴り響く。
「耳元でクラッカー鳴らすな!!」
「いいじゃんいいじゃん、今日はめでたい日なんだから。」
「めでたいってな〜、毎年来るんだからめでたくもなんともないだろ。」
「そんなことないですよ、誕生日はとてもめでたい日です。それに今日はクリスマスですよ。」
「クリスマス……そういやそうだな。」
聖夜の誕生日は12月25日。
ちょうどクリスマスとかぶっているのだ。
「じゃあプレゼントも2倍だな、お前らプレゼントよこせ。」
「急にがめつくなったね。」
天之川は自身のアイテムボックスをガサガサと漁る。
「まずは誕生日プレゼント!!」
「……なにこれ。」
「聖属性の魔術書全500巻セット!!」
「……お前死ぬ覚悟はできてるな?」
「ちょ、痛い痛い痛い!!!!」
聖夜に頭をめりめりと掴まれて悲鳴をあげる天之川。
聖夜は何故か聖属性を受け付けないからだなのだ。
よって星属性の魔術は覚えれないし聖属性を纏っている聖剣は持てないし聖属性を喰らえば浄化される。
それを天之川は知っていてプレゼントしたのだ。
つまり嫌がらせである。
「聖夜くん、私からはこれです。」
そう言って取り出したのはキラキラと光る腕時計だった。
宝石を散りばめたゴテゴテした成金が持つような腕時計ではない。
黒と銀を主軸に、中には歯車が散りばめられた渋くて重みのある腕時計だ。
「か、かっけぇ!!」
「こちら未来の世界には技術が受け継がれずに潰れてしまったこの世界で一番の時計屋にお願いして作ってもらったオーダーメイドの特注品です。」
「ありがとうアレイスター、これ宝物にするよ。」
プレゼントで腕時計を贈るのは『あなたと同じ時を刻みたい』というロマンチックな意味が込められている。
二人ともそれを知っているので非常に満足していた。
「それじゃあ次はクリスマスプレゼントですね、二人にこれを。」
そう言って渡されたのは同じ色のマフラーだった。
「これ、手編みか?」
「はい、私以外と手先器用なんですよ。」
ちょうど冷えた季節になっていたこともあり、二人はマフラーを首に巻く。
「あ、あったかい。」
「アレイスター、これすごいあったかいよ!!」
天之川は大はしゃぎだ。
「このマフラーには少し魔術をかけましてね。冬にはあったかく、夏には涼しくなるように温度調節ができるんですよ。」
天之川と聖夜は暖かいマフラーに包まれてほっこりしている。
「じゃあ次は僕のクリスマスプレゼントだね、アレイスターはこれね。」
そう言って渡されたのは黒く細長い箱だった。
中には金色のメガネが。
「おぉ、新しいメガネですか。」
「うん、アレイスター最近メガネの度が合わなくなってきたって言ってたから魔術で調節できるメガネにしたんだ。」
「しかもこれサイズも変更可能なんですね、素敵なプレゼントありがとうございます。」
「へへっ。あ、聖夜にはこれね。」
そう言って渡されたのはとても大きな酒瓶だった。
「こ、これは!?幻の銘酒、『四龍』じゃねぇか!!」
「そう、王族でも滅多にお目にかかれない超一級品のお酒だよ。」
「も、もらってもいいのか?これ小さい国一つ買えるくらいの値段だぞ。」
「いいんだ、クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントの合併でね。」
これは帰ってちびちび飲もうと心に決めた聖夜であった。
「それじゃあ最後に俺から二人にクリスマスプレゼントだ。」
そう言って二人がもらったのはそれぞれ似ているがよくみると違う指輪だ。
アレイスターのには本が、天之川のには時計の彫刻がされている。
「これは?」
「指輪だ。そういえば二人には渡してなかったなって思って。」
この指輪はかつて元の時間軸にいる頃に大切な仲間であるミルド、ゼロ、ベルゼブブ、正義、一に渡したものだ。
「僕指輪なんて初めてつけるよ。」
「それに魔術でサイズ調節できるから。」
二人は右の中指に指輪をはめる。
右手の中指に指輪をはめるということは『意思を強くする』という意味がある。
そして聖夜の指輪は右手の親指に。
これは『指導力を司る』『威厳を高める』と言った意味があるのだ。
「なぁ、未来の世界に戻っても俺に仕えてくれるか?」
「当たり前ですよ、私の中の王は聖夜くんしかいません。忠誠を誓いましょう。」
「僕もついてくよ。聖夜といれば絶対楽しいからね。」
3人は指輪をつけた手を前に突き出す。
「これからも俺たちは何があっても離れない、大切な仲間だ。」
聖夜……。
あれからどれくらい時間が経ったのかわからない。
血は相変わらず出たまんまだ。
最後に君にお礼と謝罪を言いたい。
ありがとう、そしてごめん。
僕は最後までなんの役にも立てなかった。
死にたくない。
でも死ぬのは時間の問題だ。
「最後に……聖夜の役に立ちたいんだ。」
最後の時間停止を発動する。
時間が止まった世界では痛みも出血も何も感じない。
こう見えても僕は天才だ。
最後に未来に自分自身を送ろう。
でもこのボロボロの体で何ができるだろうか。
「……自分を作ろう。」
体力の消費を最大限に抑えるために小型に、そして僕の脳をデータ化してその機械に搭載しよう。
次に並行世界を移動する機械を修理する。
これも時間が有れば治る可能性がある。
やってやるか、天才研究家兼天才発明家の実力を見せてやる。
「できた。」
小型の僕が生まれた。
最後にデータ化した脳のインプットだけだ。
「ゲフッ!!」
体力も尽きた。
これでこの体とはお別れだ。
「うまく……いってくれよ。」
エンターキーを押す。
それと同時に時間停止が途切れた。
僕の意思じゃない。
あぁ、時間切れか。
肉体がどさっと倒れる。
小型の機械、いや僕の分身体である『アマハラ』はバシュッと別の世界線に消えていった。
あとは僕の分身に任せよう。
さようなら聖夜、さようならアレイスター、二人の無事を祈るよ。
指輪の跡をさする。
大切なあの忠誠を誓った指輪はアマハラに搭載させた。
「いい人生だったなぁ。」
僕は涙で濡れた瞼をゆっくりと閉じた。




