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なろうラジオ大賞3

父とハットトリック

 父はサッカーが好きだ。


 TVで中継を横になって眺めながら「俺は昔、ハットトリックを決めたことがあるんだ」と自慢げに話していた。家族みんなで「はい、はい」と聞き流すのがお決まりのパターン。


 そんな父だが、家族からは好かれていた。

 子供想いの良い父親だったと思う。


 私は大学を卒業して大手企業に就職し、職場結婚をした。

 彼もサッカーが好きだった。


 応援しているチームが優勝した時は、一晩眠らずにお祝いしたっけ。


 そんな彼と結婚して、子供が出来て、子育てに追われてへとへとになって。

 色々あったけどまぁ、幸せなのかなって思っていたその矢先に、夫が不倫している事実が発覚。



 子供……まだ1歳になったばかりだよ?



 両親に相談したら帰って来いと言ってくれたので、弁護士を立てて離婚を申し入れた。


 あっさり認めて、養育費も一括で払うという夫。

「お前がこんなにつまらない女だとは思わなかった」と言われる。


 想い出が全部壊れて、何もなくなって真っ白になってしまった。


 それから数か月間。

 ヘドロのようなものが足にへばりついて、何もできなくなってしまう。


 そんななか父が、自分が出場するサッカーの試合に誘ってくれた。

 嫌だったけど、あまりにしつこくて断れなかった。


 試合当日。

 一回りも、二回りも若い世代の男性に囲まれてフィールドに立つ父。


 試合が始まると、父は前へ前へと攻めて行く。

 10分ほどしてゴールを決めた。


 まさか……まぐれだろう。

 そんな風に思っていたら、少ししてまたもう一回。


 あと一回ゴールしたらハットトリック。


 でも……父は限界だった。

 あの年齢では厳しいだろう。


 それでも父はあきらめない。

 転んで、泥だらけになって、へとへとになっても、ボールを追って走り続けた。


 そして……試合終了間際にもう一点。


「うおおおおおおおおおお!」


 両手を上げてフィールドを疾走する父の元へ、試合仲間たちが駆け寄ってくる。

 そんな光景を見て、思わずほろりと涙をこぼす。


 帰りの車の中で父は「俺も諦めなかったから、お前も諦めるな。人生は長いぞ」なんて言うもんだから、大声を上げて泣いてしまった。


 それから……月日がたち、子供が大きくなってサッカーを始めた。

 日曜になると父と一緒に所属するチームの所へ練習に向かう。


「おじいちゃんはね、ハットトリックをきめたんだよ」


 チームの仲間に自慢げに話す孫を見て、照れくさそうに笑う父。

 そんな彼を誇りに思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読させていただきました。 父親と娘、そして子供の繋がりを 描いた素晴らしい作品だなと思いました。 最後に孫に言われた、 ハットトリック決めたんだよは凄い良いセリフだと思いました。 […
[良い点] 内容が凄く洗練されていて面白いです。 1000文字で感動含み。ここまでしっかり表現するとは感服しました
[一言] こんなにつまらない女だとは思わなかった」何て言われたら「あんたがこんなにクズな男だとは思わなかった」って、逆に言ってやるよね笑 不倫相手が会社の同僚なら、人事や上司にぶちまければ降格や左遷や…
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