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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
9/80

9、厄介な声


 たい肥に人糞を利用する場合、蟯虫(ぎょうちゅう)が心配だ。

 でもやたらに殺虫の魔法陣を仕込むと、発酵が阻害される恐れがある。

 迷っていると、タニタ司祭様にあっさり言われた。

「虫下しは治療院の領域だから、利権は荒らさない方がいい」

 こちらもいろいろあるらしい。

 しかし、教会は治療をしないのか。

 前世のラノベ知識に引っ張られていた私はあらためて思った。

 では、聖女とはなんぞや?

 ラノベのヒロインはたいてい光属性か聖属性の魔法に適性があり、聖女扱いされて正妃にと望まれるのだけど。

 教会の書庫には当然だけれど宗教関係の本が中心におさめられていて、あとは歴史、意外なところで農業や調理法にかんする資料が充実している。

 魔法関係はそのほとんどがタニタ司祭様の私物だった。

「勇者や聖女について調べたい~? そりゃ、伝説やおとぎ話の領域だぞ」

 灯台下暗し。

 孤児院の読み聞かせ用の本に、いちばんくわしく載っていた。

 どうやら勇者や聖女、賢者、盗賊というものは、魔王の討伐隊のリーダー格。

 その役職名のようなものらしい。

 魔王は数千年ごとに現れるとされている。

 ほとんど架空の存在。

 近年では、自然災害や飢饉、疫病を擬人化したものだと発言する歴史家も出てきているのだとか。

 あとがき解説が、とても子供向けとは思えない。

 もっと詳しく知りたいならと、タニタ司祭様が信者の中から好事家を紹介してくださった。

 気の良いおじいさまで、子供相手にまるまる三日かけて講釈をぶってくださった。

 同じ話がループして、ティータイムを挟んでも正味二時間で終わるお話でした。

 ご老人の無聊(ぶりょう)を慰められたというなら、それはそれでけっこうなことだけれど。

 ご家族に大いに感謝されて、土産(みやげ)を持たされ見送られた。

「ごくろうさん」

 お土産のドライフルーツは子供たちに大人気。

 タニタ司祭様には一つしか取り分けてあげなかった。

 どうせ、好きに手をのばすのだし。

「じゃあ、二人目紹介するか」

「はいはい」

 あまり期待せずに訪ねた先で、戸口から出てきたのは年若い女だった。

 本業は機織りで、家族総出でその日も忙しそう。

「すみません、お忙しいところ」

「いいのいいの、気にしないで! 忙しいのは本当だから、なんのお構いもできないけど。本は好きに見てっていいから」

 なんでも新しい図案の参考にと昔語りの本を手に取ったら、その内容にはまってしまったらしい。

 挿絵がきれいだからと専門書にまで手を出し、でもそちらは中身はさっぱりわからないと、あっけらかんと笑っていた。

「でも、こう、ふわっと夢があっていいじゃない? あ、呼んでる。それじゃぁね!」

 ぱたぱたと走っていってしまった。

 あれだけ一生懸命働くから、高価な本も買い集められるわけだ。

 小さな書棚だけれど、そこにびっしり二十一冊。

 装丁を見るに、ずいぶん古いものから新しいものまである。

 私は時間を忘れて読みふけった。

 ふむふむ。

 やはり昔のものほど、聖女を神聖視しているな。

 いろいろなタイプの聖女の記述があるけど、大別するとやはり断トツで治癒が得意。

 ついで浄化、結界の順か。

 こちらの聖女は、どう見ても浄化と治癒を併用している。

 あ、この本だけだけど、召喚の記述がある!

 後世の本では、完全に否定されてるけど。

「あら、まだいたの!?」

 咎めるでもなく驚かれて、私もびっくり!

 あたりは薄っすら暗くなり始めている。

「よほど気に入ってくれたのね。よろしかったら何冊かお貸しするわよ」

「とってもありがたいですけど、大切なものでしょう?」

「あなたなら大事に扱ってくれるでしょう?」

 お言葉に甘えてお手製のナップサックに慎重にしまう。

 いつもより念入りに、汚れ除けの魔法陣に魔力を込めた。

 その帰り道。

「マリアンナ!」

 聞きたくもない声に呼び止められた。

 名前を呼ばれる機会は、五歳以降なかったと記憶している。

 それでも聞き分けられる母親の声ってなんなのだろう。

 ほんと厄介。



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