80、称号
我が国では各分野で功績のあった女性に聖女の称号を贈ることにした。
つまり神様の加護はなくてよい。
個人に贈られるものだから当然相続はできないけれど。
名誉のほかにそこそこの年金も与えられるので実質、準貴族くらいの価値はある。
たとえば元罪人を積極的に雇い入れている製紙工場長の妾。
たとえば私財を投げ打って用水路を引いた大商家の行かず後家。
たとえばゴミを拾い歩きながら辻説法をする乞食。
すべて民衆の口にのぼってからの後追いだけれど。
少なからず影響力のある者たちを公王家のコントロール下に置き、なおかつ彼らの人気を公王家のものとする。
そもそもがやらぬ善よりやる偽善を地でいくようは輩だ。
利用できるものは当然のように利用する。
新公王もその伴侶も頼もしいかぎり。
一方で結界の聖女は隣国の第二王子妃として、治癒の聖女は治癒院の、浄化の聖女は教会の広告塔として可もなく不可もなく過ごしている。
すべてが思い通りにゆくはずもないので、人並みに不満はあるようだけど魔王になるほどではない。
一安心…と思っていたら、暗黒のドラゴンが別邸に飛んできた。
別邸はいわゆる隠居所。拠点とも言う。
解放的で、よけいな来客はまずないので居心地が良い。
結果的に長く留まっているものの、別段、引きこもっているつもりはない。
旦那様も私もこの世界の同年代に比べれば活動的だと思う。
見事に飛行船をつくり上げた旦那様には申し訳ないのだけど。
私はもう一つ考えを進めてみた。
ダンジョンは必ずしも穴蔵でなくてもよいのでは?
いうまでもなく前世の創作物がヒントになっている。
地中に潜るだけでなく、塔を登っていくタイプのものがあったくらいだ。
ものは試しと天空の城ラ○ュタを目指してみた。
過疎化の進んだ山間の村をダンジョン化。
非常にシンプルな指定文で無事、空に飛ばすことに成功!
跡地はダム湖とした。
さすがに雲より高くとまではいかず。
メリエレン公王陛下の望む気象衛星は時期尚早ということだろう。
ちなみに彼女は女伯爵・女男爵等、爵位の前に性別をつけることをやめさせた。
時は巡る。
天空の小島は夏は北、冬は南、春は西、秋は東と一年をかけて大陸の少し外側を一周する。
他国の上を飛んだところでどの国も何もできないのだけど、無駄に刺激をする必要もない。
そこに別邸をつくって、主に旦那様と私が住んでいる。
試験場の一部をこちらに移したこともあって、手間をかけずに自給自足が可能。
旦那様は飛行船をさらに改造して海にも下りられるようにしたのだけど。
下りるたびにクラーケンに追いまわされるはめになった。
現在は地上との行き来以外にあまり使う機会もなくて少し寂しそうだ。
しかし、乳飲み子を抱えてふらふらするわけにもゆくまい。
そもそもダンジョンはドラゴンの管轄らしい。
誰よりその性質にくわしいからこそ、面白がって空飛ぶ小島に体当たりをする暗黒のドラゴン。
それくらいでは壊れないことを知っているのだ。
でも、見ている方は心臓に悪い。
「ご無沙汰しております」
『うむ、元気そうでなによりである。魔王が復活したので聖剣の保持者たるそなたを迎えにきた』
「…魔王が復活したのですか?」
『うむ…正確にはうちの孫が封印に足を引っかけて転んでしまい、その拍子に封印が解けたのだ』
ドラゴンたるもの、どんな時も悪びれない。
怒っても仕方がないので落ち着いてくわしく話を聞くと、なんということでしょう!
ドラゴンの巣に初代の魔王が埋まっていたらしい。
「言われてみれば…」
聖女の谷とも呼ばれていた。
諸説あるけれど、聖女が身を投げたがゆえにそう呼ばれるようになったのだとも。
「…しかし、私は必要でしょうか」
なにせドラゴンの巣である。
『子供たちのよい遊び相手になってくれてはいるが。人に聖剣を与えて討伐させるのが我の役目であるし…』
言いつつどちらでもよさそうな感じだ。
「そもそもなぜ封印されていたのですか?」
討伐させることを目的とするならば、与えられる聖剣もそれを与えられる人間も魔王を越える強さを持っているのが道理だ。
『よそより呼び寄せられた魂ゆえ、こちらに馴染むことがない。消滅とはつまりここに溶け込むことであるからな』
「つまり、もとは召喚された聖女ということですね」
『うむ』
ならば話は簡単だ。
召喚されたものは送還すればよい。
どう考えてもその方法まで簡単だとは思えないけれど。
ドラゴンがあっさりそのための魔法陣を教えてくれたので、子ドラゴンたちにぼろぼろにされた魔王を縦割りにしたのち、その体と魂を地球に送り返すことができた。
ドラゴン曰く人の手で行うことが肝心なのだそうだ。
前世、西欧圏の人たちはアジア人の見分けがつかないようだったけど、日本人である私は日本人か中国人か韓国人かくらいはなんとなくわかった。
魔王はあきらかに日本人で、可能であれば過去の話をしてみたかったけど。
残念ながらすでに自我は失われていた。
せめて彼女の冥福と、来世の幸福を祈るばかりだ。
転移者ゆえに、もしかしたらあちらの神様が復活させたりするのかもしれないけれど。
ことはすでに一介の転生者の手を離れている。
つまりあとは知らない。
それでも我がこととなれば話は別だ。
ものはついでとばかりにさりげなく、転移以外で別世界から魂がくることはないのか訊いてみる。
答えはYes!
元来、細かなことは気にしないドラゴンの説明は大雑把で、推論に推論を重ねることになるけれど。
世界を越えて転生する魂は、行った先に馴染むよう調整されているらしい。
つまり前世の記憶が残っているのは単なるミス。
その目的もせいぜいが世界の重さ、もしくは容量をそろえるためらしいから、当然、無作為に選ばれる。
幼い娘が瓶から瓶へ蟻んこを移し替えていたのを思い出す…
おかげさまで面白い人生を歩んでいるし、それなりに好奇心が満たされたことは確かだけど。
これは知らなくてもよかったかなぁ。
役目を終え聖剣を返そうとしたらドラゴンに拒否された。
私が死ぬまで私を聖剣の保持者とし、事後承諾ではあるけれど教会に保管することもかまわないそうだ。
たんにあらためて別の誰かに聖剣を授けるのが面倒なだけだと思う。
運動がてら私が組手にお付き合いしていることもある。
挑戦者を待つ必要はないというわけだ。
地上ではあいかわらず聖母と呼ばれて、公王家や教会に利用されることも厭わないけれど、当然ただでは動かない。
すでに一生遊んで暮らせるくらいには稼いでいるのだけど、それはそれこれはこれ。
天空の小島に向かう飛行船はまさにスタジオジ○リなデザインなので、いろいろな意味で感心する。
発着場では軽装の旦那様が出迎えてくれた。
「おかえりマリー」
「ただいまダン」
帽子を押さえて駆け寄る。
見上げる先には鋭くもやさしい眼差し。
私はすんなりとその片腕におさまる。
知っていたけど、旦那様は年を重ねても重ねたなりに格好よかった。
いまも私との間に生まれた末の子を抱っこしていて、その姿にはなんともいえない色気がある。
私も時がたつにつれて意味合いは変われど可愛いと言われる見た目で、個人的にはいつまでも違和感が拭えないのだけど贅沢は言うまい。
天空では先の公王でも聖女でもない。
私たちはずっと…いいえ、前よりずっとずっと仲良しだ。
〈おわり〉
拙作をお読みくださりありがとうございましたm(_ _"m)
またブクマや評価、いいねをいただきとてもうれしかったです(*^▽^*)
誤字報告も大変助かっておりますm(_ _"m)
おかげさまでここまで書くことができました。
心より感謝申し上げますm(_ _)m




