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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
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8、商人とのコンタクト


 下町は汚い。

 狭くごちゃごちゃとしていて、裏路地ともなればいつ汚物が降ってくるかもわからない。

 だから、鼻が曲がるほど臭い。

 さすがに教会の周辺では(はばか)るものがあるらしく、だいぶマシだけれど。

 ここですらトイレは汲み取り式だから。

「スライムに処理させるとか…」

「そんなことしたら、あっというまに増殖して大変なことになるわ」

 タニタ司祭様が呆れたように言う。

 基本的に街中に魔物を持ち込むのは禁止。

 違反すればかなり重い罰を受けることになるという。

「テイムできないんですか?」

「んー。話に聞いたことはあるが、実際にできるってやつに会ったことがないし、会ったことがあるってやつにも会ったことがないな」

 他国にまで進出している教会の関係者でも知らないとなると、それはツチノコを探すようなものか。

「タニタ司祭様。お酒の()(だる)をいただいてもいいですか? いちばん小さなものでかまいません」

「かまいませんって。もらう気まんまんじゃないか。…どうぞ」

 またぞろおかしなことをはじめるなとでも思っているのだろう。

 この間は洗濯ばさみをつくってみたのだけど、実用品としてはてんで話にならないレベル。

 バネの部分がネックなのはわかっている。

 でも、知識と経験のある鍛冶師に頼めるほどお金がない。

 権力握り待ちの案件として保留した。

 小さな()(だる)の上蓋を外し、木の板を二枚渡して便座替わりにする。

 このおまる兼たい肥製造機の実験に協力してくれるのは、幼少組の男女五人。

 夜トイレが怖いと泣くし、大人用に設置された便座はこの子たちには大きすぎて、いつ落ちやしないかとひやひやしていた。

 子供用のものも、応急処置的に取り付けてみたのだけど、時々下ろし忘れるらしい。

 近頃は、魔法陣の勉強もしている私。

 意識すれば空気中から即魔力を取り込めるとわかったから、魔力の充填(じゅうてん)はいつでもお任せ。

「ほうほう。認識阻害で内容物が見えないようになっているのか。結界で臭いを外に出さない、内容物もこぼれない。この三つのランプはなんなんだ?」

 多くの失敗作に呆れつつ、完成すればかならず見にくるタニタ司祭様。

「グリーンは使用可能。黄色が点灯したら、受け皿というか(たる)ですね…その交換を。赤はこれ以上使用するとあふれるので使用禁止です」

 黄色信号の(たる)に落ち葉や雑草を追加して、発酵を促進する魔法陣を刻んだ蓋を被せてたい肥にするのだと説明する。

「これはすごい。うまくいけばな」

 タニタ司祭様は、いつも一言多い。

 本当のことしか言わない人だけど。

「…頑張ります」

「「「「「がんばりま~す」」」」」

 そして今日も、幼児たちに癒される私なのだ。

 それから一週間。

 実験は順調に進んでいる。結果も上々。

 もしやこれは商売になるのではと、内心ほくほくしていると教会を訪れる信者の一人に声をかけられた。

「こんにちは」

「こんにちは。タニタ司祭様でしたら畑にいますので、いま呼んでまいります」

「いえ、今日はあなたにお話が合って。畑というなら都合がよい。ご一緒してよいですか?」

 中年男性が、本当の年齢はともかく見た目(とお)にもならないような子供に丁寧に話す。

 ふつうなら警戒するところだけど、この方は調味料面でよく支援してくださっている商人のナスベスさん。

 細い目でやさしそうだけど、案外こういう人は、その奥に鋭い目が隠れているのよね。

「タニタ司祭様」

「おー、ナスベスさん。この間いただいた唐辛子の苗。こんなになりましたよ」

「おおっ、予想以上に立派ですな。これもまたあのお話の成果ですか?」

 どうやらタニタ司祭様はあのおまるの話をナスベスさんにしていたらしい。

「無断で悪いと思ったが。お孫さんの寝小便を相談されてな。やはり夜、便所に行くのが怖くて我慢してしまうらしい」

「なっ、幼子とはいえ男の名誉にかかわることをそう軽々しく漏らされては」

「寝小便だけに!」

「うまい!」

 ダジャレで盛り上がるおじさまたち。

 私は白けたりしませんよ? ダジャレ大好き。

 一緒になってほほほと笑っていると、ナスベスさんがはっと我に返る。

「これは未来のレディの前で失礼を」

「お気になさらず。とても楽しいですわ。でもお孫様にとっては一大事ですわね。それで新しいおまるをお試しになりたいと」

「そうですそうです。それによろしければ…というよりぜひに、商品として取り扱うことも検討させていただきたいと思っております」

 それにはデザインも考えなければならないだろうと、司祭様の執務室で話を詰める。

 タニタ司祭様は途中から夢の国に旅立っていたけれど。

 あれこれ意見を出し合って。

 まずはナスベスさんのお孫さんにテスターをしてもらうのが先決ということで、その日の話し合いは終わった。

「んっ。終わった?」

「タニタ司祭様は我々信者の憧れですな」

 からい気味に言われて、いやぁ~と照れるなという話。

 でも、本当うらやましく思うことが多いです。タニタ司祭様。


 

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