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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
79/80

79、飛行船


 我が息子、第二王子から冒険者になると手紙が来た。

 基本、意気地(いくじ)なしなのでどこまで続くかわからないが、やれるだけやってみるとよい。

 ただ最低でも週に一度は、見たり感じたりしたことをどんなくだらないことでもよい、手紙に書いて送るよう条件をつけた。

 文章力やレポートにまとめる能力、わかりやすく人に伝える技術を育てるついでに、スパイの真似事をさせてみる。

 そもそも彼は生まれながらにして隣国の子爵位を持っている。

 本人にはまだ伝えていないのだけど。

 たとえ我が家から離脱しても、よほどの馬鹿をしなければ一生食うに困らない。

 その上、諸国漫遊とか…うらやましいかぎりだ。

 教育係と化している護衛騎士には申し訳ないけれど、快く付き合ってくれるらしい。

 こちらが求めるまでもなく定期的に報告書を送ってくる。

 気がきく上に良いことも悪いことも正直に書いている。

 昇給を公王陛下に提案しておこう。

 ただいま公王陛下は飛行船の開発に注力されている。

 重力魔法で浮遊することはできなくもないのだけど。

 どう工夫しても地面から一センチ浮くだけ。

 まず鳥を模した翼で滑空するかと思いきや、いきなりプロペラを開発したのには驚いた。

 配下の技術者にダヴィンチの生まれ変わりでもいるのだろうか?

 実際は(かえで)の種から発想したらしい。

 魔石と魔法陣があるおかげで、こちらのスチームエンジンはかなり軽量だ。

 別方向からアプローチした気球と組み合わせて、湖の上を低速飛行することには成功している。

 いまのところ定員は大人二人が限界だけれど。

 これはあくまで実験で、当初の予定通り大型化すれば解決する問題だ。

 他方面ではメリーが政治に興味を持ったので、公王陛下は大喜び。

 集団行動をする(あり)蜜蜂(みつばち)、狼の延長線上で人間社会を観察しだしたことは確かだけれど。

 王になって国を豊かにすれば、自身の研究に莫大な資金を投入できることに気付いたのだと私はにらんでいる。

 父親が目の前で実践しているのだもの。

 気象観測塔を各地に建設するのが彼女の当面の目標で、でもいずれはそれに飽き足らず人工衛星さえ飛ばしそうだ。

 別に悪いことではない。

 個人的には滅私奉公など気持ちが悪い。

 (おのれ)の欲望に忠実で、ついでに周囲に恩恵を与えられる人間が私は好きだ。

 また彼女の研究者としての特性が目の前のデータを優先するから、情に引きずられて判断を誤るということがない。

 双子たちが家出したことで、私と教会との間に多少なりとも距離ができたことも追い風に。

 カレエラ様もその母国も、同族である王子たちより『海割姫』を推している。

 影で糸を引いているのはカレエラ様の専属侍女ハイネ。

 昔もいまもカレエラ様の幸せと身の安全を第一に考えている。

 カレエラ様は公妃として日々誠実に務めていらっしゃるけれど、基本的に目立つのは嫌いな方だ。

 母国であまりよい立場になかったこともあって、日々穏やかに暮らせればよいと考えられている。

 いまから思えば第一王子は宰相、第三王子は外相あたりを目指して教育されていたことがわかる。

 王子たち自身も幼いころからメリーを(した)い、一定の年齢からはなにかと姉を立てるようになった。

 それぞれの性格的にも能力的にも無理のない選択となっていて、文句のつけようがない。

 第一に、本人に意欲がある。

 そして能力があり、状況が整いつつある。

 心置きなく娘の夢を応援できるなんて幸せなことだ。

「完璧な人などいません。公王陛下でさえも、お一人ですべてを行うことなどできないのですから、足りないところは補わなければならないわ」

 元皇子との婚姻を勧めると、メリーはすぐに利点を理解した。

 彼女は気象学者であり生物学者であり、社会学者の卵でもある。

 王配となる少年の祖国はもうないけれど、そこにはたしかに人が暮らしている。

 別の国をかたちづくっているとはいえ同族であることに変わりはなく、貿易していることもあって互いに友好的であることをアピールし続けてきた。

 元皇子が権力を手にすることであちらの警戒心を掻きたてるにしても、なめられるよりは用心される方がよい。

「私、あなたと結婚するわ」

「…はい。メリー姉様」

 一般的に姉に逆らえる()などいない。

 どう見てもそこに恋愛感情はないのだけれど。

 家族としての情はあるし、それぞれの野心が噛み合っているので安心だ。

 どうしても合わなければ別れればよいのだし…

 まずは婚約。元皇子が成人すれば伯爵位を与え、それから結婚という流れ。

 公王陛下のささやかな野望は、優秀な実子に後を継がせることであって、自身がその地位に居座り続けることではない。

「飛行船の実用化と、さらなる大型化を急ぎたい」

 汚れ除けの結界は頼りになるけれど、何事も絶対ということはありえない。

 近所に魔動車でピクニックに行くにしても、家族全員で行動することはできなかった。

 公王陛下にいたっては建国以来、国の外に出たのは二回だけ。しかも公務。

「そうしたら共に旅に出よう」

 早くも引退する気満々で、それは私も同じだ。

 (かしず)かれて暮らすのも、万人(一部を除く)に威張ってみせるのも、貴種の狐や狸、海千山千の商人と丁々発止やり合うのも楽しいけれど。

 好みの男と結婚できた。

 気持ちを繋ぎとめられている自信がある。

 子育ても一段落したことであるし、そろそろ自由が恋しくなってきた。

「楽しみです」

 ただそれまでにパラシュートは絶対に完成させようと思う。



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