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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
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78、成長する子供たち


 公王陛下はメリーの成長にあわせて幼稚舎、小学舎、そしてハノース貴族学院をお創りになった。

 乙女ゲームの舞台が整ってしまったかと思いきや。

 さすがは公王陛下、その辺もぬかりはない。

 公正評価院が評価するのは領民の健康具合や、領主や代官の個人的なものも含めた借金の返済状況、王城をはじめとした公的機関における勤務実態だけではない。

 他家とトラブルになっていないか、つまり貴族を貴族たらしめているマナー評価もかなりのウェイトを占めている。

 いわゆるヒロインが上位貴族の子弟に自分から声をかけたり、敬称なしで王族のファーストネームを呼んだり、異性にべたべたお触りするなど封建社会が瓦解する第一歩。

 子供のマナーがなっていないのは、その親のマナーがなっていない証拠だ。

 TPOに合わせて行動できない者など貴族社会に必要ない。

 そもそもその程度の認識能力もなく、記憶力もなく、配慮に欠ける人間がまともに仕事をして、なおかつ成果を上げられるわけもない。

 たとえば前世ラノベに登場するお騒がせヒロインの実家など、我がハノース大公国なら平民落ち確定だ。

 その上ハノース貴族学院には、一定の水準に達していない子供はきちんと落とす入学試験がある。

 もっとも辞書を引きながら手書新聞が読めて、買い物ができ、親戚のうるさ方とお茶が飲めるなら楽勝というレベル。

 平民でも商取引で外国に多大な損害を与えたり、乳幼児の生存率を大幅に引き上げたり、その功績を認められて貴族になった者たちの子供も問題なく入学できている。

 まともにあいさつできない子や、会話が成り立たない子もいなかった。

 留学希望者にもだ。

 むしろ再来年に受験を控えているうちの子が危ない…

 カレエラ様の第一子、つまり第一王子は穏やかな性格で人の話をよく聞くことができるし、気品もある。

 魔力量はそれほど多くはないけれど、風魔法を併用してたくみに矢を射る。

 ちょっとアドバイスしただけで軌道を曲げて、的を追尾させられるようになった。

 同腹の第三王子は愛嬌(あいきょう)がある上に、人の気遣いを見逃さず素直によろこぶので、周囲の者たちは進んで彼のために動く。

 氷魔法でアイスクリームを作って、家族やメイドによく振る舞っている。

 一方で私が生んだ第二子、つまり第二王子は威張りんぼに育ってしまった。

 反抗期まっさかりということもあるけれど。

 もともと他の子たちと比べてやんちゃで、ちっともじっとしていない。

 結果、怪我や物の破損が多く、私もまわりも見習わせたり言い聞かせたりするなんて悠長なことは言っていられなくなった。

 いやでも叱って行儀よくするよう強制することになる。

 お尻を叩いたこともあった。

 旦那様も飽きっぽい性格ではあるけれど、やるべきことを投げ出したりはしない。

 いったい誰に似たのか、好きではじめた剣の鍛錬もさぼりがち。

 そのくせ勝ったという結果だけは欲しいらしく、勤務中の護衛騎士に忍び寄り、毎回、容赦なく木剣を叩き落とされている。

 父親と同じ雷魔法が使えて魔力量もそこそこ多い。

 でも魔力操作が甘いせいで強めの静電気を起こすことしかできない。

 何をやってもふつうである自分に嫌気がさし、王子という身分にしがみついているように見える。

 早いうちから人の言葉の裏を読むように教えたから、天狗(てんぐ)にはならなかったけれど。

 そのせいで誉められてもすべておべっかだと思っているようだ。

 従者に当たり散らすのを格好悪いと自覚してもいるらしく、ますますフラストレーションを溜めるという悪循環。

 成長期が先にくることを考慮に入れても、女の子たちのできが良すぎるというのもある。

 姉のメリーは気象に興味を示し、五歳の時から毎時間ごとに空を眺めて記録をつけている。

 桜の開花予測などもはじめ、今年はそれをぴたりと当ててきた。

 父親をも超える魔力量を有しリアル十戒、つまり海割りができる。

 カレエラ様の母国に遊びに行った折、はじめて目にする海を前に思案する彼女に試しにやらせてみたらできた。

 目撃者も多かったため『海割姫』として近隣諸国に知られるようになり、豪快なことをよろこぶ連合王国では特に人気があるのだけど。

 本人にそれを誇る気がまるでない。

 人の心の機微(きび)(うと)く、自分がどう思われようと気にならない性質(たち)だ。

 なにより己の好奇心・知識欲を満たすことを優先する。

 弟のようにして育った亡国の元皇子がそれを(おぎな)うように用心深く、人の思惑をたくみに読むので、この二人を(めあわ)せるとちょうどよいのではと考える今日この頃。

 神様の加護を受け継いだ双子はあちこち連れまわした影響か自立が早く、自力で魔法が使えるようになると、自らの意志で片や教会に片や治療院に所属してしまった。

「困っている人たちをできうる限り助けたいのです」

 浄化する相手や場所、時を選ぶ私への反発心を隠さない娘。

 教会にいれば理想通りの行動ができると思っている彼女はまだ若い。

「もっともっとお金になるのにもったいないわ」

 もう一人の娘は、ただでは絶対に治療などしないと言って(はばか)らない。

 同感だけど、何事もやりすぎはよくない。

 でもこれも娘たちの成長の証だと思い止めなかった。

 数えで十一歳にもなれば大人顔負けに考え判断する。

 まだまだ視野は狭いけれど、手取り足取り教える時期は過ぎた。

 お赤飯を炊いて祝いつつ、旦那様とも話し合い、少し離れて見守ることにする。

 もともとそれぞれに戦闘もできる侍女をつけてある。

 汚れ除けのお守りをそれと知らせず持たせてあるのは言わずもがな。

 先の加護が移ったとの公式発表に、教会も治療院も浮き足立っていた。

 (じか)に付き合いのある人たちはさすがに用心深く静観していたけれど、加護を失った私を軽んじる言動もあちこちで見られる。

 加護持ちを手に入れて、しめたと思ったのだろう。

 でも残念。

 彼女たちの影響力を()ぐ方法はすでに準備してあった。


 生物一体もしくは無機物一個を対象とした浄化の魔法陣、

 十畳ほどの範囲を浄化する魔法陣、

 生物一体の精神を浄化する魔法陣、

 十畳ほどの範囲にいる生物の精神を浄化する魔法陣、

これらを一筆書きにして、あと一文字だけ加えればよいようにしておく。


 局所的な浅い傷を治す魔法陣、

 生物一体を治癒させる魔法陣、

 十畳ほどの範囲にいる生物を治癒させる魔法陣、

 生物一体の体力を回復させる魔法陣、

 生物一体の魔力を回復させる魔法陣、

 生物一体を解毒する魔法陣、

 十畳ほどの範囲にいる生物を解毒する魔法陣、

 生物一体を対象とした手足の欠損すらも取り戻す強力な治癒の魔法陣、

これらを一筆書きにして、あと一文字だけ加えればよいようにしておく。


 ちなみにミジンコもドラゴンも等しく生物一体だ。

 もちろん使用する魔力の量は相応に違う。

 範囲によってもそれは同様。

 私は最後の一文字を描き加え、神様の加護によって使える浄化と治癒の魔法を固定化した。

 一筆書きにすることでいくつもの魔法陣を用意したのはズルいやり方だけれど、神様たちは見逃してくださったようだ。

 いえ、たまたま世界の機構の網目に引っかからなかっただけなのかもしれない。

 創造神様は面倒事が減ってよろこんでいる可能性も…

 自由自在だった以前とくらべれば少々不便ではある。

 でも、これで加護をなくした私でも浄化や治癒の魔法が使える。

 魔力のある人なら魔力のある限り使えるし、魔力がなくても魔石を組み合わせて使うことができる。

 双子たちも当然この魔法の固定化の影響を受ける。

 彼女たちの強みは魔法陣なしにこれらの魔法を使えることと、無限に魔力を取り込めることだけになったわけだ。

 もっとも世間の皆様はちまちまと魔法陣を描き写すのが面倒と見えて、聖母謹製スクロールとそれにセットする魔石がよく売れる。

 木版画では心もとないので、取り急ぎエッチングをもちいる版画プレス機を作らせた。

 言論統制との兼ね合いもあるけれど、近頃は写本屋もキャパオーバーしているという話だから、なんとかここから輪転機にまで発展させたいところ。

 今回はどこにも利益を分配する必要がないから公王家の総取りだ。

 私は着々と埋まる本棚を眺めて(えつ)に入る。

 もちろん教会や治療院が独自にスクロールをつくって売っても別に構わないのだけど。

 さすがにそこまで面の皮は厚くなかったようだ。

「容赦ないな」

 そういう公王陛下も目が笑っている。

 慈悲の垂れ流しや富の偏在は、場を混乱させるだけで誰のためにもならない。

 つまり双子たちの選んだ道はお気に召さなかったのだ。

 私はこれでも自分、公王陛下およびハノース大公国、教会もしくは治療院、民衆どちらにも得になるように、損をさせないように気を遣ってきた。

 双子の離反により、ハノース大公国は神様の加護による浄化魔法および治癒魔法の応用力の高さと利便性、その独占による手札としての強みを捨てることになった。

 同時にどちらの魔法も比較的容易に使えるようになり、そのことを積極的に他国にも広めることでハノース大公国のイメージアップにつながったことも確かだ。

 おかげさまで描き方を公開しているにもかかわらず、スクロールと魔石を大量に輸入してくれる国が多い。

「さすがは我が妻だ。よくやってくれた」

 最終的に教会と治療院に貸し(ペナルティ)()つくって(科すことになり)トントンいったところか。

 じつを言えば浄化魔法と治癒魔法の固定化は、双子を授かるずっと前から考え、そのための用意をしてきた。

 あと数十年は大丈夫だろうと思いつつ。

 神様の気まぐれで与えられたものだ。いつ何時(なんどき)取り上げられてしまうかわからない。

 それを考えると十年間の猶予(ゆうよ)を与えられたことは本当にありがたかった。

 妹たちの親離れに遅れること数カ月。

 第二王子は、元冒険者という少々変わった経歴を持つベテラン騎士に預けることにした。

「春のそよ風は気持ちがよいですなぁ。ほら剣先に蝶々がとまりそうですぞ」

 いつも軽々と攻撃を(かわ)しつつからかうので、息子もむきになって彼ばかりを狙う。

 旦那様こそ容赦ないところがあるので、いじけている息子を(はげ)ますのには向かない。

 そもそも自分で言うのもなんだけれど、両親が偉大すぎてまいっているわけだから離れてみるのがよいだろう。

 可愛い子には旅をさせよ。

 息子も乗馬はできるので馬と装備一式を与える。

 私が騎士に頼んだのはサバイバルの技能を仕込むこと。

 どこを旅しようとかまわないが一度は隣国に寄り、私がかつて暮らした下町のアパートを訪ねること。

 そこには刑期を終えたアニフィールが暮らしている。

 もっとも彼女の場合は生涯奉仕義務があり、少しでも問題を起こせば監獄に逆戻りだ。

 下町の人間は口も手も早いので、案外そちらの方がマシかもしれない。

 なんとびっくり平民どころか犯罪者。

 それが自分の祖母だと知って彼はどう思うだろう。

 さらに自信を失ったなら平民として暮らす道もある。

 一念発起(いちねんほっき)してコツコツ努力を重ねるか、創意工夫をしてくれれば母としてはうれしいけれど。

 変に()じ曲がったり、いじけっ(ぱな)しは困る。

 鉱山にも足をのばして元ヘパニエル男爵、彼には祖父にあたる男のざまも見てくるとよい。

 冷静に考えれば、そんな血縁者をもつ私が王妃になっていること自体なかなかありえないことなのだから。

 いくら前世の記憶があるとはいえ、我ながらよくぞと自画自賛。



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