67、魔動車
いま公王陛下は鉄道の敷設に力を注いている。
そもそも高性能馬車を他国に輸出しはじめたのは、次が粗方かたちになったから。
次は馬なしで動く馬車、つまり自動車。
がわはそのまま馬車を流用し、御者台に舟の操舵輪がついている。
こちらでは魔石を動力源にしているので魔動車という。
さらに人口が増え、観光客も増えはじめ、食料や生活必需品のみならず、収穫物や採掘物を大量に輸送しなければならなくなった。
いまは各商会や運送業者ががんばっているけれど、こなせる数には限りがある。
すでに鉱山で使われていた手押しのトロッコ。
人々は鉄のレールと車輪を用いて抵抗を減らせば、小さな力で重いものをたくさん運べると気付いていた。
それを陸上で大規模に行おうと公王陛下はお考えになり、それに技術者集団が応えた。
旅客・貨物ともに大量輸送が可能になれば、さらに経済が動き人も増えるという目論見もあったはずだ。
はっきり言おう。
このようなものがつくられていることを私は知らなかった。
自身のささいな欲望のためには惜しまず前世チートも使うけど。
自分だけの強み、切り札になることを夫婦だからと簡単に教えたりはしない。
時期尚早ということなのか、教えたくても教えられないこともある。
幸いどの世界にも頭のいい人間がいるものだ。
私が呼ばれたのは、巨大倉庫の中で魔動列車の試運転が行われている時。
「まあ、まあ、まあ!」
男の子でなくても興奮する。
デザインがたんなる四角い箱なのは残念だけど。
公王陛下は別の部分に不満があるようだ。
「力はあるが魔力を食う。食いすぎる」
大量の魔石に頻繁に魔力を充填する必要があって、全国に鉄道網を張り巡らせるには私が何百人いても足りない計算。
「そこでそなたの知恵を借りたい」
そういえば私、魔法陣学の第一人者でした。
「そうですね…」
まず動力部を見せてもらい、技術者たちの話を聞く。
前世の機関車をほうふつとさせる横棒(正式名称は知らない)でいくつもの車輪がつながっていることに感動する。
しかし、車体の重さに乗客や積載物の重量が加わると、自転車で言えばギアを重くしすぎてペダルが漕ぎづらい状態に…
鋼鉄の歯車同様、回転の魔法陣や加速の魔法陣、減量の魔法陣をいくつも重ねいくつもつなぎ、結果、大量の魔石と魔力が必要になってしまったのだとか。
機械のことはさっぱりわからないけれど。
ようは魔法陣(イコール魔力)でダイレクトに車輪を動かそうとするから大変なのでは?
理屈があっているかどうかは別として、答えの一つをはじめから知っている私。
すでにここまで開発されているのだから、ちょっとのアドバイスで少しばかり技術の進歩が速まっても、歴史という大きな流れの中では誤差の範囲なのだろう。
まして公害ゼロだもの。
可能だがそこまではしたくないという意味で、さすがに女神様たちも、すべてを見張っているとは思えない。
雄神様は考慮に入れなくてよいだろう。
モバイルのデータ使用の警告のように、ある種の制限が世界の機構に組み込まれている印象。
攻撃魔法の魔法陣が成り立たないのと同様、冗談でも原子力などと考えればツキン、ツキンと頭が痛くなってくるのだから。
可能であるなら乳幼児を抱えた母親は、より快適でより高速の移動手段を求む!
「こうしてはどうでしょう」
私が描いたのは高熱を発する魔法陣。
しかも小者に持ってこさせた薬缶に描いたので、さすがの公王陛下も呆気にとられている。
もっと強力な力を発する魔法陣や、複雑な構造の機械を期待されていたのだろう。
でも、複雑だからよいものとは限らない。
単純ゆえにたいして魔力を必要としないのは誰もが認めるところ。
あっという間に湯が沸いて、私は注ぎ口から吹き出し、また蓋を押し上げる蒸気を指し示す。
「たかが湯気と思うかもしれませんが、この力は大変に強力なものです。まずはこれで車輪を動かす工夫をなさってみてください」
文系の私でもピストンやシリンダーという名称くらいは聞いたことがあるけれど。
蒸気機関の詳しい仕組みなど知るわけがない。
でも公王陛下を含めここにいる者たちはいわゆる機械オタクだ。
「これは…」
ほかのものにも応用できるとすぐに悟ったのだろう。
彼らの目がギラリと光る。
「そうそう、空気抵抗を弱めるためにも、車体の先端はとがらせた方がよろしいかと」
端から結果を知っているチートな私は、褒美に自分専用の魔動車をいただいた。
カスタマイズは自分ですると断って、さっそく試験場に持ち込む。
だって見るからに安全基準を満たしていないのだもの。
時速二十キロほどしか出ないとはいえ怖すぎる。
もちろん家族ともども常に結界等で防御はしているけれど、それはそれこれはこれ。
強固なフレーム、バンパー、シートベルトを追加するのは当然として、エアバックや合わせガラス、強化ガラスの開発も急がせる。
タイヤも忘れてはならない。
ミラーもクラクションもウィンカーもライトも。興が乗るとはこのこと。
魔物素材が大活躍だ。
デザインはどこまで先進的なものにしようか。
フェ○ーリはいくらなんでも早すぎる。
ロール○ロイスかジ○プか迷ったけれど、田舎にいけばまだまだ悪路も多いから、ここは四駆がよいだろう。
個人的にはラング○ーの白と黒が好き。
塗装前に見学された旦那様もお気に召したようなので、黒にする権利はお譲りして私は白にした。
この重量であれば、さほど魔力効率が悪いわけではないけれど。
こちらにも、つくれるからつくったと言い訳する技術者たちがそろっている。
公王陛下の許可を得て、魔動車用の蒸気機関を開発させる。
私はスピード狂ではないはずだけど。
前世の感覚を引きずっているせいか、せめて六十キロは出せるようにしたいと思う。
馬もそれくらいの速度で走れる。
でも、もって五分ほど。
テストコースを爆走した時は笑いが止まらなかった。




