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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
56/80

56、塔


 塔といえば、お姫様をはじめやんごとなき方が閉じ込められていそうだけれど。

 ハノース城の東の塔には、先代のハノース領主が住んでいらっしゃる。

 公王陛下つまり我が旦那様とは遠縁だけど、実の親子ではない。

 前公爵にすれば実子に後を継がせることができなかった。

 王弟だったダンからすれば、当時の公爵家に王家に逆らうだけの力がなかっただけのこと。

 それでなくても、かたや情に厚く恩義を忘れない武人。

 かたやバランス感覚にすぐれ合理的に物事を進める魔法使い。

 親子仲はあまりよくないのだけど、私はこの偏屈な老人が嫌いではない。

 いまだお会いしたことはないのだけれど。

 過去の戦で片腕片脚をなくしているにもかかわらず、聖女の癒しを頑として受けつけないのだ。

 私はそれも本人のポリシーとして有りだと思うので放っておいた。

 周囲が彼の説得を続け、(さじ)を投げるまで一年。

 旦那様の第二夫人が彼の娘であり、その子は男ばかり三人、祖父の薫陶(くんとう)を受けて王国の騎士団に所属している。

 それなりに満足していたところ、領地が独立してしまい、その必要性を頭では理解しながらも(へそ)を曲げているといったところか。

 それはそれとして私は公王陛下や私の馬車を製作した工房に依頼して、魔石で動く介護用ベッドと車椅子をつくらせた。

 素人の落書きに、あやふやな説明。それでもなんとかするのがプロ。さすがだ。

 私の名前はいっさい出さず、子から親へのプレゼントして届けさせたのだけど。

 流麗な筆跡の礼状が、私(あて)に届いた。

 旦那様が時折こぼすとおり、耳も頭もいまだしっかりなさっているらしい。

 たんなる脳筋ではないわけだ。

 手紙の中ではあわれな年寄りぶって、寛大なる心の持ち主などと聖女を持ち上げているけれど、ベッドも車椅子もまだ使っていないことを私は知っている。

 介護をしている侍従たちによれば、ちらちら視線は向けているし「捨てろ」とも言わないので興味はあるらしい。

 先日持ち込んだスライムトイレ(温水洗浄機能付き)は黙認しているというから、もう一押しか。

 肖像画を信じるならば旦那様とは鼻の形が似ている老人の、そんな様子を想像するだにほっこりする。

 私はお気に召したならば幸いですと次なるプレゼントを届けさせる。

 革のバンドで胴体に固定する、一部金属を用いた木製の義手。

 (ひじ)と手首、指の関節が曲がるようになっていて、見た目は芸術的だが、レバーを引くとセットした胡桃(くるみ)の殻が割れるという他愛(たわい)もないもの。

 もっと頑丈で高性能な魔道具じみたものも製作可能なのだけど、治癒魔法同様、まず本人が受け入れてくれないことには…。

 後日、むき身の胡桃(くるみ)がたくさん届いた。

 あの義手はたいそう気に入られたらしい。

 その流れで侍従たちがうまく乗せたのだろう。

 車椅子を使用されはじめたのを見計らって、塔に昇降機を外付けする。

 真夜中の突貫工事も、土魔法を使えば静かなものだ(睡眠薬も併用)

 多くの男は機械好き。

 昇降機を動かしたいがために、ちょくちょく外に出られるようになったので、通りがかりに()()ポロの試合を見ていただいた。

 ポロ自体は、私がやってみたかったということもある。

 義父とはそこで格式ばったあいさつを交わしたきりだけれど。

 以来、工房の者を呼んで、義手と義足の開発に進んで協力しているらしい。

 前世の医療と比べても治癒魔法などそれはすばらしいものだけれど、聖女がいなければ簡単な魔法陣しか使えないなんて、いかにも不安定だ。

 方法はいくつもあった方がよい。

 せっかくの技術と職人集団を有効利用しないなんてもったいない。

 さらに発展させておけば別のことにも役立つはず。

 前世で学んだことは、愛する人の家族だからなどと考えているとうまくいかなくなった時、大惨事だということだ。

 だからいまはこう考える。

 権力者やその家族に(こび)や恩を売っておくのは基本。

 なんといっても自分のため。

 それを抜きにしてもその姿を拝見すると、旦那様もいずれはこうなるのかと想像して少なからずときめく。

 髪や目、肌の色はまるで違うのだけど、わずかばかりとはいえ確かに血のつながりを感じる。

 思いのほか似ているのだ。

 こちらの六十代は完全に老境ではあるけれど、少しずつ体を鍛え直していると聞く。

 昔の話を聞いても大変、意志の強い方のよう。

 一緒に試合をする日が楽しみだ。



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