55、マザースライム
『ことはじめのダンジョン』から無事に連れ出すことができたスライムは、現在私の所有する試験場で、研究者たちにグランマと呼ばれ崇め奉られてる。
グランマ(管理番号1)から分裂したのがママで、現在1-1から1-115まで百十五体を数える。
ママから分裂したチーママが1-1-1から1-115ー56まで五千八百体を越えたところから、さすがの研究者たちもコンテナ単位で数えるようになった。
私の手元にいるのはママ1-1。
特別にマザーと呼んでいるのは、この子がグランマの完全なる分身体といってもよい性能を有しているから。
意思疎通のできる相手に排泄物の処理をさせるのは複雑な心境なのだけど、そもそもそれが目的だったわけで。
まず移動中のトイレ環境が大幅に改善されて、侍女たちにも喜ばれている。
スライム自体は何を吸収しようがご機嫌。
こちらの気分の問題でマザーにはペット枠でいてもらい、チーママ以下にいろいろな処理をお願いしている。
同じママでも1-2以降はわずかに核が小さくなり、チーママに至ってはグランマの半分のサイズ。
それが逆に功を奏したのか、チーママに私以外の者が定期的に魔力を与えると、その指示にも従うようになった。研究者たちは狂喜乱舞。
ただ私の命令が第一であることにかわりはなく、決められた範囲外に移動させたり、人や家畜を襲わせることはできないようだ。
さらにチーママから分裂したものは核を持たず、垂直の壁を登ることができない。
有機物の吸収率は高く、一定量を超えると白濁し細かく分裂する。
この白い粒に水を含ませると吸水ポリマーのごとく膨らむけれど、そこからスライムになることはない。
畑の肥料として大変に優秀。
これで衛生環境はもんちろん田舎の臭い問題も解決しそう。
有機肥料、大いに結構なのだけど。
観光地化との兼ね合いで、公王陛下ともども大いに頭を悩ませていたのだ。
並行して私が研究しているのはダンジョンコアについて。
『ことはじめのダンジョン』でボス部屋の奥に階段を発見。
その先にはボス部屋の倍はあろうかという空間があった。
結界に守られているらしく一定の位置から近付くことはできなかったけれど、遠目に観察してわかったこともある。
床・壁・天井すべてに描き込まれているのがダンジョンの設計図。
中央に屹立するのはダンジョンのコアであり原動力だろう巨大な魔石。
もしやあれと同等のものを用意できればダンジョンを造れるのでは?
折しもボス部屋に通う私に、レッドドラゴンを介して暗黒のドラゴンから呼び出しがかかった。
せっせと転移の魔法陣を描いて、聖女の谷へ跳ぶ。
なんのことはない。アバターを使っての試合のお誘いだった。
幼体とは比べものにならない大きさで、戦闘技術もかなり上。
週一の約束で相手が飽きるまでがんばった私は、だいぶ筋肉質になった。
スタイルがよくなり動きにキレがでてきたのはよいけれど、これ以上は貴婦人としてちょっと…。
せっかくなのでダンジョンについてあれこれ質問をする。
その答えはどうも要領を得ない。
ドラゴンにすれば、どうやって息をするのか訊かれているようなものなのだろう。
それでもなんとか自分なりの推測が間違っていないことを確認して、ダンジョン造りを試みる許しを請う。
『できるものならやってみるがよかろう』
例によってかなりいい加減に許可された。
なにしろ技術面で課題が山積み。
文献を調べても人に聞いても、コアは年経たドラゴンの魔石より大きい。
もっと小さなダンジョンをつくるにしても、これは完全に私欲なので、たとえ可能であったとしてもそのためにドラゴンを狩る気にはなれない。
だいいち一体狩ったらその報復で、いくつか国がなくなるに違いない。
幸いにして私は、スライムの魔石が結合する瞬間を見ている。
そんなわけで現在ちまちまと魔石を結合中。
当然ながら魔石と魔石を合わせたからといって簡単に一体化するはずもない。
私が魔力を充填した魔石をマザーに取り込んでもらう。
マザーの魔石はいま皮をむいたミカンのような形で、サイズもそれくらい。
方向性としては間違っていないとは思うのだけど。
最終的にどうやって魔石を取り出せばよいのか。殺すのは嫌だ。
悩んでいたら、マザーは体内でパカリと魔石を分割。
ミカンの房二つ分を残して、残りを体外に吐き出した。
「すごいわ、マザー!」
得意げに上下運動をくり返すスライムをムギュムギュする私。
あとはどこまで魔石を大きくできるかだ。
核の大きさが本体を上回るなんてさすがにありえないから、理屈としてはまず体を大きくしなければならない。
スライムは他のスライムと合体できるのだろうか?
その辺で捕まえてきた野生のスライムをマザーは喰ってしまった。
でも、自身から派生したママやチーママとは合体して大きくなれる。
目指すはビックマザー。
とりあえず二十五メートルプールほどの容量を目標とする。
試しに土魔法で適当な地下空間をつくってもらい、ダンジョンの設計図を描きはじめてもいる。
まだまだ先は長いけれど、その過程もまた楽しい。




