51、実験中
『ことはじめのダンジョン』は全三層からなる。
一層目は洞窟型で、スライムとゴブリンが出現する。
壁に自生するヒカリゴケは集めればランタンがわりになるのだけど、どれだけ水やり等に気をつかっても、採取してから約二十四時間で光を発しなくなる。
二層目はフィールド型で、ホーンラビットとブラックウルフが出現。
大衆向けの薬草、三種を採取できる。
三層はまた洞窟型に戻り、スモールリザードと呼ばれる体長百五十センチ大のトカゲと戦うことになる。
傘のサイズが直径三十センチを超えるなめこも採取できるのだけど。
採取しようとする者がいない。…おいしいのに。
ダンジョンボスはドラゴンというふざけた仕様だけれど、必ず先手を譲ってくれる上に、途中で戦闘を放棄して逃げ出しても見逃してくれる親切設計。
ボス部屋の扉はいつでも開閉できるので、話のタネにのぞくことも可能。
ボスがボス部屋から出ることはない。
十五分でリポップするほかの魔物があふれ出す、いわゆるスタンピードは有り得る。
以上が授業で習ったこと。
私同様、ボス部屋前を押し付けられた数学担当のマクドク教授は、私お手製のヘッドライトに興味を示した以外は静かだ。
ありもののティアラにスモールライトの魔法陣を仕込んだだけだから、原理がわかってしまえばどうということもない。
もともと無口な人らしく、私の手慰みに文句を言うでもないのがありがたい。
年齢的にもよい感じに肩の力が抜けていて、つまり頑張るべきところと手を抜いても平気な時を心得ているわけだ。
このダンジョンを舐めているわけではないけれど。
生徒、教師を問わず全員に汚れ除けのお札を配ってあるし、いつも通り護衛がついてきている。
私の側からしても現段階では、同僚が立ったまま寝ていてもかまわないのだ。
三層ではいまだ戦闘が行われてる様子もないので、私はスモールリザードを二匹捕まえて実験の続きをしている。
魔石はだいたい心臓の脇にある。
治癒しながら、隷属の魔法陣を刻んだ魔石をそっと並べて置いてみた。
なんとなくスライムにはスライムの魔石を、トカゲにはトカゲの魔石を使ったのがよかったのか。
問題なく融合したようだ。
傷を塞いでいろいろ指示を出してみるけれど、もとより素直に従おうとはしない。
通用するのは「待て」「進め」「掛かれ」くらい。
それも棒で頭を叩き、脇を突き、尾っぽの付け根を押さないと動かない。
その上、なにかというとシャーッと威嚇してくる。
使えそうにないので首を落して変形した魔石を回収。
同様にドロップした皮革もマジックポケットにしまう。
ギルドで換金するか、職人に頼んでリックサックにでもしてもらおうか。
まだ時間がありそう。
結界でトカゲを押し退けながら、三層を横断。
二層の端でゲットしたブラックウルフとホーンラビットも同様の結果だった。
言葉を理解し懐いてくれるスライムはすばらしい生き物だ。




