50、初ダンジョン
教室の同じ列に座っている者と組ませてもよいし、名簿順に振り分けてもよいと思うのだけど。
そういうスキルを磨くためなのかなんなのか。
自力でパーティーメンバーを見つけなければならないとなると、ひっこり顔を出す苦手意識。
前世の班分けでは男子にはよく誘われたし、女子にもこちらから声をかければ断られたことはない(当然、断らないだろう相手を選ぶ)
今回だとて、面倒事をさけてDクラスの授業に出席。
あきらかにメンバーが足りていない三人組の近くに陣取っていたというのに。
担当教諭に呼ばれて、引率の手伝いをするよう言われた。
なんということでしょう!
私、生徒。ダンジョンはじめて。目で必死に訴えたのだけど。
あなた聖女。ついでに聖剣保持者、しかも講師。と視線で返された…ような気がする。
引率といっても、すべてのパーティーに付きっきりになるわけではなかった。
前世であればマラソンやオリエンテーリングの際、要所要所に立っていたあの仕様。
しかし今日はじめてダンジョンにもぐる私が、最下層のボス部屋前に配置されるとは。
もしもの時の回復要員として適材適所なのは理解しているけれど。
不機嫌なふりをしていたら、時間をかけないことを条件に数匹の魔物を確保することを許された。
ダンジョン内の魔物は侵入者に敵意むき出しだから好都合。
まずはスライムを汚れ除けの結界で囲って引きずってきた。
ちなみに魔物が出没する位置および徘徊するルートは決まっていて、スタンピードでもないかぎりセーフティーゾーンが存在する。
また、このレベルのダンジョンであれば、ボス以外には魔物除けの魔法陣や香も十分効果を発揮する。
私の場合、たいていのことは汚れ除けの魔法陣でなんとかなってしまうのだけど。
最初のパーティーが現れるまで暇…コホン。まだ間があるし、少々個人的な研究をば。
まず、外見を観察。
直径三十センチほどの水まんじゅうだ。
軽く上下運動をしている。
捕食する時や移動時はアメーバ状になる。
体内をビー玉サイズの核がかなりゆっくり移動している。
核の色は乳白色。
水鉄砲くらいの勢いで酸を吐くのは、本来は虫を落すためだと言われている。
人が触れても温かく感じるくらいで、すぐ洗い流せば問題ないらしい。
一応、目に入らないように注意が必要。
核を破壊するとその欠片だけを残して消えてしまう。
正確にはその他の部分が溶けてダンジョンの床に吸収されるので、外のスライムと差はないように見える。
核を完全な形で確保したい場合は、手を突っ込んで引っこ抜く。
前々からテイムできないものかと考えて、少ない機会をとらえていろいろ試してはいるのだけど。
これでも勝手に城壁の外へは行けない身の上で、出る時はたいていお仕事だからなかなか自由がきかない。
今回せっかく捕らえても、生きたままダンジョンの外に連れ出すことは禁じられている。
とりあえずものは試しだ。
隷属の魔法陣を刻んだ魔石をとり込ませてみる。
こんな流動性のものに首輪を付けるわけにもいかない。
ほかの装飾品も無理だったし、体表に魔法陣を描いても意味がない。
案外、魔力で描けばいけるかと試したこともあるのだけど。
描き終るまでじっとしているわけがなかった。
樽に押し込めたり、怒らせて結界で固定したところで、外身も中身も動いて入れ替わってしまう。
魔法陣を描いた木の板は吸収されてしまった。
魔法陣を刻んだ石はしばらく触れていたけど取り込もうとはしなかった。
そこで今回は魔石を用意してみた。
吸収しようともにゅもにゅしていたけれど、無理とわかったのかぺいっと吐き出す。
一応、汚れ除けの結界で汚れを払って魔力を充填。
これならどうでしょう?
もにゅもにゅ、もにゅもにゅ、もにゅもにゅ…。
気に入ったのかずっと体内で揉んで(?)いる。
もしかして魔力を食っているのか。
もにゅ…。
偶然なのかわざとなのか魔石が核に触れたら、全身が淡く光った。
そういえばスライムは核自体が魔石なのだ。
端と端が溶け合うように一体化して、ピーナッツの殻のようになっている。
魔法陣は一部見えなくなっているけれど消えたわけではないようだ。
ご機嫌に見える上下運動。
なぜか見上げられていると感じる。
もしや指示待ち?
「待て」
言葉が通じるかわからないから声に出しつつ、手のひらを向けるジェスチャー。
ぴたりと上下運動が止まる。
「…楽にしてよし」
取り消すように手を振ると、うれしそうに上下運動を再開。
「右向け右」
手で誘導しようとすると移動と勘違いしたのか、アメーバ状になってしまったので一旦停止。
もう一度号令をかけて、私自身四十五度回転して見せると、スライムもたぶん動いている。
外身は回ってもよくわからないけれど、双子状態の核ならば一目瞭然。
「伏せ」
あきらかに平たくなった。
「お手」
突起が出てきて私の手に触れた!
「よーし、よし」
結界越しでもふにふにしていて気持ちがよい。
これ、なんとかして連れて帰れないものだろうか。
ひとまずダンジョンの片隅に、汚れ除けの魔法陣を描いて待機させておこう。
狩られでもしたら大変だ。




