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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
41/80

41、はじめての女子会


 サンフォール侯爵令嬢とその取り巻きが、第二王子殿下の進路をせっせと(ふさ)いでくれるので、避けるまでもなく遭遇しなくて済んでいた。

 彼女たちは妨害工作のつもりだろうが、私とすれば感謝しかない。

 しかし、今日はその包囲網に穴があったようだ。

 いつものお付き三人衆が見えないから、それをおとりに逃げ出したのかもしれないし、サンフィール侯爵令嬢がわざと逃がした可能性もなきにしもあらず。

「ハノース夫人は下町の孤児院で育ったと聞いた。そこがどんな様子か教えてくれないか?」

「…まあ、どなたがそんなことを?」

 ショックを受けたふりでつぶやけば、そんなことまで知っているなんてすごい!とでも解釈したのか(ほこ)らしげに教えてくれる。

「我が婚約者サンフィール侯爵令嬢だ」

 ですよねぇ。親切ごかしに告げているさまが目に見えるようだ。

 残念ながら私より、第二王子殿下の株が下がっているけれど。

 私はほかの公爵家のご令嬢たちに誘われて、食堂で食事をしていた。

 当然のようにメニューも設備も高級で、最低でもひとテーブルに二人は給仕がついている。

「なかなかお誘いできなくてごめんなさいね」

 彼女たちの方は様子見、私はあえて単独行動をとっていたこともあって、これまで機会がなかった。

 学年も派閥もバラバラ。

 だからこそ融和を目的として…少なくともそうできるだけの余裕と思考力があることをアピールするために、週に一度は食事を共にしているそうだ。

 純粋に気が合っているようでもある。

 そこへご招待いただけたところをみると、私の身分と言動はお眼鏡にかなったらしい。

 少なくともこちらの聖女と交流があると周囲に示しても問題がないという判断。

 私はもともとぼっち飯が苦にならない(たち)だ。

 でも、なごやかでキャッキャウフフな女子会に(あこが)れがなかったわけではない。

 近頃あまりにも常識知らずに出会うことが多くて、少々警戒してしまったけれど。

 さすがに公爵令嬢たちはマナーのなんたるかを完全に理解していた。

 人を不快にさせないのは当たり前。

 それが通じる人たちがいるとわかってほっとする。

 もちろん、こちらもそう行動しなければならないのだから気は抜けないのだけど。

 腹の探り合いは当然ある。

 でも皆様教養があり、言葉の選択や話の流れにきちんとした意図があり、皮肉一つにも(ひね)りがきいていて小気味よい。

 その上、清楚系・クール系・癒し系と各種揃っていて、それぞれ完璧な美少女だから目にも楽しい。


(パパ)がパトロンをしている画家が新境地を開くのだと言って」

  《まずダジャレ。絵に描いた(もち)的な雰囲気も》


「あら、その前にあのお(ひげ)を落した方がよろしいのではなくて?」

  《一部の男、夢想家は貴族をやめたほうがいい》


「フフッ。お聞きになってくださいな、ハノース夫人。その方、お茶にたっぷりミルクを入れるものだから」

  《彼らはお子ちゃまで》


「あれはミルクに申し訳ていどに色をつけているだけと言った方が正しいわ」

  《まったく良いところがない》


「あらあら。ではお茶の際は、(ひげ)()きを取りつけられることをお勧めしますわ」

  《せいぜい形だけ威張らせておけばよい。女の私は新しい提案ができると売り込み》


「まあ、それは良さそうですわね。それで、それはどんなものですの?」

  《なるほど。あなたの提案は受け入れ可》


「私もハノース夫人のお話でしたら、ぜひお聞かせ願いたいですわ。でもあなた、わからないまま賛同するなんて、色の三原色でもあるまいし感心しませんわ」

  《同じく受け入れ可。でも第二王子殿下の取り巻き、あいつらは駄目だ》


「三色あれば、どんな色でも出せるはずですのにね」

  《もっとしっかり第二王子殿下を支えろ、でなければいる意味がない。先のやめろ発言の着地点》


「全部まぜると真っ黒になるというのは本当ですの?」

  《本当に無能だから、そのうち大きな失敗をするだろう》


「まさにそのことなのですわ、ハノース夫人。あの画家ったら…」

  《そうすれば堂々、貴族社会からハブれるのに…》


 そこへ割り込んできての冒頭の発言だ。

 令嬢たちの目がギラリと光る。

 第二王子殿下に悪意がないことは、たいていの人がわかっている。

 でも公衆の面前で、一般的に下に見られる情報を持ち出されては、私も周囲も私を故意に(おとし)めたと()()()()

 ある意味、タイミングが良すぎる第二王子殿下。

 みんなの目が「言っちゃえ、言っちゃえ」と言っている。


「ごきげんよう、第二王子殿下。殿下はたしか民の生活にご興味がおありなのでしたね。ご立派な心掛けだと思いますわ。でも、ごめんなさい私…あの頃のことは、あまりよいこともなかったものですから、思い出すのがつらくて」

  《さあ皆さん、お花畑のよく似合う王子様がきましたよ。そんなに興味があるなら平民になればよろしいのに。おととい来い》


「まあ、そんなことをお聞きしてはお可哀そうですわ、殿下」

  《突然、話に割り込んできて礼儀知らずね》


「本当に」

  《馬鹿がきた》


「せっかくいまお幸せなのだもの」

  《大公閣下によろしく》


「無理に思い出す必要ありませんわ」

  《私たちはあなたの過去を気にしない。少なくとも(あげつら)う気はない》


 みんなで一斉(いっせい)にハンカチをとりだして目元を押さえる。

 女を泣かせる男は男ではない。すべてをぶった切る最強のアイテム。

「そ、そうか。すまなかった。邪魔をしたな、みな会話を楽しんでくれたまえ」

 逃げる第二王子殿下。やっと駆けつけ、従う取り巻き。

 何事もなかったかのように笑い合い、ハンカチをしまう令嬢たち。


「甘いものでも頼みましょうか。ここのスイーツはお勧めですよ」

  《大丈夫? 気分をかえて仕切り直しましょう》


「そうしましょう。でも、あまりおいしすぎて速く走れなくなるのも困りますわね」

  《ありがとう、大丈夫。でも、いま頃あのネタを出してくるなんて情報遅すぎない?》


「まあ、オホホッ! ハノース夫人ったら」

  《同感》


「困るといえば、いつも朝早くに起こされてしまって。季節に関係なくさえずるあの小鳥、なんといったかしら?」

  《あいかわらず調子はずれ、サンフィール侯爵令嬢には困ったもの》


(すずめ)でしょう。大した色も付いていなくて可愛いではありませんか」

  《地味な色合い。口ばかりでなにもできないのだから相手にすることはない。それより第二王子の取り巻き》


「そういえば白いカラスがいるって本当ですの?」

  《彼ら一族からもハブられてるから》


「大きな木の下にいそうですわね」

  《親と跡取りは、もう王太子派に鞍替え間近。つまりあなた(私)に擦り寄ってくるだろう》


「寒い時期にウサギが白くなるのですからありえますわ」

  《都合がわるくなれば手の平かえす連中よ、気を付けて》


「私、このミルクプリンをと思ったけれどやめて、次の楽しみに取っておきますわ」

  《わかった、ありがとう。今回のお食事会、徹頭徹尾とても楽しかったわ。また誘ってね》


「私もそうしますわ」

  《快諾(かいだく)!》


「ええ」

  《快諾!》


「私も」

  《快諾!》


「「「では、ごきげんよう」」次はもっと気楽にお話ししましょうね」

「ええ、ぜひ。ごきげんよう、皆様」

 公爵令嬢たちもやはり、貴族しゃべりは面倒だと思っているらしい。

 今日はお互い小手調べのようなものだったけれど。

 旦那様といる時とはまた違うかんじでお肌がうるおった。

 次の女子会が楽しみだ。



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