39、目撃者
ずいぶん昔のことだけど、王立魔法学院は全寮制だった。
実情に合わせてその規模は縮小されてゆき、完全に廃止されてからひさしい。
少子化も原因のひとつではあるけれど。
それだけ貴族が力を持ち、わがままになったのだとも言える。
聖女として活動していても感じる。
盟主である王家に誠心誠意仕えるふりさえせずに、露骨に自家の利益を優先する貴族たち。
いつかは争いに発展すると考えるのは早計だろうか。
世が乱れる原因には二種類ある。外因と内因。
他国が攻めてくる。大いにあり得る世界だ。
もっとよその国のことも学ばなければ。
古い教科書をなぞるだけの授業など論外。
もちろん歴史を知るのも大事だけれど、それくらいはすでに覚えてしまっている。
生きた知識に出会うには、政治家か官僚か。大公閣下にご紹介いただこう。
私が接した限り、この世界の民たちはまだまだ未成熟。
国という大きなものを打倒しようと考えるのは、もっとずっと先だと思う。
どちらにしろ飢饉や疫病の兆候には注意が必要だ。
身を守るためには、いち早く状況を把握し、先手を打たなければならない。
いちばんありそうなのは、王太子殿下と第二王子殿下の王位をめぐる争い。
第二王子殿下はアレだけれど、だからこそ操りやすくてよいと考える者たちもいる。
王家ひとつとっても正妃の実家より、側妃の実家に勢いがあるのがいかにも危うい。
いっそ潰しておくか。
私みたいなちっぽけな一個人が手に負えることではないけれど。
大公閣下もそう動いているように見える。
学院内のこともよく尋ねられる。
あとになって、私の心配をしていただけだったとわかるのだけど。
うがった見方ばかりしていてごめんなさい。
でも、どうしても仮想乙女ゲーム世界を意識してしまう。
ものによってはとんでもなくハードな設定もあり得るから。
ともかく一々向こうから難癖つけてくるなら、かえって好都合だ。
入学するまでは避けることばかり考えていたけれど。
飛び交うハエを叩き落とすうち、なんだか楽しくなってきた!
学院内の制度をいま一度調べてみると、申請すればあの学生服姿の護衛を個人に付けることも可能だった。
さっそく申請。異性では立ち入れない場所もあるので同性をと指定した。
魔法陣のおかげで警備面はまったく心配ないのだけれど、身の潔白を示す事態を想定する必要がでてきたからだ。
彼らが公明正大であることが前提だけれど。
何度か詰所に通い、落とし物を拾ってくれた騎士に、それとなくよさそうな人を聞く。
彼が推薦したのはむすっとした小柄な女で、学院生にまじっても違和感がない。
あれで二児の母とは恐れ入る。
彼女は職務に忠実だけれど、私が独り言をいえば独り言で返してくれるくらいの度量はある。
もちろん人の話を鵜呑みにせずに、必ず背後関係を調べている。
いつもご協力ありがとうございます、旦那様。




