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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
31/80

31、インフラ整備


 ひと月の間、私は奴隷(仮)たちを使い倒した。

 子供が空き地を借りて遊んだようなものだ。領政の立て直しなどとはとても言えない。

 ハノース大公領は王国一豊かな土地で、言い方はわるいがあの程度の貧富の差はどの領地にもある。

 それを良しとしない大公閣下がありがたい領主様なのだ。

 前世でいえば中世から近世あたりの技術水準だから、領内には手付かずの自然も多い。

 だから、まだまだ畑を広げることもできるし、治水工事の余地もありすぎるほどにある。

 自分の土地に愛着をもっている平民はむずかしくても、使われ命じられることに慣れている農奴であれば、その仕事場や住処を移すことは比較的たやすい。

 幸い、ベンヤミンとその第一夫人が土魔法の使い手だった。

 魔法はすごい。

 荒れ地に地下水道を巡らせることも、土地の(かさ)()げをすることも、強固な土壁を造ることも、深く土を耕し、石を除け、広大な畑にすることもできる。

 前世でいえば重機そのもの。

 魔法が使える貴族とは大変に便利なものだ。

 水魔法の使い手であれば水撒きができる。橋をかけたり水車の設置時に、水の流れを緩めたり止めたりすることもできる。

 風魔法で森を切り開き、枝を落して良質な丸太を確保し、また火魔法の使い手と協力しあって乾燥を速め、すぐに材木へと加工することもできる。

 重力魔法の使い手であれば、荷物を軽量化させて馬車の積載量を増やすことができるし、大岩をどかす手伝いもできる。

 まだコントロールがあまい子供たちだとて、自身の手があり足があり、細かい手作業は断然彼らに分がある。

 どんなに不貞腐(ふてくさ)れた中年おやじにもできることは必ずある。

 睡眠は毎日八時間とらせているし、食事も三食、栄養価を考えて与えている。

 休憩時間も前世のサラリーマンよりあるかもしれない。

「マリアンナ様、もう魔力が…」

 はい、回復。

「マリアンナ様、私は腰が…」

 はい、治癒。

「マリアンナ様、許すまじ…」

 はい、浄化。

 疲労も怪我も病気もどんとこい。気を失ったら気付け薬がある。

 そろそろひと月がたとうかという頃にもなると、ベンヤミンの妻カドレーヌなどは、とても親し気な視線を私に向けるようになっていた。

 はじめは親の(かたき)を見るように私をにらみつけていたのだけど。

「まったく私は愚かでした。それまで自分がしてきたことも(かえり)みず、マリアンナ様が憎くて憎くて。

 遠巻きにする民たちのことも心底(さげす)み、本当にどうしようもない女でした。

 それにもかかわらず、マリアンナ様は毎日私に声を掛け、(はげ)ましてくださり、農奴の小さな子供たちでさえ、本来であれば石を投げられても仕方のない私を気遣い、やさしい言葉や時には野の花を摘んで手渡してくれて…ううっ」

 ハンカチどうぞ。

「よく()えてくださいました、カドレーヌ様。ええ、それはもう毎日毎日、疲労しては倒れるあなたを癒し、魔力切れになって倒れるあなたを回復させ、泣き言をいうあなたになお命令を与え、精神がダークサイドに落ちそうになれば浄化して、おかげで新たにこんな立派な村ができたのですよ」

 領民たちも、はじめのうちは高慢で派手好きだった貴婦人に厳しい目を向けていたけれど。

 誰もが目を見張る成果をあげているにもかかわらず、よれよれの格好で酷使され続けている姿に、同情せずにはいられなくなったようだ。

 別にそんな意図(いと)はなかったのだけど。

 監督中は、乗馬用の短鞭(たんべん)を手放さなかった私。

 手慰(てなぐさ)みに自分の手の平で、()をピシピシいわせていただけで、馬にすら振るったことはない。

 たいていの人たちはドラゴンと対面して以降、反抗心をなくしている。

 そんな彼らに仕事与え、生きるよろこびを教え込んでいるのだ。

 だいたい私もただ命令してばかりではない。

 肌身離さず魔石を抱えて、魔力を充填(じゅうてん)し続けている。

 ハノース城の一室に、二つ描いた汚れ除けの魔法陣。

 一つは城全体に効果がおよぶもの。

 もう一つは領地全体に効果がおよぶものだ。

 こうしておけば私がいない時でも汚物の侵入を防ぎ、また押し出すことができる。

 さらなる省エネを目指してはいるものの、まだまだ魔力を馬鹿食いするので、本当にもしもの時のための備えだ。

 一時しのぎであっても、それが命運を分けることが必ずある。

 これだけこの領のために心を砕いているのに、私を見てひそひそするのはおかしいと思う。

「ありがとうございます、マリアンナ様。こんなことを言うとご迷惑にしか感じられないでしょうが、私、マリアンナ様のことが実の妹のように(した)わしく感じられてしかたないのです」

「カドレーヌ様。まさか、そんなふうに思っていただけるなんて」

 それ、きっとストックホルム症候群です。

 ほかの奴隷(仮)たちにもちらほらその症状が出てきている。

 正直怖いので、あとは大公閣下にお任せすることにした。

 隷属の魔法陣も自然に薄れてちょうど消える時期だ。

「ご苦労だった、マリー。捨てるしかないと思っていたものの大半が再生された。真の改心かは今後の働きですぐにわかるだろう」

 様子を見て使える者は使っていくようだ。

 大公閣下の場合一族の誰を選んでも、結局のところ気に食わないのだから。

「ご領主様のお役に立てたならばなによりですわ」

 予想以上に帰省が長引いたので、そろそろ王都が恋しい今日この頃。



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