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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
30/80

30、ドラゴンスレイヤー


『あっつ! おう、尾っぽの付け根までピリッときたぞ』

 表情はかわらないけど、うれしそうに声(?)を弾ませるドラゴン。

『うむ、見事だ。約定通り、そなたに聖剣を授けよう』

 旦那様のお見立て通り、倒す必要はなかったようだ。

 後ろ足で立ち上がったドラゴンが前かがみになり。

『オエッ』

 聖剣…らしきものを吐き出した!

「マリー」

 え? 私ですか。

「攻撃を見事当てたのは旦那様ですから、旦那様が」

「いや、それはマリーの守りがあってこそのこと。そもそもそなたの意志と行動、誰もおよびもつかない力と働きがなければここまで来られなかった」

『ええい、どちらでもよい。さっさと装備せぬか!』

 短気でいいかげん。どっかの神様みたいな残念臭がぷんぷんする。

 旦那様。真面目(まじめ)くさって私を(たた)えながら目が笑ってますよ。

 まったく。こういうところが年上の男の魅力だろうか。

 十代の男の子だったら我先に取りに行っているに違いない。

 いえ、男だとか年上だとかは関係ないのかもしれない。

 いつまでも嫉妬(しっと)深く、自分こそがと人を()退()けずにいられない人もいる。

 そこへいくとこの方は十分に力を持っているし、そんな自分を理解している。

 そして私がなにか面白いものを引き寄せたり、思わぬ力を身につけていくことを楽しみにしているような。

 汚物に触りたくないというのも多いにあるだろうけど。

 私は聖剣とやらの表面に汚れ除けの魔法を掛け、それを広げる。

 ドラゴンという生き物はいったい何を食べているのか。

 見たくも嗅ぎたくもない内容物をなるべく意識の外において、剣の柄に手を掛けると、それはダガーほどの大きさに縮んだ。

『その者にいちばん相応しき形になるのが聖剣というものだ。(けが)れを払い魔を裂き、ドラゴンであるワシですら傷付けられる武器だ』

 そんなものをおいそれと人に渡してしまっていいのだろうか。

『これは神と人との約定を裁定者たる暗黒のドラゴンが遂行するものである。見事ワシを倒したそなたに、ドラゴンスレイヤーの称号と聖剣エクスカリディブスを授けよう』

 倒してない。しかも微妙な名前。

 でも、いくら声を大にしても聞いてくれなさそうだ。

『見るにそなたは争いを好まぬようだ。しかし、やられたならばやり返せ! ワシが言うまでもないことであろうがな。そのようなものは使わずにすむことを願っている。さらばだ』

 格好をつけて浮き上がり、光輝いたところ誠に申し訳ないのだけど。

「つかぬことをお(うかが)いしますが、聖女の谷に顕現(けんげん)された神様…小さき白い獣にお心当たりはありませんか?」

『んん?』

 せっかくの見せ場を邪魔されて腹を立てるかと思いきや。

 あまりこだわりはないらしい。

『ああ、子供たちが毎日なにやらじゃれているのが、そのようであったかもしれぬ』

 じゃれてるのか。しかも毎日。

「神様、ご無事でしょうか」

「大丈夫だろう。仮にも神であるのだから」

『どれ』

 意外に面倒見のよいところもあるのか、ドラゴンはいったん穴に降り、爪の先で白い毛玉をつまんで戻ってきた。

『これに相違ないか?』

 穴の方から、ギャウギャウと抗議するような鳴き声が聞こえてくるのだけど。

 地面に無造作に置かれたのは確かに白い小さなライオンで、しかし、いまはぼろぼろでぐったりしている。

 御神体に効くのか効かないのか定かではないけれど。

 治癒魔法を掛けると目を開き、よろよろと立ち上がった。二本足で。

「おう、やっと来たか。待ちわびたぞ。毎日毎日ドラゴンのちび共が離してくれぬでなぁ」

 ちび。きっと牛か象くらいのサイズなのだろう

「大人共もまったく人の話など聞かぬし」

 ぶつくさ言う神様に、ドラゴンが小首を傾げている。全然かわいくない。

 さきほど約定とか裁定者とか言っていたのはなんだったのだろうか。

 神を神とも人を人とも思っていないことだけはわかる。

『なに? 聖剣の挑戦者ではなかったのか!』

 やっと気付いてくれたと思ったのだけど。

『まあよい。ワシの仕事は適当な者に聖剣を授けること。あとはその者の意志に(ゆだ)ねよう』

 格好よさげに言っているけど、とってもいいかげんパート2。

「では、我は加護を」

「清き者をというお話でしたので、こちらのタニタ司教にお願いしたく存じます」

 それなりに長い道中、状況は説明してある。

 タニタ司教様は子ライオンの姿に疑いの眼差しを向けながらも、教会で祈る時と同じように(ひざまず)こうとされた。

「神よ…」

「男ではないか!」

「はい。男の方ですね」

 小さな二足歩行のライオンは甲高い声を上げ、ぷいっと横を向いた。

「我は男になど触らぬ! だいたい聖女とは清い乙女と相場が決まっておろう」

 そんなふうに言われては中腰の司教様の立場がない。

「お言葉ですが、聖人という言葉もございますれば。タニタ司教様は清く質素に日々を過ごし、神様のご威光をあまねく世間に広めようと尽力されている方です。そこには男も女もなく、神様のご加護をいただいてもまったく問題はないように思うのですが」

「正論、正論ではあるが。うぅ…」

 そんなに嫌ですか。

「早くお還りになりたいのですよね?」

 神様相手に我ながらずいぶん遠慮がなくなってきた。

 でも、仕方がないと思う。

 ここまで力業できたけれど、強行軍でけっこう大変だったのだ。

「よし、与える。与えるが、相手はそなたでよかろう」

「え?」

 これにはさすがに私も驚いた。

「私はすでにご加護をいただき、癒しの力を…」

「うむうむ。今度は浄化の力である故、問題ないぞ」

 ありありです。

「その男の寿命も伸ばすのであったな」

 それを言われると弱い。

 ニヤニヤしてるもこもこな顔と、ぽっこりおなかを力強く()みたい。

「…お願い致します」

「おう。では、手を取り合ってそこに(ひざまず)くがよかろう」

 あとは前回の焼き直し。

 タニタ司祭様にはあとで誠心誠意謝った。

 神自身が拒否されたのだから仕方ないだろうと笑っておられた。

 大公閣下がたくさん寄付をしていた。



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