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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
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3、身づくろい


 水道がない。エレベターなんて当然ない。

 重い水桶を抱えて階段を行き来することを考えると、水は大事に使わなければならない。

 (たらい)に少量水を移して、髪を洗う。たとえごわごわになるのだとしても石鹸がほしい。

 さっき窓から眺めたかぎり。

 建物の陰になって直接は見えなかったけど、水場の近くからもうもうと湯気が上がっていた。

 たぶん、そこに煮炊きできる施設があって、場合によっては洗濯物を煮洗いしているのじゃないかと思う。

 でもそれも、どうせ共同だろうから、うまく仲間に入れてもらわなければ。

 それにはまずこの身形(みなり)を何とかしないと。

 人間は見た目が九割。本にも書いてあった。

 予洗い以前に、(から)みに(から)んだ髪を梳かすのに苦労する。

 歯の欠けた(くし)はあるけれど。

 まずは指を使って根気よく(ほぐ)していかないと、取り返しのつかないことになるだろう。

 我慢、我慢よ里子。

 キーッ!となって、強引に(くし)を通そうとすれば、最後は切るしかなくなる。

 少しずつ、少しずつ。

 それだけで一時間くらいかかった。

 はぁ。

 (ほこり)をかぶった裁縫道具を思わず拝む。

 ナイフでは怖すぎるので、糸切鋏(いときりばさみ)で前髪を切る。

 いわゆるU字型の握りバサミ。

 ずいぶん大きいから布もこれで裁断するのかもしれない。

 雑巾もかくやという布切れを数度濯いで、体を拭いた。

 いちばん清潔そうな服は、いまの年齢から五年は前に作られたとおぼしき子供用の晴れ着。

 不幸中の幸いというか、私は成長が遅れがちだ。なんとか着られないこともない。

 鎧戸を半分しめて、窓ガラスを鏡替わりにする。

 歪んだ私は桃色の髪に、金色の目。色の白い美少女だ。たぶん。もう少しふっくらすれば。

 なんの冗談だという配色だけれど。

 フロイトやヘミングウェイを愛読してますという顔をして、ラノベも(たしな)んでいたからね、私。

 いまの私の母親の職業から推し測れば、ここは魔法が使える世界。

 紺屋(こうや)白袴(しろばかま)とはよく言ったもので、人にクリーンの魔法を掛けて日銭を稼いでいるのに、自宅はこれだから。

 もっとも、いまは男の家に転がり込んでいて、エサやりの為にしか帰ってこない。

 それもドアを半分も開けずにこなすから、ここ数年、互いに顔も見ていない。

 見てもいないのになぜわかるかって?

 香水の残り香がすごいもの。

 私の勝手な推測だけれど、平民なんてせいぜいが生活魔法が使えるくらい。

 魔力量もそう多くはないだろうから、あの性格では金にならないことはしないだろう。

 魔法やこちらの生活常識については、順次調べていこう。

 母親にかんしては、はっきり言って興味がない。

 それよりいまは身づくろいだ。

 比較的マシな布というとベッドカバーしかなかった。

 それだって薄汚れていて、でもいま必要なのは、早急に水を汲みに行ける格好。

 裏側を表にすれば、なんとかいけるか。

 (わら)の上に直接寝るのは、今夜、(なげ)くことにする。

 ざっとエプロンを縫う。

 ふふっ。習っていた時は面倒に思っていたけれど、芸は身を助く。

 ワンピだって、なんなら浴衣だって縫えるわよ?

 いまはフリルにまでは手がまわらないけど、肩紐やウエストにギャザーを入れて、不思議の国のアリスを目指してみた。

 生乾きの髪を三つ編みにして、端切れで作ったリボンを蝶結びにする。

 あとは笑顔の練習をして。

 なんとか、これでいけるかな?



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