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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
28/80

28、ピクニック


 私が起きだした時、旦那様は居間でお茶を飲んでいた。

 徹夜をしたらしくわずかに目が充血しているけれど、それ以外は元気そうだ。

 即断即決の大公閣下は、すでに彼らの処分を決めていた。

 それでもそれを私に語って聞かせたのは、めずらしく迷いがあるからだろう。

「ベンヤミンにかんしては、知らなかったではすまない立場だ」

「見抜けなかった。知っても止められなかった。この()(およ)んで責任が取れない。資質の問題ですわね」

「そうだ」

 侯爵家の出であるその妻は蝶々(ちょうちょう)然とふるまって、じつはその子供たちと同じ。

 つややかな果実を食い荒らす芋虫に等しい。

「ベンヤミンは後継から外し、妻は修道院、子供たちは教会にでも預けるか。ほかは領外に追放だな」

「そうですね。孤児院で暮らせば、あの子たちもすぐに健康を取り戻すでしょう」

 この城にいる身内のことよりも、信頼している家令の子、常に側に置いている執事の親。

 ベンヤミンの執事を務めていた男が加担していたことに、旦那様はいちばんまいっているようだ。

 その後方にいつもどおりに仕えている執事。

 父親が罪に問われているにもかかわらず、いっさい騒がず態度も変えず、大公閣下の執事としての地位は揺らがない。

 静かな立ち姿に、(すご)みを感じる。

 私は椅子から立ち上がって脇によけ、貴婦人の礼をとる。

「ハノース大公閣下。恐れながら、小麦を収穫したあとの麦藁(むぎわら)でさえただ捨てるのではなく、家畜に食べさせたり、編んで帽子にしたり、畑に敷いて野菜を守ったり、刻んでたい肥にまぜたり、荷物の緩衝材にしたり、いろいろな活用方法がございます。人もただ生かしておくだけではもったいのうございますから、ひと月でけっこうです。私にお預けくださいませんでしょうか」

 ここまである意味、貴族とその取り巻きらしく育った者たちを改心させられるとは思わない。

 誰のためでもなく自分のことでさえ、頭ではわかっていてもぶっ倒れて長期入院でもしないかぎり、食生活を改善したり運動したりしないものだ。

 駄目で元々。やるだけやったとポーズを取って見せることは、旦那様の心の慰めにもなるだろう。

「ひと月でよいのか?」

「はい」

 正直、それ以上無駄なことに時間を費やしたくない。

「よし、やってみるがいい」

 許可を得た私は、まず一人一人の背中にヘナで隷属の魔法陣を描いた。

 おかげでけっこうあったストックがほぼ空だ。

 とてつもなく面倒くさかったけれど、これさえ済ませてしまえばあとが楽。

 魔法陣自体は、国から認証を受けた奴隷商も使っているものだから違法ではない。

 その場合は入れ墨や魔道具で対応するらしいけど。

 使用許可を出せる人は私の隣にいる。

 一応、男女で部屋をわけて作業したのだけれど。

 (わめ)くは暴れるは大変だった。押さえつける騎士たちが。

「焼き印の方がよかったかしら」

 つぶやけば、多少はおとなしくなったけど。

 これで旦那様と私の命令には絶対服従。

 私たちに襲いかかることも、自死することもできない。

 それぞれの持ち物の中でいちばん質素な格好をさせて、ホールに集合させる。

「私たちをどうする気だ!」

「こんなことをして、私の実家が黙ってないわ!」

 私はそこまで鬼畜ではないから、文句を言うことくらいは許している。

 でも、うるさすぎる。

「お黙りなさい」

 ぴたりと文句が止まる。便利すぎて(くせ)になりそう。

「これから皆さんは馬車に乗って遠出をします。どうぞご安心なさって? 大公閣下も私もご一緒します。楽しい楽しいピクニックのはじまりです」

 ざわざわと不満かつ不安そうに私語をする彼ら。

「それでは、行き先を発表します! これから私たちが向かうのは聖女の谷、別名ドラゴンの巣です。みなさん楽しみですね!」

 途端に周囲は阿鼻叫喚。

 声こそ発しないものの護衛たちの顔も引きつっている。

 私にはまだぴんとこないのだけど、こちらの世界の人たちにとってはとても恐ろしいものらしい。

 ティラノサウルスとか現代にいたら、確かに怖いか。

 徹夜明けのハイテンション(ゆえ)か、大公閣下はゲラゲラ笑っている。珍しかわいい。

 私以外の人たちは感性が違うらしく、よけいに恐慌をきたしていた。

 確かに魔王っぽい外見ではある。記憶より若く見えることもそれを助長しているようだ。

 なんだかんだ準備に丸三日かかった。それでも十分早いらしい。

 その間に騎士たちに魔法陣の予備を山ほど持たせて、騎馬でタニタ司教様を迎えに行かせる。

「かなりの腕前でいらっしゃいます」

 隊長がほめていたけれど、下馬したばかりのタニタ司教様はげっそりされている。

 尻の皮がどうのとぼやくので治癒魔法を掛けてあげたら驚いていた。

 そうだ。その話をまずしなければ。

 大公閣下所有のもの以外は、見た目だけ豪華なふつうのものだけれど、荷馬車に乗せられるよりよほどマシだろう。

 ぎっちりシートに座れるだけ詰め込んで、それでも飼料や食料、護衛たちの隊列を含めれば、ちょっとした行軍だ。

 この大所帯でも、私の汚れ除けの魔法陣と新しく授かった治癒の力があれば、かなりのスピードで進める。

 貴婦人が気を失っても、子供たちがゲロを吐いても大丈夫!

 にっこり笑ってガンガン隊列を進ませる私に、騎士たちはあきらめたような微笑を浮かべている。

 なんだかんだで連日夜遅くまで書類仕事をしていた大公閣下は、いまは車内でスヤスヤおやすみ中だ。



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