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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
27/80

27、ハノース城


 ハノース城の敷地面積は、レンガ色の屋根が連なる城下町とほぼ同等に見える。

 周囲をまるっと囲う城壁といい、それと一体化した建物群といい、高校の卒業旅行で訪れたアランデル城を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 家が城という状態に、十分に慣れたとはまだ言いがたい。

 前世でも同じ町の中に、和洋折衷の新邸と純和風な旧邸があり、それぞれに立派な庭が二、三附属していて、無駄に豪奢で広いと思っていたけれど。

 こちらはまるで規模が違う。

 それがどれほどのものなのか。敷地内を警邏(けいら)する騎士や兵士が平時で百人からいると言えば、少しは伝わるだろうか。

 もちろんそこには非番の者は含まれていない。

 何度も増改築されたという建造物には、砦を思わせる無骨さと優美な芸術性が、長年連れ添った夫婦のように同居している。

 そこに至るまでの道も美しかった。

 延々と続く丘陵。

 高くまっすぐにのびる並木。

 城が遠望できる距離までくると、大公閣下の個人旗を騎士の一人が掲げる。

 私たちが馬車を降りた時には、車寄せから開け放たれた大扉の間を通って、玄関ホールの奥まで、ずらっと両脇に人が並んでいた。

 長男夫妻やその子供たちはまだわかるとして、いかにも貴族らしく、なおかつ品のない装いをした男女がまぎれ込んでいるのは、ろくでもない理由に違いない。

 あれこれ計算しながら微笑では隠せないおもねるような表情。視線でのやり取り。

 こちらに見えていないとでも思っているのだろうか。

 大公閣下は眉ひとつ動かさないけれど。

 こういった無駄な上に不出来な劇は私も嫌いだ。

 閣下と相談して、城に入る前に汚れ除けの効果範囲を(せば)めておいてよかった。

 外であれば弾き飛ばすだけですむけれど、壁に激突させて昇天させたらさすがに後味がわるい。

「久しいな」

「は、はい! 大公閣下におかれましては、ご機嫌(うるわ)しゅう」

 定型文なのはわかっているけれど、まったく麗しくない。

 大公閣下の仮面は完璧だ。

 薄くほほえんでも(にじみ)み出る迫力。むしろ無表情より恐い。

 礼を取り続けるほかの連中はまるっと無視して、執事を従え向かう先は執務室だろう。

「どうした、ベンヤミン。早く来い」

 衆目の中、雷を落とさないのは父としてのやさしさか。

 緊張という名の見えないロープを掛けられて、ドナドナされていく息子。

 父親の若返りには気付いていないようだ。普段から目を見て話せなかった口だろうか。

 すでに二十歳は過ぎているはずだ。どちらかといえば第一夫人に似てやわらかな雰囲気。

 その微笑みの向こうで自分至上主義的な孤高をたもっている母親とは違って、よく言えば優し気、はっきり言えば優柔不断。

 周囲の評はそんなところ。

 容貌にも声にもこす(ずる)さは感じられなかったから、妻の実家なり出入りの商人なりに、やりたい放題されているのかもしれない。

 私はその夫人と、表面上は無難なあいさつを交わし、早々に主賓室(しゅひんしつ)で休ませてもらった。

 大公閣下に叱られることと私を結び付けて記憶されたくないから。

 もう手遅れかもしれないけれど。

 良い木材をふんだんに使い、細かな彫刻を施した豪華なベッド。

 他の妻たちも使ったのだろうなぁ。

 でも、そんなことを気にするようではラブホになんて泊まれないのだ(強がり)



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