24、遭遇
そこには確かに泉があった。
傍らには掘っ立て小屋があり、小さな畑もあって、そこを白いライオンが耕していた。
私の話をはじめて聞く人は、きっと何を言っているのかわからないだろう。
でも、私は事実だけを述べよう。
ラノベに登場するような獣人はこの世界にはいない。
魔物同様、妖精は存在するらしいけど。
ここが誰かの…はっきり言おう…ライオンの私有地だと言うなら、我々が不法侵入をしている。
しかし、私の隣にいる夫は大公閣下で、ここは彼の領地だ。
二本足で立ち鍬を振りかぶった彼と…そう雄だ…無言で見つめ合う私たち。
彼はなんとも形容しがたい声を上げて、小屋の中に駆け込んでいった。
数分後、きちんと服を着込んで出てきた。
村人Aといったコーディネートだが、姿はライオンのままだ。
しかつめらしく咳払いをする。
「コホン…ようこそ、聖女の泉へ」
うちの旦那様も渋い良い声をしているけれど、彼もなかなか。
向こうがあいさつしたのに、応えることなく私語をするなんてマナー違反とわかっている。
でも、私は囁くように旦那様にたずねていた。
「こちらではライオン、いえ獅子は話しますの?」
「私もついぞ聞いたことがないな」
内心はどうであれ、冷静に答える姿が頼もしい。
「少し下がっていなさい」
「はい」
一歩前に出る主を守ろうと、護衛たちはさらに前に出る。
実際はこの中でいちばん強いのは大公閣下だ。その上、多くの魔法陣で守られている。
よほどのことがない限り、髪の毛ひとすじほどの傷もつかないのだけど、パフォーマンスも大事だ。
「私はこの一帯を治めているハノース公爵である。歓迎の意を示すということは、この地の管理を貴公が行っているということで相違ないか?」
堂々と名乗りを上げる旦那様にうっとりしていると、数歩離れた距離でライオンが不敵に笑う。
「いかにも治めているとも、この世界そのものを! 平伏せ人間ども。我こそは創造の雄神、ファルスなるぞ!」
どちらかというと魔王のような名乗りをあげているが、たしかに雄神は人か獅子の姿で顕現すると言われている。
私たちのグループはみんながみんな大公閣下を仰ぎ見る。
「どういたしましょう、閣下」
目の前のわけのわからない自称神より、よほど信じ日頃から従っているからだ。
閣下が頭を下げなければ、当然私たちも下げない。
「不信心者たちめ!」
ぷりぷりしているライオンの髭が青白い光を帯びる。
それがパリパリ音を立てているところをみると、本物だったのだろうかと不安がよぎる。
動物が二本足で立って、私たちと同じ言葉を話している時点でふつうではないのだけど、神というにはどうにも軽くて。
私を中心に半径十メートルのドーム状に、汚れ除けの魔法陣が発動している。
悪意を持った者がその外から近付こうとすると弾かれる。
では、すでに中にいた者が私たちに対して害意を抱き、攻撃しようとした場合はどうなるか。
「天ばっ、ぎゃふぅ~~~…」
効果範囲の外に飛ばされて行った。
そこへすかさず魔法で稲妻をぶち当てる旦那様。
サンダーアローと唱えるのが恥ずかしいのかどうかはわからないが無詠唱。
さすがは戦場の鷹だ。
「な、なんと罰当たりな…ガク」
全体的に煤けてはいるが死んではいないようなので、力あるものであることは確かなようだ。




