13、突然の訪問
本来であれば、とっくに教会に着いているはずなのだけど。
私たちが話してる間中、馬車は表通りをゆったり巡回していた。
話が途切れたあたりで、ちょうど教会が見えてくる。
執事が先に降りて、手を差し出す。
ちらっと動いた私の視線の先に気付いたらしい。
「御者がどうかしましたか?」
「時間の配分が見事だと感心しておりました」
「お褒めいただき光栄です。上から失礼いたします、レディ」
吹きすさぶ風のようにかすれた声。
ちょっと上げた帽子の下から現れたのは、小皺の目立ち始めた女の顔だ。
でもその笑い皺がさらに彼女の魅力を増している。
女性らしい体の凹凸は下着で矯正しているのか目立たない。
その上、動作が機敏で、戦っても強そうだ。
それはそうか。この少人数で行動しているのだから、腰の剣は飾りではないはず。
私は会釈を返して、いま一度振り返る。
「そんなにあれが気に入ったか?」
「はい。あのように成長したいものです」
答えつつ。
実際に隣に立たれても、これほど高貴なオーラを放つ人間が、このような場所で隣にいることが信じられない。
「本当にお寄りになるのですね、閣下」
「そのためにわざわざ馬車から降りたのだ。行かなくてどうする」
おかしそうに口元が歪む。
「まあ、そうなのですが。どうぞ、こちらです」
ここでは閣下が客なので、先に立って案内する。
「お姉ちゃ~ん!」
甘えん坊のどんぐり頭が転がるように寄ってくる。
あら、困った。
「お客様ですよ。みんなでタニタ司祭様を呼んできてくれるかな?」
「うん。いいよ!」
ちらちら私の背後を気にしながらも、素直な幼少組は手を取り合って駆けていく。
だいぶ年上であれば、状況を理解して、それなりにあいさつができるのだけど。ちょうど畑の手入れでもしているのか。
中途半端な年代の、しかも男子反抗期組が登場。
同年代だからかよけいに、私の言うことは聞こうとしない。
いまだガリ子であろうとも、この容姿ならば、手を合わせて上目遣いにお願~い!するのも一つの方法ではあるけれど。
掃除や食事の片付け程度のことで、そこまでするのもなんだかなぁ。
せっかくここでは、女の子たちと仲良くできているのに。
「なんだ、慰問のおじさんか」
「今日は違う人だね」
「お土産ないの?お土産…しけてんなぁ」
「これっ!」
悪ぶるのは勝手だけれど、ちゃんと相手は選んでほしい。
「気が利かなくてすまぬな。次には必ず持ってこよう。男と男の約束だ」
閣下の大人の対応力。しかも、男の子の好きなフレーズをちゃんと押さえていらっしゃる。
子供にまで貴族の権威を振りかざす方でなくて、本当に良かった。
ふつうは、首と胴が泣き分かれても文句も言えない不敬罪だから。
「約束だぞ!」
「絶対だぞ!」
「忘れたら承知しないからな!」
まったく、人の気も知らないで。
私は、駆け去っていく彼らの後ろ姿をにらむことしかできない。
でも、それでは駄目なのだ。
たとえぼろぼろのフォローでもしなくては。それができるのは、ここには私しかいなのだから。
この場合、謝るよりお礼を言う方がよろこばれる気がする。
「適切な対応をありがとうございます、閣下」
「ふふん。私だとて少年だったのだからな」
「悪ガキでいらっしゃいました」
「見てきたように言うな。お前はまだ生まれていなかったであろうが」
「祖父によく聞かせられまして」
「これだから敵わぬのだ、お前の一族には…」
子供たちに手を引かれ、しぶしぶ歩いてきていたタニタ司祭様だが。
窓越しにちらとこちらを認めると、子供たちを急かして小走りに駆けてくる。
あの無精な人が。めずらしいこともあるものだ。
まあ、この方のたたずまいを見ればね。
「お迎えもせず申し訳ございません、閣下」
「いや。先触れもなく急に来たのだ、気にするな」
おっと、顔見知りでしたか。
今度は私がタニタ司祭様ににらまれる番だ。
いや、どう考えてもこれ以上早く知らせようがなかったでしょう?




