つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
「『これを好きな人に渡すと恋が実ります』だって」「へえ~」「あ、ちょっと靴ひも結ぶから持っててくれない?」「わかった」
「ねえ、今日放課後買い物行かない?」
心葉がそう言ってきた。
「まあいいよ。でも僕と行くよりも……」
「健次と行きたいって言ってるんだからね。だからそういうことは考えないでね」
「はあ、なるほど。つまりは女子陣の人々に断られたわけだな」
「違うって。だから! ……一番、健次と行きたいの!」
「……そうなの?」
「そうなのよ」
「わかった。じゃあ行こうか」
「うん、放課後すぐだからねっ」
心葉は、笑った。笑うと幼くなって、中学生くらいになる。
でも中学生の時は、笑うと小学生みたいになっていたので、やっぱり大人びてきているんだよな。
今日の行き先は、最寄り駅の隣の駅前だった。
一駅だけ電車に乗ったりすることはなく、少し長めに歩いて行った。
そこで心葉は好きなだけマンガやらなんか変なTシャツやらいろんなものを買っていた。
まあ僕もマンガは買ったけど、変なTシャツはやめておいた。
心葉は、大体僕と買い物行く時は、女子力が低そうなものを買う。
まあ女子力が存在しない僕と行ってるんだからそうなるのかな。
さて、次はどこに行きますかね。
と、自由にうろうろする心葉を追っていたら、心葉が突然動くのをやめて、そして指さした。
「すごい」
「それはすごいのか……?」
怪しげな自販機があった。
売っているものは飲み物でもお菓子でもたこ焼きでもなくて、なんか占い? お守り? みたいなもの。色々種類がある。
「持っているだけで金運が高まるストラップってマジかよ」
「うーん。どうなんだろうね」
そう言いながら心葉は百円玉を数枚入れてボタンを押した……。
「え? ちょい待ち、何買ったの?」
「……これ」
静かに出てきた根付のようなものを心葉は見せる。
「それ、どんな効果があるの?」
「『これを好きな人に渡すと恋が実ります』だって」
「へえ〜」
そう言いながら僕は色々と考え始めた。
心葉って好きな人いるの……? 誰なんだろう?
「あ、ちょっと靴ひも結ぶから持っててくれない?」
「わかった」
僕は心葉からその根付みたいなお守り? を受け取った。
……?
なんか、今、すごいことを思いついてしまった。
心葉は僕に「持っててくれない?」と渡した。
そう、渡したのだ。
多分普通渡すっていうのは、一時的に持っててもらうっていうより、あげるっていうことだろう。
だけど、一応、これも渡すってことに入るかもしれない。
もしそうだとしたら……。
「よし、行こう」
心葉が歩き出した。
「あ、うん。あ、これ……」
僕はお守りを心葉に返そうとする。
だけど心葉は、
「あ、あ、あ、そ、それね! なんか衝動的に買っちゃったけど、なんかいざ買ったら冷めちゃったから、健次に、あ、あげよっかな!」
「え?」
ちょっと待って。それだと僕の計画が崩れる。
「いや、それは悪いし返すよ」
「いやいやいや、だ、だいじょうぶだからっ。重いしねほら」
「消しごむくらいの重さだけど」
「そ、それでもいいから」
「いや、でも……」
なんとか心葉に返そうとしていた僕は、立ち止まった。
心葉が立ち止まったからだ。
「健次…………鈍感すぎだね。あのね、今日ね、私はね、一番健次と買い物に行きたいって言ったよ。それでね、今、それ渡したいのもね…………」
心葉は僕の目を見たり見なかったりしながら、そこまで言った。
やばい……。心葉が、すごく、僕の好きな女の子だ。
それは結構前から。
もう、変わらずに。
けど、今、特別にはっきりと。
だから僕は、お守りを、心葉の手に包ませ、そしてそのまま手を握った。
「……え? どういうこと?」
戸惑って、そしてもう顔が赤すぎる心葉に、僕は言った。
「今、心葉から渡されたお守りを、僕がまた心葉に渡したから。だから……もしかしたら、二人とも、恋が実るかなって」
「あ……て、てことは。そ……そっか」
恥ずかしいな……。こんな怪しげなお守りで、なんか色々と起こってる。
だから、そんな恥ずかしさを振り払うには、もう一歩進むしかなかった。
「あの、僕、心葉のことすき」
「私、健次のこと好きだよ」
そう二人でいい合っている間も、手を繋いでいる心葉と僕は、無限にお守りを渡し合っていた。
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