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初心者マークの勇者  作者: 真ん中 ふう
9/10

旅の始まりは、苦難の始まり編(8)

9「それぞれの戦い」


ユーリは、ある使命感にかられていた。

電脳を生かした分析力と魔法を使えるのは、自分しかいない。

だからこそ、どこかに潜んでいるかも知れない、魔法士を探すのは、自分の仕事だ。

しかし、その方法が分からない。

「何か方法は…」

魔法を発動すると、対象物に微粒子が残る。

しかし、見えない魔法士の存在を探すのは難しい。

自分の存在を見せずに魔法を発動できる魔法士は、レベルが高いからだ。

ユーリはまだ、そのレベルに達していない。

そして、魔法の歴史は長い。

場所を特定する方法を探すにしても、たくさんの書物や情報を見ていかなければならなかった。

それでも、ユーリは手を休めることなく、キーボードを叩き、ヒントを探る。

すると、ある一文に目が止まった。

「熱源?」


良太は目を閉じて、深い闇の中にいた。

ふわふわと体が浮遊している感覚。

また、体にまとわりつくような湿気も感じる。

そして、生臭い匂い。

(目を開けたくない)

良太は本能的にそう感じた。

(オレはなんで、こんなとこにいるんだっけ?)

居心地の悪いこの場所に、なぜ自分は居るのだろうと良太は記憶を探る。

(そうだ…オレ、牛鬼の下敷きになって…死んだのかな?)

その疑問に答えるように、遠くでモルフの声がした。

<この世界では、寿命以外で命を落とすことはありませんじゃ。>

それは、モルフに初めて会った日に言われた言葉だった。

(そうだ、死なないんだ。オレの体は…どうなったんだろう?)

岩の様に重くて固い牛鬼の下敷きになった自分の姿を、想像したくない。


「あんた、バカよね。」

突然、良太の頭の中に直接、誰かの声が入ってきた。

感情のない、冷静な声。

そして、この状況を大したことではないように話しかけてくる人物。

「エマさん?」

「あんたに守れるわけないのに。」

エマの言葉はいつも直球だ。

「あの男に、エイルの体を傷つけさせたくなかったんです。」

「今は、あの男の(もの)よ。」

「そうだけど、エイルが目が覚めた時、体についた傷を見て、どう思うかなって…自分の知らない間に、何が起きていたのか分からないのって、怖いだろうなって…。」

「へぇ~。」

エマは退屈そうだ。

つまらない話に、適当に相槌をうっている様な反応。

「自分を守れない人間が、他人の心配してんじゃないわよ。」

エマの冷静なその言葉に、良太は何も言えなかった。

「あんたは、これからどうなるのかしらね。」

そんな事、良太にだって分からない。

「このまま、化け物と同化して、あの男に斬られて終わる?それともライフルの弾に蜂の巣にされて終わる?後は…。」

エマは最悪な未来を次々と口にした。

その言葉をそのまま想像するだけで、良太は気持ち悪さに吐きそうになる。

「どうして、そんなことばかり!。」

思わず良太は、叫んだ。

「だって、ここにいたら、そんな事しか思い浮かばないわ。」

「ここにいたら?」

良太はエマの言葉に、引っ掛かりを覚えた。

そういえば、自分はどこに居るんだろう?

どこか、現実味のない場所なんだと言うことしか感じられない。

「目を閉じて、現実から逃げてちゃ、何も見えないわ。」

「これは、現実なんですか?」

「自分で確かめたら?」

「待って!」

良太は、エマがそのまま消えていきそうな気がして、手を伸ばした。

「一つだけ教えてあげる。」

「え?」

「あんたの体、潰れてないわよ。」

「エマさん!」

良太は目を開けた。


そこには、エマの姿はなく、声すらも聞こえなくなった。

良太は暗闇に、手を伸ばしたまま、不安定な足場に立っていた。

伸ばした自分の手が見えた。

(手がある。)

良太は自分の体を触ってみた。

頭も首も足も大丈夫だ。

「ほんとに、潰れてない。」

自分の体が無事だと分かると、次の疑問が浮かんだ。

「ここはどこだ?」

相変わらず、気持ち悪い湿気と、臭いがする。

すると、良太が立っている空間が、一瞬動いた。

そのせいで、良太は空間の壁らしきところに、手をついた。

ベチャ。

「気持ち悪!」

生ぬるい温度の、ベトつく物に触ってしまい、良太は思わず、手を引っ込めた。

手に残る感触や臭いは、良太に「これは、現実なんだ」と突き付けてくる。


<現実から逃げてちゃ、何も見えないわ。>


エマの言葉が甦る。

(見ても、見なくても、現実は変わらない。)

良太はそう結論付けて、自分の手を見た。

はっきりとは見えないが、黒い、泥の様な物が、手に残っていた。

<このまま、化け物と同化して、あの男に斬られて終わる?>

またエマの言葉が頭をよぎった。

「化け物と…同化?…まさか!」

そう思いながら、良太は一つの仮説を立てた。

「オレは、牛鬼に潰されたんじゃなくて、牛鬼の中に、入ったのか?」

(そう言えば、牛鬼の体は溶け出していて、強度も下がってるって、ユーリさんが言ってたな。)

「まて!同化って。」

良太が何かに気付いた時、良太の足が暗闇の中にめり込むように、沈み始めた。

(取り込まれるのか?!)

そんな恐怖に良太は焦った。

(どうしたら!)

だが、体は足からどんどん、暗闇の中へと入り込んでいく。

良太は必死になって、体を動かした。

暗闇に溶け込み出した足以外は、まだ動く。

すると、腰の辺りで、ガチャガチャと金属音がした。

「拳銃!」

良太は急いで腰のホルダーから拳銃を抜いた。

拳銃を抜いた瞬間、腰周りが暗闇に溶け込み出した。

「くそっ!」

迫り来る暗闇に焦りながら、良太は両手を上にあげ、銃口を天井に向けた。

「オレは!まだ!やれる!」

良太は叫びながら、引き金を引いた。


時空間管理人は、目の前の黒い塊に、強い怒りを感じていた。

そして、戦いを楽しむ様に、牛鬼に対して剣を振るうライオンにも。

(こいつら、良太をなんだと思ってんだ!)

牛鬼は、良太を下敷きにした。

ライオンは、良太を助けなかった。

どちらも、許せない。

「構え!」

時空間管理人が、叫んだ。

すると、周りにいた、時空間管理人の仲間達が、一斉にライフルを構えた。

「おい!あのライオンみたいな男にも、当たるぞ。良いのか?」

仲間の一人が言う。

「構わねぇ!」

時空間管理人が怒りをぶつけて答える。

「一斉射!!!」

時空間管理人の叫びと共に、ライフルが次々と撃たれた。

その弾は、牛鬼だけにとどまらず、ライオンにも飛んできた。

カンカンカン!

しかし、弾は牛鬼の手前で、見えない壁に、阻まれる。

そして、ライオンは一斉に飛んできた弾を剣で止める。

「もう一度!一斉射!!!」

時空間管理人の怒りは止まらなかった。

無駄だと、分かっていても…。


空では、ユーリが潜んでいるはずの魔法士の姿を探していた。

ユーリが検索機能で見つけたのは、魔法士が魔法を発動させた時に出る、熱の事だった。

(異常な熱反応が、あれば!)

ユーリは画面を、熱探査機能に切り替えた。

そして、ゆっくりと回転しなから、360℃、監視する。

少しすると、下にある山の方から、ライフルを発射させる音が聞こえた。

「これは!」

画面上に赤い点滅が表示された。

そして、ライフルの音が聞こえる度、赤い点滅が表示される。

(魔法が発動している?)

ユーリは急いで、その赤い点滅の方向へ飛んで行った。


何度ライフルを発射させたか、分からない。

しかし、牛鬼は傷一つない。

そしてライオンは、怒り狂って叫んだ。

「邪魔すんじゃねー!!!」

「お前がとどめを刺せないなら、こちらが刺す!」

時空間管理人が答えた。

「刺せないだとー!」

時空間管理人の言葉は、ライオンのプライドに触れたようだ。

「さっきから、牛鬼に防御されてばかりだろうが!」

「はん!こんなもん、すぐに叩き斬ってやらぁ!」

ライオンが叫び、跳躍した。

すると、牛鬼の中から、ドン!!!と重い音がした。

それと同時に、牛鬼の頭上から、噴水のように泥が吹き出してきた。


ギュオーン!!!


牛鬼の雄叫び。


泥は当たり一面に雨の様に、降り注いだ。

そのせいで、時空間管理人達はライフルを撃てなくなった。

「ざまぁーねーな!」

その様子に、ライオンは笑いながら言葉を放った。

そして、ライオンは跳躍したまま、牛鬼を頭の上から一気に剣で切り裂いた。

魔法の壁は、なぜか現れなかった。

ライオンは、着地してまた、跳躍。

今度は横に剣を入れようとした時、ライオンが顔を歪めた。

「うるせーぞ!!黙れ!!クソガキ!!」

ライオンは意味不明な事を言いながら、それでも、剣を振るった。

「くそ!」

自分の思った通りのところに、剣が入らなかったのか、ライオンは悔しそうに呟いた。

しかし、牛鬼は縦と横にしっかりと切り裂かれ、地面に転がった。

そして、牛鬼の体は泥になり、形を失った。

牛鬼が存在していた場所は、沼地になってしまった。

辺りはすっかり、静かになった。


「終わったのか?」

時空間管理人の仲間が呟いた。

「いや!まだだ!」

そう言って、もう一人の時空間管理人がライフルを沼地に向けた。

そこには、モゾモゾと何かが小さく動いていた。

「まだ生きてる!」


パン!


仲間の一人がライフルを撃った。

しかし、その弾は逸れて、動く物体には、当たらなかった。

「くそ!」

焦った仲間がまたライフルを構えた。

「待て!」

時空間管理人は、そのライフルを手で押さえた。

「なんだよ!」

「あれは、手だ!手が見えてる!」

そう言った時空間管理人の指差す方には、モゾモゾと動く物体から、人間の手が微かに見えていた。

時空間管理人は、沼地の中を進み、その動く物体を見た。

「は!」

そこには、泥だらけになったブランケットに包まれる様に、良太が横たわっていた。

「お前!」

時空間管理人は、良太の上半身を自分の腕に乗せた。

「じ…くう…か…。」

良太が微かな意識を頼りに、言葉を紡ごうとする。

その様子に、時空間管理人は、安堵と、熱い何かが込み上げて来るのを感じた。


読んで頂き、ありがとうございました。

次回も是非、ご覧下さい。

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