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初心者マークの勇者  作者: 真ん中 ふう
7/10

旅の始まりは、苦難の始まり編(6)

7.「ライオン、あらわる!」


良太は走りながら、空を見た。

(もうすぐ、日が落ちる。)

太陽がだんだんと姿を消していく景色の中で、良太は焦っていた。

時々立ち止まり、エイルの名前を叫んでみる。

周りを見るが、姿もないし、返事もない。

後は、山の中を探すしかない。

畑と田んぼに囲まれたこの場所で、隠れたり、迷い込んだりするのは、良太がエイルと初めて会った、山しかない。

この村に来て、最初に夜を明かしたのも、この山だった。

良太は息を整えながら、山の入り口に立った。

そして、一旦深呼吸をする。

腰にある、ホルダーに手を触れてみる。

(これを使わずに、会えます様に。)

良太は心の中で、強く願った。

「よし!」


良太がエイルを探しに向かって、少しした頃、時空間管理人の事務所前には、他のエリアから、沢山の時空間管理人達が応援の為、集まり始めていた。

皆、背中にはライフルを背負っている。

物々しい雰囲気が漂っていた。

その中にユーリの姿も見えた。

しかし、ユーリは状況把握の役目を担っているため、ライフルは持っていない。

その代わり、時空間管理人と連絡を取るための、マイクの付いたヘッドセットをつけている。

「あんな、女の子まで、向かわれると言うのに…。」

そんな外の状況を、事務所の窓から見ていたモルフは、自分の使え無さに、ため息をついた。

モルフは、術が不安定な為、足手まといになると、事務所待機を命じられた。

しかし、それも仕方がない事と、分かっている。

何の力もない自分が行っても、邪魔なだけだ。

(どうか、良太殿、エイル殿、ご無事で。)



「エイルー!」

良太は山全体に響かせる思いで、精一杯叫んだ。

しかし、なかなかエイルからの返事はない。

「山に居るはずなんだけど…。」

すると、少し先に、布らしき物が、揺れているのが見えた。

「あれはっ!」

近付くと、それは、モルフが作ってくれたブランケットだった。

低い木に引っ掛かって、揺れていた。

良太はブランケットを手に取る。

そして、エイルがしていたように、ブランケットをマントのように、装着してみた。

(…近くに居るはずだ。)

周りをもう一度見渡してみる。

辺りは薄暗い。

大きな木は、山から空を奪うように、伸びている。

下を見ると、巨木の根っこが姿を現し、その周りには、きのこが生えていた。

良太は、きのこを摘んだ。

きのこ独特の香りがする。

「ここって…。」

そこは、良太とモルフがエイルに初めて、出会った場所だった。

「エイルー!ごめん!ちゃんと話!聞いてあげられなくてー!」

この辺りに、エイルが居る気がして、良太は叫んだ。

どこにいても、ちゃんと届くように。

「オレがちゃんと、エイルの事、知ってたら…オレが!エイルの疑いを晴らすから!エイルー!」

カサカサ。

葉っぱ同士が擦れあう音がした。

すると、葉っぱが生い茂っている場所から、エイルの金髪が見えた。

「エイル!」

良太は駆け寄って、エイルを抱き締めた。

「ごめん。エイル。悲しい思いさせて。ごめん。」

良太の気持ちがエイルに届いたのか、エイルは明るい声で答えた。

「良太~。ありがとう。」

いつもと変わらないエイルの声が、良太をほっとさせた。


気付くと、辺りは真っ暗になっていた。

火をおこしたいが、今回はリュックがないので、マッチも持っていなかった。

良太とエイルはなるべく月の灯りが入る場所を見つけ、座っていた。

「ちゃんとオレが、エイルを守るから、みんなのところに帰ろう?」

エイルは黙って下を見ている。

「じゃあ、オレにエイルの事を教えて?」

「え?」

エイルは良太を見た。

良太はにっこりと微笑む。

「エイルの家はどこにあるのか、分かる?」

良太が聞くと、エイルは首を振った。

「僕ね、いつも、気付くと違う場所にいるんだ。」

「どういう事?」

「最初に目が覚めた時は、知らない街にいて、少ししたら、また目が覚めて、…それを繰り返して、今度はこの山にいたの。」

(どういう事なんだろう?)

「街から、どうやって移動したのか、分からない?」

エイルは自分のひざに置いた手を、ぎゅっと握った。

気付いたら、知らない場所に居る経験は、良太もしている。

トラックにひかれて、目が覚めたらモルフの家の前にいた。

「もしかして、エイルはオレと同じ、輪廻転生待ちの人間なのかな?」

エイルは良太を見上げた。

「オレもさ、違う世界から、こっちの世界に来た時の記憶がないんだ。」

「良太も?」

エイルは、目を見開いた。

「うん。エイルの状況と全く同じじゃないけど、記憶がないってのは一緒かな。」

良太は優しく微笑む。

「すごく不安だったけど、モルフがいたから、寂しくなかったけどね。ちなみにモルフは、オレが繭に入っていたって教えてくれたんだ。」

「…僕は、いつも、怖かったよ。夜寝るときも、目が覚めたらまた、違うところに居るんじゃないかって。でもね、良太とモルフが一緒に居てくれるから、怖くなくなった。移動もしなくなったんだよ。」

確かに、そうだ。

いつもエイルは良太達と同じ場所にいる。

さっき、エイルが言っていたように、目を覚ます度に居なくなったりしていない。

「それに、起きた時、たまに怪我をしてる。痛くない位の、小さいやつだけど。」

「擦り傷みたいな?」

エイルは頷く。

(エイルの記憶がない時間に、エイルの身に何かが、おきてるのか…。)

「この山で目が覚めた時は、いっぱい泥がついてた。」

確かに、初めて会った時は、少し汚れていたが、それは、山が水分を含んで濡れていたからだろうと、その時は、大して気にしていなかった。

ぬかるんだ道を歩けば、誰でも汚れる。

「あっ!ほら、また。」

考え事をしていると、エイルが足元を指差した。

「あれ?」

良太は思わず立ち上がった。

「どうしたの?良太?」

エイルが問いかけてきたが、良太は目の前の事象から、目が離せなかった。

二人の足元はいつの間にか、水分を含み、ぬかるみだしていた。

良太は急いで、ホルダーから拳銃を取ろうとする。

しかし、焦りと緊張でなかなか上手くいかない。

すると、遠くの方から、何かを引きずる音と、地面を突き刺す音が聞こえてきた。

「エイル!走るんだ!」

拳銃が上手く抜けなくて、焦った良太は、エイルの手を握って、走り出した。

しかし、地面がぬかるんでいて、走りにくい。

それでも、時々、転びそうになるエイルを引っ張りながら、走る。

(これは、夢か?)

走っている内に、良太は夢と現実が分からなくなってきた。

今の自分の状況は、今朝の夢と似すぎている。

嫌な音から、逃げる自分。

しかも、夢の中でも、足はぬかるみに取られて、上手く走れなかった。

後ろから、風が吹く。

(やばい。近くに来てる。)

良太はそう感じた。

聞こえてくる音も、近づいている。

良太は思いきって振り返った。

「!」

もう肉眼で捉えられる程の距離に、牛鬼が迫っていた。

「うわぁー!!!」

良太は牛鬼を見た瞬間、自分を見失ってしまった。

すると、「あっ!」と声がして、手を繋いでいたエイルが転んでしまった。

「はっ!」

そのエイルの声と、姿を確認したとたん、良太は自分を取り戻した。

(そうだ。これは、夢じゃない。現実なんだ。)

夢との違い。

それは、エイルが居ると言う事。

(オレが、オレが!)

「うわあー!良太!あれなに!」

転んだせいで、エイルは迫り来る、牛鬼を見てしまった。

「エイル!先に走れ!」

良太はそう叫ぶと、拳銃のホルダーに手を掛けた。

エイルは言われた通りに、立ち上がり、走り出した。

牛鬼は、あっという間に、良太との距離を詰めた。

良太は一呼吸して、拳銃をホルダーから、出した。

(大丈夫。落ち着け。)

自分に言い聞かせた。

そして、牛鬼の爪が良太に振り下ろされた。


パン!

パン!

パン!


乾いた音が、山全体に響き渡った。


「なんだ!今の音は!」

良太が放った拳銃の音は、時空間管理人達が集まっている、事務所近くまで聞こえていた。

「あいつか!」

時空間管理人は、音の正体を良太だとすぐ理解した。

「ユーリさん!お願いします!」

「はい!」

時空間管理人は、すぐさまユーリに声を掛けた。

ユーリは返事をすると、目を閉じ、頭の中で、パソコンのキーボードをイメージする。

すると、ユーリの腰の位置に、キラキラと白い光で作られた、キーボードが現れた。

ユーリはすぐさま、そのキーボードに指を走らせる。

キーボードの上にはキーボードに見合った大きさの、白い光で作られた画面が現れた。

その画面はガラスのように透明だが、ユーリが指先を動かすと、色んな文字が表示される。

そして、その画面上にコンドルの羽が浮かび上がる。

ユーリがキーボードをタン!と強く叩いた。

すると、画面上にあった、コンドルの羽は、白い光で作られ、ユーリの背中に装着された。

「行きます!」

ユーリはそう言うと、羽を羽ばたかせ、空高く舞い上がって行った。

飛び立ったユーリを見届けて、時空間管理人も、仲間に声を掛ける。

「銃声は三発。牛鬼が現れた可能性が高い!」

その言葉に仲間達が頷く。

「そして、牛鬼は、目の前の山の中だ!」

全員の中に緊張感が走る。

「我々も行くぞー!」

時空間管理人の声を合図に、全員が声を上げ、良太とエイル、そして牛鬼の居る山へと向かっていった。


時空間管理人達が出発するのを見届けたモルフは、落ち着かず、事務所内をウロウロと動き回っていた。

「先程の銃声は良太殿に何かあった証拠。」

モルフは良太とエイルが心配で仕方がなかった。

事務所には、お札が貼られ安全だが、良太とエイルは牛鬼との最前線にいるかも知れない。

そう考えると、落ち着いてなんて、いられない。

「モルフ、落ち着きなさい。」

「?」

突然名前を呼ばれ、モルフは振り返る。

この事務所には、モルフ以外誰もいないはず…だった。


「キラウェル様!」


モルフは驚きのあまり、大声を上げた。

目の前に、天使、キラウェルが立っていたからだ。

しかし、何か様子が変だ。

目の前のキラウェルは、操作パネルの上にいる。

重量感は感じず、どこか薄い色。

そして、何より、普段は身長190cmを越える、大柄なキラウェルが20cm程の大きさでモルフを見ている。

それは、3D映像の様な状態だった。

「今、私の意識だけをお前の元に、飛ばしている。」

キラウェルは、自分の意識を3D映像に反映させて、モルフのいる事務所に存在していた。

実際のキラウェルは、いつもの神殿の中にある。

「キラウェル様、大変な事になりましたじゃ。まさか、このエリアで魔物に出会うなど…。」

モルフは事情を話そうとしたが、キラウェルが全てを見ているのを知っているモルフは、言葉を止めた。

「そうだな。しかし、エマ様は、見守る事が仕事。何が起きても、手出しは出来ない。」

「分かっておりますじゃ。何があっても、我々が切り開いて行かなくてはならない。」

「そうだ。それがこの第3セクターの存在意義。」

キラウェルの言葉に、モルフは頷く。

「しかし、私は相変わらず、何もできませんじゃ。旅は始まったばかりと、分かっておりますが、改めて自分の不甲斐なさを感じますじゃ。」

モルフは肩を落とした。

「モルフ、お前は回復魔法を使えたな。それを、偶然の産物として、終わらせて良いのか?」

「しかし、発動のさせ方が分かりませんじゃ。」

モルフはキラウェルに訴えるように言った。

「モルフ、目の前の事に、惑わされてはいけない。もっと自分を見つめてみよ。」

キラウェルが言い聞かせる様に言う。

「しかし…。」

「モルフ、今は緊急事態だ。平常時とは違う。しかし、振りかかる事柄に振り回されていては、自分を知ることは出来ない。お前はもう、一人ではない。

自分以外の事に、気が行ってしまうのは仕方がない事だ。それが、一人ではないと言う事なのだから。」

確かに、このエリアに来てから、事は一気に起きた。

モルフも良太も、目の前の事に一つ一つ、向かっていくしかなかった。


「私は、良太殿やエイル殿の力になりたいのです。」

「その為に、まずは、自分を見つめることだ。モルフ、お前は賢者だ。賢者に必要な物はなんだ?」

「たくさんの知識と、術の習得ですじゃ。」

それは、モルフがオリジナルの賢者と生活していた頃から、ずっと聞かされ続けた言葉だ。

だがモルフは、まだ半分も習得出来ていない。

「では、それらをどうやって手に入れる?」

「日々の鍛練ですじゃ。」

それも、オリジナルの賢者に言われ続けた言葉。

「モルフ、訳も分からず、闇雲に鍛練した所で、知識も術も習得出来ない。もし、出来たとしても、それは、偶然の産物。安定感のない物は意味がない。」

「はい…。」

「安定感のある、自分の術にするためには、どうすれば良い?」

「分かりませんじゃ。」

「モルフ、考えろ。そして、思い出すんだ。回復魔法を使った時の、自分の変化を。その時の思いや、考え、体の感覚、いつもと違った事を全部思い出せ。その時の周りの景色、周りの者の言動も全て。」

そして、キラウェルは、力強く言った。

「モルフ、お前はこの世界に、賢者に適していると認められ、賢者の修行を始めた。それは、どんなに失敗しようと、どんなに出来なくても、変わらない事実だ。この世界の判断に、自信を持て。」


「…賢者とは…常に自分と向き合う者、そして、勇者を導くもの…。」


モルフは昔、オリジナルの賢者に言われた言葉を呟く。

「そうだ。心を落ち着かせ、自分と向き合う。そうすれば、分からなかった事が見えてくる。」

モルフは目を閉じた。

そして、自分の思考の中へと入っていく。

その様子を見たキラウェルが、最後に言った。

「時は止まらない。どんな時もどんな状況でも、心を静かに、勇者を導く者になれ。」

そして、キラウェルの姿は、消えていった。

静かな事務所にモルフは一人になった。

キラウェルの最後の言葉がモルフの耳に届いたかは、定かではない。

なぜなら、モルフは静かに、己との対話に入ったのだから…。


モルフは、心静かに、過去を振り返る。

最近の自分の変化を。

最初に浮かんだのは、良太と山の中で話をしたこと。

香ばしい香りのきのこを、食べながら、モルフは良太が強いと感じた事を話すと、

<オレが強いんじゃなくて、一人じゃないから、安心できてるんだよ>

と、言った。

そして、移動の術を上手く使えないモルフに、良太はこう言った。

<オレ達は、まだまだ、未熟だよ。だから、この旅で成長していくんだろ?>

その時に、感じた体の変化。

(あの時は、なぜだか、体が暖かくなるのを感じた…。)

そして、僅だが、力が湧いてくる感覚も。

(暖かさを感じたことなら、あの時も…。)

モルフは記憶の糸を辿っていく。

それは、良太が牛鬼に襲われた後、良太に何かしてあげられる事はないかと、考えていた時。

良太は、旅に出る前、モルフが良太の服やリュックを作ったことに対して、ありがとうと言ってくれた。

その出来事を思い出し、モルフは良太がゆっくり休めるようにと、ブランケットを作る事を決めた。

(ブランケットを作ろうと決めた時、あの時は、手のひらが温かくなるのを感じた…。)

そして、そのブランケットは良太の体の傷を消してくれた。

(なぜ?ブランケットにその様な力が…。)

モルフはブランケットを作った時、呪文を唱えたりしていない。

なのに、回復魔法が発動していた。

(何もしていないのに、回復魔法が発動したのは、あの時も…。)

それは、三人でモルフの作ったミルク粥を食べていた時だ。

(あの時は突然、良太殿のお腹が光だして、回復魔法が発動した。…私は何もしていないのに…)

その時モルフの頭の中で、キラウェルの言葉が再生された。


<いつもと違った事を全部思い出せ。周りの者の言動も全て。>


(いつもと違った事…。良太殿が傷付き、私は心配だった。元気になって欲しいと願った。…いつもは店主殿が作ってくれた食事を食べるのに、あの日は私がミルク粥を作った。…そう言えば、エイルが不思議な事を言っていた。)


<ねぇ、モルフ~、そのキラキラしたの、なに?>


(ミルク粥を作っている時に、私の手元をエイルは見ていた。手元…手のひらが温かくなる感覚…)


モルフは目を開けた。

そして、自分の両方の手のひらを見た。

「私の手のひらが温まると、回復魔法が発動している。」

モルフはようやく、一つの答えを導いた。


「良太ー!」

突然の拳銃の音に、エイルは走るのを止めて、振り返った。

数メートル先で、良太が木にぶつかって、倒れていた。

そのすぐ側には、恐ろしい姿の牛鬼が、よだれを垂らしながら、こっちを見ていた。

「ひぃっ!」

エイルは牛鬼を見て、後ずさる。

倒れた良太は一瞬痛みに顔を歪ませた。

しかしすぐ、あることに気付いた。

(あれ?痛みが消えた。)

良太はすくっと立ち上がった。

そんな良太に気付いた牛鬼がまた、鋭い爪で良太を殴り飛ばす。

「うわー!」

殴り飛ばされた良太は、地面に叩きつけられた。

「痛っ!」

体が痺れたように傷んだ。

しかしまた、すぐに痛みは消えた。

「あれ?」

そして、体中に温かさが広がる。

「?」

(もしかして…。)

良太は身に覚えのある感覚に、ある結論を出した。

「ブランケットだ!」

良太はエイルを探していた時に、木に引っ掛かっていたブランケットをマントの様に体に身につけていた。

それは、モルフが傷付いた良太のために作ってくれた物だ。

そして、このブランケットを被った事で、良太の体の傷はなくなった。

モルフの回復魔法が作用したブランケット。

良太はブランケットの力を確信して、改めて体にブランケットを巻き直した。

「エイル!木に登れ!」

エイルに突進するように進む牛鬼を見て、良太が叫ぶ。

その声に、我に返ったエイルが、近くの木に登り始めた。

しかし、エイルは動揺して、手が滑って、なかなかうまく登れないでいた。

「くそっ。」

良太は手に持っていた拳銃を構えた。

さっき、撃った時は、牛鬼にうまく当たらず、自分が殴り飛ばされてしまった。

今度は、銃身が、ぶれないように、しっかりと両手で構えた。


パン!。


弾は牛鬼に当たる前に、何かに当たって弾かれた。

まるで、牛鬼との間に壁があるようだ。

「当たらない?!」


パン!


もう一度発砲。

しかし、またもや手前で弾かれる。

パン!

パン!

良太は続けて撃った。

しかし、全て弾かれてしまう。

「エイルー!」

良太は叫んだ。

もう、間に合わない。

牛鬼がエイルに鋭い爪を振り下ろした。


シュン!


風を切る音がした。


ドサッ!


何か重い物が、地面に落ちた。


「ギュオーン!!!」


甲高く、耳が痛くなるような牛鬼の咆哮。

一つの大きな牛鬼の爪が地面に転がっている。


「やっと、会えたな。」

聞いたとこのない、男の声。

「その汚ねぇ手で、俺にさわんじゃねぇー!」

そんな声と共に、牛鬼より高く男が跳んだ。

「うおりゃー!!!」

力強い雄叫びと共に、男の姿が見えた。

「誰だ?!」

良太が驚きの声を上げると同時に、ガシーン!!と固いもの同士がぶつかり合う音がした。

その音に弾かれるように、男の体が牛鬼の上で回転し、地面に着地した。

良太の目の前に、その男の姿が露になる。


薄い月明かりに照らされて、肩まで伸びた金髪が、風に揺れている。

男の目は大きく開かれ、ギラギラとした、闘志を(みなぎ)らせていた。

そして、今にも吠えそうな表情で、良太を見下ろしている。

その姿はまるで、百獣の王。


「…ライオン?…。」


思わず良太が呟いた。

良太よりも背が高く、服の上からでも分かるぐらいの筋肉質な体。

手には、重厚な剣を握っていた。

「ちょっと脚を切り落とされたぐらいで、ギャアギャアうるせえーなー!」

男の後ろでは、先程、脚を一つ切り落とされた牛鬼の咆哮が聴こえている。

男はゆっくりと、振り返りながら言った。

「さぁ、今日はとことん、殺り合おーやー!!!」

静かな山の中に、ライオンの様な雄叫びと、金属同士がぶつかり合う音が、響き始めた…。


読んで頂き、ありがとうございました。

次回も是非、ご覧下さい。


また雰囲気の違う作品「妖怪探偵 サイコロ(がん)」も投稿しております。

こちらも、是非、ご覧下さい。

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