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初心者マークの勇者  作者: 真ん中 ふう
6/10

旅の始まりは、苦難の始まり編(5)

6.「容疑者の名は、エイル」


第3セクターの守護神、エマは、柔らかいソファーにゆったりと座り、宙に浮いた大型の画面を見ていた。

画面の中には、良太、モルフ、エイルが映し出されていた。

「まったく、落ち着きのない三人ですな。」

エマの座るソファーは、大きな階段を登った場所にある。

その階段の一番下、左端に立っていた、大柄な男、キラウェルが、ため息を付きながら、エマに言った。

画面は、三人がモルフの移動の術で、空へと吸い込まれて行ったところで、停止していた。

画面が静かになると、エマの両サイドに座っていた、狛犬の阿形(あぎょう)吽形(うんぎょう)がエマの膝に頭を乗せた。

普段は恐ろしい形相をしている二頭だが、エマにだけは甘えた顔をする。

そんな阿形と吽形の頭を、エマは優しく撫でる。

「しかし、モルフが回復魔法を使えたのは、驚きです。今まで、一度も成功しなかったのに。」

キラウェルが言う。

「あの魔法が、本物かどうか。」

エマが呟く。

「と、言われますと?」

「賢者ならば、自分が発した魔法や術をコントロール出来なくてはいけない。そうでなければ…。」

エマは阿形と吽形を撫る手を止めた。

そして、感情を感じさせないトーンで言った。

「身を滅ぼすわ。」

キラウェルは、エマの方を向いた。

「モルフに出来るでしょうか?100年近く、賢者としての修行が全く実らなかったモルフに。」

エマは白くて綺麗な足を、優雅に組み替えた。

「本人次第ね。」

そして、手の甲に右頬を乗せ、肘掛けにもたれた。

「もう、いいわ。次に行って頂戴。」

エマがそう言うと、キラウェルは、停止していた画面を再生させた。

しかし、そこには良太達ではなく、新たなエリアの別の勇者パーティーらしき人物達が写っていた。

守護神、エマは、第3セクターのあらゆる場所の、あらゆる者達を常に見守るのが仕事なのだ。


静かな部屋に、色んな音の、電子音が響く。

その音は、大きな操作パネルから発せられていた。

そんな操作パネルを操るのは、丸めのメガネにブルーのポンチョを着て、頭には三角帽子を被った女の子。

「どうだい?何か分かったかい?ユーリさん。」

女の子の後ろから声を掛けたのは、時空間管理人。

ユーリと呼ばれた女の子は、操作パネルから手を離し、時空間管理人の方へ体を向けて言った。

「はい。解析できましたわ。」

女の子は、鈴を鳴らした様な声で答えた。

彼女は、朝方、村で牛鬼の調査をしていた時空間管理人の前に現れた、女の子だ。

「牛鬼が残したぬかるみから、何が分かったんだ?」

時空間管理人は、操作パネルと連動している、画面に近づいた。

ユーリは、操作パネルに向き直り、パネルにたくさん設置された四角いボタンを、押していく。

それはまるでピアノを奏でているような手つきだった。

すると、目の前の透明なガラスの様な画面に、牛鬼の映像と沢山の矢印、文字が現れた。

「今回採取した、ぬかるみから、牛鬼の細胞を見つけました。そして、大昔に封印された牛鬼の情報と比較した結果、今回現れた牛鬼と同じだと、確認できましたわ。」

画面を見ながら、時空間管理人は頷いた。

「じゃあ、やっぱり、封印が解かれ、牛鬼が復活したんだな。」

「そうです。あと、牛鬼の痕跡が途中で消えている件なんですけど…。」

ユーリが続きを話そうとした時、部屋の外から、叫び声と、バサッと何かが落ちる音がした。

「何だ!」

苛ついた時空間管理人が小さな窓から、外を覗いた。

「助かった!エイル、大丈夫か?」

「大丈夫!あ!場所が変わってる!」

エイルは良太に抱き抱えられていた腕をすり抜け、立ち上がり、周りを見た。

足元には沢山の干し草があった。

運が良いことに、良太とエイルは山積みになった干し草の上に落ちていた。

そこは、このエリアの入り口。

見覚えのある、自動改札もある。

時空間管理人が、普段仕事をしている、事務所が横にあった。

「何やってんだ!お前!」

時空間管理人が怒りながら、ドアを開けて、良太達の前に来た。

すると、上からもう一人の声が降ってきた。

「なんですと~!」

ドカッ。

声の主は、モルフ。

「いや~助かりました。」

モルフは空から落ちてきた時、何か柔らかいものの上に落ちたようだった。

干し草ではない。

「お.まえー!そこをどけ!」

モルフが下を見ると、時空間管理人が下敷きになっていた。

「ありぁ!これは、失礼しましたじゃ!」

モルフは急いで時空間管理人の上から降りた。

「目的地はどこだったの?今回も空から落ちて来たよね。」

良太が白い目でモルフを見る。

モルフはゆっくりと目線を外す。

「い、いや~。そんなに一度には、上達はしませんなぁ~。」

そう言ってモルフは、鳴らない口笛を吹いた。

「まったく。行き当たりばったりなんだから。」

良太は呆れながら言った。

「モルフ!すごいね!お店からここまで一気に来ちゃったね!あの山を超えて!」

二人の気まずい空気とは裏腹に、エイルは大喜びだ。

エイルが見つめる先には、三人が出会った山があった。

「あの~。何かあったんですか?…あら?あなた達は?」

外の騒ぎを心配して、ユーリが窓から顔を出した。


時空間管理人は、三人を事務所の中に入れた。

「ここって、こんな風になってたんだ。」

良太は、事務所の中を見渡した。

そこは5~6畳程のへやだが、ところ狭しと床から、天井までの高さに設置された本棚に、いろんな本やファイルなどが収まっていた。

そして、奥に操作パネルが設置され、壁一面、ガラスの様に透明な画面があり、そこに、パネルからの情報が映し出されている。

「お仕事中でしたかな?」

モルフが言うと、時空間管理人が不機嫌そうに「そうだ!」と答えた。

「あなた達は?勇者パーティー?」

そう聞きながら、ユーリは操作パネルの前の椅子に座った。

ユーリは椅子をクルっと回し、良太達に向かい合う。

「パーティーじゃないよ。それに、オレは勇者じゃないし。」

良太は自信なさげに答えた。

「そいつはまだ、何の力もない。ただの人間だ。」

改めて、そう断言されると、自分の情けなさを痛感してしまって、良太は下を向くしかなかった。

「ねぇ、モルフ。」

モルフのローブの裾を引っ張りながら、エイルが不安そうな顔をしている。

「あなたは?」

そんなエイルに、ユーリは優しく笑顔で話し掛けた。

「エ、エイル…。」

モルフの後ろに隠れながら、小さな声で答えた。

「エイルね。素敵な名前だわ。その姿も英雄みたいよ。」

ユーリはブランケットを肩から掛け、剣を背負ったエイルに微笑む。

そんな、ユーリを見て、エイルは安心したのか、笑顔を見せた。

「私は賢者ですじゃ。良太殿と旅をしております。」

今度はモルフが自己紹介をする。

「賢者?では、やはり、あなたは勇者候補ね。」

ユーリはモルフの自己紹介を受けて、良太に尋ねた。

「候補?…うん、そっちの方が、正しいかも。まだ成れるような気もしないし…。」

「そんなことはどうでもいい。」

話をイライラしながら聞いていた時空間管理人が言った。

「お前、体はもう良いのか?」

「はい。大丈夫です。」

「今から村に戻ると、あの山の途中で夜になっちまう。賢者のじいさんの術も宛になりそうにない。だから、お前達は、今日、ここに泊まることになる。だが、オレは今から牛鬼の話をする。お前は耐えられないなら、外で待ってろ。夕方までには話を終わらせる。」

時空間管理人は、良太が牛鬼に怯えていることを気に掛けてくれた。

しかし、その目は鋭く、「使えない奴は、邪魔だ。」と、言わんばかりの気迫を感じさせた。

良太は少し戸惑ったが、体が治っていることや、モルフの回復魔法のお陰で、気力、体力が持ち直している状態であることから、「大丈夫です。」と答えた。

そして、続けて言った。

「オレは使い物にはならないけど、情報は、知っておく必要があると思います。」と。


「それでは、さっきの話の続きをしたいのですが…。」

ユーリはエイルに目を向けた。

「あなたには、少し難しいお話になるわね。」

そう言うと、ユーリは操作パネルを操り始めた。

画面には、ライオンの絵が描かれた絵本が映し出された。

その画面にユーリが棚から本を取るような仕草をした。

すると、その仕草に合うようにユーリの手に、絵本が渡った。

絵本には、ライオンの絵が。

「え?何?今の?」

良太が驚きの声を上げる。

「ユーリ殿は、魔法士なのですかな?」

モルフが問う。

ユーリは絵本をエイルに渡した。

「うわぁ~ライオンだぁ~。」

エイルは早速、座り込んで、絵本を見始めた。

「そうなんです。でも、私は電子系の物を通さないと、魔法が使えないんですけどね。」 

「それで、充分だ。古代魔法より、ユーリさんの使う、電脳系魔法の方が、役に立つ。特に今回の様な、分析が必要な事態の時はな、」

朝からユーリの側で、仕事をしてきた、時空間管理人の言葉には、説得力があった。

「そう言って頂けると、嬉しいです。さて、話の続きをしましょう。」

ユーリはパネルに向かった。

画面には、牛鬼の映像。

ユーリは、画面の映像の角度を変えながら、説明を始めた。

「牛鬼が痕跡を突然絶ったのは、外部から別の力が作用した可能性があります。」

「外部からの力?」

時空間管理人は、目を細めた。

「はい。これを見てください。」

画面には、牛鬼の体に微かに光る物が表示された。

「これは、魔法の微粒子です。」

「魔法が使われたのか?」

「はい。魔法士が使う魔法には、粒子が発生します。魔法を掛けた対象物には、必ず、粒子がつくのです。」

「じゃあ、牛鬼が途中で痕跡を消したのは、魔法で移動させたって事か?」

時空間管理人がユーリに問う。

「はい。間違いありません。」

「だとしたら、そいつが魔法を使って、牛鬼をいろんな場所に移動させてたら、夜にどこから出てくるか予測出来ないな。」

時空間管理人が険しい顔をする。

「それに、昼間、隠れている場所も、特定出来ないですね。」

良太が呟く。

「それだけでは、ありません。」

ユーリは良太達に向き直った。

「この牛鬼には、微かな粒子しか残っていません。粒子を殆ど残すことなく、魔法が使えるなんて、相当レベルの高い魔法士の仕業…と、言うことになります。」

パタン。

大人達が、重苦しい空気の中、エイルは退屈になったのか、絵本を閉じた。

「良太~。お外に出てもいい?。」

「え?あ~、そうだね。ごめん。ちょっと気分転換しようか。」

良太がそう言うと、モルフが「私がついていきますじゃ。」と言って、エイルを外に連れ出してくれた。

三人だけになった事務所で、ユーリは説明を続けた。

「それと、もう一つ、分かった事があります。」

また、画面が切り替わる。

「封印される前の牛鬼と、今回現れた牛鬼。二つを比べると、ほら。」

画面上で二つの牛鬼の姿が重ねられた。

「大きさが変わってる…。」

「そうです。今回現れた牛鬼の方が、かなり、小さいです。」

「あれで…か」

時空間管理人は、襲ってきた牛鬼を思い出していた。

かなり、大きな岩のようだった。

「昔に比べ、小さくなった原因は、封印による、劣化です。」

「どういう事?」

良太は首をかしげる。

「封印されていたとはいえ、細胞は永遠ではありません。何百年も経てば、牛鬼の体も劣化します。それを証拠に、今回採取した、ぬかるみから、牛鬼の細胞が混じっていました。牛鬼の体は、溶け出しているんです。」

「じゃあ、ほっとけば、溶けてなくなるのか?」

時空間管理人が、期待を込めて聞く。

「そうなるかも知れません。でも、何年掛かるか…。」

「昔の大きさが今の大きさになるまでに何百年も掛かっているし、まだ、かなり、巨大ですもんね。」

良太の言葉に、時空間管理人も、納得せざるを得なかった。

二人は実際に牛鬼を間近で見ている。

「どうすれば、良いんだ。」

時空間管理人は、自分に問うように呟いた。

牛鬼を何とかしなくては、村の住民は、毎夜怯えた夜を過ごさなければならない。

それに、修行に向かう、人間達を受け入れられない。

そうなると、この第3セクターの全てのバランスが取れなくなってしまう。

ユーリは、何か方法はないかと、操作パネルに手を伸ばした。

時空間管理人と、ユーリを見ながら、良太の心は、うずうずとしていた。

(こんな時に、オレは何も出来ないのか?)

歯がゆい思いだけが、先行する。

(オレが、実力のある勇者なら、みんなをこんなに困らせないのに。)

力のない、今の自分に腹が立つ。

(何か出来ることは…。)

良太の心に、小さな闘志と言う火が、燃え始めていた。

「もしかしたら…。」

突然、ユーリが何かを思い付いた様に、呟いた。

良太も時空間管理人も、その呟きに集中した。

ユーリの指は、休まず操作パネルを叩く。

そして、最後に、タン!と力強く、ボタンを叩いた。

「何か分かったのか?」

時空間管理人が、ユーリの側に立った。

「牛鬼の体は、岩の様に固く、牛鬼から出る体液は、ぬかるみを作り出すと言われています。

でも、細胞がこれだけ、劣化していると言うことは、体の強度も落ちているのではないかと。その可能性を計算したところ、確率は80%。」

「強度が落ちているんだな。」

「はい。」

「確率はだいぶ高い。…そう言えば、あの時、牛鬼に向けて、何発か発砲したが、目に当たって、もがいてたな。」

良太と時空間管理人が、牛鬼の爪に殴り飛ばされた後、時空間管理人の撃った弾が牛鬼の目を仕留めていた。

「ほんとですか?!その情報が確かなら、牛鬼の体は強度が落ちていますわ。」

ユーリが目を輝かせた。

「昔の牛鬼は、目でさえ、傷つける事が出来なかったんですから。」

三人の中で、希望の光が見えた。

「大人数で一気に拳銃で撃ったら、倒せるか。」

「牛鬼は、体液でぬかるみを作ります。近すぎると、ぬかるみに足を取られて危険かも知れません。」

「じゃあ、距離が取れるライフルで行くか。」

時空間管理人の中で、作戦は決まったようだ。

「よし、各エリアから応援を呼ぶ。」

「待ってください。」

良太は時空間管理人を呼び止めた。

「なんだ。」

時空間管理人は、イライラしながら答えた。

「オレも、参加させて下さい。」

「お前じゃ無理だ。ライフルは、慣れた奴じゃなきゃ、撃った本人が吹っ飛ぶ。」

そう言われると、拳銃など持った事もない良太には、ライフルの扱いなど、想像できなかった。

しかし、何もしないでいるのは、悔しい。

「せめて、準備だけでも、手伝わせて下さい。」

「だから、お前じゃ無理なんだよ!ちょっと教えて扱えるもんじゃねぇ!」

「でも!」

何か手伝いたいと言う良太の気持ちは止まらなかった。

そんな良太の思いに、時空間管理人は、ため息をついて、言った。

「…お前に出来るなら、一つだけ、頼みたい事がある。」

時空間管理人は、少し戸惑いを見せながら、良太を見た。

「オレに出来ることなら、言ってください!」

「あのガキを見張っててほしい。」

「あのガキ?」

「エイルだよ。」

時空間管理人は、怖いくらいのトーンで言った。

「なんで…エイルを見張るんです?」

「正直、俺はあのガキを不審だと思ってる。」

それは、良太が想像もしていなかった言葉だった。

「あいつは、このゲートを通っていない。」

「え?」

「俺達が常に見張っている、この入り口のゲートを通ってないんだよ。ゲートを通ると必ず、通行手形の情報がこっちに入る。でも、あの子供の情報は入ってなかった。しかも、このエリアの入り口はここしかない。このゲートを通らずに、どうやって入ってきたんだ?おかしいだろ。」

時空間管理人は、朝方に事務所に戻った時、牛鬼の事を調べたついでに、気になっていた、エイルの情報も調べようとしていた。

しかし、なぜか、エイルの情報は、どこにも残っていなかった。

「さっき、ユーリさんが言っただろ。魔法士は、物体を移動させられるって。もしかしたら、エイルは、魔法士によってこのエリアに入って来たのかも知れない。」

「エイルが、魔法士の関係者だと?」

「その可能性もあると思ってる。」

良太はその言葉に絶句した。

あの、どこから見ても子供にしか見えないエイルを、魔法士の仲間だと疑うなんて…。

「俺だって、魔法士の話が出るまでは、そこまで考えてなかったさ。でも、ユーリさんの言う魔法士の力が作用してるなら、エイルがこのエリアにゲートを通らずに入れたことに説明がつく。それに…」

時空間管理人は、続けた。

「お前達があの子に会ったのは、どこだ?」

「山の…中です。」

「どう考えてもおかしいだろ。夜の山に子供が一人でいるなんて。山にいなきゃいけない理由があったんじゃないのか?しかも、あんなでっかい剣を下げて。お前は、あの子が山にいた事情や、剣を持っている理由を知ってるのか?」

良太は言い返せなかった。

今まで、いろんな事が有りすぎて、落ち着いてエイルの身の上話を聞いてやる時間や余裕は、なかった。

良太はエイルの事を何も知らなかった事を、思い知った。

「あんな不審な子と、お前達はよく一緒に居られるな。」

時空間管理人のその一言に、良太は怒りを覚えた。

良太は強い眼差しで、時空間管理人を睨む。

「一緒に居ないから、分からないんですよ!いつも一緒にいるオレ達は、エイルが素直な子だって知ってる。エイルがよく食べる子だって知ってる。笑顔が可愛いい子だって知ってる。村の人達から、可愛がられてる事も知ってる。…エイルがオレの代わりにバイトしてくれてた事も…エイルは優しい子だって知ってる!そんなエイルが、怪しいなんて、思わない!」

良太は、そんな理由が通らないと分かってても、言わずにはいられなかった。

良太にとって、エイルはもう仲間なのだから…。

「そこまで言うなら、エイルの体に魔法の粒子が残っていないか、調べてもらおうじゃないか。」

時空間管理人の残酷な一言。

ガタン。

ドアの近くで、物音がした。

すると、モルフの声が聞こえてきた。

「エイル殿!待ちなさい!」

良太は嫌な予感がして、急いでドアを開けた。

そこにはモルフが後ろを向いて立っていた。

「エイルは?」

「良太殿、エイル殿はさっきの話を聞いてしまったですじゃ。」

良太の予感は当たっていた。

「どっちに行った?」

たぶん、このまま、まっすぐですじゃ。」

良太はすぐにモルフの指差した方向へ走り出した。

「待て!」

すると、時空間管理人が良太を呼び止めた。

良太は時空間管理人を睨んだ。

「エイルは傷ついたんだ!疑われた事に!」

「もうすぐ夕方だ!外は危ない!」

「何を言ってるんですか!エイルを一人にする方が危ない!」

良太はなかなか引かない。

時空間管理人は、自分の腰に巻いてあったベルトを外して、あるものと一緒に良太に投げた。

良太は反射的に、投げられた物を受け取った。

良太の手の中には、しっかりとした重量感を感じる、塊が収まっていた。

「これは、拳銃?」

受け取ったのは、拳銃と、ホルダー。

良太は意図が分からず、時空間管理人の方を見た。

「いいか、ぬかるみがあったら、近くに牛鬼がいる可能性が高い。その時は、拳銃を空に向けて撃て!すぐに向かう!」

時空間管理人は、拳銃を撃つことで、良太の居場所を探すつもりだ。

良太は頷くと、急いでホルダーを腰に巻いて、銃をしまい、走り出した。

時空間管理人は、良太の懸命に走る姿を見て、ため息をついた。

良太と村人。

比べる事は、出来ないが、どちらの命も、見捨てる事は、出来なかった。

そして、良太の言葉が、胸を刺した。

<一緒に居ないから、分からないんですよ!>

<エイルは傷ついたんだ!疑われた事に!>

(そんな事は、分かってる…。)

それでも、時空間管理人は、村を守る事が仕事。

この村の安全の為には、全てを疑って見なければ、分からない事もある。

少しでも疑わしい事柄は、追及しなければ、安全を脅かされてしまう。

良太が、エイルを守りたい様に、時空間管理人もまた、村を守りたいのだ。

「時空間管理人さん。」

後ろから、鈴の音が鳴った。

「私も、サポートしますわ。」

そう言ってにっこりと微笑むのは、ユーリ。

時空間管理人は、気持ちを切り替える。

「頼みます。」


良太も、時空間管理人も、それぞれの守りたいものの為に、走り出した。


読んで頂き、ありがとうございました。

是非、次回もご覧下さい。


また、雰囲気の違う作品で「妖怪探偵 サイコロ(がん)」と言う作品も投稿しております。

こちらも、是非、ご覧下さいませ。

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