旅の始まりは、苦難の始まり編(5)
6.「容疑者の名は、エイル」
第3セクターの守護神、エマは、柔らかいソファーにゆったりと座り、宙に浮いた大型の画面を見ていた。
画面の中には、良太、モルフ、エイルが映し出されていた。
「まったく、落ち着きのない三人ですな。」
エマの座るソファーは、大きな階段を登った場所にある。
その階段の一番下、左端に立っていた、大柄な男、キラウェルが、ため息を付きながら、エマに言った。
画面は、三人がモルフの移動の術で、空へと吸い込まれて行ったところで、停止していた。
画面が静かになると、エマの両サイドに座っていた、狛犬の阿形と吽形がエマの膝に頭を乗せた。
普段は恐ろしい形相をしている二頭だが、エマにだけは甘えた顔をする。
そんな阿形と吽形の頭を、エマは優しく撫でる。
「しかし、モルフが回復魔法を使えたのは、驚きです。今まで、一度も成功しなかったのに。」
キラウェルが言う。
「あの魔法が、本物かどうか。」
エマが呟く。
「と、言われますと?」
「賢者ならば、自分が発した魔法や術をコントロール出来なくてはいけない。そうでなければ…。」
エマは阿形と吽形を撫る手を止めた。
そして、感情を感じさせないトーンで言った。
「身を滅ぼすわ。」
キラウェルは、エマの方を向いた。
「モルフに出来るでしょうか?100年近く、賢者としての修行が全く実らなかったモルフに。」
エマは白くて綺麗な足を、優雅に組み替えた。
「本人次第ね。」
そして、手の甲に右頬を乗せ、肘掛けにもたれた。
「もう、いいわ。次に行って頂戴。」
エマがそう言うと、キラウェルは、停止していた画面を再生させた。
しかし、そこには良太達ではなく、新たなエリアの別の勇者パーティーらしき人物達が写っていた。
守護神、エマは、第3セクターのあらゆる場所の、あらゆる者達を常に見守るのが仕事なのだ。
静かな部屋に、色んな音の、電子音が響く。
その音は、大きな操作パネルから発せられていた。
そんな操作パネルを操るのは、丸めのメガネにブルーのポンチョを着て、頭には三角帽子を被った女の子。
「どうだい?何か分かったかい?ユーリさん。」
女の子の後ろから声を掛けたのは、時空間管理人。
ユーリと呼ばれた女の子は、操作パネルから手を離し、時空間管理人の方へ体を向けて言った。
「はい。解析できましたわ。」
女の子は、鈴を鳴らした様な声で答えた。
彼女は、朝方、村で牛鬼の調査をしていた時空間管理人の前に現れた、女の子だ。
「牛鬼が残したぬかるみから、何が分かったんだ?」
時空間管理人は、操作パネルと連動している、画面に近づいた。
ユーリは、操作パネルに向き直り、パネルにたくさん設置された四角いボタンを、押していく。
それはまるでピアノを奏でているような手つきだった。
すると、目の前の透明なガラスの様な画面に、牛鬼の映像と沢山の矢印、文字が現れた。
「今回採取した、ぬかるみから、牛鬼の細胞を見つけました。そして、大昔に封印された牛鬼の情報と比較した結果、今回現れた牛鬼と同じだと、確認できましたわ。」
画面を見ながら、時空間管理人は頷いた。
「じゃあ、やっぱり、封印が解かれ、牛鬼が復活したんだな。」
「そうです。あと、牛鬼の痕跡が途中で消えている件なんですけど…。」
ユーリが続きを話そうとした時、部屋の外から、叫び声と、バサッと何かが落ちる音がした。
「何だ!」
苛ついた時空間管理人が小さな窓から、外を覗いた。
「助かった!エイル、大丈夫か?」
「大丈夫!あ!場所が変わってる!」
エイルは良太に抱き抱えられていた腕をすり抜け、立ち上がり、周りを見た。
足元には沢山の干し草があった。
運が良いことに、良太とエイルは山積みになった干し草の上に落ちていた。
そこは、このエリアの入り口。
見覚えのある、自動改札もある。
時空間管理人が、普段仕事をしている、事務所が横にあった。
「何やってんだ!お前!」
時空間管理人が怒りながら、ドアを開けて、良太達の前に来た。
すると、上からもう一人の声が降ってきた。
「なんですと~!」
ドカッ。
声の主は、モルフ。
「いや~助かりました。」
モルフは空から落ちてきた時、何か柔らかいものの上に落ちたようだった。
干し草ではない。
「お.まえー!そこをどけ!」
モルフが下を見ると、時空間管理人が下敷きになっていた。
「ありぁ!これは、失礼しましたじゃ!」
モルフは急いで時空間管理人の上から降りた。
「目的地はどこだったの?今回も空から落ちて来たよね。」
良太が白い目でモルフを見る。
モルフはゆっくりと目線を外す。
「い、いや~。そんなに一度には、上達はしませんなぁ~。」
そう言ってモルフは、鳴らない口笛を吹いた。
「まったく。行き当たりばったりなんだから。」
良太は呆れながら言った。
「モルフ!すごいね!お店からここまで一気に来ちゃったね!あの山を超えて!」
二人の気まずい空気とは裏腹に、エイルは大喜びだ。
エイルが見つめる先には、三人が出会った山があった。
「あの~。何かあったんですか?…あら?あなた達は?」
外の騒ぎを心配して、ユーリが窓から顔を出した。
時空間管理人は、三人を事務所の中に入れた。
「ここって、こんな風になってたんだ。」
良太は、事務所の中を見渡した。
そこは5~6畳程のへやだが、ところ狭しと床から、天井までの高さに設置された本棚に、いろんな本やファイルなどが収まっていた。
そして、奥に操作パネルが設置され、壁一面、ガラスの様に透明な画面があり、そこに、パネルからの情報が映し出されている。
「お仕事中でしたかな?」
モルフが言うと、時空間管理人が不機嫌そうに「そうだ!」と答えた。
「あなた達は?勇者パーティー?」
そう聞きながら、ユーリは操作パネルの前の椅子に座った。
ユーリは椅子をクルっと回し、良太達に向かい合う。
「パーティーじゃないよ。それに、オレは勇者じゃないし。」
良太は自信なさげに答えた。
「そいつはまだ、何の力もない。ただの人間だ。」
改めて、そう断言されると、自分の情けなさを痛感してしまって、良太は下を向くしかなかった。
「ねぇ、モルフ。」
モルフのローブの裾を引っ張りながら、エイルが不安そうな顔をしている。
「あなたは?」
そんなエイルに、ユーリは優しく笑顔で話し掛けた。
「エ、エイル…。」
モルフの後ろに隠れながら、小さな声で答えた。
「エイルね。素敵な名前だわ。その姿も英雄みたいよ。」
ユーリはブランケットを肩から掛け、剣を背負ったエイルに微笑む。
そんな、ユーリを見て、エイルは安心したのか、笑顔を見せた。
「私は賢者ですじゃ。良太殿と旅をしております。」
今度はモルフが自己紹介をする。
「賢者?では、やはり、あなたは勇者候補ね。」
ユーリはモルフの自己紹介を受けて、良太に尋ねた。
「候補?…うん、そっちの方が、正しいかも。まだ成れるような気もしないし…。」
「そんなことはどうでもいい。」
話をイライラしながら聞いていた時空間管理人が言った。
「お前、体はもう良いのか?」
「はい。大丈夫です。」
「今から村に戻ると、あの山の途中で夜になっちまう。賢者のじいさんの術も宛になりそうにない。だから、お前達は、今日、ここに泊まることになる。だが、オレは今から牛鬼の話をする。お前は耐えられないなら、外で待ってろ。夕方までには話を終わらせる。」
時空間管理人は、良太が牛鬼に怯えていることを気に掛けてくれた。
しかし、その目は鋭く、「使えない奴は、邪魔だ。」と、言わんばかりの気迫を感じさせた。
良太は少し戸惑ったが、体が治っていることや、モルフの回復魔法のお陰で、気力、体力が持ち直している状態であることから、「大丈夫です。」と答えた。
そして、続けて言った。
「オレは使い物にはならないけど、情報は、知っておく必要があると思います。」と。
「それでは、さっきの話の続きをしたいのですが…。」
ユーリはエイルに目を向けた。
「あなたには、少し難しいお話になるわね。」
そう言うと、ユーリは操作パネルを操り始めた。
画面には、ライオンの絵が描かれた絵本が映し出された。
その画面にユーリが棚から本を取るような仕草をした。
すると、その仕草に合うようにユーリの手に、絵本が渡った。
絵本には、ライオンの絵が。
「え?何?今の?」
良太が驚きの声を上げる。
「ユーリ殿は、魔法士なのですかな?」
モルフが問う。
ユーリは絵本をエイルに渡した。
「うわぁ~ライオンだぁ~。」
エイルは早速、座り込んで、絵本を見始めた。
「そうなんです。でも、私は電子系の物を通さないと、魔法が使えないんですけどね。」
「それで、充分だ。古代魔法より、ユーリさんの使う、電脳系魔法の方が、役に立つ。特に今回の様な、分析が必要な事態の時はな、」
朝からユーリの側で、仕事をしてきた、時空間管理人の言葉には、説得力があった。
「そう言って頂けると、嬉しいです。さて、話の続きをしましょう。」
ユーリはパネルに向かった。
画面には、牛鬼の映像。
ユーリは、画面の映像の角度を変えながら、説明を始めた。
「牛鬼が痕跡を突然絶ったのは、外部から別の力が作用した可能性があります。」
「外部からの力?」
時空間管理人は、目を細めた。
「はい。これを見てください。」
画面には、牛鬼の体に微かに光る物が表示された。
「これは、魔法の微粒子です。」
「魔法が使われたのか?」
「はい。魔法士が使う魔法には、粒子が発生します。魔法を掛けた対象物には、必ず、粒子がつくのです。」
「じゃあ、牛鬼が途中で痕跡を消したのは、魔法で移動させたって事か?」
時空間管理人がユーリに問う。
「はい。間違いありません。」
「だとしたら、そいつが魔法を使って、牛鬼をいろんな場所に移動させてたら、夜にどこから出てくるか予測出来ないな。」
時空間管理人が険しい顔をする。
「それに、昼間、隠れている場所も、特定出来ないですね。」
良太が呟く。
「それだけでは、ありません。」
ユーリは良太達に向き直った。
「この牛鬼には、微かな粒子しか残っていません。粒子を殆ど残すことなく、魔法が使えるなんて、相当レベルの高い魔法士の仕業…と、言うことになります。」
パタン。
大人達が、重苦しい空気の中、エイルは退屈になったのか、絵本を閉じた。
「良太~。お外に出てもいい?。」
「え?あ~、そうだね。ごめん。ちょっと気分転換しようか。」
良太がそう言うと、モルフが「私がついていきますじゃ。」と言って、エイルを外に連れ出してくれた。
三人だけになった事務所で、ユーリは説明を続けた。
「それと、もう一つ、分かった事があります。」
また、画面が切り替わる。
「封印される前の牛鬼と、今回現れた牛鬼。二つを比べると、ほら。」
画面上で二つの牛鬼の姿が重ねられた。
「大きさが変わってる…。」
「そうです。今回現れた牛鬼の方が、かなり、小さいです。」
「あれで…か」
時空間管理人は、襲ってきた牛鬼を思い出していた。
かなり、大きな岩のようだった。
「昔に比べ、小さくなった原因は、封印による、劣化です。」
「どういう事?」
良太は首をかしげる。
「封印されていたとはいえ、細胞は永遠ではありません。何百年も経てば、牛鬼の体も劣化します。それを証拠に、今回採取した、ぬかるみから、牛鬼の細胞が混じっていました。牛鬼の体は、溶け出しているんです。」
「じゃあ、ほっとけば、溶けてなくなるのか?」
時空間管理人が、期待を込めて聞く。
「そうなるかも知れません。でも、何年掛かるか…。」
「昔の大きさが今の大きさになるまでに何百年も掛かっているし、まだ、かなり、巨大ですもんね。」
良太の言葉に、時空間管理人も、納得せざるを得なかった。
二人は実際に牛鬼を間近で見ている。
「どうすれば、良いんだ。」
時空間管理人は、自分に問うように呟いた。
牛鬼を何とかしなくては、村の住民は、毎夜怯えた夜を過ごさなければならない。
それに、修行に向かう、人間達を受け入れられない。
そうなると、この第3セクターの全てのバランスが取れなくなってしまう。
ユーリは、何か方法はないかと、操作パネルに手を伸ばした。
時空間管理人と、ユーリを見ながら、良太の心は、うずうずとしていた。
(こんな時に、オレは何も出来ないのか?)
歯がゆい思いだけが、先行する。
(オレが、実力のある勇者なら、みんなをこんなに困らせないのに。)
力のない、今の自分に腹が立つ。
(何か出来ることは…。)
良太の心に、小さな闘志と言う火が、燃え始めていた。
「もしかしたら…。」
突然、ユーリが何かを思い付いた様に、呟いた。
良太も時空間管理人も、その呟きに集中した。
ユーリの指は、休まず操作パネルを叩く。
そして、最後に、タン!と力強く、ボタンを叩いた。
「何か分かったのか?」
時空間管理人が、ユーリの側に立った。
「牛鬼の体は、岩の様に固く、牛鬼から出る体液は、ぬかるみを作り出すと言われています。
でも、細胞がこれだけ、劣化していると言うことは、体の強度も落ちているのではないかと。その可能性を計算したところ、確率は80%。」
「強度が落ちているんだな。」
「はい。」
「確率はだいぶ高い。…そう言えば、あの時、牛鬼に向けて、何発か発砲したが、目に当たって、もがいてたな。」
良太と時空間管理人が、牛鬼の爪に殴り飛ばされた後、時空間管理人の撃った弾が牛鬼の目を仕留めていた。
「ほんとですか?!その情報が確かなら、牛鬼の体は強度が落ちていますわ。」
ユーリが目を輝かせた。
「昔の牛鬼は、目でさえ、傷つける事が出来なかったんですから。」
三人の中で、希望の光が見えた。
「大人数で一気に拳銃で撃ったら、倒せるか。」
「牛鬼は、体液でぬかるみを作ります。近すぎると、ぬかるみに足を取られて危険かも知れません。」
「じゃあ、距離が取れるライフルで行くか。」
時空間管理人の中で、作戦は決まったようだ。
「よし、各エリアから応援を呼ぶ。」
「待ってください。」
良太は時空間管理人を呼び止めた。
「なんだ。」
時空間管理人は、イライラしながら答えた。
「オレも、参加させて下さい。」
「お前じゃ無理だ。ライフルは、慣れた奴じゃなきゃ、撃った本人が吹っ飛ぶ。」
そう言われると、拳銃など持った事もない良太には、ライフルの扱いなど、想像できなかった。
しかし、何もしないでいるのは、悔しい。
「せめて、準備だけでも、手伝わせて下さい。」
「だから、お前じゃ無理なんだよ!ちょっと教えて扱えるもんじゃねぇ!」
「でも!」
何か手伝いたいと言う良太の気持ちは止まらなかった。
そんな良太の思いに、時空間管理人は、ため息をついて、言った。
「…お前に出来るなら、一つだけ、頼みたい事がある。」
時空間管理人は、少し戸惑いを見せながら、良太を見た。
「オレに出来ることなら、言ってください!」
「あのガキを見張っててほしい。」
「あのガキ?」
「エイルだよ。」
時空間管理人は、怖いくらいのトーンで言った。
「なんで…エイルを見張るんです?」
「正直、俺はあのガキを不審だと思ってる。」
それは、良太が想像もしていなかった言葉だった。
「あいつは、このゲートを通っていない。」
「え?」
「俺達が常に見張っている、この入り口のゲートを通ってないんだよ。ゲートを通ると必ず、通行手形の情報がこっちに入る。でも、あの子供の情報は入ってなかった。しかも、このエリアの入り口はここしかない。このゲートを通らずに、どうやって入ってきたんだ?おかしいだろ。」
時空間管理人は、朝方に事務所に戻った時、牛鬼の事を調べたついでに、気になっていた、エイルの情報も調べようとしていた。
しかし、なぜか、エイルの情報は、どこにも残っていなかった。
「さっき、ユーリさんが言っただろ。魔法士は、物体を移動させられるって。もしかしたら、エイルは、魔法士によってこのエリアに入って来たのかも知れない。」
「エイルが、魔法士の関係者だと?」
「その可能性もあると思ってる。」
良太はその言葉に絶句した。
あの、どこから見ても子供にしか見えないエイルを、魔法士の仲間だと疑うなんて…。
「俺だって、魔法士の話が出るまでは、そこまで考えてなかったさ。でも、ユーリさんの言う魔法士の力が作用してるなら、エイルがこのエリアにゲートを通らずに入れたことに説明がつく。それに…」
時空間管理人は、続けた。
「お前達があの子に会ったのは、どこだ?」
「山の…中です。」
「どう考えてもおかしいだろ。夜の山に子供が一人でいるなんて。山にいなきゃいけない理由があったんじゃないのか?しかも、あんなでっかい剣を下げて。お前は、あの子が山にいた事情や、剣を持っている理由を知ってるのか?」
良太は言い返せなかった。
今まで、いろんな事が有りすぎて、落ち着いてエイルの身の上話を聞いてやる時間や余裕は、なかった。
良太はエイルの事を何も知らなかった事を、思い知った。
「あんな不審な子と、お前達はよく一緒に居られるな。」
時空間管理人のその一言に、良太は怒りを覚えた。
良太は強い眼差しで、時空間管理人を睨む。
「一緒に居ないから、分からないんですよ!いつも一緒にいるオレ達は、エイルが素直な子だって知ってる。エイルがよく食べる子だって知ってる。笑顔が可愛いい子だって知ってる。村の人達から、可愛がられてる事も知ってる。…エイルがオレの代わりにバイトしてくれてた事も…エイルは優しい子だって知ってる!そんなエイルが、怪しいなんて、思わない!」
良太は、そんな理由が通らないと分かってても、言わずにはいられなかった。
良太にとって、エイルはもう仲間なのだから…。
「そこまで言うなら、エイルの体に魔法の粒子が残っていないか、調べてもらおうじゃないか。」
時空間管理人の残酷な一言。
ガタン。
ドアの近くで、物音がした。
すると、モルフの声が聞こえてきた。
「エイル殿!待ちなさい!」
良太は嫌な予感がして、急いでドアを開けた。
そこにはモルフが後ろを向いて立っていた。
「エイルは?」
「良太殿、エイル殿はさっきの話を聞いてしまったですじゃ。」
良太の予感は当たっていた。
「どっちに行った?」
たぶん、このまま、まっすぐですじゃ。」
良太はすぐにモルフの指差した方向へ走り出した。
「待て!」
すると、時空間管理人が良太を呼び止めた。
良太は時空間管理人を睨んだ。
「エイルは傷ついたんだ!疑われた事に!」
「もうすぐ夕方だ!外は危ない!」
「何を言ってるんですか!エイルを一人にする方が危ない!」
良太はなかなか引かない。
時空間管理人は、自分の腰に巻いてあったベルトを外して、あるものと一緒に良太に投げた。
良太は反射的に、投げられた物を受け取った。
良太の手の中には、しっかりとした重量感を感じる、塊が収まっていた。
「これは、拳銃?」
受け取ったのは、拳銃と、ホルダー。
良太は意図が分からず、時空間管理人の方を見た。
「いいか、ぬかるみがあったら、近くに牛鬼がいる可能性が高い。その時は、拳銃を空に向けて撃て!すぐに向かう!」
時空間管理人は、拳銃を撃つことで、良太の居場所を探すつもりだ。
良太は頷くと、急いでホルダーを腰に巻いて、銃をしまい、走り出した。
時空間管理人は、良太の懸命に走る姿を見て、ため息をついた。
良太と村人。
比べる事は、出来ないが、どちらの命も、見捨てる事は、出来なかった。
そして、良太の言葉が、胸を刺した。
<一緒に居ないから、分からないんですよ!>
<エイルは傷ついたんだ!疑われた事に!>
(そんな事は、分かってる…。)
それでも、時空間管理人は、村を守る事が仕事。
この村の安全の為には、全てを疑って見なければ、分からない事もある。
少しでも疑わしい事柄は、追及しなければ、安全を脅かされてしまう。
良太が、エイルを守りたい様に、時空間管理人もまた、村を守りたいのだ。
「時空間管理人さん。」
後ろから、鈴の音が鳴った。
「私も、サポートしますわ。」
そう言ってにっこりと微笑むのは、ユーリ。
時空間管理人は、気持ちを切り替える。
「頼みます。」
良太も、時空間管理人も、それぞれの守りたいものの為に、走り出した。
読んで頂き、ありがとうございました。
是非、次回もご覧下さい。
また、雰囲気の違う作品で「妖怪探偵 サイコロ眼」と言う作品も投稿しております。
こちらも、是非、ご覧下さいませ。