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初心者マークの勇者  作者: 真ん中 ふう
4/10

旅の始まりは、苦難の始まり編(3)

4.「今の自分に出来ること」


良太は暗闇の中に立っていた。


なんだか、体が不安定にフラフラする。

(どうしたんだろ…?)

体のふらつきに不安を覚えた良太は、両足に力を込めた。

しかし、ふらつきは修まらない。


バシュン!

ズルズルズル。

バシュン!

ズルズルズル。


そんな音が、だんだん、近づいてくる。

良太はなぜか焦っていた。

しかし、自分に危険が迫っているのは分かる。

(早く!ここから、逃げなくちゃ!早く!)

そう思って、体を動かすと、フラフラと体が揺れて、まっすぐ歩けない。

そうこうしていると、後ろから、生暖かい風が吹いた。

良太はゾッとして、後ろを恐る恐る振り返る。

「うわぁー!!!」

絶叫し、その場から逃げようと走り出す。

しかし、今度は足が地面に取られて、走れない。

足元を見ると、そこは、どろどろのぬかるみだった。

(早く!逃げなきゃ!)

良太は体を一生懸命動かし、前に進もうとする。


バシュン!


風を切るような音と共に、良太の目の前に白い巨大な木が地面に突き刺さった。

そして、後ろから水が大量に滴る音。

良太は後ろを振り向けず、その場でジタバタする。

そして、甲高い咆哮が響いた。

「ギュオーン!!!」

「うわぁー!!!」

良太は力いっぱい叫んだ。



「良太殿、大丈夫ですかな?」

モルフの言葉で、良太は目を覚ました。

「はっ!」

思わず、自分の足元を見た。

白い布に、自分の足が隠れている。

大丈夫、ぬかるんでない。

そして、周りを見た。

そこは小さな部屋で、窓からは陽の光が差し込んでいた。

そこで、良太は現実を実感できて、ほっと胸を撫で下ろす。

(さっきのは、夢か…。)

「良太殿、随分と、うなされておりましたな。」

モルフが心配そうに、良太を見ている。

「…ここは?」

良太はまだ痛む体をゆっくりと起こした。

「ステーキハウスの休憩室ですじゃ。」

良太達が身を寄せているステーキハウスの奥に、小さな部屋があり、そこを良太が休む場所として、借りていた。

(そうだった…。)

時空間管理人が、ステーキハウスを去ってから、店主が現れ、床に寝転がったまま、動けなくなっていた良太を見て、奥の部屋で休むように言ってくれたのだ。

お店の方からは、お昼の準備をしている音が聞こえた。

「オレ、寝ちゃってたんだな。」

「眠れるのは良いことですじゃ。」

モルフはにっこりと笑った。

「良太殿、お腹が空きませんか?何か食べるものでも持って来ますじゃ」

モルフはそう言ってくれたが、さっきの夢の怖さと、気持ち悪さで食事を取りたいとは思えなかった。

「ごめん。モルフ。今は何も食べたくない。」

「良太殿…。」


コンコンコン。

「はい。」

部屋をノックされ、モルフは返事を返した。

「時空間管理人さん。」

入ってきたのは、朝から調査に走り回っていた、時空間管理人だった。

「なんだ。お前まだ、寝てたのか?」

時空間管理人は、ソファーをベッド代わりにしていた良太を見て言った。

だが、そんな事は、どうでも良さそうで、すぐ、モルフに向かって話し掛ける。

「賢者のじいさん。ちょっと聞きたいことがあるんだが。」

「何ですかな?」

時空間管理人は、手短に用件を済ませて、次に行きたそうで、休んでいる良太には興味がない感じだ。

「今朝、朝日が昇る前、牛鬼がどこに向かったか、最後まで見えてたか?」

良太は時空間管理人が言った「牛鬼」と言う言葉にビクッとなった。

そしてさっき見た夢を思い出す。

それだけで、体が震える。

良太は震える体を押さえようと、自分の両腕を必死で抱き締めた。

そんな良太の変化に気付いたモルフが、良太の肩に手を置き、「大丈夫ですじゃ。」と言って、微笑んだ。

「…ごめん。」

モルフが置いた手から、温かさを感じて、少し落ち着くことが出来た。

「時空間管理人殿、最後までは見えておりませんが、道筋が出来ていたように思いますじゃ。」

落ち着いた良太に安心して、モルフは時空間管理人の質問に答えた。

「そうだよな。…じいさん、急に来て悪かったな。」

時空間管理人は、有力な情報を得ることが出来なかったので、部屋を後にしようと、ノブに手を掛けた。

「時空間管理人殿。」

モルフは時空間管理人を呼び止めた。

「体の方は大丈夫ですかな?」

時空間管理人は、良太と同じで、牛鬼に襲われている。

良太の状態を見ていると、時空間管理人の体も心配になる。

「俺は別に。元々鍛えてるしな。」

時空間管理人は、大したことではないように答えた。

「朝から動いておられるが、体を休める時間がないのでは?」

モルフの言うとおり、時空間管理人は、夜明けに事務所に戻ってから今のお昼前の時間まで、忙しくしていた。

それは、村を管理する立場の、時空間管理人には、当たり前の事だ。

「俺の仕事だからな。」

「あまり、無理をなさらぬように。」

「おお。」

時空間管理人は、ぶっきらぼうに答えた。

その、時空間管理人と空いたドアの隙間を縫って、エイルが部屋に入ってきた。

「モルフ~。」

エイルは時空間管理人を不思議そうに見て、モルフを見た。

誰?この人?と言った感じだ。

「エイル殿、この方は、時空間管理人殿ですじゃ。このエリアの入り口で、お仕事をされておられる。」

モルフがそう説明すると、エイルは急いでモルフの後ろに隠れた。

時空間管理人は、エイルを見て、少し考え込んでいたが、そのまま部屋を後にした。

エイルは時空間管理人が出ていくと、安心したように、ふーと息を吐いた。

「良太~。」

そして、エイルは嬉しそうに良太の顔を覗き込む。

そんな無邪気なエイルの頭を、良太は優しく撫でた。

頭を撫でられて、エイルは嬉しそうだ。

「あのね、良太。さっき、ソフィさんちに行ったんだけど…。」

エイルが楽しそうに話をしてくれるが、今の良太には、その話を聞いてあげられる余裕がなかった。

エイルの話が頭に入らず、逆に疲れを感じ始めた。

「ごめん。エイル。少し一人にしてくれるかな。」

良太は、静かにそう言うと、またソファーに身を沈め、シーツを頭から被った。

「良太?」

事情が飲み込めないエイルは、良太の反応に戸惑った。

そんなエイルを連れて、モルフは部屋を出た。


「モルフ~、良太どうしたの?」

エイルは、元気のない良太が、不思議で仕方なかった。

いつもなら、話を聞いて、笑ってくれるのに。

「良太殿は、少し頑張りすぎて、疲れておられるのです。」

「お札を配るの、大変だったのかな?」

エイルは昨夜は寝ていて、牛鬼の事を知らない。

知っているのは、夕方に三人で手分けして、お札を配った事だけ。

「そうかも知れないですじゃ。」

「じゃあ、今日は、お店のお手伝い、出来ないね。」

お店は、そろそろ、ランチで忙しくなる。

エイルは少し考えて、こう言った。

「今日は、良太の代わりに、僕がお手伝いするね。」

「え?」

「お手伝いしたら、ご飯がもらえるでしょ?それを良太にあげるの。」

良太はこの村に来てから、このお店でバイトをしながら、モルフとエイルの食事を確保してくれていた。

それが、何の能力も持たない自分に、今出来ることだと言っていた。

「僕ね、山の中で、良太がくれたキノコ食べら、お腹いっぱいになって、すごく元気になったよ。だから、良太もお腹いっぱいになったら、きっと元気になるよ!」

子供らしいエイルの発想。

モルフは少し涙が出そうなのを堪え、考えた。

エイルは良太に元気になってもらいたいと願っている。

それは、モルフも同じこと。

小さなエイルは、良太の為に、働こうとしている。

では、モルフに出来ることは何か…。


エイルは店主にお願いをして、テーブルを拭いたり、お皿を洗う係りになった。

いつものようにお店は忙しくなるかと思いきや、昨夜の牛鬼騒ぎで、お客の足は遠退いていた。

しかし、それでも、日常を取り戻したいと願う村人達が、お店を訪れ、いつものように食事を楽しむ姿が、ちらほら見られた。

客足はゆっくりだが、子供のエイルには、ちょうど良い忙しさとなった。


その頃モルフは、ある場所に向かって歩いていた。

村の中は、初めて来た時の様な活気はなかった。

皆、昨夜の牛鬼騒ぎで、どこか落ち着かないのだ。

「すっかり、乾いておる。」

モルフは、明け方に牛鬼が去った後に残っていた、ぬかるみが無くなっていることに気が付いた。

牛鬼の痕跡が消えても、人々の心と記憶の中に、恐ろしい体験は、残ってしまう。

今の良太の様に。

いや、実際に牛鬼に襲われた者にしか分からない恐怖を、良太は体験してしまった。

塞ぎ込んでしまうのも、仕方がないと、モルフは思う。


村の現状を肌身に感じなから、モルフは良太とエイルと三人で過ごしていた、並木のある野原に来た。

そして、木陰に座ってモルフは考える。

良太には何が必要なのか?

思い出すのは、自分とエイルの為に、今出来ることを、精一杯頑張る良太の姿。

(では、今の私に出来ることは…。)

モルフは、旅に出る前に、良太に誉められた事を思い出した。

それは、手先が器用な事。

良太の服や、リュックを作った事を、良太は誉めてくれた。

あの時に良太がグッドのポーズをして、微笑んでいる姿が、思い出される。

「ならば…。」

モルフの中で、思いは決まった。

良太の為に今、自分が出来ること。

そう気持ちが決まると、モルフの手のひらは、温かさを増していった。

読んで頂き、ありがとうございました。

次回も是非、ご覧下さい。


また、雰囲気の違う作品も投稿しております。

連載「妖怪探偵 サイコロ(がん)」です。

よろしければ、こちらも読んで見て下さい。

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