旅の始まりは、苦難の始まり編(2)
3.「嵐の後には…」
朝になり、村人達が、いささか緊張気味に生活を始めた頃、お揃いの駅長風な制服を着た4人組が村に現れ、それぞれの場所で、調査を始めた。
それは、時空間管理人達の姿。
昨日の夜に、良太と共に、牛鬼に襲われた、時空間管理人の姿もあった。
「まったく、デカイぬかるみを残しやがって。」
そう言いながら、時空間管理人は、持ってきたアタッシュケースの中から、試験管を取り出した。
手には手袋をはめ、スポイトでぬかるみを採取。
荒い言葉遣いとは反対に、慎重に試験管の中へ、採取したぬかるみを入れていく。
そして、仲間の時空間管理人達を見た。
一人は、村の建物に損傷がないか、チェックして周り、二人目の仲間は村人に体調を崩したり、怪我をしている者が居ないか、確認に走り回り、三人目の仲間は、牛鬼が残したぬかるみが、どこまで続いているのか、メジャーを持って計っていた。
「おい!そっちはどうだ?」
時空間管理人は、三人目の仲間に声を掛けた。
すると、仲間は立ち止まり、振り返って言った。
「ぬかるみが途中で消えてるぞ!」
「消えてる?」
時空間管理人は、ぬかるみの長さを測っていた仲間の元へと向かった。
仲間が指差す方を見てみると、山に入る手前の辺りで、牛鬼の残したぬかるみが途絶えていた。
「どういう事だ?」
時空間管理人は、首を傾げた。
「この山に入ったんだよな?」
仲間が聞いてくる。
「そのはずだ。山以外に隠れる場所なんてないし、ここで、ぬかるみが無くなったって事は、ここまでは間違いなく辿り着いたはずだ。」
時空間管理人は、そう答えたものの、牛鬼が山に入っていく姿を見たわけではない。
気付いたら、夜が明け始め、その頃には、牛鬼の姿がなかったのだ。
「まるで、飛び越えた様な感じだな。」
仲間が呟く。
「牛鬼にそんな事が出来るなんて、どのデータにも残ってないぞ。」
時空間管理人は、事務所に戻ってから、仲間が来るまでの間に、牛鬼に関するデータを調べ上げていた。
その時に、牛鬼がジャンプするとか、空を飛べるなんてデータはなかった。
「確認の為に、山に入るのは、危険だしな…。」
仲間が困った表情で、山を見つめた。
牛鬼は、本当に山に居るのか?
そんな不安が時空間管理人を襲う。
「村人の中に、牛鬼が逃げるところを見た奴でも居たらな。」
仲間にそう呟かれて、時空間管理人は、あることを思い出した。
(あの賢者のじいさん、窓から外を見ていたな…。)
「…あの…すみません。」
時空間管理人が、昨夜のモルフの行動を思い返していると、後ろから、まるで鈴を鳴らしたような、涼やかな声がした。
振り返ると、そこには、ブルーのポンチョに、同じくブルーの膝丈プリーツスカートに白のハイソックスとローファーを履いた、少女が立っていた。
ポンチョの中は、制服なのか、白のブラウスの襟が見え、その襟元には、ピンクのリボンをつけている。
髪型は長い髪を一つにまとめ、左肩に流し、丸めのメガネを掛け、頭には魔女が被るような大きめのつばの、三角帽子を被っている。
見た目は、この村にはいないタイプの女の子だった。
その子は礼儀正しく、時空間管理人達に一礼し、言った。
「すみません。その仕事、私にも手伝わせて頂けませんか?」
時空間管理人と、その仲間はお互い、顔を見合わせた。
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連載「妖怪探偵 サイコロ眼」です。
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