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初心者マークの勇者  作者: 真ん中 ふう
2/10

旅の始まりは、苦難の始まり編

初心者マークの勇者、良太と、できない賢者、モルフとの旅が始まった。

最初に訪れたのは、「牛鬼の村」

そこは、とても喉かな村だった。

二人はそこで1人の少年と出会う。

彼の名はエイル。

まだ小さなエイルを連れて、良太とモルフは山を越え、麓の集落に辿り着いた。


2.牛鬼の村



「これは…?」

エマの魔法、瞬間移動により、良太とモルフは最初のエリアに飛ばされた。

飛ばされたのは良いが、良太は目の前の違和感のある光景に、釘付けになった。

「ここは、修行の最初のエリアの入り口ですじゃ!」

モルフは意気揚々と答えた。

「入り口?…なんか…」

良太は指を指して言った。

「これって、改札口だよな。」

良太が指差した先には、見慣れた、駅の中に入る時に通る、自動改札があった。

そして、改札口の向こうには、のどかな山々が繋がっている。

改札口の上には、木の看板が掛かっていて、「牛鬼の村」と書いてある。

のどかな景色に不釣り合いな自動改札。

「あの~?通られます?」

自動改札の横には、駅員さんが覗く部屋があり、そこから駅員さんが顔を出していた。

立ち尽くしていた良太に、訝しげな目を向けている。

「もちろん通りますじゃ!良太殿、鞄の中に通行手形が入っておりますじゃ。」

モルフにそう言われて、良太は背負っていたリュックの中に手を突っ込む。

「これ?」

「そうですじゃ。」

出てきたのは、定期サイズのカード。

「何も書いてないよ?…あれ?」

良太は無地のカードに、文字や写真が浮かび上がって来るのを見て驚いた。

「カードの持ち主が手にすると、名前や顔写真、その他諸々が表示されますじゃ。」

モルフは自分のカードを服の袖口から出した。

しばらくすると、モルフの顔写真と沢山の文字が浮かび上がって来た。

「身分証明証みたいなもんなのかな?」


「あの~?」

なかなか通らない良太達に、さっきの駅員が苛ついた声を掛けて来た。

「通りますじゃ。良太殿、ここに通行手形をかざして」

そう言いながら、モルフは見本を示すように、改札口を通っていった。

良太も後に続く。

カードをかざすと、ピッと音がして、ゲートが開かれ、良太が通り終わると、ゲートがガチャンと閉まった。

(駅じゃん。)

「あのさ、あの人は駅員さん?」

「入り口の者ですかな?」

「そう。」

「あの者は、時空間管理人ですじゃ。ああやって、エリアの入り口で通る者の管理やこのエリアの説明などを行っておりますじゃ。」

「観光案内所?…みたいなもんなのかな?」

「時空間管理人は、各エリアにおりますじゃ。分からないことや困った事があった時に、助けてくれたりもしますじゃ。」

「へぇ。」

後ろを振り返ると、時空間管理人と呼ばれた駅員は、不機嫌そうに部屋の窓を閉めた。

「助けて…くれるの…?」

良太は苦笑いをした。



「牛鬼の村」は見渡す限り、山と畑、田んぼのとてものどかな村。

すれ違う村人は、畑仕事用の鍬などをもっていたり、田んぼで仕事に励んでいたり。

「なんか、昭和ぽいな。」

TVで見たことがある、昭和の田舎の風景を思い出す。

「村の名前は怖いけど、のどかな良いところだな。」

「良太殿、のんきな事を言ってはおられませんぞ。今から宿を探さないと。」

「宿?」

しかし、山や畑に囲まれたこの村には、宿らしき建物は見当たらない。

「あっ!すみません!」

良太は畑仕事をしていたおじさんに声を掛けた。

「すみません、この辺りに宿屋はありませんか?」

「ここは農作物を育てる場所だから、あっちの方に集落があるよ。」

そう言っておじさんが指差した先は、山だった。

「あの山の向こう?ですか?」

「そう。」

良太とモルフは顔を見合わせた。

「どうする?」

「行くしかありませんじゃ。」

しかし、越えなければいけない山は、大きく、深そうだった。

良太はごくりと唾を飲み込んだ。

「あんた、勇者かい?」

先程のおじさんが話し掛けてきた。

「勇者にならないといけない者です。」

自分を勇者と名乗るには、気が引ける。

「あんたは?」

おじさんはモルフにも尋ねる。

「私は賢者ですじゃ。」

モルフは胸を張って答えた。

「賢者なら、山を越える術が使えるだろ?それで行くと良いよ。」

おじさんはそう言うと、畑仕事の片付けを始めた。

「ここの村の人は、賢者に詳しいね。」

「何人もの勇者や賢者に会っておるからでしょうな。」

きっと今まで、沢山の冒険者達を迎え入れていたであろう事が分かった。

「モルフ、移動の術…使え…」

良太はそう言い掛けて、止めた。

モルフは術が上手く使えない賢者。

良太が最初にモルフの移動の術を体験した時は、いきなり神である、エマのお風呂に飛ばされた。

「とりあえず、歩いて行こう。」

良太は気を取り直して、言った。



山の中に入ると、そこは暗く少しの湿気を感じる場所だった。

「なんか、薄暗いな。」

歩きながら、周りを見ると、木の根っこ辺りに、いろんなキノコが顔を出していたり、木の枝には赤い木の実らしき物がなっていたりしている。

足元は少し水分を含んでいる土で、歩いた後には足跡が残る。

「この山は、光が入りませんな。」

モルフも山の中をキョロキョロと見ながら歩いている。

そして、時折建っている看板の矢印に従って山の中を進んでいく。

初心者に優しいエリアなのか、進むべき道に導いてくれている。

良太は上を見上げた。

木々に覆われて、空があまり見えない。

だが、微かに見える空は段々と赤くなりつつあった。

「モルフ、もうすぐ夜かも知れないね。」

そう言われて、モルフも上を見上げた。

「真っ暗になる前に、休める場所を探そう。」



良太とモルフは、大きな木の根元で一晩過ごすことにした。

木の根元は、根っこが出ていて、丁度腰を掛けるのに良い高さだった。

「とりあえず、火を炊こう。」

そう言うと、良太は落ちている木の枝を集めた。

そして、リュックの中を探ると、マッチが出てきたので、それで火を付けた。

火はすぐに枝に燃え移り、明々と良太達を照らした。

良太が火を付けている間、モルフは落ち着かないのか、キョロキョロしたり、立ったり座ったりしていた。

「お腹すいたな。」

火が付くと今度は、お腹の虫を押さえるため、良太は木の根っこに生えているキノコを選別しながら、採取したり、木に登って、枝から木の実を採ったりして、食べられそうな物を集めた。

採ってきたキノコを枝に刺して、火に当てる。

すると、キノコの良い香りが周りに漂った。

「モルフ、食べな。」

そう言って良太は、美味しそうに焼けたキノコを枝ごと、モルフに渡した。

「良いのですか?」

「うん。食べたら、元気が出るよ。」

良太はニコッと笑った。

そして、また木の枝にキノコを刺した。

モルフは、キノコの匂いを嗅ぎ、ひと口食べた。

「美味しい!」

「だろ?。」

「良太殿は、天才ですな❗」

「大袈裟だよ。子供の頃にさ、学校とかでキャンプがあってさ、その時の経験が生かせたよ。」

良太はキノコを火にかける。

「キャンプ?」

「うん。友達と山で一晩過ごすんだ。その時に、火の準備の仕方とか、食べられそうな植物の見分け方とか教えてもらった。まさかこんなにとこで役に立つとは思わなかったけど。」

そんな良太の話を聞きながら、モルフはまだキョロキョロしていた。

「モルフ、怖いの?」

そう言われて、モルフはビクッとなりながら、答えた。

「良太殿は怖くないのですか?」

「怖くないよ。ちょっと楽しい位だよ。」

「楽しい?こんな家もない、月灯りもないこの場所が?」

「さっきも言ったけど、キャンプしてるみたいじゃん。」

良太は焼き上がったキノコをフウフウと冷ましながら言った。

「…良太殿は、お強いですな。私はあの森から出たことがありませんじゃ。あの森には、夜になっても月明かりがある。家もある。こんな暗くて何も無い場所は初めてですじゃ。」

そう言われて、モルフがこの山に入ってから、落ち着きがない理由が分かった。

モルフはこの世界に飛ばされた子供の頃から100年、他の場所を知らない。

昼間や明るい場所は、初めての場所でも気分が高まり、何を見ても楽しいが、暗い場所は寂しさが襲う。

それは良太にも分かる。

トラックにひかれて、この世界に飛ばされ、目覚めた場所は、モルフが住んでいた森だった。

何も分からなかった、あの時の不安は、きっと今のモルフが感じている物と同じだ。

「オレが強いんじゃなくて、一人じゃないから安心できてるんだよ。」

「しかし、私は何も出来ませんじゃ。山を越えられる術も使えない。」

モルフは、移動の術を上手く使いこなせない事を気にしていた。

「今はね。」

良太はそう言って微笑んだ。

「モルフ、旅は始まったばかりだよ。オレ達はまだまだ未熟だよ。だから、この旅で成長していくんだろ?」

それは、エマの元を去るときに、決意したこと。

二人で成長していくと、エマとキラウェルに言い切った。

「そうでしたな…。」

良太の言葉に、モルフは何か体の奥が暖かくなるのを感じた。

そして微かに力が湧いてくる。

モルフは思いっきり、持っていた食べ掛けのキノコにかぶり付いた。


カサカサ、カサカサ。

ふとそんな音が二人の耳に入った。

葉っぱと葉っぱが擦れ合う音。

その音は、火の灯りが届かない、暗い闇の中で聞こえる。

良太は目を凝らして、音のする方を見た。

モルフは身を硬くした。

ここは、「牛鬼の村」

ふと、そんなことを思い出す。

そして、二人の緊張感がマックスに達したその時。

パキン!

地面に落ちている枝を踏み折る音がして、黒い影が現れた。

「うわー!」

「出たー出たですじゃー!」

二人とも飛び上がった。


「キノコだ!」

黒い影から、言葉が聞こえた。

しかも、幼い可愛らしい声だった。

「えっ⁉️」

良太は黒い影が近づいてくるのを、しっかりと見た。

「子供?」

二人の前に現れた、黒い影の中から、小さな男の子が姿を見せた。

小学生低学年位の男の子は、綺麗な金髪のおかっぱ頭。

背中には、自分の背より長い剣を引きずりながら、背負っている。

「なんで、こんなところに子供が?」

そんな良太の疑問を無視して、男の子は良太の持っているキノコに釘付けだ。

「…食べる?」

そう言うと、男の子は嬉しそうに首を縦に振った。



山の奥から出てきた、不思議な男の子は、良太が焼いたキノコを5つ食べ、それだけでは足りず、木の実も美味しそうに頬張った。

食べている合間に話を聞くと、男の子の事が少しずつ分かってきた。

名前は「エイル」

年は8歳。

親はおらず、1人だと言う。

しかし、ここに来る前の記憶がない。

気づいたら、この山の中に居たらしい。

しかし、良太達と同じように、通行手形を持っていた。

「親がいないってどういう事なんだろう?」

「もしかしたら、この子はこの世界の者では?」

「オリジナルの賢者ってこと?」

「オリジナルは賢者だけではありませんじゃ。魔法士や剣士なんかもおりますじゃ。」

「だとすると、この子は…」

二人でエイルを見る。

背中には剣がある。

「剣士?」

思わず二人の声がハモった。

「オリジナルであれば、もうすでに剣士としての力は持っているはず。」

「神様が作った存在だもんね。…でもさ、子供だよ?どう見ても。」

二人は首を傾げる。

目の前のエイルは、口の周りを汚しながら、美味しそうに木の実を食べている。

とても剣士には見えない。

「とりあえず、このまま山の中に一人にするのはダメだから、朝になったら、一緒に山を抜けよう。集落に行けば、安全だろ。」

「それしか、ありませんな。」

二人がそう、結論付けたところでエイルの食事が終わった。

「エイル、しばらくはオレ達と一緒に行動するか?」

良太は念のため、エイルにも確認する。

するとエイルは嬉しそうに頷いた。



朝になっても山の中は薄暗いままだった。

良太はまだ眠たそうなエイルを起こし、手を繋ぎ歩いている。

その後ろをモルフがついて歩く。

何度目かの休憩を挟みながら歩いていると、先の方に明るい光が見え始めた。

「抜けましたかな?」

モルフは光を見て安心したようだった。

3人は無事に山を越えることができた。


山を抜け、下り坂を降りていくと、そこには沢山の人々の姿。

そして、お店が道なりに幾つかあり、そのさらに向こうにはたくさんの家が見えた。

家の集まりは、幾つかに分けられ、広い村なのだと言うことが分かった。

また、村の雰囲気は、良太が感じた、昔っぽい、どこか懐かしさを感じるままだった。

「とりあえず、宿を探そう。」

「良太殿、通行手形を見せてくだされ。」

良太はモルフにいきなり、そんな事を言われて、不思議に思いながらも、通行手形を出した。

何もないカードが、良太が持つことによって、文字や写真を浮かび上がらせる。

「ん~な、なんと!」

通行手形をしばらく見ていたモルフが突然大きな声をあげた。

「なんだよ、ビックリするだろ!」

「りょ、良太殿、た、大変な事ですじゃー!」

そう言ってモルフは頭を抱えた。

「だから、なんだよ!」

「良太殿が使えるコイン、5メリーしかありませんじゃ。」

モルフは落胆している。

「コイン?」

「そうですじゃ。旅の始めに、お金に困らぬよう、それぞれにコインが支給されますじゃ。それが、この通行手形に表示され、表示された分だけお金を使う事が出来るのですが…。」

「オレのコインが、5メリー?」

「5メリーでは、とてもとても、宿など借りられませぬ。せいぜい、リンゴ1つ位しか…。」

「この通行手形、そんなクレジットカードみたいな機能があるのか。すごいな。」

「感心している場合ではありません!」

「じゃあ、モルフの通行手形は?コイン、いくら?」

そう言われてモルフはもじもじとする。

「私の通行手形には、コインはありませんでしたじゃ。」

「…え?」

「そもそもコインは、持っている者の力やランク、労働などに合わせて増えていきますじゃ。私には賢者としての力がほとんどない。」

「オレも勇者として、まだ何も力なんてないよ?」

「良太殿は、人間。もともとマイナスからのスタート。さっきも言ったように、旅の始めだけ、コインが支給されますじゃ。」

「なるほどね~。旅をしながら、コインを増やして行かないと生活出来ないのか。」

良太は旅に出る前に、モルフが言っていた事を思い出した。

<この世界は、生きていく事が大変ですじゃ。>

(力が無い者は、生きていけないって事か。)

そう考えると、この世界はシビアなのかも知れないと、良太は納得した。

しかし、それは良太が生きていた世界も同じことのように思えた。

「働かざる者、食うべからずか。」

良太が呟く。

「そうですじゃ!」

モルフが突然、何かを思いついた様に、声をあげた。

「エイル!エイルも通行手形を持っておりますじゃ!」

「ダメだよ!」

良太はモルフを叱りつけた。

「もし、エイルがコインを持っていたとしても、人の物を使っちゃダメだよ!しかも、エイルはまだ子供だ。オレ達大人が何とかしてやらないと。」

モルフはシュンとなってうなだれた。

「あれ?エイルは?」

良太はモルフと話し込んでいるうちに、エイルが居ないことに気付いた。

辺りを見渡すと、一軒のお店の中にエイルの姿があった。

エイルは、大きな空のお皿を前に、お腹を満足そうに撫でていた。

お店の中には、たくさんのお客がステーキを味わっている。

「ステーキハウスだ。」

エイルはいつの間にか、お店に入り込み、ステーキを注文し食べていた。

エイルは食べ終わると、お店から出てこようとしていたが、店主に止められ何かを話していた。

良太は急いでお店に近づいた。

お金を持たずにお店に入り、帰ろうとした所をきっと店主に止められたのだ。

しかし、エイルはズボンのポケットから通行手形を出し、お店から何事もなく、出てきた。

「エイル!」

良太はお店から出てきたエイルに駆け寄った。

「エイル!勝手にどこかへ行っちゃダメ!心配するだろ!」

良太は子供を叱りつける親の様にエイルに怒った。

「ごめんなさい。」

エイルは良太に怒られて、ビックリしていたが、すぐに小さな声で謝った。

そんなエイルの頭を撫でながら、良太は言った。

「分かればよろしい。」

良太が微笑み掛けると、エイルも安心したように微笑み返した。

「エイル殿!お金をお持ちで?」

モルフはそう言いながら、駆け寄ってきた。

「あっそうだよ。ステーキ代は大丈夫だったのか?」

良太は、先程の店主とのやり取りの事を思い出した。

「お金はあるよ。」

そう言ってエイルは自分の通行手形を見せた。

二人が通行手形を覗き込む。


その

通行手形を見て、モルフは驚きの声をあげた。

「ろ、ろく、6万メリー!!!」

大きな声で叫ばれて、ビックリしたエイルは急いで通行手形をポケットにしまい込んだ。

「モルフ!声が大きいよ。」

エイルを見て、良太がモルフを叱る。

「す、すみませんじゃ。」

モルフは両手で口を押さえた。

「エイルはお金を持ってるだね。」

「うん。」

エイルはポケットを押さえる。

「大丈夫だよ。君のお金を使ったりしないから。それより、エイルの泊まれる宿を探そう。」

「え?」

「エイルはちゃんとした宿に泊まった方が良い。」

「でも…。」

そう言ってエイルは、良太の服の裾をぎゅっと掴んだ。

「僕、一人になりたくない。」

「でも、僕らはまた野宿になる。君はまだ子供だ。安全な場所にいた方が良い。」

だが、エイルは納得しなかった。

「僕も野宿する。」

そう言ったエイルの目は、真剣そのものだった。



根負けした良太は、エイルが同行する事を承諾した。

良太達は、お店が連なる場所から少し離れた所に落ち着いた野原を見付けた。

そこには並木もあり、その木陰に腰を下ろした。

「モルフ、ちょっとエイルと一緒にここで待っててくれるか?」

モルフとエイルが座るなり、良太はそう言って、またお店が連なる場所に駆けて行った。

突然二人きりになったモルフとエイルはお互い顔を見合わせた。



良太はさっきのステーキハウスの前に来た。

そして、店主にこう言った。

「すみません。ここで働かせてくれませんか?」



ちょうど夕方に入り、お店はバタバタと忙しい時間に入るところだったので、良太はこのステーキハウスで働くことを許可された。

このステーキハウスでは、客席を二人の女性が担当し、厨房で作られるステーキやビールを次々と手際よく運んでいく。

そして、厨房では店主が一人でステーキを焼き、鉄板に乗せ、付け合わせのポテトや人参をトッピングしていく。

その後ろで良太は食べ終わったお皿や鉄板、コップなどを次々と洗っていく。

お店は上手く回ったいた。

「良太!そこの肉を出してくれ!」

「はい!」

良太は突然の店主からの要望にも的確に動いていた。

初めて入ったお店とは思えない程の動きに店主も満足していた。

お店が少し落ち着いて来る頃、良太は店主に声を掛けられた。

「いや~最初はこんな、ひょろっこい兄ちゃんで、大丈夫かと思ったが、なかなかやるじゃねぇか。」

「ありがとうございます。」

「こんなに役に立つなら、明日からも来てくれよ。」

「ほんとですか⁉️こちらこそ、お願いします!」

良太はすっかり、店主に気に入られたようだった。



お店を出る頃には、外はすっかり日が落ちていた。

良太はバイト代としてもらったステーキを箱に詰めてもらい、急いでモルフ達のいる野原へと向かった。

「良太殿!どこに行っておられたのですか⁉️。」

着くなり、モルフに怒られてしまった。

「ごめん、ごめん。はい、これ。」

そう言って良太はステーキの入った箱を差し出した。

その箱からはまだ開けてもいないのに、すでにステーキの香ばしい香りがする。

「わぁ~い。」

その匂いに気付いたエイルが、ステーキの箱を良太から受け取り、早速蓋を開けた。

「これは?」

モルフは目を丸くして、良太を見た。

「昼間にエイルが食べてたステーキハウスがあっただろう?そこの店主さんにお願いして、バイトさせてもらったんだ。」

良太はニコッと笑った。

「バイト?」

「働かせてもらって、お金をもらうんだよ。」

「お金を稼ぐ為に、出掛けられたのですか?」

「だって、昨日はキノコと木の実しか食べてないし、何か力の付くものを食べないとなと思ってさ。あっ!でも今日のバイト代はお金じゃなくて、このステーキにしてもらったんだ。」

「我々の分まで…。」

「当たり前だろ。オレ達は仲間なんだから。」

モルフはステーキの入った箱を見つめた。

「ありがとうございますじゃ。」

「この世界では、オレ達はまだ、何の能力もないけど、生きていくために出来ることはたくさんある。今のオレに出来ることは、バイトしてお金を貯めることかな。」

そう言いながら、良太は自分の分のステーキにかぶり付いた。

「今の…良太殿に出来る事…。」

モルフは小さく呟いた。

「モルフ、冷めちゃうから、早く食べな。」

良太に急かされて、モルフはステーキにかぶり付く。

「美味しいですじゃ、とても…。」

モルフは良太に気付かれないように、そっと涙を拭いた。



結局、夜はまた野宿になり、野原の並木の下で眠った。

朝になると良太はまたステーキハウスのバイトへと出掛けた。

今日はステーキの下準備から手伝う。

「良太、すごいわ。」

店主がさばいたステーキ用の肉に、指示された分量通りに味付けを施していく良太を見て、女性スタッフが感嘆の声をあげた。

「すごいよな~。もう、すっかり仕事を覚えちまった。」

店主も喜びの声をあげる。

(ステーキハウスのバイトの経験が、この世界でも生かされるなんてな。)

みんなに喜ばれて、良太は改めて思った。

良太が生きていた世界で、良太は大学に通う傍ら、夜はステーキハウスでバイトをしていた。

(何でも、やってみるもんだな。)


お昼の時間が終わると、店主から賄いをもらい、良太はモルフ達の待つ、野原へと向かった。

ステーキハウスの店主は、よく働く良太に気を良くして、バイト代とは別に、賄いを用意してくれると言ってくれた。

(これでお金が貯まりやすくなる。ありがたい。)

良太は食事の心配がなくなった事に、ホッとした。

しかも店主は、モルフ達の分も用意してくれたのだ。

「あれ?」

良太が野原の並木の場所に着くと、そこにモルフとエイルの姿がなかった。

良太は周りを見渡した。

すると、村の民家のある方から、モルフとエイルが歩いてきた。

「どこに行ってたんだ?」

良太がそう言うと、モルフとエイルはニコニコしながら、「散歩ですじゃ」と答えた。


3人は、木の下で食事を取った。

食べ終わると、良太はまた急いで、ステーキハウスへ向かった。

夕方はまた忙しくなる。

そう思いながら、ステーキハウスへ戻ると、店主が難しい顔で腕を組んでいた。

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと気になる情報が入ってきてな。」

「気になる情報?」

「あぁ、良太、今日は店に泊まれ。」

「え?」

店主からのいきなりな言葉に良太は驚く。

「実はな、この村はいくつかの山に囲まれてるんだが、その山の一つに、どうやら、魔物がいるみたいなんだ。」

「魔物⁉️」

「昔はこの村に牛鬼という魔物がいてな、もう何百年と昔の話だが、その当時ここに訪れていた勇者パーティーによって、封印されたんだが、その封印が解かれたかもしれないってんだ。」

「えっ⁉️」

「魔物は夜になると動き出す。これからしばらくの間、夜は灯りを落として、家の中に籠ってろって御達しが来たんだ。」

「そうなんですか…。」

「だから、お前も仲間を連れて、ここに来い。」

「えっ、良いんですか?」

「当たり前だ。」



良太は急いで店を出ると、モルフ達のいる野原へと向かった。

しかし、そこにはまたしても、二人の姿はなかった。

「どこに行ったんだ!こんな時に!」

良太は焦りながらもあることを思い出した。

(そう言えば、お昼頃、集落から帰ってきてたな。)

良太はモルフ達を探して、民家のある方へと走っていった。


民家の方へ行くと、どこかで見たことのある人物が、家を行ったり来たりしていた。

その人物は一軒一軒まわり、住民と何か話すとまた次の家へと渡っていく。

「あの人は?…あっ!時空間管理人!」

良太は民家を回っている時空間管理人の元へと走った。

「すみません!」

ちょうど民家から出てきた所に声を掛けた。

「あ~?」

相変わらず、時空間管理人は機嫌が悪い。

「すみません。何かあったんですか?」

「何にも聞いてないのか?」

「あ、いえ、魔物がいるかもしれないって…。」

「分かってんだったら、呼び止めるな!オレはこの辺りを回って、この札を渡さないといけないんだ!」

そう言って時空間管理人が見せたのは、縦長の和紙に文字が書かれたもの。

「これは?」

「お札だよ。これを家の玄関や窓に張って貰うんだ。そうすれば、お札の効果で家が守られる。」

「これ、村全体に配るんですか?」

「当たり前だ!急がないと夜になっちまう。」

時空間管理人は腕時計を見ながら、焦っている。

「オレも手伝います!」

「はぁ⁉️」

「まだ、こんなにたくさんあるじゃないですか?一人じゃ無理でしょ。」

良太は時空間管理人の手に握られた、お札の束を見ていった。

「良太殿!大変ですじゃ!」

さっき時空間管理人が入っていた民家から、モルフとエイルが飛び出してきた。

「モルフ!探したんだぞ!」

「良太殿、魔物が…。」

どうやら、モルフ達も魔物の話は聞いたらしい。

「お前もそいつらと、早く逃げな。」

「いや、手伝います!オレはこの村のお店でバイトさせて貰いました。食事まで用意してくれました。そのお店の方が困っているんだ。今度はオレがお返しをしないと!」

その言葉を聞いて、察したモルフは「私も手伝いますじゃ!」と言ってくれた。

二人の勢いに負けた時空間管理人は、二人にもお札を手渡して言った。

「じゃあ、お前は店のある通りをまわれ。」

良太には、ステーキハウスがあるお店の繋がりの場所を。

「お前は、この辺りの民家をまわれるか?」

「大丈夫ですじゃ!」

モルフには、今自分が回っていた場所の残りの民家を。

「オレは、もう一つ向こうの集落をまわる!終わったら、すぐにどこかへ避難しろ!」

そう言い残して、時空間管理人は、乗ってきたのであろう、バイクに股がり、次の集落へと向かった。

良太は急いでお店側の通りへ走った。

モルフとエイルは一緒に、残りの民家へと向かった。



すべての家やお店にお札を配り終えたのは、日が暮れるギリギリだった。

良太はモルフとエイルに合流すると、急いでステーキハウスに向かった。

店主は家に家族がいるので、民家の方へと帰っていった。

お店には、良太達だけになった。

もちろんお店の入り口や窓にお札を張った。

昨日までは夜になると綺麗な月と星がよく見えていたが、今日は黒い雲に空が覆われているように、暗く感じる。

「何とか間に合って良かったですじゃ。」

モルフはお店の椅子に腰を掛けた。

エイルも疲れたのか、お店の奥にある長椅子に横になった。

「エイル、眠れるなら寝ても良いからね。」

良太はエイルの隣に座り、ウトウトしているエイルの背中をとんとんと、叩いてやる。

「隼人を思い出すな。」

良太はエイルに自分の弟の姿を重ねた。

良太と弟の隼人は5歳離れていた。

隼人が小さい頃は、共働きの両親の帰りを待つ間、よく良太がお昼寝をさせていた。

(隼人、大丈夫かな?)

自分が居なくなった事で、両親と隼人はどうしているだろう?

今まで、いろんな事が一気に起こり、落ち着いてそんな事を考える暇もなかった。

そんな良太に、エイルは弟の事を思い出させてくれた。

「良太殿、あちらの世界、第114セクターの人々の事が気になるのですね。」

良太の呟きに、モルフが気付いた。

「あ、…うん…エイルを見ていると、小さい頃の弟を思い出して…。」

「良太殿、あまり期待を持たせてはいけませが、…。」

モルフは少し思い詰めた表情になった。

「どうしたの?」

モルフの変化に良太は心配になった。

「…いや、…今は言いますまい。…良太殿、立派な勇者になれば、きっと、神のご加護がありますじゃ。それはきっと、残して来られた人々にも。」

モルフはそう言って微笑んだ。

「…そうだね。今は今のオレに出来ることをするだけだ。」

良太はモルフの優しい言葉に、救われる思いだった。


エイルが寝息をたてる頃、良太はあることが気になっていた。

「時空間管理人さん、大丈夫かな?。」

お札を渡されてから、まだ会っていない。

(無事に避難してるのかな?)

窓の外を見ると、風が吹き始めている。

すると、遠くの方から、何かがエンジンを吹かしながら近づいてくる音がした。

「この音は!」

良太は玄関のドアノブに手を掛けた。

「良太殿!」

「モルフは店の中にいて!」

そう言うとドアを開けて、外に出た。

良太は玄関のドアを締め、お札が張ってあることを確認すると、店の前の道に出た。

目を凝らして遠くを見ると、何かが爆音を上げながら、急接近してくる。

「時空間管理人さん!」

近づいてきたのは、バイクのエンジンをフル回転にした、時空間管理人だった。

「バカ!家の中に入れ!」

良太に気付いた時空間管理人は、大声で叫んだ。

その時!


バシュン!


風を切り裂くような音がして、バイクに乗った時空間管理人の前に白い巨大な木が地面に突き刺さった。

「うわぁ!」

目の前に突然巨大な木が現れて、時空間管理人はバイクから、振り落とされた。

主人を失ったバイクは目の前の巨大な木にぶつかり、空を舞い地面に叩きつけられた。

「大丈夫ですか!」

良太は急いで、時空間管理人の元に走った。

「いてっ!」

時空間管理人は、頭を押さえる。

良太は時空間管理人に肩を貸して、立ち上がらせた。

すると今度は、良太の真横に巨大な白い木が、もう一本突き刺さった。

「ひぃ!」

良太は思わず声を上げた。

そして、後ろの方から生暖かい風と、地を這うような気持ちの悪い低音が聞こえた。

良太は後ろを振り返る。


「!」



声もでない程の恐怖が良太を襲った。

そこには、巨大な岩の様な黒い物体にギョロっとした大きな目が二つ、頭とおぼしき場所に二本の角を生やした、化け物の顔があった。

化け物は口を左右に大きく開き、ヨダレをたらしている。

そして、そのヨダレは地面に垂れ、土がぬかるんでいく。

「牛鬼だ。」

良太に肩を借りたまま、時空間管理人が呟いた。

先程まで、白い木だと思っていたのは、牛鬼の体から蜘蛛のように生えた足の先に付いている、巨大な爪だった。

良太達は、牛鬼の爪と頭に挟まれていた。

「あ、あ、あ、」

良太は声が出ない。

足もすくんで動けない。

「もう、ダメだ。」

時空間管理人は、目を強くつむった。

すると、牛鬼の白い爪がゆっくりと地面から抜き取られ、次の瞬間、バシュン!と風を切る音と共に爪が良太と時空間管理人を殴り飛ばした。

ドンッ。

鈍い音がして、二人は店の壁に激突した。

いや、店を守るように張られた透明なガラスの様な壁にぶつかった。

ガラスの様な壁は、良太達が強くぶつかったが、傷一つ付かない。

しかし、良太と時空間管理人は、壁にぶつかった反動で地面にも叩きつけられた。

立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

しかし、牛鬼の動きは止まらない。

また良太達の方へ、体を向ける。

牛鬼が白い爪を振り上げた瞬間!


パン!


何かが弾ける音がした。


パン!

パン!

パン!

続けて弾ける音がして、牛鬼の目に何かが当たった。

「ギュオーン!」

そんな咆哮を上げながら、牛鬼が後ずさった。

「今だ!」

良太は隣にいた時空間管理人に腕を引っ張られ、狭い路地に入った。

時空間管理人の手には、拳銃が握られていた。

弾ける音は、時空間管理人が拳銃を発砲した音だった。

路地は店と店に挟まれていて、先程良太達がぶつかったガラスの様な壁が左右の店の前に広がっていた。

「これは?」

「お札の効力だ。」

時空間管理人は、顎で上を示した。

見上げると、ドーム状にガラスが張られ、両方のお店を囲っていた。

そして、時空間管理人は残っていたお札を地面に張り付けた。

すると、お札を張った地面から上に向けて、新たなガラスの壁ができた。

「これで、大丈夫だ。」

時空間管理人は肩で息をしながら、そう言った。

「良太殿!」

路地側にある、お店の横の小さな扉からモルフが顔を出した。

良太と時空間管理人は、お互いに支え合いながら、モルフのいる扉へ向かった。


店の中に入ると、安堵したためか、体中が痛みだし、良太はそのまま倒れ込んだ。

時空間管理人は、何とか椅子までたどり着き、ドカッと座った。

良太は痛みに顔を歪めながら、体を仰向けの体制にした。

「あれが…牛鬼…魔物…。」

良太は震える声で呟いた。

動かしずらいはずの手が、小刻みに震えている。


モルフは窓から外の様子を伺った。

外では牛鬼が目を押さえて、その場で暴れていた。

時空間管理人の拳銃の玉が、牛鬼の目に当たったようだ。

「これで朝まで待つしかない。」

時空間管理人が言う。

「牛鬼は太陽の光に弱い。朝が近づけば奴は山に戻る。」



なんだか、夜明けが長く感じられた。

お札を張っていれば大丈夫と分かっていても、どこか不安でどうしようもない。

店の中には、良太、モルフ、時空間管理人。

そして、寝息をたてるエイル。

誰一人として、口を開かない時間が続いた。

外では、牛鬼の暴れまわる音や甲高い咆哮が聞こえる。

「いてっ」

モルフが傷ついた良太の顔を、濡れたおしぼりで軽く拭いてやると、良太が短く声を上げた

「良太殿、すみませんじゃ。」

モルフはそう言って、拭くのを止めた。

「ごめん。」

良太は、小さな声で謝った。

「お前は、考えなしに行動しすぎだ。まだ力も無いのに。」

腕を組んで椅子に座っていた、時空間管理人が良太に言った。

「…すみません。」

良太は力の無い声で答えた。

「ちぃっ。」

そんな弱々しい言葉しか出ない良太に、時空間管理人はイライラしながらも、言葉を続けた。

「まぁ、あそこでお前が肩を貸してくれなかったら、俺は今頃、バケモンの餌食だっただろうから、文句は言えないがな。」

それは、時空間管理人なりの感謝の言葉だった。

その言葉を聞いて、床に寝転がったまま、動けないでいる良太の目から涙がこぼれた。

「オレ、何も出来なくて…ただ…ただ…怖くて…動けなくて…。」

良太は体の痛みと同時に、心まで傷ついていた。

「当たり前だろうが。」

時空間管理人が言った。

そして、続ける。

「お前はこの村に来て、一日二日だろうが。まだ、修行らしい修行も出来てない状態で、あんなバケモンに会っちまったんだから。力も自信も無い奴が、平気で居られる訳がない。」

「その事なのですが…。」

モルフが時空間管理人の方を向いて言った。

「このエリアはもともと、人間達が旅をする為の準備をする場所と聞いておりました。」

「そうだ、人間達はこの村で、旅に必要な物を買いそろえたり、情報を得たりする。中にはそいつみたいに、働いてお金を稼ぐ奴もいる。…あんな化け物と戦う場所じゃねぇ。」

「では、なぜ、あんなに強い魔物が…。」

「それが、よく分からねぇんだ。」

時空間管理人はため息をひとつついて、語り出した。

「この村には何百年も昔、牛鬼がいて、人が住めるような場所じゃあなかった。だが、どこかの勇者パーティーがこの村を訪れ、牛鬼を封印した。その勇者はレベルが半端なく高い奴で、そいつの力で封印された牛鬼は、二度と蘇る事はないと言われていた。だから、この場所が、輪廻転生の為に勇者や賢者、魔法士などになるための人間達が、最初に訪れるエリアとして、運営されていたんだ。でも…なぜか、その封印が解かれていた。」

「どういう事なのでしょう?」

「分からない。」

時空間管理人は頭を振った。

「ただ、レベルが高い勇者の封印を解いた、とんでもない奴が居るってことだな。牛鬼も恐ろしいが、封印を解いた奴はもっと、恐ろしい。」

「では、あそこで暴れている牛鬼は、やはり、封印されていた牛鬼ということですな。」

「だろうな。牛鬼が封印されていた山には近づけねぇが、俺たちが管理しているこの村に、魔物が湧いて出てくるはず無いからな。」

「ふ、うん。」

突然寝ていたエイルが寝返りを打った。

その事で、時空間管理人は初めて、この店にもう一人居ることに気付いた。

「あの子は?」

「この村に入ってから、出会った子ですじゃ。今は我々と行動を共にしておりますじゃ。」

「…」

時空間管理人は何か引っ掛かりを感じていた。


「外が静かになりましたな。」

モルフにそう言われて、さっきまで聞こえていた、牛鬼の咆哮がしないことに、時空間管理人は気付いた。

窓の外を見ると、周りが白み始めていた。

「夜明けが近い。」

モルフは窓際に行き、外の様子を見る。

そこは、真っ暗な世界から蒼白い世界へと変わりつつあった。

そしてそこに牛鬼の姿はなく、その代わり、牛鬼が通った場所の道が水分を含み、ぬかるんでいた。

それは、幾つかある山の一つに向かって続いていた。

「山に帰ったようですな。」

その言葉に、時空間管理人は緊張の糸が途切れたのか、安堵の息をついた。

「とりあえず俺は一旦事務所に戻る。仲間と情報収集に当たるが、お前達は当分、昼間は通常通り生活して構わないが、夜はお札を張った家の中に避難してろ。」

「分かりましたじゃ。」

そんなモルフと時空間管理人の会話を良太は、ただ、聞いている事しか出来なかった。


つづく。

読んで頂き、ありがとうございました。


また、ぜひご覧ください。

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