第七話 誰かを導く者として 【幕間】
今回はサーシャ 様のお話。
フレアさんとの髪色の違いが少ない……。どっちもほぼ翠色……。
稀有が去ってからはや二週間。
私の目標がなくなってしまった。
稀有はずっと私の目標でいた。いさせた、というのが正しいかもしれない。
私もノエルも天才だ。
自尊心が高いわけでも、買いかぶりでもなく、本当に頭がいいそうだ。どうしてわかるのか、なんて聞かれた。どうやら、異界にはそういう便利器具はないらしい。
でも、話を聞けば聞くほど、こっちの世界よりも便利な器具が出てくる。
薄い板一つで様々な情報を手に入れることができる、なんですか、それは? そんなものがあれば今すぐに欲しいですよ。世界改革が発生してしまいます。
稀有を連れ戻そうとしても、拒否され、ノエルですらさっさと帰れ、という視線を向けられた。
そりゃあ、自分を裏切った男の娘。嫌われて当然でしょうね……。
「くあぁぁぁぁぁ………」
「お疲れ様です」
隣でノエルが紅茶を淹れてくれていた。
気づかなかった。どれほど集中していたんだろうか。
「? サーシャ様? なんで泣いているんですか?」
悔しいなぁ……。
なんで……。
アイツらはあそこまでクズなんだろう。
利用価値がない。搾取できない。そんなのどうでもいいじゃない……。
手元にあった書類をまとめてクシャリ、と握り、ぐしゃぐしゃにしてしまう。
焦ったノエルが私の手をどかそうと、握ったその右手を開かせようとするが、私の意識はもう別にある。
ああ……、そうか……。
なんで気づかなかったんだろう。
アレが消えればいいなら…………
「サーシャ様ッッ‼︎‼︎‼︎」
え、と。
自分の惚けたような素っ頓狂な声が、よく聞こえた。
音のほとんどないこの部屋に、よく響いた。
あれ? 私何考えてたんだろう?
わからない。
「サーシャ様……。よかった……」
ノエルが安心した、という様子で胸の前に手を組んで添えている。
心配をかけてしまったのだろうか? でも、何に? 心配をかけたなら、きちんと言ってあげないと……。
「ノエル、大丈夫だよ」
って。
あれから三日がたった。
私は部屋に篭って書類仕事をするのがメイン。
時折父……国王に呼ばれて、勇者の育成係を兼任している。
私も戦える。
「は、何言ってやがる。王女様は見てればいいんだよ。俺たちが活躍する姿をな……」
自尊心が高いのは結構。
でも、遠慮がない。
これはお灸を据えたほうがいいかな。
「わかっているんですか? あなた方は力に貪欲でなければならないんですよ? 利用できるものは利用し、そして活用する。その繰り返しです」
私だって、利用できる地位だからこそ王女でい続ける。
価値がなければ王女なんてやめて、冒険者にでもなるだろう。
だからこそ、彼らもそうでなくはならない。
私たちでは厄災に、災害に100%対応できない。
だからこそ、異界の力に頼った。
仕方ない、と。割り切って。頼った。
それなのに、この態度。
異界からの勇者のくせに、努力もしないで、今ある力で勝手に最強と思い込んでいる。私が下手に叩きのめせば、ちーとちーととよくわからない事を口走って罵倒してくる。
御し難く、理解し難い。
実力は努力に比例するとは聞いたことがないのだろうか?
彼らに足りないものはただ一つ。
努力だ。
別に協調性や協力的な戦い、そんなものは要求しない。
実際私もやってみろと言われれば、できませんの一点張りとなる。
そういうのは現場で臨機応変に対応していくしかない。
だが、そのためにも努力が必要となる。
きちんと努力をしている子もいるみたいだが、まだ全体的に見ても二割程度といったところだ。
もっと、ちゃんと教育して、強くなってもらわなくては……。
§
教育の雑務も終わり、私はベッドに倒れ込む。
疲れた。
正直いって、異界の勇者なんて質の良いのを一人か二人ほどメインで鍛え、あとは予備の扱いにしてしまえばいいと思うのだが……。そこにはきちんとした思慮が巡っているのかもしれない。
そういう面に弱い私では、口出しができない。
変に口添えをして、脳筋王女とか単細胞王女なんて呼ばれれば、一生の恥だ。
別に王家の恥さらしになってもいいが、個人の恥は嫌だ。
稀有に変な目で見られることになるかもしれないし……。
だから、私は努力をし続ける王女で、いなければならない。
天才の、王女でなくてはならない。
束縛されていなければならない…………。
誰かを導く、王女として……………