第六話 新しい日常
それから程なくして、王都のほうに戻ってきた。
ウルフことフォレストウルフを合計五十四体討伐した、と報告を済ませた後は、恒例となりつつあるゴロゴロタイムだ。
やることもない。
貨幣を使うこともない。というか、宿の代金くらいにしか使ってないような……。
「装備は買わないのかしら?」
「んー、あったとしても多分意味ないですし。スキルが補っちゃうので」
そう、スキル〈奪命剣〉はそういう方向性のスキルだ。
ドレイン系、とでも言えばいいのだろうか、回復を担っていながら、常時発動している。こうしている今も、発動しているし、俺がフレアさんを殴ればそれだけでドレインが発動する。
高性能どころではないのだ。
まだ未解放のスキルが残っているが、あれはどうも条件がわからない。
〈奪命剣〉に条件があるのを知ってからは条件を確認しようと思ったのだが、どうも『条件:不明』としか表示されず、困り果てていた。
まあ色んな物や魔物を破壊、殺し続ければ解放されるかな、と思って活動している。
ちなみにフォレストウルフ五十四体分の経験値はフレアさんがいたことによる補正で大体8000ほど入った。
レベルが2上がったのだが、フレアさんに至っては十分の位置も埋まらなかったとのこと。
レベル200超えは伊達じゃないらしい。
「フレアさんて炎以外の魔術も扱えるんですか?」
「炎魔法と炎魔術、爆裂魔法。これしか使わないわねぇ」
んん……ん?
「えっと……」
そう疑問を口にしようとすると、察したのか、フレアさんは自主的に自白してくれやがりました。
「私はぁ、炎系統の魔術・魔法以外は使わない、っていうロマンがあるの」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「だってぇ、炎。燃やすってロマンでしょぉ? ほらほら見てよ」
そういながら、指先にライターの火程度の、漆黒の炎を出して見せる。
それだけで大体察した。
この人はある種の厨二病にかかった人だ。
「こう、闇の炎、って感じがしない?」
「まあ、しますね……」
うん、ダメだとわかってても言っちゃうんだな……。
その後、散々炎魔法や炎魔術について語られるのはいうまでもないだろう。
フレアさんの炎大好き地獄の渦から解放された俺は、とりあえずどこに行く宛もなくほっつき歩いていた。
正直、一日一クエスト、という感じでやっているので、午後などのクエストが終わった後は毎日暇なのだ。
暇なら暇でもいいけど、クエストしたらどう? なんてウフィーレアに言われたこともある。
それでも俺はこうした制約的なのを作って活動し続けるつもりだ。
誰かに言われてその道をねじ曲げるなど、三流以下も良いところだ。
が、やることがないことに変わりはない。
何をしようとしてもやる気が起きない、なんて状態ではないのが救いなのか………。
とりあえずは、フレアさんに言われたこと、防具を揃えようと武具屋に向かっているところだ。
〈奪命剣〉があるのだから必要はないのだが、致命傷をすぐさま治すような便利スキルではない。
それ故に、急所となる部位を守る、最低限の装備は必要だ。
一応、職業は破壊者、ではある。が、『破壊者』とはあくまで場を荒らすジョーカーのような役目。
『破壊者』が激レア職業、と呼ばれる理由の一つは、その格上への圧倒的有利さにある。
『破壊者』の職業を持っている人は、剣士だったり魔導師だったり盗賊だったりと千差万別だ。
だが、共通点が最低でも一つある。
誰もが対格上で圧倒的に有利となるであろうスキルを、それもユニークスキルを持っているのだ。
俺の場合は〈奪命剣〉と〈破壊〉。
〈破壊〉についてはまだ不明だが、〈奪命剣〉は確かに対格上で有利となるだろう。
なんせ攻撃するたびに体力を強制的に奪うのだから……。
「で、どうするんだ? 盗賊系の防具は完全に身軽さを意識した、繊維系だ。防御力に関しては一級品。鉱石や竜とかの鱗と同じくらいのものもある。ま、その代わりとしては耐性は全体的に少し低めだがな。どうだ?」
身軽さ。
剣士に身軽さは必要である場合と必要のない場合がある。
ノエルの場合は身軽さより防御力を重視していた。
ノエルは大剣使いだが、振りがものすごく早い。魔術も扱えるのだから、緊急離脱も可能。それ故に機動力はある程度無視してオッケーであった。
そのため、防御力をかなり重視していた。
俺の場合は逆の方がいいだろう。
振るのも遅いし、一撃離脱より、その場で回避し、次の攻撃に素早く移る。
多少のダメージならば手数を稼げば回復できる。
「じゃ、これもらうよ、おじさん」
そういい、金貨を三枚取り出し、支払う。
俺が購入したのはローブとロングコート。どちらも黒だ。
黒は奪う、というイメージがある。
まああくまで俺の偏見なのだが……。
体力吸収攻撃を行う黒ずくめの男とか……。
フレアさんのこと、あまり言えないな……。
宿に戻ってみれば、フレアさんが暇そうに魔術を使っていた。
「ちょちょちょぉぉっ‼︎⁉︎ 何してんですか‼︎⁉︎」
「ん? みればわかるでしょ? 核融合による新たな爆裂魔法の実験よ」
「確かにそんなこと教えましたが……。確かにD……、デューテリウムとトリチウムを集める工程は魔術で行えますし、あとは魔術でどうとでもなるんでしょうけど……。それを宿でやりますかっ⁈ というか、俺もほとんど知らない現象をなんで少し話しただけで理解するんですかっ‼︎‼︎⁉︎」
フレアさんは、こっちを見ると……。
「炎愛♡」
「ざっけんなッッッ‼︎‼︎‼︎」
ダメだ。
この人と組んでいると、俺が根本的に駄人間になってしまう……。
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