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第一話プロローグ

「高橋さーん、高橋さーん、二番の診察室へどうぞ」


看護師の声に呼ばれ、俺は診察室の前に立つ。血液検査、それが俺の今日の目的。なのだが……。

「……やだなぁ」


俺は診察室の前で血液検査を予約してから何回したかもわからないため息を吐いた。

ここまで来てしまったんだからもうどうにもならない。


「……そんなことは分かりきってるんだよなぁ」


血液検査とか意味がわからない。

めちゃくちゃ太い針を腕に刺して、血を吸い上げる。

考えただけで貧血になりそう。

第一何であんなに太い針なんだよ。別にもう少し細くていいじゃん。

細いと時間がかかる?血液検査で行列が出来てるとこ見たこと無いんだけど……。


「あのー、高橋さん、大丈夫ですか?」


思考を巡らせていると診察室に中々入ってこないことを心配したのか、診察室の扉が静かに少しだけ開き、看護師が顔を覗かせていた。


「あっ、すみません」


俺は謝罪のため頭を少し下げて診察室に入る。

清潔感溢れる白系統で統一された診察室。いつもなら心からキレイだと思えるのだが、今日の俺にとっては逆に不気味に思える。

しかし、俺も男。女性の前ではそんなことを思っていることがバレてはいけない。しっかりと顔に余裕ですよ感をしっかりと出しておく。

あぁ、足が震えてる。

歩くのにも一苦労。献血とかしてる人はすごいなぁ。

そんな周りの人からしてみれば下らないこと、しかし俺にとっては現実から逃げるためにそんなことを考えているうちに俺は椅子に座っていた。

肘の内側を相手に見せるように腕を出す。

あぁ、やばい。

緊張からか、太腿の上に置いている手の手汗が普段は考えられないような汗が出てくる。


「じゃあ、針刺していきますねー」


看護師は、焦りに焦っている俺のことを置いてそう宣言し、俺の腕に針を刺していく。

俺の腕の皮膚を針が貫通し、だんだんと血が吸われている。


「力は抜いてくださいねー」


どうやら本能的に腕に力が入っていたらしい。

……どうやって力抜くんだ?やばい。力ってどうすれば抜けるんだっけ……。

落ち着こう。落ち着けば人生何とかなるって、離婚の危機を乗り越えた高校の時の担任の先生が言ってた。


「ふぅ」


落ち着く方法①深呼吸

……無理無理無理。なんか腕に刺さっている針のことを意識しちゃって逆に体が強張り始めた。

違う方法にしよう。

落ち着く方法②開き直って採られていく血を見る。

……もっと無理。意識しすぎて吐き気がしてきた。

他の方法は……。

俺は何気ない気持ちで俺の血を抜く人のことを見る。

綺麗な女性。しっかりと血を取るために針のことを見ている。よく見るとさっき見た笑顔が少し強張っていることに気づく。

看護師でも血を採るのは怖いのか。

そんなことを思い始めると段々と焦っていた気持ちが落ち着いていき、腕の痛みが引いていく。自分よりも焦っている人がいると落ち着くあれ。高校のテスト前は良く焦っている人を探したっけ。

というか本当に綺麗な人だな。綺麗よりのカワイイ系だと思う。


「これで終わりですね。お疲れ様でした」


そんなことを俺が考えていると血液採取は終わっていた。


「血液採取、お上手なんですね」


俺は針の刺さったところを押さえてながら、女性にそう声を掛けていた。


「ふへっ」


女性はそんな声を挙げる。


「あっ、すみません。自分血液検査が苦手なので、その、痛く無かったので、その、恩を感じて?」


何を思ったか俺はその看護師さんに対しそんなことを口走っていた。しかも後半は自分のしてしまったことに混乱し、何を言っているのか分からない。

これだから血液検査は……。最初から最後までいいことが無かった。唯一あるとすれば看護師さんの顔を見れたことだろうか。


「あっ、ありがとうございます」


俺はやってしまったことに気落ちし、俯きながら足速に診察室を去ろうとすると、何故か感謝の意を持つ言葉が投げかけられた。

俺は驚きつつも看護師の方へ振り返る。


「私、血液採取やるの初めてですっごく緊張してたんですけど。その、あなたがすっごく顔を真っ青にしながらもぎこちなさ過ぎる引き攣った笑顔を見たら、なんか緊張しすぎるのも馬鹿馬鹿しくなってきて、案外リラックスしてできました。ほんと、ありがとうございます」


女性看護師が俺に言葉を投げかけてくる。


「俺の笑顔、引き攣ってました?」


「はい。今までの患者さんで見たことないくらいに。何なら手術前の患者さんよりも酷かったですよ」


「……そうですか」


どうやら、笑顔をうまく作れていなかった挙句、手術前の患者さんよりも酷かったらしい。

ここに来る前に警察に職務質問されたのは、薬でもやってると思われたんだろうな。

俺はそのあと検査結果などを聞いて、病院を後にした。

……次の血液検査までに笑顔の練習をしようかな。

俺は病院の帰り道に静かにしかしとても強い目標を立てたのだった。


「それにしてもあの看護師さん、かわいかったなぁ」

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