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夕焼け空が赤い

Iris様Twitter企画です。

こういうイベント初参加。

いろいろ教えていただきましたが、すごく丁寧でした。

ありがとうございました。

挿絵(By みてみん)

夕焼け空が赤い。

小さな公園を横切る。

小さな子どもたちがところ狭しと走り回っている。

彼らの保護者だろう大人たちはベンチに座り、子どもたちを見守りながらお話ししている。


(なんだかいいな)

その光景を見て、自然と笑みが零れる。

少しだけ、立ち止まる。


(私もいつかああなるのかな?)

まだ見ぬ将来に淡い期待を抱く。

風が一瞬吹き抜ける。

上着とスカートがパタパタとはためく。


(いい風が吹いている)


耳にかかるくらいの短い髪の毛をかきあげて、髪形を整える。

その後、スカートと乱れたカーディガンを整えてその場を離れていった。


少しだけ現実から目を背けられる貴重な時間だった。


今、私は帰路にいる。


いつもならば真っ暗な道を歩いて帰るのだけれど、ここしばらくは特別だ。

日が長くなったお陰と残業が減ったこと。

私は知らないけれど、国の力が働いているらしい。

「働き方改革」


残業が減るのは嬉しいけれど、その分収入が減ってしまう。

(まぁ、仕方ないよね)

と、今ある時間を幸せに有効利用しよう!


私はこれまで世間一般的に普通と呼ばれるような人生を歩んできたように感じる。

大学までなんとかでて、普通と呼ばれる100社以上応募した就職活動。

そして、幸いにしてなんとか得られた内定。少しだけ有名な出版社だ。

そこで5年間ほどお世話になっている。


お世話になっているけれど、仕事内容はハードだ。

事務職での採用だと言われ、その業務をしたのはたった1年。

今では、事務は当然、企画から運営。

新人がやる内容ではないよねぇとは感じている。


お世話になった先輩がいけなかった。

女の人だったんだけど、すごく活力のある方で、なんでもかんでも仕事を受けては私に振ってくる。

これが普通だと思って、寝る間も惜しんですべて締め切りを守っていたら、上司にも気に入られて。


「期待の新人だ!事務だけではもったいない」と言われて配置換え。

もちろん、先輩と共に。

(うちの会社、人がいないのかしら?)

会社でたくさんミスはしたけれど、ただの一つも怒られないのはいいところよね。

友だちにきけば、よく怒られる会社もあるって聞くし。

勤務時間は長いものの、職場の雰囲気は嫌いではない。

残業手当もしっかりつくし、むしろ楽しいとも思える。

もともとはロングヘアだったのに、手入れが大変でバッサリとカット。

同僚に好評だったのは良かった。


だけど、夏はもうすぐ本番だ。

日差しがきついのでこの緑の上着を羽織っているものの、そろそろ暑さで耐えられないかな。

社会人となった今では服以外で季節感を感じることがない。

(何か夏らしいことはできないかな?)


住宅街を抜けて、そろそろ駅に着こうかってところ。

いつもはそのまま電車に乗って家まで直行するんだけれど。

町を見渡す余裕が今の私にはある。


(へぇ、改めて見るとこんな所だったんだ。素敵な街ね)

決して、きらびやかな街並みではない。

駅を中心に商店街が立ち並ぶ。お店がたくさんある。

部活動を終えた高校生がコロッケを片手に自転車を押しながらおしゃべりする。


(き、器用だわ)

そんな小さなことにも笑いが止まらない。

手がみっつないとコロッケが落ちてしまいそう。

それでも、高校生たちは何事もないように歩いている。

楽しそうだ。


(私も青春時代に戻れるかな?)

今日はこの商店街を冒険してみよう!


嬉しいことに歩いているとお店から声がかかる。

「きれいなお姉さん! おはぎはどうだい?」


言われなれていないから、どうしてもニヤニヤしてしまう。

なんとか、表情を隠しながらその声の方向に顔を向けて歩き出す。


「お試しにひとつどうぞ」

ああ、なんだかテレビにありそうなシチュエーション。


「ありがとうございます」

と、慣れない手つきでおはぎを頂き、一口ほおばる。

「おいしい・・・」

思わず声が出る。


「そういってくれると嬉しいねぇ。仕事の帰りかい?」

とお店の人が気軽に尋ねてくれる。


「ええ、いつもより早く終わったのでたまには商店街にきてみようかなと」

「なるほどね、どおりで見慣れないと思ったよ。お姉さんみたいなきれいな人なら、一度見たら忘れないからね」

「え? 私綺麗ですか?」

「もちろん、清潔な服装に、涼しげな眼もと、純真で一生懸命に仕事してますってオーラを感じるよ」

「ああ、なんというか恥ずかしいですね」

「あはは、ごめんよ。口説くつもりはないんだ。ただ、そう言ってほしそうな気がしてね。でもま、言ったことは本当だ。お姉さん、自信をもちな」


(商売用のおべっかかしら?)

そんな疑いもあったけれど、純粋にそういったことばにとても心は動かされた。

うん、買って帰ろう。今日のお夜食だ。明日職場にもっていってもいいな。


「そう言っていただいてありがとうございます。とても嬉しいです。2つほど頂いていいですか?」

「毎度あり!」


いい買い物をしたわ、と鼻歌を歌いそうな表情で歩いていく。

気分は上々だ。

足は軽やかに進んでいく。


(あら? これはなんだろう? 居酒屋?)

商店街の街並みに漏れない古びた建物。

だけど、身なりは整っていてすごく上品そう。

入り口にはのれんがかかっている。


(開いているのよね?)

お財布の中身も少し心配だけど、少し顔を出してみようかな。

軽い気持ちで引き戸を開けた。


「いらっしゃい。お一人さまで? カウンターにどうぞ」

中はカウンターがメインで4人席が3つほど。

厨房には男の人が1人で立っていた。

促されるまま、着席する。


「お飲み物は?」

「生をください」

「はいよっ」

元気な声が店内を駆け巡る。

心地いい。

まだ、お客は私一人。

貸し切り状態だ、なんだか嬉しい。


「はい、生お待ち。お姉さん、良い時間に来たね。もうすぐ人でいっぱいになるよ」

そう言いながら、店主はニカッとグラスを差し出した。


「この辺りに職場があるんですが、初めてお散歩に来たのです」

少しもじもじしながら私はこう切り出す。


「なるほど、良い街でしょう。夏には花火大会もある。近くにショッピングセンターができたものの、この商店街は負けてない。安さにかなわなくても、ウチには人が来る。ありがたいことです」


ああ、なんだかわかる気がする。

この街並みはなんだか安心する。

学生が立ち寄りながら下校する。

道は立ち止まっておしゃべりする女の人が多い。

カップルももちろんいる。


「人がいればなんとかなります。来て楽しめる、そんな街並みなんですよ。だから、また人が来る。まぁ、見えないところは大変なんだけどね」

と、笑いながら話す。


「お姉さん、お連れさんはいないのか?」

と店主は不躾にそうきいてきた。

「あはは、私は独身ですよ。仕事が彼氏みたいなもんです」

「そうか。なら、彼氏に疲れたときはゆっくりしていくといいよ」


ガラガラガラ。

新しい客だ。


「いらっしゃい。あ、注文決めたら呼んでくれな」

店主が離れていく。


こういう一日、なんだかいいな。

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