第2話
主人公が力を手に入れる前フリです。
これはいったいどういうことだ?
一瞬でダンジョンで孤独となった俺は、予期せぬ事態に不意を食らった。
転移の失敗?いや、これまでに魔術師が失敗したことは一度もない。であれば、呪文に働きかける罠だろうか?
どうにか必死に頭を回すが、この状況は自分一人で打開できるものでは到底ないということに行きつくばかりだった。
ひとまず、パーティと分断されてしまったのは何かのトラブルに巻き込まれたと仮定する。ならば、下手にここを動かないほうがいいだろう。きっと再び魔術師の転移で迎えに来てくれるはずだ。
俺は再び簡易なキャンプを設置し、パーティの仲間たち……もしくは他の冒険者が現れるのを待つことにした。
魔物に襲われる警戒を緩めず、そしてしばらくの時が過ぎた。
驚くほどに何の変化もない。初めは頭の裏隅にと置かれていた、あくまで可能性に過ぎないはずだった厭な考えは、確信へと変わった。
そうだ……最初から勇者は言っていた。"俺をパーティから追放する" と。
パーティにかけられる呪文は、パーティメンバーにだけ効果がある。至極当たり前なことが、この状況に解をもたらした。
俺はあの時、もう勇者のパーティにはいなかった。数えられていなかった。追放されていたのだから。
……なら転移魔法で俺だけがここに残されるのは当然だ。
俺は捨てられた。
気付けば、俺の口元はわずかに上がり、くつくつと喉から小さく笑い声を漏らしていた。
罠を避けることには人一倍慣れていたはずが、ここで人に嵌められるとは。これも長年宝箱ばかりを相手取っていたからか。
直接剣を交わしているならともかく、そうでない人間の悪意にはずいぶんと鈍感なものだ。
喪失心が胸に染みる。そんな自分を、ただ嗤うのみだった。
……大きなため息をつく。それは後ろ向きな行動とされがちだが、深呼吸の一種でもある。自身の心内を整理しようとする、無意識の行動でもあるのだ。
そのせいか、不思議と手が膝を打ち立ち上がっていた。もしかしたら、ただの自棄っぱちを起こし始めたのかは判らない。
まずは、ここを出る。生き延びてダンジョンから脱出する。この身一つで。
そう決断すれば、自然と頭は回り始める。
今自分の手元にあるものは?
肌着。これは最低限の衣服であり防具にはなり得ない。
金貨。今までなかなかの額を稼いだものだが、ここでは無用の長物だ。
そして残るは……勇者から手渡された短刀。それも未鑑定の代物だ。
裸同然というこの状況で、装備ができる、つまり戦闘で頼れそうなものはこいつのみ。もちろん、現状は戦闘自体を避けるべきではあるが。
ただ不安なのが、これが未鑑定であるということ。どんな効果を持っているのか判らないし、付加された呪いに見舞われてしまう場合もある。直接命に係わることではないが、不便極まりない事象ではある。
なるべくなら少しでもリスクは避けたい……が、ここはダンジョンの奥近く。素手で渡り行くほうが危険だとも思える。錆び付いた短刀ひとつでも装備していたほうがまだマシだろう。
藁をもすがる思いで、謎の短刀を握りしめた。……ああ、どうか。
深い信仰心など持ちえないこの身だが、この時ばかりは神に祈った。
すると……
握りしめた短刀が、眩く輝き出したのだ!
まるで、小さなその刀身に秘められた力を解放するようにーーー
手元にある強い光が目の奥に飛び込み、頭の奥までもが霞むようだった。
………………
…………
……いつの間に意識が飛んでいてしまっていたのか。
気付けば床に倒れ伏せ、あれからどのくらい経ったのかも判らなくなってしまっていた。
立ち上がろうとしたとき、右手に何かを握ってたのを思い出す。それが短刀だと頭に浮かんだ時には、柄までもが粉々に砕け散り無残な形となったがらくたが、開いた掌から零れ落ちるのだった。
次話で主人公が最強スキルを手に入れます。