第5話;僕はやっぱり弱い その2
翌朝
フェイは一人早く起きて、日課の素振りをしていた。今日はダンジョン攻略のリベンジだ。いつもより念入りに剣を振る。リリアンに手伝って貰うからと言って、頼りきりでは意味がない。率先して僕が前に立たなければならない。
「フェイ、早いのね」
次に起きてきたリリアンが声を掛けてきた。髪がボサっとしている。起きたばかりなのか。
女の子なんだから人前に出る時はもっと気を使った方が良いと思うけど……
そう思ったが口には出さなかった。何故かと聞かれれば、その姿も胸に来るからだ。今、そんなことは置いておこう。
「まぁ、日課だからね。これをしないと起きた感じがしないんだよ」
「へぇー、そうなんだ。けど適当な所で切り上げてね、朝ご飯がもう直ぐ出来るから」
「分かった、今行くよ」
朝ご飯を済ませた僕たちは出掛ける準備をして出発した。
「リリアン、フェイ君ー、夕方までには帰ってくるのよー」
僕達は手を振ってリリアン母に答えた。
あっと言う間にダンジョンに到着した。
(まさか2日連続でダンジョンに来るなんて思いもしなかったな……)
昨日とは違い、あっさり中に入った。
(昨日は色々と覚悟を決めて入ったのになぁ)
そしてダンジョン攻略はと言うと……
驚くほど速い、圧倒的に。リリアンが矢面に立っているわけではないが、それでこの力だ。羨ましい限りだ。
昨日僕が大怪我をした4階層もあっさり終ってしまった。次はラストの5階層だ。最上階にはボス部屋がある。逆にボス部屋以外は何も無い。初めてのボス戦、ボス部屋の前の大きな扉の前に立つと、複雑な気持ちになってあるのが分かった。興奮、恐怖、好奇心、様々な感情が擽られる。
「リリアンってボスと戦ったことある?」
「もちろんあるよ。このダンジョンのボスは数えられない位、倒したからね。このダンジョンを周回するのが私の日課なんだ」
どんな日課だよと思いつつも、リリアンなあり得ると納得もした。ダンジョンの魔獣は倒しても、1時間くらいしたら元通りになっている。それを利用しているのだろう。
僕にも出来る日が来るのかな、なんてことを考えたが、今は目の前の事に集中だ。
「リリアン良い?」
「何時でも良いよ、フェイ」
「じゃあ行くよ、せーの」
ゴォゴォゴォと、音がして扉が開いた。
中に居たのはハイオーク3体。
(そうか……ハイオークが現れたから、オークは下の階に追いやられたのか……)
この世界は弱肉強食、弱い者は強い者に淘汰される。それがこの世界の理。
「いいか、フェイ?私がアイツらの攻撃を防ぐから、そのスキに斬りまくって」
「了解!」
僕は剣を構えた。どうやら向こうもこちらに気が付いたようだ。武器の棍棒を持ってこちらを向いている。
両者構えて向き合う。しかしそれは長くなく、先に均衡を破ったのはハイオーク達だった。
地を蹴って向かってくる。速いーとてもあの巨体から出る速度じゃない。スキルを使っているのだろう。
(くっ……身体強化か……)
普通なら低レベルの僕には勝てない相手だろう。でも今は違う。
ハイオーク達は一斉に棍棒を振り下ろす。だが僕は避けない。
刹那、ハイオーク達の棍棒が吹っ飛んだ。リリアンが瞬時に僕の前に出て全て弾き返し、おまけに吹き飛ばすサービスまで追加した。オークの言語が分かる訳では無いが、明らかに焦っている。
そして何を思ったか、揃って棍棒を拾いに行こうとした。戦いの途中に敵に背を向けるなどあってはならない。もちろん僕でさえ見逃すはずも無く『身体強化 小』を発動し、3体の背中を斬りつけた。ただ威力がやっぱり足りない。
(僕はやっぱり弱いな……)
だが全く昨日と同じ訳ではない。明らかに傷が深くなっている。
(おぉ、凄いなこの斬り方。リリアンに少し教えて貰った甲斐があった。)
どうやら僕の剣には無駄が多いらしい。その無駄を取り除いたのが今の剣だ。
そして昨日と同じくただ斬りまくる、命が尽きるまで。1体ずつしか倒せないが、邪魔はリリアンが防いでくれた。お陰でかなり楽に倒し切ることが出来た。
僕達は帰路に着いた。気付けば夕方になっていた。
実はあの後3回ダンジョンに入った。かなりクタクタだ。もう歩きたくないな……
でもこれだけ倒したのにレベルが上がる気配が一向に無い。経験値が2倍になっているのに。この調子で大丈夫かな……
そう物思いにふけていると、リリアンからこれからの予定を聞かれた。
「これからの予定かー、取り敢えず明日には一旦家に帰るよ。書き置きで伝えたのは2〜3日だったからね」
「そうなの……」
ちょっと残念そうな顔をしているな……
「まぁ帰るといっても、出直す感じかな。また1日位したら戻ってくるよ」
そう伝えると顔が明るくなった。
(機嫌を損ねなくて良かった……)
「本当っ!?絶対だからね?約束よ!」
まだ出会って2日しか経っていないのに随分仲良くなったなぁと思った。
「分かってるよ」
そう約束を交し、リリアン家に帰った。
そして翌日、皆に見送られて僕は村を去った。
家に着いてまず母様が飛び出して来た。余程心配したのだろう。まぁ親が子を心配するのは当たり前なのだが、この家では愛というものが少ない。だから僕は素直に嬉しかった。
そして母様には事情を話した。そしてこれからの予定も。
これからの予定は、lv,10になるまでか、僕の誕生日が来るまでリリアンと一緒にレベリングをする、このどちらかだ。
もしかしたら半年帰って来ないかもと知って母様はあまり良い心持ちにはならなかっただろう。けど僕が決意した事に支持してくれた。僕は母様に感謝してその日は床に就いた。
実は家に着いてから色々他にもあったのだが、それもまた別の機会で……
朝になり、再出発の準備を整えて、再びリリアンの村へと向かうのだった。
フェイはまだ知らなかった。自分に降りかかる悲劇を……
フェイはまだ知らなかった。自分が得る力を……
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