第5話;僕はやっぱり弱い その1
長かったので分割しました。
村に着くやいなや村の人達から声を掛けられた。
「おー、リリアンちゃんじゃねぇか。その背負ってる子は誰だ?おっ、もしかして彼氏か?」
何かこの人ニヒニヒしてるな……
おじさんなのに話好きのおばさんみたいな顔をしている。捕まったら厄介だな……
取り敢えず否定しておこう。
僕は全力で首を横に振った。
リリアンは「そこまで否定しなくても……」という感じの目で見てきた。
その視線に「うっ……」となりつつも、見てないふりに努めた。
リリアンはそんな僕の態度を見て諦め、話し掛けてきた人に挨拶し、その場を去った。
後ろから物足りなそうな視線を感じたが気のせいだろう……
僕は今一度、リリアンの背中から辺りを見回した。日は完全に沈み、月が出始めている。
村の中に灯りは少なく、何処か暗い雰囲気が漂っている。見た所灯りが点いている建物は一戸しかないようだ。その建物は村の中で一際大きい、集会所的な建物がある。恐らく何か祭り事でもしているのだろう。
気になったのでリリアン聞いてみた。
「今日は何か祭り事があるの?」
「ん……?そんなのあったかな?あっ、そう言えば、『今日は収穫祭だから早く帰ってきなさい』って言われてたんだ。忘れてた、えへへへ……」
リリアンって普段は8歳と思えないくらいしっかりしてるけど、ちよっと抜けてるところもあるのか……
収穫祭か……もうそんな時期か……
収穫祭とは、一年間収穫させていただいた神様に感謝する為の祭りだ。これには来年の豊穣祈願の意も込めている。
「で、僕は何処に連れて行かれるの?」
「あぁ、私の家にしようと思ったけれど、この様子だと家に家族は居なさそうだし集会所に行こっか」
そう言って歩き始めた。そんなに距離はない。数十秒あれば着くだろう。
「そうだね、……ん?」
(ちょっと待てよ……このままだと面倒くさいことになる!)
「リリアン!もう下ろしてくれていいよ、もう僕は大丈夫だから、自分で歩けるから!」
僕は焦っている、途轍もなく。この後起きるイベントを回避するために。
「なんで?まだ安静にしてなきゃ駄目だよ?」
僕に対し冷静なリリアン。僕が何を危惧しているのかわかっていない感じだ。
「本っっっ当に大丈夫だから!早くおろして、リリアン!」
(やばい、時間が無い!)
「だから駄目だって、まだ動いちゃ。後でまた回復魔法かけてあげるから」
リリアンはそう言って扉に手を掛けた。
僕は諦めて覚悟を決めた。これから巻き起こるであろう"言葉の嵐"に……
扉が開くと、そこは正しく"祭り"という感じだった。様々な料理、手作り感満載の装飾品、そして人、人、人。
僕たちが入るや否や、一斉にこちらを見てきた。そして何拍か置いて皆の目の色が変わった。まるで獲物を見つけた獣の様に……
そして各々が言いたいことを、譲り合いもせず、まるで嵐の様に放った。
「おぉ、リリアンちゃんにも、彼氏できたか?」
「あらー、リリアンちゃんおめでとう」
「これはお祝いしなくては!」
「名前はなんて言うんだ?」
「リリアン、そう言うことはまず親に報告しなさい」
「そうよ、リリアン。もうお母さんは心配してたんだから、彼氏出来ないんじゃないかって」
(これは駄目だ……勘違いがどんどん加速していっている……)
リリアンはこの状況に耐えられなくなったのか、大きく息を吸い込んで、大声と共に吐き出した。
「そんなんじゃないんだからあぁぁぁ」
リリアンがそう宣言してからも中々熱が冷めなかった。さっきのおじさんといいこの村はそういうのが大好きみたいだな。村人達は数分経ってようやく落ち着きを取り戻した。それから僕は簡単な自己紹介をして、ここにいる経緯を手短に話した。
「そ、そういうことだったのかぁ。済まないね、フェイ君」
「本当ごめんねぇ」
今、謝っているのはリリアンのご両親だ。別に怒っている訳ではないので、特別何かするとかは無い。
「いえいえ、大丈夫ですよ。僕も娘さんに手当てして貰った身なので」
「あら、そう?なら良いのだけど。折角だしフェイ君も参加しっていってくださいな」
「はい、そういう事なら是非参加させて頂きます」
何があるか見てみようと思い、腰を上げる。同時に体の調子も確かめる。
(うん、問題無さそうだ。リリアン様様だな)
さっきまた回復魔法をかけてもらった。リリアンの回復魔法は本当に凄い。まさか、骨折が1日で治るなんて思いもしなかった。気に掛かる事は無くなった。少し楽しもうかな。
そしてしばらくは楽しい時間に浸った。
一応解散となったのは10時を回った位だった。多かった人も今ではまばらだ。
僕はバルコニーに出て月を眺めていた。
(今日は満月か……)
今日は本当に濃い1日だった。ダンジョンを攻略し、リリアンに助けられ、収穫祭に参加したり、人生で経験をしたことが無いような濃密っぷりだった。そんなことを考えているとリリアンが声を掛けてきた。
「ねぇ、さっきフェイが話してたことだけど、私がレベリングの手伝いしようか?」
「本当に?リリアンが付いて来てくれるなら心強いけど……」
「大丈夫だって!別にフェイの事は見捨てないから。それに私が言ったのには別の理由があるんだ……」
(なんか良い雰囲気なんですけどー)
「勇者にはね、神の加護が与えられるんだ。それの効果の内の1つに、周りの人が得る経験値が増えるっていうのがあるんだ。それを利用すれば、もしかしたら間に合うかも知れないよ?」
ちょっと期待して損した。けど、その後の話はとても有り難いものだ。是非協力して貰いたい。
「じゃあ手伝って貰おうかな。よろしく頼むよ、リリアン」
「こちらこそ!」
そこから話を詰めて、明日からという話になった。
今夜はリリアンの家でお世話になることなった。そこでまたひと悶着あったのだそれはまた別の話だ。
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