制服と性別(4/?)
その日の放課後。
黄金色に輝く夕日が差し込む相談室には先日と同じ光景が広がっていた。
使い古しの椅子に座る助手と、彼女の傍に佇むウツロイと、助手と向き合う形で腰かけた依頼人・逢沢の姿。
ただ少し違う所があるとすれば、それは逢沢の表情だろう。
「──と、いう話でした」
覚悟秘めた表情に向けて助手は昼に鳴無と話した内容を掻い摘んで説明した。
すると、
「うんっ……!」
逢沢はそう呟くと小さく拳を握り締めた。まるですべてに納得したと言わんばかりの喜びだ。
それを受けて助手は「あれ?」と。
「い、いいんですか?」
「えっ、なにがですか?」
鳴無は逢沢に好意を持ちつつも、あることを何よりも気にしていた。
しかし逢沢はそんな事実を気にすることなく、きょとんとした顔で見返してくるのだ。だからこそ助手にしてみれば逢沢の反応は予想外だったのだ。
助手は思わず隣を見上げると、昨日とはまた違うブラウスとスーツを着こなしたウツロイが平然とした顔で軽く腕を組んでいる。
「なんというか、改めて鳴無先輩の気持ちを知っちゃうと、なんだか恥ずかしいですねっ」
そう言うと逢沢は「あはは」と苦笑いで照れ隠しを誤魔化した。
助手はどこか釈然としないながらも本人が気にしないならと言葉を飲み込む。
それで、とウツロイ。
「当然告白するのだろう?」
言われて逢沢は全身の毛を逆立てる勢いでのけぞり驚いた。
何を隠しているのか、ウツロイが見透かしたような目で見つめると、
「いや、その、ええっと」
「相思相愛だぞ? もはや躊躇する理由なんてどこにも見当たらないじゃあないか」
「なんていうか、タイミングというか……」
「ここまで私達に働かせておいて今更怖気付いたなんて言わないだろうね?」
「いや先生は働いてません」
呆れ顔で呟く助手。
「先生の話は、無視していいですから」
「それはそれでひどいね君……」
気を取り直して、恥ずかしそうに俯く逢沢へとウツロイは語り掛ける。
「いいかい? 愛というのは相手を幸せにしたいかどうかなんだ。そう深く考えず、どーんと玉砕覚悟で全力でぶつかって行けばいいのさ」
「ぎょ、玉砕だなんて、そんな……」
情けなく狼狽える姿にウツロイはやれやれとばかりにお手上げ。
ここまでの話で助手は一つだけ分かった事がある。
いかにどれだけ二人の男女が互いの事を考えていても、どれだけ互いの気持ちを知っていても、結局は言葉にして伝えなければ何も始まらないのだ、という事だ。
これだけお膳立てをしても本人が動かないのに、その感情に意味があるのかと。
でも、と助手はその考えを自らを否定する。
「多分ですけど、鳴無先輩は待っていると思いますよ」
本人が動けないのなら、周りが支えてしまえばいいじゃないか、と。
素っ頓狂な返事が逢沢の口からぽろりと漏れた。
「ほんの少し、話しただけですけど。逢沢くんの事をべた褒めでしたから。本当に好きなんだなと。でも思いを伝えれないことが、すごく残念そうで。だからこそ、逢沢くんから言ってくれるのを、ずっと待ってると思います」
口を衝いて出た心からの台詞。
助手は妙に小っ恥ずかしくなり思わずそっぽを向いてしまった。
「言うじゃないか。流石私の助手くんだ」
「助手じゃないですっ」
まさか彼女がこんなにも深入りするとは露ほども思わなかったウツロイ。
賞賛の意を込めて頭を撫でまわし、助手は半ば怒りながら手を払いのける。
「その通り。難しいことは何も要らないのだよ。助手くんがしたように、君も自分の気持ちに素直になって口にするだけさ」
逢沢は感心したようにウツロイの言葉を繰り返した。
「助手くんも普段からこれくらい素直だったらいいんだけどねえ」
意地悪そうに口端を吊り上げるウツロイに助手は頬を赤らめながらもギロリと睨みつけ、
「余計なお世話ですっ」
おお怖い怖いとお道化て助手から逃れながら、彼女は人差し指をピンと立てて見せた。
「一つアドバイスだ」
「はい……?」
「例えば可愛い格好でもして気を引いてみたらどうだろう? 可愛いもの好きが相手なら意外と気が引けるかもしれないね。例えば、そうスカートを履いてみるとか」
「何言ってるんですか……」と助手は呆れ果てた。
確かに意外と似合うかもしれないが、意味不明な助言に訝し気に睨みつけた。
「案外、いい作戦かもしれませんねっ」
「はあっ……?!」
意味深に笑い合う二人に頭が痛くなる助手だった。