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幽霊(4/4)

 翌週。

 助手は普段通りの不愛想さで相談室に入ると、机の中から一枚の用紙を広げた。

 表題は、活動報告書。

 その空欄へ。筆箱からシャーペンを手に、依頼の一部始終をお世辞にも綺麗とは言えない字で綴っていく。

 調査の結果、女子寮を騒がせた幽霊騒ぎは無事に解決されていた。毎晩目撃情報と悲鳴で賑やかせていた寮内でも、幽霊はその後すっかり姿を見せなくなったという。ただ何人かの生徒に行った聞き込みでは、新しい噂の流布については確認できなかったが。

 しかし彼女にしてみれば大切なのは相談が無事に解決されたという事実のみ。

 故に報告書の真ん中へポンと、自信満々に『解決済』の印を押した。


「そういえば──」


 ふと助手はある事を思い出した。

 依頼を受領した翌日の事。ウツロイが依頼人に再び事情を聴きたいと学校と女子寮で探し回ったのだが、その甲斐むなしく彼女は見つからなかったそうだ。

 最終的に見つかったのは、『雨野あずさ』という名前の生徒がこの学校の名簿にすら存在しないという事実だった。

 恥ずかしさのあまり偽名を使ったのか、もしくは学校外の関係者が制服を借りたのか。

 確かなのは、もう確かめようがないという事だけ。

 そう助手が物思いにふけりながら、ぴらぴらと報告書を振ってインクを乾かしていると、


「やあ……助手くん。君はそんな身だしなみにも関わらず、性格は真面目だねえ」


 と後ろ手にノックしながら現れたのはウツロイ。

 声を聴いて助手は反射的に不機嫌そうな顔を作りかけ、しかし今回は自然と訝しげな表情を浮かべた。

 それは、


「大丈夫、ですか? いや、先生が大丈夫じゃないのは、知ってますけど」

「いや……露骨にひどいね、君」


 助手はウツロイの意外な様子を目にして戸惑わずにいられなかった。

 彼女にとってウツロイは腹正しいことに、非常にしぶとい女だ。精神的にも太々しいことながら体力面においても一切隙を見せた事がない。いつもならうすら寒い笑顔で現れる所を、今日は珍しく苦悶と半々と来た。ざまあみろ? とんでもない。少女にしてみれば気味が悪い事この上ないのだ。


「顔色、悪いですけど」

「うん、休日からずっと体が妙に重たいんだよねぇ」


 言われて条件反射でつい自分とは正反対な体つきへ視線を寄せて、


「それは自慢のつもりですか」

「どうにも急に太ったのか、体力が落ちたのか。なんだか夜も寝つきが悪くて」


 まるで牙を抜かれた猛獣だ。

 あまりにも深刻な状態にゾゾゾと思わず引いてしまう。


「…………呪われてるんじゃないですか」

「こらこら不穏な事をいうんじゃあないよ。そこは季節の変わり始めだからと体調を心配するところだろうに……。そういう訳で私はお先に失礼するよ」

「もうですか」

「これでも教師だからねえ。本業に支障をきたす訳にはいかないのだよ。寂しいだろうけど」

「いえ、清々します」

「いやはや手厳しいね……。まあ君も体に気をつけたまえ。そういう訳で、すまないが後は頼んだよ」


 はあ、と張り合いのない様子にどこかむなしさを感じつつ、助手が結局一歩も入ることなく相談室を引き返したウツロイの背中を見送ったその時、

 ぺこり、と。

 ウツロイの隣から控え目に頭を下げた濡羽色の髪の少女が、


「────」


 思わず息を呑み、言葉を失った。

 一瞬だ。

 ゆっくりと閉まりゆく扉の向こう側に、雲の切れ目から差し込んだ光に照らされて、見知った人間がうっすらと。

 光の錯覚か。

 あるいは白昼夢か。

 ただその幻想的なまでに人間離れした美しい姿は紛れもなく──

 かさり。

 気が付くと、手元からすり抜けて宙を舞った報告書が既に床に落ちていた。

 自分らしくない油断に動揺しつつも慌てて拾い直すと、助手は引きつった顔で扉の先を見つめて呟いた。


「……………………まさか、ね」

「幽霊」はこれで終わりです。

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