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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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掃除すると部屋が明るくなるんだね。

長くなりました………。 読みづらかったらごめんなさい。

 

 「あーっ終わった」

 

 食堂の床を磨いたモップを壁に立てかけて、 腰をひねる。 食堂は埃一つなくピカピカだ。

掃除の間は流石に可哀想だったので、 クロ達には私の部屋に居て貰った。 

 黒かった食堂のテーブルも椅子も本来の色を取り戻した。 ゴツゴツとした床石も、 磨かれて光っている。 食堂横にはカウンターがあって、 その奥が調理場だ。 保冷庫に食器棚、 窯に焜炉に流し台。

全部、 全部綺麗にしましたよ! お陰で暗かった部屋が明るくなった。 掃除って大事だね。


 ――― 思い返せば酷かった。

 

 窯も焜炉も煤だらけ。 大型保冷庫は、 保冷石が切れてて、 しなびた野菜と溶けた何かが入ってた。怖ろしい。 口に入る物を作る所なので徹底的に掃除しましたとも。

 あの、 カビの生えた食器達も消毒されて綺麗ですよ。 それにしても洗い場の食器の下の方からデロリとした黒い何かが出て来た時には戦慄を覚えた。 何がどうなってアレに進化したのか………。

 最初は皆で掃除していたのだけど、 床掃除だけになった所で他の団員達には自室の掃除をして貰っている。 

 

 「あー、 凄い綺麗になったね」


 そんな嬉しそうな声を出してエンノートさんが階段を降りてきた。

 

 「エンノートさん。自室終わりました? 」


 「うん。 元々そんなに散らかってなかったし。 ………エンノートってなんだか呼ばれなれないから、 ガルヴって呼んで貰っても? その、 副団長」


 副団長って言うのに、 ちょっと照れくさそうに言う。 まぁ、少しずつ慣れて行って下さい。


 「分かりました。 ガルヴさん。 そしたら正面玄関の掃除お願いします。 私ちょっと扉の修理をお願いしてくるのと、 外壁の悪戯書きを消すサボン粉買って来るんで。 もし自室が終わった人が来たら、 使って無い部屋の掃除をお願いして下さい」


 「了解。 副団長」


そう言って玄関から外に出て裏手に回る。 私の部屋の窓からリィオがスッ飛んで来た。


 『お疲れ! 終わったの?! 』


 よっぽど嬉しかったらしいけど――― 声が、 大きすぎ!! 

私は慌てて周りを見回し静かに、 と言う意味で人差し指を唇に当てる。

左手を出して、リィオを腕に停めると『ごめぇん』 と小さな声で謝られた。


 「誰もいなかったから大丈夫だと思うけど、 ドコに誰がいるか分からないんだからね。 気をつけて」


 その後、 呆れ顔のルカとクロそして、 冷たい目をしたシェスカが窓から降りて来た。 

窓から出入りするのが普通になっちゃったな………。 階段使うより早いものね。


 『リィオ、 流石は鳥頭だね(笑) 』


 『鳥頭じゃないよ』


 『言われてもしょうがないと思うわよ。 声が大きすぎ』


 ルカにからかわれ、 シェスカに真顔で言われてリィオがムクれてる。


 『まぁ、 リィオは大きい声を出さないようにすればいいさ。 ルカあまりからかうなよ』

 

 クロが大人げないとでも言うように、 ルカを見る。 実際この中で一番年が上なのはルカだ。

その後にクロにシェスカと続いて最後がリィオ。 

 末っ子をからかう長兄、 たしなめる次男って構図かな。


 「リィオもヘソ曲げないの。 頼みたい事もあるんだしさ」


 基本的に私のお願いを聞く事を楽しみにしているリィオが途端にワクワクした顔でこちらを見た。

その様子に苦笑しながら、 ルカとリィオに指示を出す。


 「悪いんだけど私と同じ団服着た、 男の人を探してくれないかな」


 『例の団長かい? 』


 ルカが金色の目を細めて聞いて来る。

 

 『団長も、 連れてくる? 』 


 リィオはさっきの団員を追いたてて来たのを気に行ったらしい。 団長にもやりたいのか………。


 「ううん。 暫く行動を監視して。 行動パターンを把握したいから」


 『ふむ。 それなら、私達が適任かな。 クロ達と違ってその辺にいても目立たないし』


 「うん。 お願いね」 


 すり寄って来たルカの頭を撫でて、 僕もと言うリィオの嘴の付け根を掻いてやる。

嬉しそうに目を細めた二匹ふたりが団長を探して出かけて行った。 


 『私達はどうするの? 』


 シェスカがお仕事欲しいなと言わんばかりの上目使いで見上げて来る。


 「うん、 ついでに食料の買い出しもしたいから、 手伝ってくれる? 」 


 『一緒にお買いものね! 嬉しいわ』


 『任せろ。 重たい荷物は持ってやるからな』


 尻尾がブンブン振られている。 二匹ふたりとも可愛いなぁ。


 「じゃあ行こうか」


城内から、 てくてく歩いて城門を抜けて街に出る。 

城門から出る時に団服と腕章を見た、 門衛の人達にたいそう驚かれた。 あの黒竜騎士団に新しい副団長、 若い娘とくれば……… まぁ、 動揺されるのは理解できる。 

顔見知りもいたので大層心配されました。

 家具屋では扉の修理の予約を入れてからついでに棚を注文してきた。 ちょっと特殊な棚なので作るのに時間がかかるとの事。 まぁ、 仕方がない。 

 市の出てる広場に行く途中でサボン粉と保冷石、 それから調理に使う炎熱石を購入。

それから、 買い物。  真ん中に噴水のある広場には毎週市が出る。 街の商店とは違い、 別の領の特産品や季節物が出回るそこは毎回混雑している。


「今年初めてのアプリアだよー! 美味いよっ! 」


 「夕飯のおかずにカウレの肉はどうだい? 朝一捌き立てでまだ新鮮だよ! 」


 『……… 美味そうな匂いだな』

 

 『お腹が減りますね。 でも我慢ですクロ。 皆頑張ってるんですもの私達だけが先に食べる訳にはいきません』


 『くっ! けどルカとリィオは何処かで飯を喰ってるだろうな……… 』


 『で、 しょうね』


 小声でしゃべる二匹ふたりに苦笑する。 

周囲は喧騒に包まれているから、 聞かれる事は無いと思うケド、 私はそっと人さし指を唇に当てた。

慌てて二匹ふたりが頷く。

見渡せば色とりどりの果物や魚、 肉に野菜。 小型の家具やアクセサリーが所狭しと並んでいた。


 「時間ができたら、 皆でじっくり見に来ようね」


 そっと、 そう囁けば、 シェスカとクロが嬉しそうにワフンと吠えた。

あまり、 時間をかける気は無かったので。 さっさと市の中を廻る。 

 一週間は、 は今日買ったもので済ませる予定。 そうして落ち着いたらお城に卸している業者に黒竜騎士団にも食材を卸して貰えるように手配しないとね。 

 クロとシェスカの背に肉やら野菜やらが積まれて行く。 大きな黒と白の狼に珍しそうな顔をされるけど、 召喚術士が同じ様な事をしているから、 そこまで目立つ事もない。 

私も両手に荷物を抱えて、 買い物を終わらせると帰路に着いた。


 「お帰り、 副団長」


 「ただいま、 ガルヴさん」


 夜番の部屋のカーテンが開いてガルヴさんが埃だらけの顔を出した。 


 「凄い荷物だな、 持とう」


 「マッカートさん、 ありがとう」


 「俺の事はエイノで良い」


 玄関を掃いていたマッカートさんにそう言われる。


 「分かった。 エイノさん、 お願いします」


 セティルさんは応接室、 クアトさんはお客様用のトイレを掃除しているらしい。

そしてセルドレさんは、 まだ自分の部屋と格闘中。 どんだけ散らかしてるの。 あの人は。

 エイノさんには引き続き玄関掃除をお願いして私は調理場へ。 今使わない食材は冷蔵庫の中に入れ保冷石も中に入れる。 残りは調理台の上に。 休憩なしでここまでやって貰ったのだから、 昼食位は作りましょう。

 実家のあるアースゲイドの田舎料理ではあるけど、 味には自信がある。

 

 「さぁ、 ちゃっちゃと作りますか」


 最初に、 焜炉に炎熱石を入れ火をつける。 フライパンにオイルをひいてカウレの肉をレアに焼く。

柔らかそうな山菜が手に入ったので、 湯がいてからすり潰したマゴナの実と砂糖とショウというタレと混ぜたマゴナ和えに。 

野菜を切って豆を入れトマで酸味をつけたら塩とコショウで味をつけたスープの完成。 

それから焼いたカウレの肉を薄く切って、 野菜と一緒に買って来たパンにはさむ。 ピリッと辛いマスタの粒と特製ソースを混ぜた物をかけてカウレサンドの出来上がり。 

 本当はお米を使ったカウレ丼にしたかったんだけど、 他の荷物も重いし断念した。 


 「おいしそうね」


 丁度、 掃除が終わったらしくセティルさんがカウンターに乗っけたご飯をテーブルに持って行ってくれる。 他も続々と入って来たので、 自分の分を持って行って貰った。


 「朝から、 動いて貰ったので今日の昼は私からのサービスです。 明日からは通常通り朝食だけ当番決めてやって下さいね。 一応、 お代わりはありますから足りなかったらココからどうぞ」


 大皿に五個、 カウレサンドが並ぶ。 お代わり用のそれをテーブルのど真ん中に置くと私は長椅子に座った。 他も適当に席に着く。

 私は長椅子の端にクロとシェスカの分のお皿を置く。 

「今日の糧に感謝します」 そう唱えてから皆で、食事をはじめた。 


 「……… うめぇなこのタレ」


 「北アースゲイドの特製ソース」


 ぼそりと呟くセルドレさんの言葉に答えて――― クアトさんが喋った! 

どうやら、 まったく話さない訳でもないらしい。 その証拠に私以外の人達は全く驚いてはいない。


 「クアトさんは南アースの出身でしたっけ? 南の方が少し味付け甘いんですよね。 私、 あの味付けも好きです」


 「そう。南のほうが甘い。 ……… 僕の事はアスで良い」


 「へぇ、 驚いた。 副団長、 貴女アスに気にいられたのねぇ」


 「アスは仲良くならないとその呼び方させてくれないんだ」


 どうやらクアトさんを愛称で呼べるのは数少ない人達だけらしい。

セティルさんとガルヴさんが驚きながらそう言った。


 「そうなんですか? それは嬉しいな。 宜しくアスさん」


 「それなら、 あたしの事はルドって呼んで良いわよ」


 「じゃあ俺はヴァイでいーぞ。 副団長」


 「分かりました。 ルドさんにヴァイさん。 ………じゃあ、 『外仕様の副団長』 をしていない時には私の事はリゼと呼んで下さい」


 「リゼ、 ね。 了解した」

 

 ヴァイさんがそう言って頷いてくれた。 他の人達にも、 了解と言って貰える。


 「じゃあ、 午後は壁を綺麗にしましょうね。 それから明日は練兵場を………」


 「……… 練兵場はやりたくない」


 私の言葉に被せるようにヴァイさんが唸った。 本気でやりたくないって言うのが伝わってくる。


 「何故。 と聞いても? 」


 「団長は決して俺達を騎士として認めたくないのさ。 だから、 練兵場を綺麗にする意味なんてない」


 「宿舎で見た事もないしね。 あたし達の事は巡回に連れて行く気もゼロ」


 エイノさんが言えば、 ルドさんも頷く。


 「昔、 城内で昼寝しているあの人を探して言いに行った。 俺達を騎士として扱って欲しいってよ。 けどあの人はまったく相手にしてくれなかった」

 

 「……… 団長とは話しあわないとですね――― まぁ、その状況は改善できるようにやってみますから。 練兵場は掃除します。 見た目が悪いですからね。 それに、 団長とは関係なく訓練は必要です。 じゃなけりゃもうちょっと私と戦えてましたよ」


 ルドさんとヴァイさんが気まずそうに目を逸らした。 自覚はあるみたいですね。 宜しい。 

私は息切れしてないのに、 二人とも呼吸が乱れてたからね。


 「……… 」


 そんな話をしていたらリィオからの呼びかけの気配がしたので意識を繋ぐ。

空の上からの景色だ。 リィオの目から見た、 黒竜騎士団の団長が見える。 リィオが降下して団長がいる場所の近くの木の枝に止まったのが分かった。


 ユリアス・ヴァン・ファーレンシア


 浅黒い肌、 白金プラチナブロンドの髪。 引き締まった骨太のガッシリした身体。

ボサボサの髪と髭はとてもこの国の国王の異母弟おとうととは思えない。

眠っているので瞳の色は見えていないが、 その色が澄んだペリドットのような色をしているのを私は知っている。


 ――― 昔は、 いかにも王子様って感じだったんだけどな。

 

 今より背も低くて、 細かった。 当時十五歳だった王子殿下はキリッとした面持ちの美少年で村の娘達から憧れの視線を浴びていた。 

 まだ新しい黒竜騎士団の団服を着ていたのは、 優秀だった為に学院の卒業が記録的に早かったのだと後で教えて貰ったのだったか………。 母と一緒に村に来た黒竜騎士団を見に行った記憶は、 今もはっきり覚えている。 

近隣の村からも野次馬が押し掛けて、 あり得ない位に普段はのどかな村がにぎやかだったし。

 子供は、 羽を畳んだ騎乗用の小型ドラゴンに夢中だった。 かく言う私もそうだけど。


 黒竜騎士団は、 当時の国王陛下の治療に使う特別な薬草を取りに来たのだ。


 ユーリはきっと私の事は分からないだろう。 昔会った時には男の子の格好をしていたし。 

クロとシェスカもあの頃はまだ子供で体毛が灰色だった。 ルカはまだ居なかったし、 リィオもサイズがもっと小さかったから………。

 久しく忘れていた寂寥感が湧いてきてそんな自分に腹が立つ。

私はどうして前の黒竜騎士団の皆が死んだか知っていた。 それを目の前で見ていたユーリの事を考えれば安全な場所からソレを見ていただけの私がそんな事を感じる資格なんてきっと無い。 

私は、 無意識に守り袋を握りしめた。



団長がちょこっと。 次はちゃんと出せると……… 良いな?

『不注意で世界が消失したので異世界で生きる事になりました。』は短め一話更新しました。

宜しくお願い致します。

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