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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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幕間 白雪


 「ふふ。 見た目も性格も違うのに不思議。 やっぱりアリアはアリアだねぇ」


 「あぁそうか。 君はアリアを知っていたんだっけ? 『白の魔女』」


 知ってるに決まってる。 アリアは私の主で友達だったんだから。 

 私は、 「その呼び方嫌いだわ」 そう言って虚空を見上げた。 『白の魔女』 は畏怖を込められた名だから好きじゃ無い。 それを分かってる癖にワザと呼ぶ所が腹立たしい。

 現れたのは良く見知った男―― セトと呼ばれるこの男は、 私のもう一人の友達―― アリアの妹である今は『シェルフィアラ』 と名付けられたの息子である。

 年下なのにクソ生意気なこの子供は、 アリアの娘の夫でもあり、 なんと言うか私にとって腹立たしい存在だ。 

 ついでに言えば、 王弟殿下も気に食わない。 表面上はウヤウヤシク接するけれどね。 

 王弟殿下もなんとな―く、 私のそんな感情に気が付いているらしくて、 用でも無い限り地下に来る事は無い。 

 何でそんなに気に食わないかって? 二人とも、 アリアの魂を縛り付けているのだもの。 気に食わないに決まってる。 けれど、 私が何度もアリアに会えるのは、 コイツラのお陰であるので腹立たしいけど怒れなくてモヨモヨする。 しかも、 当のアリアもそれを嫌がって無いし…… だから、 不機嫌になるのは仕様がないと思うワケ。


 「あんた、 魔界領に帰ってたんじゃなかったっけ? 」


 「相変わらず、 僕相手だと口が悪いよね…… 帰ってたよ? けど、 父上が二人を連れて来いって」


 「な! 」


 セトが楽しそうに告げた言葉に私は青くなった。 先代魔王が誰に会いたいって? 今まで何度も転生してる筈の二人―― その二人に会いたいなんて今まで言った事無かった筈だ。

 魔族等と名乗っては居るけれど、 私は知っている。 特に先代魔王がであるか。 アレは生易しい存在じゃあ無い。 その先代魔王が何で――


 「そんなに心配するような事じゃないと思うけど? 母上がリゼに会いたがってるみたいだし、 一番の理由はソレかな。 後は、 父上自身もユーリに会いたいみたいだねぇ…… 珍しい事に」


 「今までそんなコトなかたでしょうが! 」


 「まぁ、 そこは否定しないよ。 今回はリゼも思い出しそうだから―― 」


 その言葉に私は目を瞠った。 思い出すだって? アリアの夫に会ったのは今回が初めてだ。 基本的にここに入れる有資格者は王族―― つまり、 陛下と王弟殿下―― そしてゲーティアの当主―― セト…… そしてアリアの魂を持つ者だけだ。 まぁ、 例外も無い訳じゃないけれどね。

 転生前かつての王弟殿下に資格は無く、 どんな人物か聞くのはセトからされる話でだけ。 それでもかつての王弟殿下が何回か記憶を取り戻していたと言う話は聞いていた。 対してアリアは、 一度も記憶を取り戻したりしなかった。

 私に会っても、 私を思い出してはくれなかった……。 だから、 心の中でしかアリアと呼んだ事は無い。 セトと二人でいる時は別だけれど。

 もしかして、 私の事も思い出してくれるかな? そんな淡い期待に私は頭を振る。 そんな期待はしない方が良い。 どうせ思い出したとしても、 夫や娘の事だけ思い出すだけかもしれないし……。

 けど、 思い出したら今度こそ、 謝れるかもしれない。 今度こそ――


 アリアが逃げ出したあの日、 私はアリアを見送りに行けなかった。 


 そもそも、 アリアとの出会いは私の母が死んだ後の事。

 私は異質な存在だった。 人と精霊のあいの子―― 母が居たから受け入れられていたんだと母の死後痛感した。 友人が居なかった訳じゃないけれど、 あの頃はそんな友人達とも様々な事情で疎遠になっていたし。 ―― 寂しかった。 

 周囲からは、 五領主と召喚された者達―― それから王族以外で異能を使う私という存在は腫れもののような扱いを受けていたしね。 見た目も違う上、 私の成長は怖ろしい程に遅かったから、 同じ人間とは思えなかったんだろう。

 父親が精霊なんだから、 そちらの方とは仲良くなれるんじゃ無いかと思った事もある。 そんな精霊種から仲間として見て貰えたかと言えば、 答えはノーだ。

 主と契約も出来ない出来そこないのミソっかす扱いされる事が多く、 私は彼等が嫌いになった。 …… なんかさプライド高いんだよね無駄に。 だから、 精霊の父が一般人の私の母と結ばれた事自体が気に入らなかったんだと思う。

 んで、 そんな私を見かねたのがアリア。 幼い彼女は「じゃあ、 私と契約しましょ? それで、 お友達になってちょうだい」 そう言ってくれた。 それからは、 ずっーとアリアと一緒。 

 私の力は治癒が主で、 アリアが怪我をすればそれを治してやったものだ。 大きくなってからこそ、 随分とお淑やかになったけれど、 幼いころのアリアは腕白で木のぼりが得意な少女だった。

 精霊は嫌いだったけど、 アリアが育てた幼い精霊達とは仲良くなれたし―― とても、 とっても楽しい時間だった。

 そんな彼女の笑顔が翳って来たのが、 アリアの叔父がオカシクなって来た頃――。

 幼い妹を念のためと言って先に逃がし、 領民の為にゲーティアに残ったアリア。 自分の貞操を守りながら狂っていく変態を御するのは並大抵の事じゃ無かったと思う。

 

 暗愚の領主―― ベヘルツォーク


 幼い頃は普通のコだったのに、 血が濃くなった弊害か年を経る事に壊れていった憐れな子。

 アリアは頑張った。 領民への被害を食い止める為に。 ゲーティアの暗黒時代―― 良識のある者達はベヘルツォークに進言してその地位を剥奪された。

 気に入らないから、 天気が良かったから―― そんな理由で侍女が身ぐるみ剥がされて放逐された。 

 アリアは彼等を守ろうとしたけれど、 異界の邪神を召喚し、 王になろうとしている事を知って―― 幼馴染を殺されて…… 諦めた。

  

 ベヘルツォークを。


 そう、 あの瞬間までアリアはあの馬鹿を諦めて居なかったのだ。 

 幼い頃の優しい叔父を取り戻そうとしていた。 誰にも見られないように泣きながら、 それでもこの異常な状態をどうにかしようとしていたのに。

 

 『新しい国で夫婦になろう』


 私が国王で君が王妃だ―― 王であればお前を妻にする事も出来る。 そう笑顔で言われてアリアは絶望した。 ベヘルツォークがアリアの幼馴染の青年を殺して、 血塗れの状態でそう言ったからだ。

 その幼馴染の青年は、 アリアに密かに恋心を抱いていて、 叔父であるベヘルツォークがアリアに言い寄る事を危惧していた一人だった。 

 そして或る日それをベヘルツォークに指摘したのだ―― 「姪である彼女と、 貴方が結ばれる事など無い」―― そう言って。 次の瞬間には、 その男は死んでいた。

 執拗に刺された遺体を前に、 アリアは自覚した。 もう二度と優しかった叔父は戻らず、 領民を救うにはベヘルツォークを殺すしか無いって。

 だから、 その時の国王陛下に事の次第を報告した。 

 もっと早くにそうしていれば良かった―― そう呟いたアリアの絶望した顔を私は忘れる事は出来ない。 けれど、 昔のベヘルツォークを知る者達全てが、 今はおかしいけれど、 きっといつか昔の優しいご領主様に戻って下さるに違いないと信じていたのだから、 誰もアリアを責められない筈だ。

 それからのベヘルツォークはタガが外れたかのように人を殺した。

 前はアリアが止めれば殺す事まではしなかったのに……。 特に、 アリアに近しい男が殺された。 アリアが止めようとすればするほどより悪い結果になった。

 そこに至って、 アリアは自分の存在がここにある事の方が、 領民を苦しめる事になるのでは無いかと悩んだ。 丁度その時―― 周囲の進言もあってアリアは、 ベヘルツォークから逃げる決心をしたのだ。

 周りからすれば、 優しいアリアを守る為にはそれしかないと―― それによって起こるであろう事も理解しての進言だった。


 『白雪―― ゴメンなさい』

 

 ちょっと『ウサギ』 の姿になってくれない? 癒しが欲しい、 モフモフしたい―― そう言われて小さなウサギの姿になったら、 私はアリアに腕輪をつけられた。 

 訝しむ私に告げられた言葉は、 『許して白雪―― 一緒に行けないの…… 』 と言うもので、 アリアが逃げる場所に私は行けず、 私は王都に送られるのだと―― そう言われた……。 モチロン私は文句を言った。 けれど、 いつもはアリアが折れてくれる泣き落としを使っても、 アリアは答えを変えなかった。


 『嘘つき、 嘘つき嘘つき! 』


 死ぬまで傍に居ると誓ったのに! 私を精霊として、 友人として傍に置いてくれるって言ったのに!! アリアは強制的に、 私との契約を切ると暴れる私を小さな箱にそっと入れた。 

 何度もヒトガタに戻ろうとしたけれど、 腕輪に阻害されて戻る事が出来ない。 しかも、 アリアは沈黙の薬を私に飲ませて一時的に声も奪った。

 

 キライだ! 大っきらい!! 裏切り者!!

 

 涙交じりのその声は薬の所為でアリアには届かなかったけれど、 痛みを堪えるような顔をしてたからアリアにはしっかりと理解できたようだった。 

 当時の私はアリアが私の安全を願ってそうしたのだと理解出来ずに随分恨んだ。

 二度と会えなくなるなんて思わなかったから、 酷い事を言って傷付けて。 だから、 次に会えた時は本当に嬉しかったんだよ。 アリアが私の事を分からなかったんだとしても。

 あの後、 国王陛下は騎士団を連れベヘルツォークを拘束した。 領主の城は血だまりだらけだったそうだ。 アリアを逃がした者たちをベヘルツォークが許さなかったから。 

 ベヘルツォークは領の守護の礎たる精霊達を喚び出して、 嫌がる彼等に城に居た者たちを殺させたのだと言う。

 憐れ―― 精霊達の霊性は怨嗟と血にまみれて地に落ちた。 おそらく精神も壊れたのではないかと思う。  

 掴まったベヘルツォークはその身に壊れた精霊達を封じられ、 召喚の力も使えないようにされたそうだ。 酷い使い方をされた精霊達は憐れだけれど、 狂ってしまった以上、 野放しには出来なかったのだろう。 それ程酷い事があの城で行われたのだ。

 けれど結局―― 王都へ護送する途中、 一瞬の隙をついてベヘルツォークが逃げた後、 その行方はどんなに探しても見つからなかったらしい。 

 それから暫くしてベヘルツォークが何をしようとしていたのかが噂になり、 領主城の惨状が世間に明らかになるにつれ、 生き残った召喚の血筋へ対しての風当たりが強くなる。 

 噂は噂を呼び―― まるで化け物か何かのように、 召喚の血筋が迫害されるまでに時間はかからなかった。

 元々ベヘルツォークが狂人であったのなら違ったろう。 普通の人間だった者が狂人になると言う事が他の人々に恐怖を与えたのだ。 この国で召喚の血筋は禁忌となり、 一度は絶えたと思われた。

 魔物の大氾濫の後、 セトがティアラを連れて来るまでは……。

 私はセトから聞いてあの後の真相を知った。 アリアが何故私を連れていけなかったかも。

 アリアが逃げたのは魔国領―― そこには魔力が多くこごる。 私は、 純粋な精霊でも人でも無い所為か魔力にてられ、 体調を崩す事が稀にあった。

 魔力の濃くない土地ですらそうなのだ。 とても魔国領に連れていけないと思われたのだろう。 下手をしたら死ぬって。

 かといって、 他の土地ではベヘルツォークに見つかる可能性がどうしても高かった。 魔国領の―― 魔力が凝る地だからこそ、 追手の気配感知を撹乱できるのだから。

 護送中に逃げた後―― それでもアリアの居場所に辿りついたのはベヘルツォークの執念の為せる業だろうか……。 ベヘルツォーク自体はかつての王弟殿下が始末をつけたらしいけれど、 その数年後―― アリアが何者かに殺されたのだと教えられた時は、 自分の体質を心底呪った。


 もし、 私が傍にいたら―― きっとアリアを助けられたのに……。


 その後悔はきっと一生消える事は無いと思う。 その話をセトに聞かされた日の夜、 私は声を上げてベットで泣いた。 母が死んでから初めての涙だった。

 大好きなアリア。 私の為に私を置いて行ったアリア。 助けられなかったアリア。 

 本当は思い出して欲しい。 私の事を。 私の名前を呼んで、 頭を撫でて欲しい。 ごめんねって謝らせて! ずっとずっと後悔してたんだよ。 ―― 謝りたいって思ってたんだ。

 見上げた部屋は薄暗く、 アリアに声は届かない。 けれど、 そう願わずには居られなかった……。

白雪視点の彼女とアリアとの関係です。

後はベヘルツォークの紹介的な――?

前回の幕間もそうですが、 この物語の時系列にそってUP予定です。 なので、 次はユーリとお義兄ちゃんの話になる予定。。。

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