舞踏会 後編
「一体どう言う事ですの! 」
ツカツカと言う足音と共に、 青白い顔のファーリンテ嬢がやって来る。 その後ろには慌てた様子のレラン伯爵と鼻息荒く猪のように突進してくる男―― おそらくはガート男爵が居た。
尋常で無い三人の様子に周囲の人はルドさんとファーリンテ嬢の例の騒動を思い浮かべた事だろう。 微かなざわめきと興味の籠った視線が私達へと注がれる。
それにしても、 ここまで過激に反応されるとは思わなかった。 他の人の目もあるし、 ファーリンテ嬢は舞踏会では猫を被っているようだったし。 それが我を忘れて突進してくるのだから余程頭にきてるんだろうね。
ルドさんに未だに執着しているとは言え、 ファーリンテ嬢とレラン伯は積極的に舞踏会に参加していた。 もちろん結婚相手を探す為である。
本命はルドさんでも、 上手い事ファーリンテ嬢の外見に騙されて醜聞に目を瞑ってくれる相手がいれば―― と考えたんだと思うんだよね。 元々彼女、 プライド高そうだし……。 周囲の元友人がどんどん結婚していってる中で、 結婚出来て無い現状が許せないんだと思う。
自分の所為なのにね。
実際ナイアさんは、 元友人が結婚したという話をどこからか聞きつけたファーリンテ嬢が「あの女より私の方が美人なのに! 」 と叫んで、 扇をへし折る様子を見た事があるそうだ。
そんな時のファーリンテ嬢にはなるべく近寄らないようにするのが、 侍女達の間では暗黙の了解になっていたらしい。 傷心のお嬢様をそっとしておいてあげようって言うのなら良い話なんだけど、 近寄ると八つ当たりされるからだと聞いて「まぁ、 そうだよなぁ」 と思ってしまった。
家の人達に気遣って貰えるような性格をしてたら、 そもそもこんな事にはなっていないものね。
「売女の娘がっ! なんでっっ!! 」
あまりの暴言に会場が凍りついた。
ファーリンテ嬢が振り上げた扇でエルナマリアさんを叩こうとする。 私達が止めるよりも早く、 ルドさんが間に入ってエルナマリアさんのかわりに叩かれた。
「俺の婚約者に随分と無礼な真似をしてくれますね。 口汚い言葉を吐く自分の今の顔がどれだけ醜いか鏡を見てみれば良い」
「なっ!! 」
ルドさんの氷の視線に晒されて、 ファーリンテ嬢がギリと唇を噛みしめる。
「一体どういうことですか? 婚約者――? 私は許可を与えてはいない! 」
「失礼ですが、 婚約するのに貴方の許可が必要だと? 」
動揺して髪を振り乱して叫ぶレラン伯に、 ルドさんが嘲るような口調で問い返した。
「当たり前だ! ソレは私の娘だぞ? ソレはガート男爵に嫁ぐのだ。 勝手をされては困る! 結婚したいと言うのなら、 例の件で迷惑を被っているファーリンテとすべきだろうが!! 」
あーあ。 私達は別に良いけどね…… 言っちゃったよ、 この人―― エルナマリアさんが自分の娘だって。 多分混乱し過ぎて自分が何を言ったのか分かってないんだろうなぁ……。
案の定、 会場にいた多くの人達がおおよその事情を察したようだった。 レラン伯の娘は正式には一人だけ…… 皆も御存じのファーリンテ嬢だけだ。 なのに娘がもう一人いると言うのなら、 それは褒められた状況では無い―― 隠されて来た娘だと言う事だ。
「おやおや、 おかしな言葉が聞こえたねぇ? 」
緊張したこの場所に、 のんびりとした声が上がった。
来ているだろうって事は知っていたけれど、 来て早々カードルームに籠っていたらしいアイオロス様がゆっくりと私達の傍に来た。
そうして青褪めるエルナマリアさんの腕を安心させるようにポンポンと叩くと、 レラン伯へと向き直る。
「彼女の名前はエルナマリア・エルナリィア・フレッチェンと言うのだけれどね? さて、 私の娘が君の何だって言ったのかな?? 」
「フレッチェン伯爵?! 馬鹿な―― 貴方と奥方の間には子供はいらっしゃらなかった筈だ」
初めて口を開いたガート男爵が震える指でアイオロス様をさした。 あー…… 男爵終わったな。
普段は好々爺のように見えるアイオロス様だけれど、 もちろん伯爵家の当主である。 その相手に指をさすなんて前代未聞だ―― 元々、 成金趣味であまり好かれてはいなかった御仁のようだけれど、 この件だけで、 貴族社会のお付き合いからは弾きだされると思う。
何でって、 アイオロス様と亡くなられた奥様は多くの人達の仲人をして、 その全員が今も幸せに暮らしてる―― つまりアイオロス様ご夫婦に感謝して今も慕ってる人達が老若男女沢山いるんだよね。
現に眉を顰めてガート男爵を見る人たちの多い事多い事。 ガート男爵は気が付いて無いみたいだけど。
「確かにね―― 実際に血が繋がってる訳じゃあ無いのは認めるよ? けれどね、 正式に陛下にも許可を頂いて養子縁組をした身元のハッキリしたお嬢さんだ」
「陛下の――? ありえないありえない!! そんな馬鹿な! そうだ!! その娘は私の屋敷から攫われたんだ!! そもそも何でその娘が貴方の所に居るのですか! 」
多くの視線が―― どちらの話が本当なのだろうと言っていた。 けれど、 どちらが本当だとしても問題にはならないと言う事を、 レラン伯爵達以外はちゃんと理解しているようだった。
「―― ルカルド様―― 騙されてはいけません! この女は詐欺師よ。 フレッチェン伯爵まで丸め込んで、 貴方に取り入ろうとしてるんだわ!! 」
常軌を逸したとは、 今の彼女の事を言うのだろうか。 血の気の引いた顔―― 振りみだされた髪―― 血走った目…… ファーリンテ嬢が美人だからこそ、 その表情は何処か狂気を感じさせた。
ルドさんへの妄執―― エルナマリアさんへの憎悪―― それがごちゃまぜになった顔。
「いったいこれは何の騒ぎだ」
その声に、 一斉に皆が礼をとった。 茫然と見上げるレラン伯達以外は。 階段の上に現れたのは陛下とリアだ。
二人とも会場の異様な様子に困惑した顔をしていた。 陛下の視線を受けて階段の傍に控えていた近侍の一人がここで起こった事を耳打ちする。
それを聞いて眉を顰めた陛下と、 目を丸くするリア―― 二人して階段を下りて来ると私達の方へとやって来た。
陛下が軽く手を払う仕草をしたので、 礼をとっていた皆が元の姿勢へと戻る。 先ほどとは違った緊張感が辺りに奔った。 ざわめきも今は無い。 陛下が無表情である事が、 皆に無言の威圧を与えていた。
「どうにも可笑しなことになっているようだなユリアス」
「申し訳ありません義兄上―― あまりの言いがかりの酷さについ、 口を挟めませんでした」
この騒動に口を出す気なんて欠片も無いのにユーリがしれっとそんな事を言った。 そう―― 予想より派手になったとは言え、 これまでの事は予定調和。
出来れば、 アイオロス様が出てきた所で観念して貰えれば良かったのだけれども、 どうやら最終兵器に降臨頂く事になりそうだった。
当の最終兵器は、 おそらく内心ワクワクしてると思うのだけれど、 そんな様子は全く見せない。
最終兵器、 それは―― 今日は珍しくゆったりとしたドレスを着たリアである。
「おかしなお話が出ていると聞きました。 エルナ姉さまは身元もハッキリした私の遠縁の家の娘ですの。 それが、 レラン伯の娘で―― ガート男爵の婚約者ですって? 寝言は寝てる時に仰って下さるかしら」
笑顔でそう言い切ったリアに、 レラン伯が大口を開けて間抜け面を晒した。 ファーリンテ嬢もリアが何を言ったのか分からない様子だ。 ガート男爵に至っては、 心労からか…… 少ない髪を掻き毟るようにして呻いている。
「ご両親を亡くされたエルナお姉さまが、 お子様のいないフレッチェン伯の養女になったのは、 セティル家のルカルド様が身分差から身を引いたかつての恋人―― エルナお姉さまと再会して是非とも妻にと、 望まれたからですわ」
にこやかに怒りを露わにするリア。 これは素で怒ってらっしゃる。 まぁ、 この話を持って行った時、 エルナマリアさんに同情してかなり怒ってたもんね。 「私がフレッチェン伯にお願いしましたのよ」 その言葉の裏には―― 王妃である私がそう言ってるのだけれど、 まだ文句があるの?? と言う圧力が掛かっているようだった。 リアのその様子を見て、 後ろで楽しそうに陛下が笑っている。
陛下が何も言わずにいるのなら、 それは『陛下が認めた』 事であると、 察しの良い者達は理解した筈だ。 賢い人達は皆、 この件に関して口を噤むだろう。
「ありえない! ありえませんわ!! その女は売女の娘で詐欺師です―― 王妃様まで誑かすなんてっ!! この恥知らず! 」
エルナマリアさんに掴みかかろうとするファーリンテ嬢をルドさんが押しとめた。 流石に分が悪いと理解したレラン伯がファーリンテ嬢を止めに入る。
こっそり立ち去ろうとしたガート男爵が笑顔のロービィに阻まれた。
「本当におかしな事を言うのね―― 私の 遠縁の家の 娘だと言ったのだけど? 」
リアの笑顔の迫力に、 ファーリンテ嬢が息を飲む。 「ありえない」 と言う事は、 王妃が嘘を吐いたと言っているのと同じだ。 今更ながらにその事実に気が付いたのかもしれない。
「―― 衛兵 レラン伯とその娘―― それからガート男爵が帰るらしい。 外まで送ってやれ」
溜息を吐いた陛下が、 入口の所に控えている衛兵を幾人か呼んだ。
「嘘よ! 嫌―― ルカルド様―― ルカルドさ―― 」
項垂れて衛兵に従うレラン伯とガート男爵。 衛兵に引きずられるようにして連れて行かれるファーリンテ嬢に冷ややかな視線が幾つも刺さった。
今のファーリンテ嬢に美人だった面影は無い。 まるで、 心根がそのまま表情に張り付いたかのように、 無様で醜い様相を呈していた。 辺りからはヒソヒソとした囁きが漏れ聞こえる。
彼等は社交界から追放されたのだ。 陛下と王妃の前でこれだけの醜聞を晒して、 一体だれが彼等と交流を持ちたいと思うのか。 レラン伯爵家もガート男爵家もひっそりと没落して行くのだろう……。
自業自得とは言え、 それは少し憐れに思えた。
「さて、 随分と余計な事に時間を使ってしまったな。 あれ等の事は無かった事として今日この日を楽しもうではないか」
陛下がそう言うと、 心得たように楽隊が楽しげな曲を奏で始めた。 少しぎこちなさはあったものの、 会場にいた者達が陛下に一礼して通常の舞踏会と変わらぬ雰囲気へと戻って行く。
陛下に挨拶をしに来る者達―― そしてユーリにも挨拶をする人達が大勢いた為に、 私達の周りは直ぐに騒がしくなった。
ユーリが他野皆に目配せしたため、 ルドさんとエルナマリアさんは手を取り合って踊りに―― ガルヴさん達は食事を取りに行ったようだった。
ユーリに挨拶に来た人達は皆、 妙齢のお嬢さん連れである。 挨拶にかこつけて、 娘を売り込みに来たのはバレバレだ。 お嬢様方も、 ユーリが気になるらしく可愛らしい頬を染めてチラチラとユーリの方を見ては、 私をひと睨みすると言う行動が確立されつつあった。
私が誰で、 ユーリにとって何になるのか探りを入れて来たオジサマ達は片手じゃあきかない。 ユーリも私も笑ってかわしてたけれど、 中にはしつこく食い下がるオジさんもいたりした。
「恋人だと言えれば良いのですがね―― 世の中はそうそう上手くは行きません」
それ以上はユーリは言わなかった。 恋人は欲しいけれど、 私は今日の舞踏会のパートナーとして来て貰っただけの女性だとも―― 恋人になりたいけれど、 私が中々「はい」 と言ってくれないともとれる言葉だ。
これ以上話す気は無いと言外に告げられてオジサマ達がトボトボと去って行く。
その間―― 私はずっと微笑を浮かべて黙っていた。 話せば、 声で正体がばれるかもと思ったからである。
「さて、 面倒な行事は終わったな。 折角だ、 少し踊ろう」
ユーリに挨拶して行くオジサマ達が居なくなった所で、 さっと手を取られ中央へと連れて行かれた。 あまりにも自然な動作だったので、 断る暇が無かった位だ。
ユーリは流石踊り慣れたもので、 リードするのがとても上手い。 私はと言えば、 必須事項としてケイオスを練習相手に何度か踊った事はあるけれど、 本番は初めて…… 正直足が縺れやしないかドキドキハラハラしている。
「上手いじゃないか―― 練習相手は双子のどっちだ? 」
「良く分かりましたね―― ケイオスの方ですよ」
「ふぅん―― 妬けるな」
近いんですけどユーリ―― 耳元で囁くのは止めて欲しい。 お陰で周囲から要らぬ視線がチクチクと――。
「一々からかうのは止めて貰いたいんですけど? て言うか、 耳元で囁くの禁止ですって」
「からかう? 真面目に言ってるんだが」
笑いながら言われてもまったく説得力が無いんだけどね。 「ユーリに妬かれる理由だってないでしょうに」 とそう言ったら、 呆れたような顔をされた。
「いつも子供相手にしてるように私の事扱ってるんだから、 嫉妬のしようも無いでしょう? 」
少しだけ拗ねたような心地でそう言えば、 ユーリが真顔で成程―― 「そう思われていた訳か」と呟いた。
「少なくとも今は、 子供扱いをしてないと思うがな」
ユーリの―― 私の腰に添えられていた手に力が入る。 いつもと違った真剣な表情で言われれば恐怖に似た感情が背中を這った。
手を引かれてバルコニーへと向かう。 周囲からは踊り疲れた二人がバルコニーに涼みに行ったのだと思うだろう。
助けを求めようにも、 頼りになりそうな相手は食事に夢中だ。 一瞬、 ヴァイさんと目が合ったけれど、 サッと逸らされた―― 後で覚えてろ。
バルコニーには先客がいたけれど、 私達とはすれ違いに笑いあいながら広間へと戻って行った。
あぁあぁあ…… もう少しここに居てくれませんかね―― 去りゆく二人に思わずそんな事を言いそうになったのを頑張って自制する。
ユーリに、 繋がれていたままの手を強く引かれて抱きしめられた。
「確かに、 いつもはからかう事の方が多いけどな。 お前の反応はとても楽しいし―― 」
「いい加減にして下さい」
私はそう言うと押すようにユーリの胸を叩いて距離を取った。 両手を上げて困った顔のユーリが私の顔を覗きこむ。 これは駄目だ。 だって、 まるでユーリが私を口説こうとしているみたいじゃないか。
思わずユーリの目の色を確認してしまった。 もしかして、 この奇行はもう一人のユーリの影響が出てるんじゃ無いのかと思って。
「リゼ。 俺はお前を子供扱いしていない―― お前は大人だし、 十分に綺麗だ」
「酔ってでもいるんですか」
綺麗―― 何を言ってるんだろうかユーリは。 そりゃあ今は化粧もしているし、 童顔な私でも少しは大人びて見えるけれど、 綺麗なんて言われるような事はあり得ない。
ドレスか―― ドレスの事を言ってるのかと私が混乱していると、 ユーリが呆れたような溜息をついて私を見つめた。
「飲んで無いのは見てるだろう? ただまぁ、 場の雰囲気には酔ってるかもな。 ルカルドが―― 幸福そうにしているのを見て、 少し羨ましくなったと言うのはある」
ユーリの手が伸びる―― 頬に―― 唇に。
「さっき踊ってた時―― 何人かの男達がお前を見ていたのに気が付いたか? お前と踊っている俺が羨ましいと思ってる奴等のだ。 そうやって見られる位にはお前は魅力的だし、 綺麗だと思うぞ」
もし私がただのリゼッタだったら、 物凄く嬉しい言葉だったかもしれない。 けれど、 私はこのユーリの言葉を受け入れてはいけなかった。 強張った顔をしていると、 ユーリの顔が哀しそうに歪む。
どうして、 ユーリは急にこんな事を言い出したんだろう。 ただでさえ、 ユーリへの想いを昇華出来ずにいるのにあんまりだ。 思わず私は泣きたくなった。
「―― まるで、 口説かれてるみたいですけど、 私には結婚予定の相手が居るんです」
絞り出すようにそう告げた。 双子の兄弟―― そのどちらかと私はいつか結婚する。 その話はユーリも知ってる筈なのに……。 どうして――
「そうだな。 だが、 その双子に想う相手が居るのは知っているか? それならその婚姻は誰も幸福になれないと思うが」
「――っ 婚姻は―― 恋愛感情だけで行われるものじゃありません! 」
思わず口をついて出た言葉が虚しくバルコニーに響いた。
ユーリの放った言葉は的確に私の心を抉っていた。 好きな相手が居ながら、 クレフィスかケイオスに嫁ぐであろう私―― その苦しみにばかり目が行って、 正直二人に誰か想う相手が居るだなんて想像もしてなかった。
だって二人は、 貴族の子息として育ってきて―― 私との結婚の話も貴族の義務として受け入れているように見えたから。
私だってそうだ。 この結婚は義務であると―― 私の家族が幸福で居られる為の対価であると認識していたのだから。 変えられない事実―― 譲れない現実。 いずれ確定する婚姻。
あぁでも―― クレフィスもケイオスも望まず諦めた結果の婚姻であるのなら…… 確かに幸福な結婚にはならないかもしれない。
「そうだな―― 貴族の婚姻は、 私情よりも義務が優先される。 済まない―― 少し感情的になり過ぎた。 リゼ―― 頼むからそんな顔をしないでくれ…… 俺が悪かったから」
ユーリの声が真面目なものからいつもの雰囲気に変わった。 たったそれだけの事なのに残念なような気持ちと怖ろしい程の安堵感に包まれる。
―― 蓋をしなくちゃ、 蓋をしなくちゃ―― 閉じてしまわなくちゃ……
例えば、 ユーリが私の事を好きなのかもなんて事は絶対思っちゃいけない。 クレフィスとケイオスの事も考えないようにしなければ。 逃げてるのは分かってる。 けど、 未来を変える事が出来ないのなら、 見ないふりをした方が精神衛生上良いに決まってる。 人には諦めが必要な事だってあるのだ。
私がただのリゼッタだったら―― 幾度となく考えたその言葉が繰り返し頭の中でこ谺する。 けれどそれは考えてもどうにもならない事だった。
自分の恋心だって幾度も蓋をしようと思ったけれど、 結局出来なかった。 これ以上の重荷は耐えられる気がしない。 私はこんなに弱い人間だったのだろうか…… ぐるぐるとした思いは私を混乱へと誘った。
だから、 私は聞いていなかった。 ユーリがポツリと「まぁ、 諦める気も無いが―― 」 と呟いた事を。
そうして次の日のユーリが―― まるで昨日の事なんか無かったみたいにいつもの調子だった事に、 傷つくよりも私は大きく安堵した。
後編です。 ルドさんとエルナマリアさんの話はこれにて終了です。
ユーリとリゼは一進一退―― この後は暫く幕間が続きます。
予定ではユーリとお義兄ちゃんの話と白雪の話―― アスさんの話と尻尾ちゃんとリゼの話の予定です。
若干前後する事や変更はあるかもしれませんが、 幕間終了後次の本編へと続きます。
※追記※2018・9・22
肝心の(?)幕間を記入し忘れてました。 『告げる言葉 後編』 の後、 リゼが寝た後の様子をユーリ視点で―― と言うものが入ります。




