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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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舞踏会 前篇

 ――どうしてこうなった。


 煌びやかなシャンデリアの光を受けながら、 私は思わず溜息を零した。 今日は非番なので、 この場の警備は白竜騎士団のお仕事だ。 

 周囲に居る黒竜騎士団ウチの連中は、 皆正装をしていた。 ユーリもだ。 普通、 王弟であるのだから、 それなりの格好をするんだと思ったのだけど、 皆と同じような黒の正装。 

 この正装は普段の団服をゴージャスにしたもので、 生地も止め具も高級感が溢れる良いものが使われている。 例えばボタンひとつにしても、 宝石が使われていたりね。

 流石に、 団長であるユーリの服は他の皆と違って、 もっとゴチャゴチャと高そうな装飾が施されてるけど。

 騎士団として参加してるので、 皆にダンスのパートナーは居ない。 基本的には。

 パートナーは必須という訳では無いから、 この場所には伴侶に先立たれた人や、 結婚相手を探す男性のように友人と連れだってこの舞踏会に参加している人も居るのだけれど、 団服を着てほとんどがパートナーを連れていない集団は、 やはり少し目立つようだった。

 

 警護中のケイオスと目があった―― 笑顔で微笑まれたけれど、 その笑顔の裏に…… 込められた言葉が色々ありそうな感じを受ける。 私が思わず目を逸らしたのは仕方がないと思う。

 ロービィの視線もウザったいものだった。 見なくてもニヤニヤしているのが丸分かりなので、 敢えて無視する。 絶っっ対にアイツの方は見ない。 けど、 後で何か言われるんだろうな―― 嫌だ。 

 

 何でこんな状況に? 私も皆と同じ正装をしている―― 筈だった。 と言うか、 今朝は着てたし。 状況が変わったのは王城に入ってから。 まず、 ユーリに時間より早く呼びだされて放りこまれた部屋で私は侍女さん達にもみくちゃにされる事になった。

 さっき入ったって言うのに風呂に放りこまれて、 丹念に身体に香油を塗りたくられたり―― で、 現在いまである。

 黒に近い焦げ茶の髪は、 舞踏会用に纏められてクルンとカールした状態で私の左肩から垂れ下がっていた。 頭がいつもより動かしにくいのは、 真珠をあしらった金色のコームが重いから。 涙型の雫が幾本もそのコームから流れて私が動くたびにチリチリと鈴のような音が鳴る。

 ふわりとレースが広がるドレスの色は黒―― これは団服と合わせたのだと思われる。 ただ黒と言っても重たい雰囲気は無い。 単に黒だという訳じゃ無くて、 藍色や青紫――  金色や銀色がシャンデリアの光や見る向きよって現れ、 まるで夜空を写し取ったような雰囲気があるドレスだからだ。

 夜空と言うのはおそらく正解だろう。 頭に飾られたコームのデザインが月を模していたからね。 そして、 耳飾り―― これまた大きな真珠が全面に。 そして後ろの方で小粒の真珠が鎖から下がり揺ら揺らと揺れている。

 濃い藍色の手袋をした私の手は、 ユーリの腕にそっと乗せられていた。 何故かって? 今夜のユーリのパートナーが私だからだ。 ――解せない。


 千歩―― いや、 万歩譲ってこの格好は良い(本当はまったく良く無いけれど)


 一番の問題は、 やや開き気味の胸元―― でも無く、 私の首を飾るチョーカーだ。 

 黒いビロードのリボンに付けられた石…… それが大問題だったりする―― ユーリから私の目の色に合わせたって言われたけれど、 明らかにコレ私の目の色って言うよりも、 ユーリの目の色なんですが? 恋人同士でもないのにおかしいよねコレ。

 一応言っておくと、 パートナーと着るものの色を合わせるのは良くある事だったりする。 

 パートナーは夫婦や恋人、 兄弟や舞踏会デビューの為に知人や友人になって貰う事もあるのだけれど、 服の色やデザインを同じにしたり対称にしたりする事で一目で誰と誰がパートナーかと言うのが分かるし、 合わせるのが最近の流行でもあるからだ。

 そして、 夫婦や恋人、 婚約者等がパートナーの場合、 自分の色を着けさせるのが流行であったりする。 髪の色だったり、 目の色だったり―― それを特に装飾品に当て嵌めて相手に着けさせるのだ。

 つまり、 現状だと私がユーリの恋人のような位置づけになる。 そう…… 少なくとも周囲からはそう見える訳で……。 

 そもそも着替えさせられた所からがね? 突っ込みどころが満載だったんだけどさぁ……。

 

 『―― どういう事です? 』

 

 『義兄上から、 ちゃんと舞踏会に参加するように言われてな』


 『いや、 元々参加予定でしたよね? 』


 『まぁな。 ただちゃんと逃げずにダンスをするようにとお達しが―― 』


 『…… それでコレですか? 』


 『あぁそれでコレだ。 急だったしな―― 相手が見つからなくてな。 あぁそうだ。 似合ってるぞ? 』


 満面の笑みでそう言うユーリ。 急だったからパートナーが見つからなかったと言ったのにね? 何で私にピッタリのサイズのドレスがあるのかとゆー。

 

 おかしいよね?


 そもそもだ。 何で私のサイズを把握してるの。 と言うかユーリ…… 最近、 王弟殿下としての人気が復活しつつあるんだから、 急でもパートナー探せたよね?? まぁ、 私としてはユーリが誰かとパートナーとして腕組んでるのを見るのも複雑なんだけれども……。 

 当人に、 悪気が無さそうだから始末が悪い。 きっと、 何も考えて無くて、 誰かを誘うのは色々と面倒だから近場にいる私で妥協したんだとは思うんだけどさぁ。

 さっきから、 独身令嬢達の視線が痛い。 うっとりとユーリを見つめた後の私に対する視線の刺々しさよ……。 あの女誰よ? って視線ばっかりだから、 お化粧してるお陰で私が誰だかまではバレてないようで有難い。 バレたら後が怖そうだ。 どうぞ最後までバレませんように……。

 腐ってた頃のユーリが相手なら、 こんな視線は無かったと思うんだけどね。 無精髭やザンバラの髪を整えてビシッとした格好をしているユーリは冗談抜きで格好良い―― そう…… 着替えさせられた後―― 文句を言おうと勢い良く扉を開いた私が、 ウカツにも口を噤んで一瞬呆けてしまう位には。

 しっかりと、 キラキラしい王子様だと思う訳だ。 ユーリの雰囲気もいつもの粗野な感じじゃ無くて、 品行方正な貴公子っぽい雰囲気だし。 コレは服の効果って言うよりも、 ユーリがその時の立場状況に応じて自分の見せ方を変えているんだと思う。 多分身に着いた習性なんだろうな。

 黒竜騎士団の悪評が払拭されつつある今、 ユーリは格好の嫁ぎたい相手の上位に食い込んでる事だろう。 だからこそ、 その横にいる私が睨まれてるんだけど。

 そんな針の筵に晒されている私の耳元にざわめきが聞こえた。 入口を見れば、 今この場に居ない人―― ルドさんがいた。 

 服装は正装だったけれど、 黒の団服もどきじゃあ無い。 若草色の服は、 彼女の目の色だ―― 彼女、 そうルドさんの横で恥ずかしそうに微笑むエルナマリアさんの。

 エルナマリアさんのドレスはルドさんと同色。 それにルドさんの髪の色と同じ銀糸の刺繍が施され、 着けている装飾品の色はルドさんの瞳の色と同じラベンダー。 ここまでしていれば嫌でもわかる。 最低でも恋人同士だって。 

 ちゃんとエルナマリアさんの左手の薬指を確認できた人なら、 手袋の下に彼女が指輪をしているのが分かるだろう。 けど、 ルドさんが結婚しました! なんて話は出て無いハズだから、 きっと二人は婚約したのだなと勘が良い人なら分かった筈だ。 

 二人は好奇の視線を受けながら、 私達の方へとやって来た。


 「上手く言ったようで何よりだ」


 そう言ったのはユーリ。 エルナマリアさんの左手の指輪に気が付いたからだろうと思う。 

 ルドさんがこの場に居なかったのは、 エルナマリアさんを迎えに行っていたからなのだけれど、 それとは別に結婚して欲しいとプロポーズをしに行ったからでもあった。

 その事実は団員皆が知っている。 

 ルドさんがのプロポーズが上手く言っても失敗しても、 この場では二人に恋人として振る舞って貰う事になってたから上手く言って本当に良かったと思うよ。

 ユーリの言葉に頬を染めて俯くエルナマリアさんはとても可愛い。 それを見ただけで、 胸が暖かい気持ちに満たされた。

 皆も嬉しそうな顔をしていた。 ヴァイさんの手が一瞬挙がりかけて下がる。 もどかしそうな顔をしてる所を見ると、 ヴァイさん的には肉体言語ボディランゲージでルドさんと喜びを分かち合いたかったんだと思われる。 肩をバシバシと叩くとか、 ヘッドロックするとかでね?

 それを見て苦笑するユーリと目が合った。 私と同じ結論に立ったんだと思う。 まぁ、 良く我慢したと思うよヴァイさん。

 

 『正直、 自信は無いのよね…… 』


 慣れ親しんだ女言葉が食堂に響いたのは今朝の事。 エルナマリアさんを救出してから、 ルドさんは頻繁にアイオロス様のお屋敷に通ってた。 

 仕事がある時も、 終わった後で野で摘んだ花を持ってったり、 お菓子を持ってったりととても甲斐甲斐しかったと思う。

 最初は花屋さんで買った大きな花束を持って行ったりしたらしいんだけど、 エルナマリアさんに『頂く資格がありません』 と涙を浮かべて言われて受け取って貰えなかったみたい。

 そこで作戦を変えた訳だ。 買った花を度々持って行ったのじゃあ、 受け取らないエルナマリアさんの重荷になる。 だから最初は野の花を一輪。 受け取って貰えるようになってからは、 野の花で花束を作ってた―― ちゃんとラッピングもして可愛らしい花束にしてる辺り流石はルドさんって言った所か。

 まるで怯えた仔猫を慣らすように、 少しずつ少しずつエルナマリアさんの心に寄り添って行ったと思う。 私としては二人なら上手く行くだろうと言う思いはあったけれど、 問題はエルナマリアさんの罪悪感―― トゲのように刺さったそれを解消してやらないと、 ルドさんの想いを受け入れてくれる事は無いだろうなと思ってた。

 それはルドさんも分かっていての『正直、 自信は無いのよね…… 』 って言う発言だ。

 そもそも、 昨日会った時にエルナマリアさんへの想いは告げたらしい。 複雑そうな顔をして帰って来たルドさんと廊下で鉢合わせした時にこっそり聞いたんだけどね?

 エルナマリアさんは黙ってしまったそう。 それでルドさん、 『エルナ―― 君の罪悪感がもし無かったら―― 君は今何か答えてくれたかな? 』 と聞いたらしい。 エルナマリアさんはただ黙って涙を浮かべたようだ。

 

 『本当は、 もっと時間が必要なのよね』


 私とルドさんしか居ない食堂で―― 皆が食べた食器を洗いながらそんな事を呟くルドさん。 分かってるんだけど――…… けど、 会えば会う程、 愛しいとか守りたいって気持ちが膨らむのよねぇって苦笑して。 

 昨日だって、 本当は気持ちを告げる気は無かったんだってさ。 けれど、 少しずつ気持ちを許してくれるようになったエルナマリアさんが愛しくてポロッと出ちゃったらしい。 『ヴァイの事、 怒れなくなっちゃったわよ』 との言葉に思わず私は苦笑した。

 けど、 ルドさんの問いかけに涙を浮かべたのなら、 エルナマリアさんの心にもまた告げたい想いが溢れているのかもしれない。


 『駄目かもしれないけれど、 今日―― 求婚しようと思うの。 あの日、 渡せなかった指輪を持って…… 』


 そう言って、 意志を固めた瞳は力強かった。

 その後、 エルナマリアさんの元に向かったルドさんがどんな風に求婚したのかは分からない。 けど、 上手く行って良かったよ…… じゃなかったら、 華やかな舞踏会が黒竜騎士団わたしたちだけ辛く苦しい舞踏会になる所だったしね。

先月更新出来ず誠に申し訳ありません……。

今月は舞踏会後編ともう少し更新予定です。。。

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