これで良く分かったな自分
―― エルナマリアさんの救出から一カ月あまり――
ルドさんは無事に飛竜と絆を結び、 いそいそとエルナマリアさんを口説に通う毎日。
そうそう、 それからアイオロス様の説得の甲斐もあって、 エルナマリアさんはフレッチェン伯爵家の養女になりました。
説得方法は泣き落とし。 アイオロス様には子供が居ないので、 フレッチェン伯爵家の後継ぎが居ないと言う事―― 『由緒正しい家系がこのまま途絶えてしまうのは忍びない…… 貴女はどこか亡くなった妻に面影が似ている―― まるで本当に娘が出来たようだ。 そんな貴女が養女となって婿を取り、 この家を継いでくれればとても嬉しい』 ―― と、 そう言って更に言葉を続けたそうだ。
『老い先短い老人のささやかな夢を叶えては貰えませんか―― 』
そうすれば、 自分が死んだ時に妻への土産話もできますし…… と目を潤ませて言ったらしい。
ちなみにだけど、 アイオロス様は見どころのある若者を養子として迎える気でいたようで、 エルナマリアさんの件は渡りに船だったとか。
尚、 逡巡するエルナマリアさんにアイオロス様は、 婚姻関係の無い両親から産まれた事を気にしているようですが、 それは親の事情であって貴女にも幸せになる権利はあるんですよ―― と言ったそう。
その方が、 幼い娘を残して無念にも儚くなられた貴女の母上も喜んでくれるのじゃあ無いか―― と。
流れる水の如くスラスラと出て来る言葉に、 その場に立ち会ってたルドさんは『絶対にこの人を敵に回すまい』 と思ったそうだ。
私はアイオロス様が言ったのは本心でもあると思うので、 まぁ良かったかなぁと思ってる。 養女となったエルナマリアさんは、 次の舞踏会でのお披露目に向けてダンスの仕方を練習中だそうだ。
ちなみに、 ダンス以外の立ち居振る舞いに関しては何も教える事は無いそうです。 奇麗だったものね所作が。 淑女の嗜みである所の刺繍もプロ顔負けだって。
さて、 私の方はと言えば――
「また逃げられた!! 」
竜の浮島にて、 尻尾ちゃんとの追いかけっこに逃げられ雄叫びを上げていますよ。 逃げられてばっかり…… なんでさ!
「落ち着け―― だが、 前よりも距離が近くなったんじゃないか? 」
そう慰めてくれるのはユーリだ。 流石に皆、 相棒が決まったのに休日を潰させるのは申し訳なくって最初は一人で来るつもりだったのだけど、 団長として一人では行かせられないとユーリから言い渡され二人で竜の浮島に来てますよ。
二人っきりって事に最初こそ、 色々気まずい感じがしてたんだけれど、 尻尾ちゃんのあまりのツレなさにそんな思いも吹っ飛んだ。
正直、 尻尾ちゃんを釣るにはヴェルを餌にすれば良いのだけれど、 それをすると負けた気がするんだよね…… それと釣れはするけど、 頭の中がヴェル一色になって私の事は眼中から無くなっちゃうし。
とは言え、 追いかけっこも大分慣れてきたと言うか、 尻尾ちゃんが少しは心を開いてくれてる? みたいな感じになって来たと言うか……。
何て言うか、 興味津々だけど警戒してる子猫がちょっとずつ気を許してくれるようになって来たような感じ? だと思う―― と言うか思いたい。
結局触らせてくれたのは、 この前来た時だけで付かず離れず観察され―― を繰り返されている状況だったりするんだけどね。
けど、 逃げられた後も戻って来るのが早くなったから! はぁ…… 仲良くなれてるっていう確実な証が欲しい。
ヴェルの事が好きなのは相変わらずのようで、 尻尾ちゃんは突撃してるんだけど一向に想いは受け取って貰え無い様子。
諦めが悪いと言ってしまえばそれまでだけれど、 へこたれないガッツは称賛に値すると私は思う。
尻尾ちゃんがもっと大きくなって、 ヴェルの恋愛対象内に入る事が出来たらいいなぁと密かに応援してたりするんだけどね。
「まぁ―― 確かに最初の頃よりもマシですけどね―― ユーリちょっと一人にして貰えます? 」
「? どうした」
「ちょっと―― 一人で尻尾ちゃんを待ってみようかと」
正直二人で居た方が尻尾ちゃんとのエンカウント率が上がりはするんだけど、 それも結局自力じゃないしなぁと思うワケですよ。
そろそろちょっと腹を割ってお話してみたい。 まぁ、 私が一方的に話すだけなんだけれど。 でも、 尻尾ちゃんは私の言葉を何となく理解している気がするんだよね。
「ふむ。 分かった―― 俺はヴェルの所に居るからな」
「はい。 済みません」
歩き去るユーリを見送って、 私は大きな岩の上に腰を下ろした。 そうして背後を伺えば、 見慣れた真珠色の尻尾がチラリ。
「もう今日は逃げないの? 」
返事は無かったけれど、 私が寝転がった事で追いかける気が無いと判断したらしい―― 尻尾ちゃんが岩陰から身体を出した。
「ねぇ、 聞いてもいい?? ヴェルに突撃してるけど、 もっと大きくなってヴェルが貴女を女の子じゃなくて大人の女性として認識するようになってからアプローチした方がいいんじゃないの? 」
今や、 隠れる事無く私の横に立つ真珠色の飛竜は、 少し考えるような仕草をした後『きゅ』 と鳴いた。 少し哀しげなその声は、 ヴェルが今の自分の事を番う相手としては絶対に見てくれない事をちゃんと理解しているように聞こえた。
「…… じゃあ何で? 」
そう聞き返したら、 尻尾ちゃんの可愛い目がつり上がる。 そうしたら、 シナを作り岩に寄りかかってオメメをパチパチ。 それに対して尻尾ちゃんが地団太―― 『がぁうっ! 』 と叫ばれた。
? ―― あ、 あぁ――……!!
これで良く分かったな自分―― と思ったけれど、 何となく理解は出来た。
ヴェルは雄である。 それもこの竜の浮島で最上級の独身の。 岩がヴェルとして、 尻尾ちゃんがシナを作って寄りかかったのはヴェルにアプローチしている恋敵のおそらくは大人の雌だ。
で、 尻尾ちゃんが飽くなき挑戦―― と言うか、 無謀な求婚を続けているのは多分、 その雌達への牽制なんだと思う。
じゃあ私とこんな追いかけっこみたいな事をしてても良いのかって思われそうだけれど、 そこはそれ―― 尻尾ちゃんの第六感には侮れないものがある訳ですよ。
さっきまで視線を感じてたのにあれ? と思うと大体ヴェルの所に居るんだけどね…… そういう時って大抵他の雌がヴェルの傍に居るんだよねぇ。 多分気配を察知して即座に飛んで行ってるっぽい。
飛竜って基本的にツガイ相手を変えないしなぁ……。 寧ろヴェルに今までツガイが居なかった事の方が摩訶不思議な感じもするけれど……。
尻尾ちゃんとしては繁殖期に向けて、 他の雌がヴェルにする軽いアプローチを阻止するしか心が休まらないんだろうね。
飛竜の雌は比較的強い雄に惹かれやすいと言うけれど、 飛竜の雄が雌に惹かれるのはどんなポイントがあるんだろうか……。
尻尾ちゃん的には、 自分が大人の雌になるまでどうにかしてヴェルにツガイが出来ないようにしたいらしい。
「多分理解できたけれど、 あんまりシツコク突撃したらさ―― いつまでも子供扱いで、 更に呆れられちゃうんじゃ無い? 時々ヴェル、 遠くの方を見て溜息吐いてるし」
『んきゅっ? 』
えぇ?! って感じで尻尾ちゃんがショックを受けてた。 まぁ、 ヴェルが尻尾ちゃんの事を嫌いになるなんて事は無さそうだけれど、 突撃も続けば疲れているのは事実。
まぁもちろん、 ヴェルへの突撃が減れば私との関わりが増えるかもっていう下心もあっての忠告なんだけどね。 尻尾ちゃんは思い込んだら一直線だし、 少しはヴェルにも心の安らぎを与えて上げて欲しい。
「嘘か本当か知らないけれど、 男の人は追いかけられるよりも追いかける方が好きらしいよ?? 狩猟本能が働く―― とかで」
もちろん全員がそのタイプじゃ無いと前置きはしたけどね。 ヴェルはどちらかと言ったら追いかける方が好きそうだ。 カンだけど。
「まぁ、 邪魔をするなとまでは言わないけれど、 アプローチの仕方は少し考えてみたらどうかな」
ピンクスピネルの瞳がじっと私の方を見た。 私の言葉をしっかり考えているようだ。 尻尾ちゃんは小さく頷くと、 私の方を見て小首を傾げて『んきゅ? 』 と言った。
その一言でなんとなく言われた事が理解できた。 『貴女の方はどうなってるの? 』 だ。
「――…… 言っておくけど、 私とユーリはそんな関係じゃないからね? 」
身分違いとまでは言わないけれど立場の違いは存在する。 私がユーリを好きだとしても、 決して結ばれたりする事が無いって分かってるし。
『きゅ』
『意味分かんない』 を頂きました。 好きなら好きでいーじゃんみたいな。
「いやいや、 そんな訳にもいかないんだって。 確かに―― その―― ユーリの事は好きだけど? 」
言ってて恥ずか死にそうな気持ちになった。 正直、 ユーリへの想いはリアにすら言えないと思っていたし。 クロ達にだって話せない。 だって心配かけるだけで私のこの恋は叶わないんだから。
だから、 相手が飛竜だとは言え、 誰かにそれを話したのが初めてで―― こうして言葉に出したら物凄い恥ずかしいと。
『んっ! きゅっ!! 』
何故か、 尻尾ちゃんが地団太を踏んでお怒りです。 ぇ―― そんなに怒られても……。 人間の世界には面倒くさいシガラミとか色々あるんだよ。 好きだからで結婚出来るのは一部の人だけだし。
そもそもユーリは私の事をそう言う風に見て無いだろうしね。 はは。 そんな感じの事を話したら物凄い呆れたような顔をされた。
―― ニブゥい 鎖 アルのに ソンナわけないシ アンナのツガイにしか 無いノニ…… あのニンゲンカワイソウ…… ニンゲンって 目がワルイの?
んあ? いきなり脳内に響いた声に私は吃驚して瞬きをした。 尻尾ちゃんを見たら、 彼女も驚いた顔をして固まっている。 可愛らしい女の子の声だったけど、 確実に尻尾ちゃんの声だと言うのが分かった。 声の感じから考えると、 尻尾ちゃんは私が思っているよりも幼い子なのかも……。
「今の声―― 」
『―― んきゅ』
心話だっていうのは理解が出来たけれど、 絆も結んで無いのに何でって思いの方が強い。 多分尻尾ちゃんも同じ思いだったんだろう。 何で? って感じに混乱しているのが見てとれた。
とは言え、 繋がったのはあの時だけらしい。 ウンウン唸ってどうやら心話が出来るかどうかを確認しようとしているらしい尻尾ちゃんの声は聞こえなかったし。
「―― ダメみたいだね? 」
『むきゅ』
私が苦笑してそう話しかけたんだけど、 どうやら尻尾ちゃんは御不満であるらしい。 まぁ、 この会話だと何となくは伝わるけれど、 実際にそれが合っているのかどうか分からないしね。
私としても鎖がどうとか気になる所ではあったのだけれど、 まぁ確認のしようがないからしょうがない。
「さてと―― もう大分良い時間だし、 今日はこの辺で帰るよ―― ヴェルの所まで一緒に行く? 」
『きゅ♪』
嬉しそうに頷く尻尾ちゃんと連れだって歩いた。 飛竜と絆を結ぶのは私が一番最後だし、 正直ちょっと焦る気持ちもあったんだけれど…… まぁいいや。 今日は一番充実したやり取りが出来た気がするからね。
ユーリの所に戻ると、 ヴェルと一緒に気持ちよさそうに昼寝をしていた。 ヴェルのお腹に寄りかかり、 グゥグゥと寝る様子はちょっと微笑ましい。 尻尾ちゃんはヴェルに突撃する事無く、 シゲシゲとヴェルの寝姿を堪能しているようだった。
どうやら、 こんな感じでヴェルが昼寝をしているのは珍しい状況らしい。 恋する乙女はヴェルの寝姿を嬉しそうに眺めて御満悦だ。
ユーリも最近は夜寝られる事が増えたのか昼寝が減っていたので、 こんな状態を見るのは久しぶりな気がした。 夜に宿舎を出たりしなくなったし…… 夢はまだ見るのだろうか―― 正面切って聞く勇気が出ないから分からない。 けれど、 夜見る悪夢が少しでも減っていてくれれば良いと私は願った。
次回は舞踏会になるかと思います。
次回でルドさんとエルナマリアさんの話は幕引きに。 若干ざまぁな要素が入りますがスッキリ! となるかはどうだろう……




