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廃棄世界に祝福を。  作者: 蒼月 かなた
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救出作戦実行中

 夜陰に紛れレラン伯のお屋敷に。 救出作戦実行中です。

夜の闇に紛れる黒い服と黒い仮面―― 傍から見れば確実に盗賊としか思えない。 あぁ、 流石に街中からこの格好はしていないよ?? レラン伯のお屋敷の比較的近くに廃屋があってね? そこにちょっと失礼して入って着替えさせて貰った。

 救出した後さっさと逃げ出せるように、 馬車も潜ませてある。 

 そう馬車―― これ実は誰も気付いて無かったんだよね……。 エルナマリアさんも、 ナイアさんも普通の女性なのですよ。 つーことは、 逃げるのに長距離走ったりは出来ないって事で……。


 『ふと思ったんだけど…… 』 


 ルドさんが思い出したようにそう呟いたのは昨日の事。 エルナマリアさんは元々運動とか苦手なタイプ。 それが塔の上に監禁されてたのなら、 体力はもっと落ちてるハズ。 

 一応、 対策練ったし…… 追いかけられる予定は無いのだけれど、 もし、 動ける者が残っていた場合、 安全地帯に着く前に追いつかれそうだと言うのである。

 周囲にそんな感じの女の人が居なかった私は目からウロコが落ちた―― そうだよねぇ…… 普通の女の人はさ、 重りを入れたリュックを背負って走りながら山登りとかしないし、 切り立った絶壁を手を使わずにジャンプしながら登るとかしないしね? 

 て言うか師匠―― エクウス学院でもそんなコトしなかったんですけど…… 体力作りでそんな過酷な授業なかったよ?? 何で、 あんな修行をさせられたんだろう、 私。

 まぁ、 取り敢えず、 女性二人を抱えて走るのは目立つので馬車に乗って貰うと言う案が採用された。 

 ユーリは最初、 騎竜はどうかって言ってたんだけどね。 確かに黒い竜なら夜陰に紛れる事も出来るし、 二人乗りすれば良いんじゃないかってさ。 けど、 それこそ普通の女性に騎竜は無理でしょうと言う話になった。 下手したら気絶するんじゃ無いかと。 

 で、 ユーリが急きょ馬車を手に入れてきた。 何の事は無い。 ずっと帰って無い自分の屋敷から持ってきたらしいんだけど。 家紋を外して目立たないように黒塗りした馬車…… 良く間に合ったなぁと思う。 

 それで今は、 案の定存在した屋敷までの隠し通路を進んでおります。 数日前に判明したこの通路。 忘れられた存在になってたようで、 蜘蛛の巣と埃が凄い。 仮面をしてたら息苦しくてとてもじゃ無いけど進めなかったので、 仮面を少しずらして、 首のトックリ部分を引きあげてる。 あまり埃を吸いたく無いから口に中ててる訳だ。

 この通路の存在―― 正直に言えば探し当てるのにもっと時間がかかると思っていたんだけどね。 その予想は司書さんによって打ち破られた訳だけど……。

 そう、 司書さん―― 王城の記録保存館アーカイブと呼ばれるところにある地下の秘密書庫の管理人だ…… ユーリが権限を行使してくれて私も入らせてくれたその場所…… そこで司書さんに渡された本にはしっかりと秘密の通路のありかが書かれてた。 

 

 『はいはいな。 アーカイブへようこそー。 連絡は来てますので! はいコレどぞー』


 ユーリは何も言わなかったけれど、 連絡を入れてくれたのは多分陛下だろうと思う。 

 アーカイブの生き字引―― この書庫にあるものは何が何処にあるかを全て把握していると言うこの司書さん。

 パッと見、 半ズボンの少年のようにしか見えない。 けれど、 その頭には白い大きな耳…… そして小さくともしっかりした黒い巻き角―― そしてフサフサの丸い尻尾があった。


 ウサギ型の獣人と言えるだろうか。


 少年の格好をしているけれど、 女の子だ。 この国には基本的に獣人は存在しない。 契約している召還された者達を除いてだけれども。 

 だから、 この少女は本来なら存在しないはずの存在だ。 けれど、 何百年も前に召還された獣人型の精霊がとある娘と恋に落ちた―― 結果、 産まれたのがこの少女。 

 父親は契約者が不慮の事故で死亡した時に強制送還されてしまい、 少女の母親が一人で彼女を育てた。

 けれど、 この少女は父親の血を色濃く継いでいた為に長寿であったと言う。 母親が生きていた頃は共に外で暮らしていたみたいだけれど、 自分だけが家族や友人やを見送る立場である事に気が付いて、 彼等を見送った後はこのアーカイブに居室を貰い、 引きこもるようにして暮らしているんだとか。 

 時々、 彼女の存在を知る人達が遊びに来ているみたいだけれど、 照明で明るい館内とは言え陽の差さない地下暮らし…… 寂しくは無いのだろうか……? 


 この少女の名前は白雪しらゆき


 名に違わぬ抜けるような白い肌の少女だ。 年齢から考えると少女扱いは失礼かもしれないのだけれど……。 

 その白雪様は私達が必要な情報を調べ終わると、 『基本暇だし、 今度はお茶でもしに来てよ』 と朗らかに笑って言った。

 秘密の書庫にそんなに気軽に遊びに来て良いものなのだろうかと、 一瞬躊躇ったけれど、 ダメならそもそも誘われないだろうと判断して了承した。

 お茶会はいつになるかは分からないけれど、 彼女の全開の笑顔になんとなく仲良くなれそうな気がしたんだよね。 不思議と懐かしさを感じさせる笑顔だったし……。

 おっと、 回想はこれ位にして現実に帰らないとね。

 私は、 剣で蜘蛛の巣を払いながら進むユーリの後ろ姿を見つめた。 通路に灯りは無く、 真っ暗だ。 なのにどうして、 ユーリが見えるかと言えば仮面に秘密があったりする。

 この仮面、 目にあたる部分にガラスのような板が上半分嵌められているのだけれど、 それが所謂暗視を可能にする物なのだ。

 暗い所に居る時はガラス部分を、 明るい所に居る時にはガラスの無い部分を見れば良く、 流石は元暗殺者が選んだものだと感心してしまった。 暗殺者をしていた当の本人は暗視訓練をしているハズだから、 暗闇だろうと関係ない視力があるとは思うけど……。 

 この仮面の機能に気付くまで、 灯りをどうするかで揉めたからイェルさんには感謝しか無い。

 どんなに暗い場所でも、 秘密裏に動くのであれば灯りは無い方が良いしね。 だって灯りをつけてたら居場所を知らせる事にもなりかねないし。 けれど訓練を積んで無い私達はこの暗闇じゃあ目が利かない。

 外も今夜は新月なので街灯なんかが無い場所はかなり暗いから、 この仮面が無かったらかなり困ったハズだ。

 カツコツと皆の足音が響く―― 最後尾はガルヴさんなんだけど、 通路が狭めな所為で一番窮屈そうだった。 少し頭を下げながら歩いているのは、 普通にしていると頭が天井にぶつかるからだと思う。

 対して、 身長が低めなアスさんと私は楽な体勢で進めてるけれど。

 そんな感じで歩いていたら、 ようやく終点に辿りついたみたいだ。 通路の先には階段―― ここを登ればお屋敷地下の酒蔵に着くはず。 

 階段を登れば、 少し広い踊り場に。 その踊り場の壁にあるのは鳥の形を模したレリーフ。 元々このお屋敷を建てた豪族の家紋だろう。

 

 「さて、 ここまでは順調に来たな。 次は―― 」


 「屋敷の中の人間を眠らせます」


 ユーリに言われて、 私はアスさんと目配せし合った。 そして懐から取り出したのは煙玉―― そう、 ロックドラゴンを眠らせたアレだ。

 アスさんと話し合った結果、 無用の怪我人を減らすには屋敷の人間を眠らすのが一番良いと結論を出した。 盆地じゃあ無いから外に居る警備やなんかにはほぼ無意味だけれど、 屋敷の人間を無力化する事はできる。 

 アスさんが持って無かったから、 リィオにお遣いを頼んで実家からケムの木を取って来て貰った訳ですが―― 手紙も持って行って貰ったんだけど、 もう少しマメに連絡を寄こせと返事の手紙で怒られた。

 リアにも怒られたし、 最近来てた手紙の返事を放置してた自覚はあるので罪悪感が…… 落ち着いたらやっぱり里帰りしよう。

 取り敢えず、 廊下に煙を充満させておけば大方の問題は無くなる。 廊下に出ている人はモチロン、 部屋から一歩でも出て来れば一発で夢の中へとご案内。

 その煙玉をエイノさんへと渡す。 団員の中で、 エイノさんが一番身軽で人目を避けて行動する事に長けているからだ。


 「お願いします」


 「あぁ。 任された―― 」


 レリーフを上にずらせば鎖の引き手―― それを引っ張ればガコンと音がした。 緩く開く分厚い石の扉をすり抜けるようにしてエイノさんがお屋敷の中へと駆けて行く。 

 モチロン、 足音なんて一つもしない。 

 ユーリが、 石の扉を再び閉じた。 遅めの時間だし、 こんな地下に誰も来ないとは思うけれど、 念の為だ。 

 エイノさんが出て十分程か―― 体感だとかなり時間が経ったように思える。 石壁の向こうに気配を感じた。 皆に少し緊張が奔る。

 開いた石壁の扉から現れたのはもちろんエイノさん。 けれど、 その気配が憮然としてた。


 「なんなんだ? これ―― 舌が痺れるんだが…… 」


 下手をしたら半泣きの顔をしてるのじゃ無いかと思えるその口調―― 一応事前に説明しておいたんだけど、 マジドの葉を思いっきり噛んじゃったらしい。


 「そんなにマズイのか? コレ…… 」


 葉っぱを配る私に受け取ったヴァイさんが嫌そうな声を出した。 恐る恐る摘んで持ってる所を見れば、 仮面に隠れてるけど噛みたく無いと思ってるのは一目瞭然だ。


 「終わったら―― 口直し。 ある」


 アスさんがそう言って、 握りこぶしを作った。 先にくれと言いたそうなヴァイさんだけど、 残念。 アスさん特製の口直しの飴はマジドの効果を打ち消してしまうので、 葉っぱが要らなくなってからじゃないと食べさせられないのだ。 その説明を聞かされたヴァイさんがガクリと項垂れた。

 仮面をずらして、 葉っぱを口から外し舌を出すエイノさんにユーリが苦笑する。


 「懐かしいな―― 眠らせる為の煙玉にはやはりマジドか…… 」


 「流石団長―― 詳しそうね」


 「いや、 昔―― 実地で体験した事があるだけだ」


 優しくどこか寂しげに響くユーリの声に、 思わず胸が締め付けられた。 思い出してるのは先代の黒竜騎士団みなと一緒だった最後のあの日の事だろう……。

 仮面をつけていて良かった……。 ユーリの言葉に動揺してしまった私の顔を見られなくて済んだから。


 「――…… 」 


 悟られなかった筈なのに、 無言のままのユーリと目があった。 思わず目を逸らしてしまったけれど、 逸らす前の一瞬―― ユーリは、 何か考えるような…… 私に問いかけるような視線を寄こした。

 …… 次の瞬間には普通だったし、 私の思い違いだと思うんだけど―― ね。


短めです……。

書き直したら白雪さんが出てきました―― 当初予定と違う展開です;


次の話ですが、 もしかしたら白雪さんの幕間になるかもしれません(短めなので準備は出来てます)。

ただ、 短い話が続いているので、 本編の方が良いかなとも。

次が本編だったら、 救出諸々完了した後の幕間になると思います……。 


遅かったり、 短かったり色々済みませんが宜しくお願いします。

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