王宮の廊下を歩いていたら。
王宮の廊下を歩いていたら、 物凄く気さくな感じのオジサマに声を掛けられた。 「エンフィールド副団長! 御無沙汰しています」 そう言って片手を上げて、 スタスタと歩いてくる。 見覚えの無い人だったので、 思わず周囲を見回した。
自分に声を掛けていると思いきや、 実は別人に声を掛けてたとかも良くあるしね。 何より勘違いで返事をしたら、 とても恥ずかしくて嫌だなぁと思ったからだ。 ま、 私の名前を呼んでるんだから人違いは有り得ないんだけど。
もちろん、 私の周囲に人はおらず、 確実にこの男性は私に挨拶をして近付いて来ているのだと察せられた。
そんな行動をしてしまったのは、 この人とは面識が無いとそう確信していたから。
―― 誰だ? こんな派手な人―― 一度見たら忘れないと思うんだけど……
年齢は四十代位のオジサマだ。 ゆるやかなウェーブを描いた銀髪を三つ編みにしている。 瞳の色は黄金―― その容貌よりも、 服装の方が派手だった。
いや―― 服の型自体は大人しめで貴族の間で最近流行の型だ。
けど、 色がねぇ…… 夜会かって言う位に色彩が派手。 深紅のフロックコートには金モールの刺繍。 チラリと見える裏地はベルベットの黒で、 これは銀糸で刺繍が入り、 中のベストは深緑―― これまた金糸で刺繍あり。
ズボンはタイトでピッタリしたもの。 白な所はまぁ良いが、 サイドにこれまた金モールの刺繍が施されていた。
正直着る人間を選びそうな服だ。 着方によっては怖ろしく嫌味になるか不格好にしかならない。 けれど、 この男性はこの服をちゃんと着こなしていた。
細身だけれど、 筋肉もしっかりついていて歩き方は猫科の動物のようにしなやかだ。
「申し訳ありませんが、 どなたでしょうか」
そう聞くと、 男性は目を細めてニヤリと笑った。 その笑顔に記憶を刺激されて、 私は思わず口に手を当てた。 男の呼び名を思わず叫びそうになったからだ。
「その様子では思い出して頂けましたか? 」
得意満面な顔をするその人に、 小さく頷く。
―― イェルさん。
まさか、 こんなに堂々と王宮にやって来るとは思わなかった。 流石元暗殺者―― 髪色はモチロン、 おそらくは目の色も変えている。 そして何より、 歩き方。
この前会った時、 私はイェルさんが立って歩く所を見ていなかったのだけど……。 今歩いて来た所を見て、 一体だれが彼の右足義足だと気が付くだろう。 現に、 私は今気が付かなかった。
「済みません、 失礼を致しました。 以前、 お名前を伺ったと思うのですが、 どうにも今すぐ思い出せそうもありません。 大変失礼だとは存じますが、 もう一度お名前をお伺いしても? 」
「あぁ、 そうでしたか。 お会いしたのも大分前の事ですし、 時間も短かったですからね。 私の名はスワイス・エルガー…… エルガーとお呼び下さい」
丁寧な応対に舌を巻く。 怖ろしく爽やかな笑みを浮かべた自己紹介に、 思わず苦笑しそうになった。
暗殺と言っても、 暗闇に紛れて殺すだけが能じゃない。 時には、 まるで舞台の役者のように役になりきり、 対象と知り合いになって安心させてから殺す―― と言う場合もあるんだろう。
廊下だと目立つので、 宿舎の応接室にご案内。
ユーリは外回りの巡回で居ないので、 私がそのまま応対した。
「それにしても、 驚きました―― 随分と目立つ格好ですね」
「まぁな。 王城に入る時はこの格好の俺の方が都合が良い。 都合が良いが…… 暑っ苦しんだよなぁ。 窮屈だしよ」
話を聞けば、 王城に入れる御用達商人をやってるらしい。 手広く店舗を持ってる訳じゃ無く、 陛下専用の。
あ、 基本的に後ろ暗い事はないようだよ? リアを喜ばせるような奇麗な鉱物だとか、 リアの笑顔が見れる珍しい花だとか…… そういった物を陛下はご所望らしい。 後は、 情報交換とかをしてるようですよ…… 陛下……。 と言う事は、 私達がやろうとしてる事は陛下に筒抜けだと言う事だ。
「―― 何で、 そこまで教えてくれたんですか? 」
「陛下から『リアがね? 鉄槌を下すのを大層楽しみにしてるみたいなんだ。 私は見てみない振りをしなければならないけれど、 まぁ、 しっかり頑張ってね』 だそうだ」
どうでも良いけど、 イェルさん陛下の声色―― 凄いそっくりなんだけど。 これも特殊技能の一つだろうか。 ニヤリと笑って言われて、 私は今度こそ苦笑した。
どうやら、 私の所に来る前に陛下と話して来たらしい。 イェルさんならユーリが誰か気付いた時点で陛下に報告してたとは思うけれど。
―― どうやって出会ったかまでは分からないけれど、 陛下、 好きそうだものな…… イェルさんみたいな人。 陛下直属の情報屋の一人がまさかイェルさんだったとは。
そんでもって、 カザルの方でやってるお仕事の方は趣味だそうです。
陛下の方の仕事はしょっちゅうある訳じゃあ無いし、 技能を錆びつかせない為に趣味と実益を兼ねてしてるとか…… じゃあ、 何であの時教えてくれなかったかと言えば、 一にイオが居た事。 二に陛下への報告が先だったからだろう。
「つーか、 陛下って嫁さん好きすぎるだろ―― 嫁の話が始まるとあの人長ぇんだよ。 他人の嫁の話なんて、 俺ぁ興味無ぇっての。 お宅の団長さんからも言っておいて貰ってくれよ。 しつけーって」
話かえようとしても、 気付くとリアの話に戻ってるらしい。 陛下――。 イェルさんの苦々しい顔を見れば、 相当しつこかったんだろうなぁ…… ウチの陛下が済みません―― 思わず、 そんな言葉が出そうになった。
まぁ、 臣下の前ではそんな姿は見せられないからなんだろう。 イェルさんは相当陛下に信用されているらしい。
そこまでリアの話を延々とする陛下なんて正直見た事無いし…… ユーリに対してはどうなんだろう? 陛下はユーリにリアとの惚気話をしてるんだろうか??
「伝えてはおきますけど、 それで陛下が王妃殿下の事を話さなくなるかは保証はしませんよ? 」
「おニイちゃんは、 可愛いオトウトに格好付けたいみたいだからな? 団長サンから言わせりゃ少しは落ち着くだろうさ」
成程。 それはありそうな話だった。 ユーリも陛下の事大好きだしね。 口に出してベラベラ言う訳じゃないけれど、 陛下の事を尊敬してるって言うのは本当に良く分かる。
可愛い義弟におそらくは幻滅されたくなくて、 リアラブな自分の事をユーリには知られたく無いんだろう。 まぁ、 ラブな所は陛下とリアの幸せそうな雰囲気から、 皆に気付かれてるんだけど。
「本当は、 団長さんに直接文句を言いたかったんだが。 納品は急いだ方が良いと思ってな…… 」
「っ! てっきり取りに行くもんだと思ってましたよ。 もしかして持って来てくれたんですか?? 」
イェルさんの言葉に驚いたものの、 私は訝しげに首を傾げた。 納品―― と言った割にイェルさんが手ぶらだったからだ。
私の、 困惑した顔を見てイェルさんが「裏口の前に置いておいた」 と一言。
「―― どうやって?? 」
陛下の許可証を持った商人にまず持ち込めない物は無いけれど、 荷物検査が無い訳じゃ無い。 その検査が無能では始まらないので、 徹底的に調べられる。 それこそ、 二重底じゃ無いかとかね。
後宮があった遠い昔には、 時の陛下の寵愛を競ってライバルを殺すべく、 御用達商人が側室に頼まれペン軸に毒薬を入れて持ち込もうとしたような事もあったらしいので、 外部からの荷物検査にはとても厳しかったりする。
「この格好で王城に入る前に秘密の通路で」
陛下、 本当にイェルさんの事を気に入ってるらしい。 教えたのは陛下的に問題無いと思える隠し通路だけだろうけど……。 まぁ、 その話を聞いて私は納得した。 何故ならあの後―― 帰り際にユーリがイェルさんに武器もお願いしたから。
武器って言っても、 刃引き―― 刃を潰した短めの剣なんだけど。 騎士以外の帯剣は王城内では禁止されてるので、 刃が無い状態であったとしても持ち込もうとしたなら大問題になってたはずだ。
なんで刃引きした剣なんかも頼んだかと言うと、 できればこの件で人死にを出したく無かったから。 愛用の剣をも持って行った場合、 殺さないように努力したとしても―― 万が一と言う事はある。
私達はエルナマリアさん達を助けたいのであって、 むやみやたらに人を殺したい訳じゃない。 本業は、 国と民を守る騎士だしね。
レラン伯のお屋敷に居るのは、 家周りの事をする執事や侍女―― 庭師等の一般人。 それから雇われた護衛騎士だ。 護衛騎士は貴族の屋敷に勤める事が多い人々。
騎士って言うと、 騎士団務めがダントツで多いけれど、 騎士団だって無限に入団出来る訳では無いしね。 また、 入団出来ても諸事情で騎士団を辞めた者も居る訳だ。
そう言った人達がなる職業の多くが護衛騎士。 貴族の護衛をしたり、 鎖路を行く旅人や商人達の旅の護衛をしたりと様々だ。
ある程度無力化してから乗り込む作戦を考えているけれど、 護衛騎士との戦闘は避けられない筈。 その時に、 相手を死なせたくないと言う訳ですよ。 だって雇われてるだけだしね。
「一つ、 聞いて良いですか? その通路から来たのなら、 商人の格好で私と会う必要が無かったんじゃ? 」
「最初はその予定だったんだけどよぉ…… なんとなく、 スワイス・エルガーとして面識があった方が良いかと思ってな。 まぁ、 そうそう俺の出番も無ぇとは思うが」
無精ヒゲの無くなった顎をボリボリと掻きながら、 イェルさんがそう言った。 なんとなく―― イェルさんの「なんとなく」 は当てになる気がした。 そうそう無いとは思いたいけどね。
後は多分、 ユーリの事が気に入ってるからって言うのも理由になったんだろうなって思う。
「助かりました。 お代は―― 」
「まずは、 中身を確認しろい。 揃ってんのを確認したら、 金はイオに持たせてくれ」
イェルさんに渡す用のお金を準備しようとすると、 そう言ってイェルさんはサッサと立ちあがった。
確かにそうだ。 心配は無いと思っているけれど、 信用第一のこのやり取り―― 確認は必要だ。
私は、 確認後イオにお金を運んでもらう事を了承して頷いた。 この前、 イオについて行って分かったけど、 カザルの裏道やなんかを歩くのは私達よりもイオの方がなんぼか長けている。
イオなら、 お金を預けても危ない目に遭う事も無くイェルさんに無事届けてくれるだろう。
「お茶くらい淹れますよ? 」 そう言ったんだけど、 イェルさんはこの後用事があるのだとか。
「陛下が、 話をサッサと切り上げさせてくれたら、 茶を飲む時間位あったんだけどよぉ」
恨めしそうな顔をしてそう言うとイェルさんは部屋を出た。 見送る為に宿舎の入り口まで一緒に歩く。
入り口で、 まだ竜のいない竜舎の掃除に行っていたヴァイさん達が戻って来て、 とても驚いた顔をした。 見知らぬ人物だったからか、 服装が派手だったからなのかは分からないけどね。
でも、 客人だと気付いたようで、 慌てて挨拶してたけど。
イェルさんはそんな皆に軽く会釈をしてそのまま帰って行った。
「―― 随分と煌びやかな服装の人ねぇ―― 似合ってたけど」
「あんな派手なおっさんが、 ウチに何の用だったんだ?? 」
ルドさんが感心したようにそう言って、 ヴァイさんが不審げに私に聞いた。
「偶然会っただけなんですけどね? 何故だか話が弾んじゃって……。 何でも、 陛下御用達の商人さんらしいですよ?? ウチのイメージアップの足しになるかと思ってお茶にご招待してみました」
皆には悪いけれど、 イェルさんの事は口外しない方がいいだろう。 あの人の事だ。 許可無く私が皆にベラベラ喋る人間かどうかも観察してそうだしね。
私がそう話したら、 一応納得して貰えたらしい。 ヴァイさんは、 「俺等が働いてる時に、 茶とかズリぃ」 って言ってたけど。
「ちょっと早めに休憩したようなものだとでも思って下さい。 私は、 ちょっとする事があるんで、 皆も休憩入って下さい。 今日のお菓子はアマギ屋の紅芋の茶巾絞りですよ」
私の言葉に、 ヴァイさんが歓声を上げて走って行った。 アマギ屋は最近出来たお店で和菓子と言う異世界のお菓子を元にしているそうだ。 私達に食べやすいような味付けにアレンジしているらしいけれど、 この国では珍しい食材を使っている所為で人気はあるものの、 高級店でもある。
今日はユーリが貰ったからと言って、 朝巡回に行く前にくれたんだよね。 ありがたや。
「私とユーリの分は残しといて下さいよ! 」
私の声、 ヴァイさんには届いて無いだろうなぁ。 苦笑したエイノさんが私とユーリの分を確保しておく事を約束してくれたからまぁ良いけど。 エイノさんは嬉しそうなアスさんと歩いて食堂に向かった。
「今日は随分と奮発したんだね? 」
「あぁ、 違いますよ? 買ってきた訳じゃ無いです。 ユーリが―― 」
ガルヴさんに、 「記念日とか、 誰かの誕生日でもないよね? 」 と聞かれたので、 買った訳じゃ無いと答えていると、 ルドさんが納得したと言う顔をして頷いた。
「あぁ! ちょっと前、 リゼが食べてみたいとか言ってたもんねぇ。 団長ってば可愛い事するじゃない」
からかうようにそう言われて、 私は思わずルドさんを睨みつけた。
「違 い ま す よ。 ユーリが誰かから貰ったんですってば。 今日の茶受けにでもしてくれって持って来たんです。 朝」
違うって言ってるんだから、 そのニヨニヨ笑いを引っ込めて貰いたいんだけど。 ユーリがわざわざ私の為に買ってくるワケないじゃんか。 まったく。
それでも、 ルドさんは「ふーん? 」 とか「へぇえ?? 」 とか言ってまったくちゃんと聞いて無い。
「ほら! さっさとお茶でもして来て下さいよ。 休憩後は鍛錬入りますからね? これ以上変な顔してるんなら、 その時に人一倍ハードにしてやる! 」
「こっわーい! 分かったわよ。 嫌な子ね!! 」
ルドさんと、 苦笑したガルヴさんが食堂に消えるのを見送った後、 私は裏口へと向かった。 取り敢えず、 ユーリの執務室かな。 そこに持って行ってしっかり確認しなくちゃね。
結果として言うなら、 ユーリが居ない状態で―― 協力者も無く大きな袋を運ぶのは面倒だった。 だって重かったから。 主に剣が。
クロかシェスカに―― 手伝って貰えたら…… とも思ったんだけど、 今日は二匹でお出かけしてるから邪魔したくも無いし、 緊急時でも無いのに呼び出したりとかもしたく無いしね。
そう言えば、 リィオも出かけてるんだよね。 以前は邪魔にならないように練兵場の近くの木の上で、 私の事を見てたりとかが多かったんだけど……。
先週あたりからクロやシェスカみたく外で遊んでおいでって言ったら、 しぶしぶ遊びに行くようにはなってたんだ…… 嫌そうに。 けど、 最近は友達でも出来たのか、 楽しそうに遊びに行ってる。
クロ達みたいに、 リィオは鳥の姿から本来の姿になれないし、 自分の身を守れるような力も無いからね。 だからこそ基本的に人間の前では喋らないようにキツク言ってあるんだけど…… もし人前で喋って珍獣扱いされて売られでもしたら大変だし。
だから友達が出来たのなら、 召の領ゲーティアの誰かじゃ無いかと思ってる。 リィオの事を知ってる人とはお話して良いよって言ってあるんだ。 まぁ、 この前聞いてみたら全然教えてくれなかったんだけど。
以前のリィオなら、 嬉々として教えてくれたんだけどねぇ。
私の所為で、 リィオが私に依存するようになって―― 成長と共に少しずつそれがマシになって来てはいたんだけど…… 中々自立とまでは行かなかった。 けれど、 この所のリィオの成長が目覚ましい。
それを、 良かったと思う反面、 寂しく感じたりもするんだ。 いや、 良かったんだけどさ。
お姉ちゃんっ子だった弟が、 突然何でも自分でするようになった感じ? まぁ、 私の故郷にいる弟は最初から自立精神溢れていたから、 想像でしかないけれど。
取り敢えず、 重たい袋を引きずって歩く。 皆が休憩している間にサッサと運んでしまいたい。
そんな感じで歩いていたら、 ユーリが帰って来ましたよ。 荷物を引きずってる所に声を掛けられて思わず歓声を上げてしまった。 これ幸いにと事情を話して運んで貰ったんだけど……。
「…… ちょっと言っていいか? 銀鎖―― 使えば良かったんじゃないか?? 」
「あ―― 」
軽々と荷物を持ち上げて、 執務室に着いた所でユーリがポツリとそう言った。 あぁ―― 銀鎖―― 最近使って無かったから忘れてた。 銀鎖を使えば、 これぐらいの荷物持てたじゃんね……。
私はそっとユーリから目線を逸らせた。
「まぁ、 たいして重く無かったから良いけどな」
そのたいして重く無い物を運ぶのに引きずってたんだけどな、 私。 自分の非力さを痛感させられた。
剣ってこんなに重かったかなぁ―― とも思ったんだけど、 中身を見て納得。 私達が特に頼んで無かった物まで入ってた。
黒塗りの胸当てとか簡易的な防具の類だ。 だからこんなに袋が大きかった訳だ。
その防具には走り書きがあって、 「陛下からの差し入れ。 料金は徴収済み」 とだけ書かれてる。
「義兄上――? 」
何でだ?? と言うユーリに詳しく説明したら思わずと言うように顔を覆った。
「あぁ―― どおりであっさり正体がバレたハズだ。 エルガーなら知ってる―― というより会った事もあるし、 会話もした事がある。 なんなら、 義兄上に紹介された。 子飼いの情報屋だと」
どうやら、 ユーリは同一人物だと気付かなかった事が恥ずかしかったらしい。
「イェルさん、 陛下の声色も驚く位に似せてましたからね…… 多分、 ユーリと会った時は声色も変えてたんだと思います」
正直、 ワザとニヤリと笑ってくれなかったら、 私もまったく気が付かなかったと思う。 あれだけ見事に化けられたら、 初見で気付く人っているのかな? だから、 ユーリが気が付かないのだって当然だって思うんだけど。
「はぁ―― ま、 プロだしな……。 考えてみれば俺の知り合いも、 毎回違う姿で来るな」
諜報をしてるユーリの知人は年に一度飲みに行く時、 毎回違う格好だそうで…… どれが本当の姿なんだか分からないらしい。 ちなみに、 知人を見つける所からが待ち合わせの一環だとか。
ちょっと楽しそうと言ったら、 今度一緒に行ってみるか? と誘われた。
「勝手に連れてっ行って良いんですか? 」
「許可は取るさ」
多分断られないだろうと言われて、 少し考えた後に頷く。 面白そうだしね。 諜報活動をしているユーリの知人って人にも興味があるし……。
流石に仕事の話は出来ないだろうけど、 体術とか暗器の事とか、 歩き方やなんかも話してみたい。 もちろん、 許可がおりたらだけどね。
私は、 ユーリとそんな話をしながら受け取った品物を確認していった。 後日、 イオにお願いしてイェルさんにお金を届けて貰って取引は終了。
ユーリが陛下にイェルさんからの苦情を言ったかどうかは分からない。
取引が終了しました。
イェルさんは陛下のお気に入り。 世間は狭いようです。
次回かその次辺りで、救出作戦が開始出来ればと思っています。




